ザ・グレート・展開予測ショー

悪魔は神か?(4)


投稿者名:雪男
投稿日時:(00/ 3/21)

「真っ暗だな。明かりを点けてくれないか?」唐巣が言った
部屋に光が満ち西洋風の寝室を照らし出した。
「へぇ。どうやったんだピート?」
ピートは雪之丞以上に驚き懐中電灯を落としてしまった
「客人とは珍しいでおじゃるな」いかにも平安貴族という格好の男が現れた。
気の抜ける喋り方とは逆に、強い霊力を感じさせる。真っ赤な目が印象的だ。
「何者でおじゃる?」
「私は唐巣、GS・・・悪霊払いです。
 この2人はブラドー君と伊達君。2人とも私と同じ悪霊払いです。」
「悪霊払い?巫覡(ふげき)でおじゃるか。
 御三方とも外国(とつくに)の方でおじゃるな。
 遠い所をよく来られたでおじゃる。
 朕が讃岐院でおじゃる」
「では、貴方が崇徳上皇ですね」
「すこし、無礼ではあらぬか?」
「あの、それはどういう事でしょうか?」
「異朝は知らず、本朝は寝所には断ってから入るものでおじゃる」
「そっそれは確かに。御無礼をお詫びいたします」
「2つめは、人を呼ぶときは敬称を付けるものでおじゃる」
「上皇とお呼びしましたが?」
「・・・この場合は上皇陛下と呼ぶのが正しい呼び方でおじゃる。
 今上帝に会われる折には大君(おほきみ)か皇尊(すめらみこと)或いは皇帝陛下と
 呼ばなければ成りませぬ。
 心されるが良ろしいでおじゃる」
「?天皇陛下とお呼びしてはいけませんか?」
「!!!以ての外でおじゃる!!決して天皇陛下などとお呼びしてはいけませぬ!!」
唐巣は混乱した。“崇徳上皇”の話し方は古臭いが、発音が現代的過ぎる。
それに“天皇陛下”と呼んではいけないとはどういう意味だろう?
嘘を吐いているようにはみえないのだが?
第一この部屋は一体なんだ?
「俺も質問したいだが、いいか?」雪之丞が手を上げた
「なんじゃ?童(わらわ)」
「わらわ?俺の事か?」
「他には・・・嗚呼!そこな聖(ひじり)も童であったか。
 質問とはなんでおじゃる?」
「悪霊を集めているのは貴様か?」
「朕でない事は確かでおじゃる」
「日本を滅ぼすつもりか?」
「そんなつもりは無いでおじゃる。大体日本とは何の事でおじゃる」
「チョット待ってください。貴方は75代天皇でしょう?」ピートが口を挟んだ
「朕は73代でおじゃる」
「だったらなぜ日本を知らないのです?貴方が統治した国でしょう?」
「朕の国?・・・本朝を日本と呼ぶのでおじゃるか、それは知らなかったでおじゃる。
 いずれにせよ滅ぼす気は無いでおじゃる」
「そうなのか。“皇の上に民を置く”とかなんとか聞いていたんだ。
 ずいぶん話が違うんな」と雪之丞
「“皇を取りて民となし、民を取りて皇となす”でおじゃるか?
 それなら確かに朕のしている事でおじゃる」
「じゃあ“戦争に継ぐ戦争”もか?」
「“戦争に継ぐ戦争”?戦が絶えないようにしているでおじゃるが」
「やっぱり日本を滅ぼそうとしているんじゃねえか!」
「それは違うでおじゃる。滅ぼしたら戦が絶えるでおじゃる」
「・・・えーと日本が戦争をすると言う事はですね、
 相手の国も戦争をするということですよね?
 迷惑なのですが、止めていただけませんか?」ピートが説得に掛かった
「朕は日ノ本(ひのもと)の民同士で戦をするようにしてきたでおじゃるが?」
「100年程前から3回以上続けて、日本は外国と戦争しています!」
「あれは蛮人が唐(中国)や鮮(朝鮮)を取らんとしたから守っただけでおじゃる」
「戦いは知っているんだな?アジア諸国を侵略したのはなぜだ」雪之丞が加わった
「日ノ本が“アジア諸国”?から何か得たのでおじゃるか?」
「えっと・・・なにかあったっけ?」雪之丞はピートに聞いた
「お前が知らないのに、僕が知るはず無いだろう?・・・先生」
「えっ?・・・よく知らないけど石油じゃないかな?」
「石油?燃える水のことでおじゃるな?
 あれなら本朝にもあるでおじゃるし、
 蛮族が不当に掠め取っていたものを、手に入れただけの筈でおじゃる
 それに代価を土人に与えたはずでおじゃる」
「そうなのか?」
「言われてみればソンナ気も」唐巣が雪之丞に答えた
「日ノ本は戦で何も得なかったはずでおじゃる。
 得たものには全て代価を支払ったでおじゃる。
 朕はそうしなかった者に血で払わせたでおじゃる
 益を得ず、蛮人を打ち払い、施薬をなしたのでおじゃる」
「(ひょっとして上皇は日本政府に騙されて利用されていたのでは?)」とピート
「(そうかもしれないね)」唐巣も合意した
「えー我々としては援助であっても、戦争は止めていただきたいのですが」とピート
「朕はそなた達蛮人の要求に屈するほど落ちぶれていないでおじゃる」
「えっ・・・あっ!!」
 ピートはようやく上皇の言う蛮人が白人のことである事に気付いた。
「私からもお願いします戦争は止めてください!」
「知っているぞ。そなた達バテレンは民を虜とし、奴隷として売り払い・・」
 唐巣は蒼褪めた、上皇の瞳に紛れも無い憎悪が浮かんでいた。
「待ってくれ。それは昔の話で今はやっていない!」雪之丞が割って入った
「そなたは・・・よい。侵略の話であったな。朕は侵略などさせていないでおじゃる」
「そっそれは判った。・・・えぇと今は戦争の企てはしていないんだな?」
「もちろんしているでおじゃる」
「・・・どんな援助の必要があるんだ?」
「くどい様でおじゃるが、朕は“日ノ本の民同士で”戦う様にしているでおじゃる」
「具体的には何をしてるんだ?」
「キョーサン主義者を援助しているのでおじゃる、
 “ますめでぃあ”を操り、彼らを守り、育て上げているのでおじゃる」
「ふふーん。上皇陛下よアンタの方針には問題があるぜ」雪之丞はせせら笑った。
「なんでおじゃる?」上皇は至って平静に聞き返した。
「共産主義が勝利を収めれば、戦争は終わりだ。
 ついでに天皇家も滅ぼされるから“皇を民に”はできない」
「そんな事は無いでおじゃる。
 キョーサン主義が勝てば路線闘争で、“絶えざる戦の時代”が来るでおじゃる。
 皇室は死滅しなければ十分でおじゃる」

