ザ・グレート・展開予測ショー

エンドレス・レジェンド


投稿者名:蜥蜴
投稿日時:(04/ 4/30)





「ここは……一体、どこなんだ……?」

 横島が目を覚ました時、彼は見知らぬ部屋のベッドの上にいる自分を発見した。
 だが、何か違和感のようなもの――例えば、全く意味を為していない交通標識を見た時のような――を感じる。
 寝起きで回転数を上げようとしない脳内活動を無理矢理活性化し、原因を探ろうと周囲を見渡す。

「そうか……調度品が古臭いんだな。それに、日本のものじゃない……」

 理由が分かり、ほっとする横島。だが、次の瞬間には、首を勢い良く左右に振りたくり、意識を完全に覚醒させた。

「って納得してる場合じゃない! 俺は最近は日本から離れてなかったろ!? 思い出せ、何があったかを……」
 
 うんうんと唸りながら、ベッドの上で考え込む横島。
 その時、控え目にドアをノックする音が聞こえて来た。

「起きてる? お兄ちゃん」

 横島はその問い掛けには答えず、内心愕然とする。

《俺には妹など存在しない。確かに可愛い妹にお兄ちゃんと呼ばれるのは男の夢の一つだが、今は関係ないだろう。多分。
 だがしかし、声の感じからすると、相当可愛い容姿をしてそうだぞ? 間違いない。
 ああっ分からんッ!? 俺は喜べば良いのか……!? 違う! そうじゃない! 考えるべきはそこじゃなく……》

 横島が現状を忘れて、どうでも良い上に意味不明な考えに悩まされている間に、声の主はドアを開けて中へと入って来た.

「まだ寝てるの? しょうがないなあ」

「わわっ!? あの、その……!」

 ベッドの上で慌てて部屋の入り口の方へ向き直り、入って来た人物に必死で言い訳しようとする横島。
 けれど、その人物――若い女性(横島をお兄ちゃんと呼ぶのだから当たり前だが)――を見て、動きを止めた.
 その少女は通常の人間には有り得ないような青い色の長い髪を持ち、翠色の瞳はくりくりとしていて愛らしい。

 だが、彼女は俗に言う三頭身だったのである。横島が思考停止してしまうのも無理はない。
 しかし、横島はまだ気付いていなかった。彼自身もまた、三頭身になっていた事に。
 横島が再起動を果たすには、どうやら今しばらくの時が必要なようであった。




 **  エンドレス・レジェンド  **




 〜 序章「勇者の伝説」 〜


「なんだ、起きてたんだ。どうして返事をしてくれなかったの?」

 呆然としたままの横島に向かって、無邪気な笑みを湛えた少女は話し掛けてきた.
 横島が兄であると思い込んでいるのか、表情に疑問や不審の色は見られない.
 事ここに至って、ようやく横島にも現状が飲み込めて来たのだった。

《そう……そうだよ! 俺は確か、美神さんにバイトの賃上げ要求をしに行って……》

 少しずつ自分のこれまでの行動を思い出して来た横島だったが、少女の訝しげな声が、彼の思索を中断させる.

「どうしたの? さっきから返事をしてくれないけど。もしかして、目を開けたまま寝てるの? お兄ちゃん」

 はっとした横島は、目の前の少女に向き直る。その時、彼の意識に、この少女の名前が当たり前のように滑り込んで来た。

「いや、大丈夫。起きてるって。心配すんなよ、アリス」

 自分の表情が情けないものになっている事を自覚しながらも、どうにか笑みを浮かべる事に成功する横島。
 心の中では、全然論点の違う事を考えていたりしたのだが。

《アリスって何だ――ッ!? 何の捻りも無ぇじゃねぇか! いや、捻っていれば良いって訳でも無いが!》

 またもや意識を飛ばした横島を気にする風も無く、その少女――アリスは、少し寂しげに話し始めた。

「今日はお兄ちゃんの十七才の誕生日だね。おめでとう、お兄ちゃん。それと、話しておかなくちゃいけない事が有るの」

 激烈に嫌な予感を感じる横島。この話の流れには、どこか覚えが有ったからだ。

《うわ、頼む、それ以上言わないでくれ。俺はもう少しだけ、現実逃避してたいんだ》

 しかし、無常にも横島の願いとは裏腹に、シナリオは着々と進んで行く。

「私とお兄ちゃんはね、本当の兄妹じゃないの。そしてね、お兄ちゃんは勇者さまの血を引いてるのよ」

《あ〜あ、言っちゃったよ……》

 内心ではこの上も無く盛り上がっているのであろう、アリスは瞳に光るものを溢れさせながら、泣き笑いの表情になる。
 事態を理解した横島は、逆にどこまでも冷めた目で流れに身を任せてしまっていたが。

「いにしえから伝わる伝説には、こう有るの……この世に邪悪なる存在が復活した時、二人の女神に導かれし若き勇者が現れ、そを打ち滅ぼすであろう」

《うわ〜、うわ〜、すっげえ恥ずかしい。誰だ、こんなシナリオを考えた奴は? 出て来い、責任者!》

 べったべたな展開に、横島の呆れは既にMAX状態だ。もはや彼の意識には、真剣さのかけらも見当たらない。
 けれどその時、横島の脳裏に引っ掛かるものが有った。それはこのアリスと言う少女の言葉の中にあったような気がして思考の海に沈む。
 やがて彼はまだ思い出していなかったある重要な事を、唐突に思い出す事が出来たのだった。

《二人の女神!? ってことは、あいつらもこの世界に取り込まれちまってるのか!!》

 それは、横島が最近の恒例になっている賃上げ交渉に挑んだ時の事。
 同じように小遣いの値上げを美神に頼みに来ていたシロとタマモの二人とかちあったのだ。
 面倒くさくなったのか、美神は仲介料七割を条件に、三人に開発中のリメイク版のゲームに憑いた悪霊退治の仕事を紹介した。
 しかし、除霊中に集中を途切れさせてしまった横島は、ゲームの中の世界へと魂を引きずり込まれてしまったのである。
 話を聞く限りでは、残された二人も、どうやら横島と同じ目に遭ってしまったようだった。




 〜 第一章「旅立ち」 〜


「うわあっ! ヘタ打っちまったよ、おい。美神さんが介入してくる前に何とかせんと、減俸というのも有り得る……」

 突然頭を抱え込んでぶつぶつと何事か呟き始めた横島を見て、アリスは心配そうな顔をする。

「どうしたの、お兄ちゃん? 具合でも悪いの?」

「い、いや何でもない。大丈夫だよ」

 横島は愛想笑いを浮かべ、どうにかアリスに対して取り繕う事が出来た。

「良かった。今日はお城の王さまから呼び出されてるんだから、早く御飯を食べて出発してね?」

「はあ……分かった。ここまでベタだと、もう何も言う気になれん」

「何の事?」

 不思議そうな顔をするアリスにもう一度笑みを作ると、横島はベッドから降りて部屋の外へと足を運んで行った。




「ふむ。そなたが勇者の裔であるタダオ殿じゃな?」

「はい。左様でございます、王さま」

 街の中央に建っているお城の謁見の間へとやって来た横島。
 顔面の半分を白い髭で覆い、豪華な金の冠を頭に載せた、いかにも私は王様です、といった人物に片膝を立てた中腰の姿勢で話し掛ける。
 ここで数分程会話を進めた横島は、最後に冒険に出るための装備を王様