「まだ開けられんですかいのー」タイガーがカオスに聞いた
「まて小僧、もう少しだ。くそう!鍵の構造は単純なのに錆びておるから」
「衝撃を与えたらどうかいノー」
「衝撃?どうするのだ?おぬし木槌でも持っているのか?」
「チョットよけて・・・ふん!!」タイガーの張り手一発ごとに壁全体がゆれる。
「ふん!!・・・ふん!!・・・ふん!!ガチャガチャカチカチカチカチ・・・・」
壁がゆっくり前に倒れかかってきた!
「なんだー!」
カオスの叫びが壁に包まれる
「・・・・大丈夫ですかいのー?」
「大丈夫なはずあるか!とっとと掘り出してくれ!!」
カオスは顔だけ瓦礫の中からだし、叫んだ

「外が騒がしいでおじゃるな・・・」上皇は2回手を叩く、何も起きない
「一昨日から舎人どもは何をしておるのやら。
 朕は外を見てくるでおじゃる。」
「おい!タイガーたちじゃねえか?」雪之丞は慌てた
「そっそうですね、でもどうしましょう?」とピート
「もっと弱い霊なら取りあえず封印して、後で対処を考えてもいいんだが」
唐巣もこんなに厄介な除霊は初めてだった。
友好的に接して来るからかえって対処に困る。
第一あいつは本物の上皇なのか?
言葉遣いもおかしいし、発狂した人間にしては筋が通った話し方をする。
強い霊力を持っているのは解るが“魔神”級とも思えない
狂乱状態だと“魔神”級なのか?
「とにかく放っては置けない、俺は見に行くぜ」
雪之丞が部屋を飛び出し、ピートと唐巣は慌てて追いかけた

「隠し扉の後ろがまた隠し扉か!どうなってるんじゃここは」
カオスが錠を探しながらぼやいた
ギーと妙な音とともに観音開きに壁が開く
「向こうからお出ましのようじゃな」カオスはエペを構える
「どなたでおじゃる」上皇が扉から現れた
「私わぁ!ヨーロッパの魔王と呼ばれぇ、
 ありとあらゆる魔法を極めた錬・・・」
「おお!カオス卿でおじゃるな!
 久しぶりでおじゃる。700年ぶりでおじゃるな」
「・・金術師Drカ・・えっ・・」
「お知り合いですかいのー」
「おお!隠居ではないか!久しぶりだな」
「まだ生身のようでおじゃるな、年を取ったようでおじゃるが元気そうで何より。
 それにしても、今度は熊のからくりにしたようでおじゃるな」
上皇はタイガーを見ながら挨拶した
「そのものは熊ではないタイガーだ」
「タイガー?」
「虎のことだ」
「虎?これが虎でおじゃるか。話に聞いているのとは大分違うでおじゃるな」
「ワシは人間ジャ!!」タイガーがほえた
「前のは自分が人間ではないと言い張っていたでおじゃるが今度のは逆でおじゃるな」
「ワシは人間ジャ!!からくり人形じゃない!!」
「人形は動かないでおじゃる。だが動くからといって人ではないでおじゃる」
「待ってくれアキヒトいや隠居。その者は本当に人間なのだ」
「この者がでおじゃるか?」
「わしが造ったと思っておるなら間違いだ。わしが作るならもっと人間らしく作る」
「それは確かにそうでおじゃるな。
 あの女子(おなご)は作り物にはとても・・・」
駆けつけた雪之丞達が見たのは荒れ狂うタイガーと叩きのめされたカオスと上皇だった。

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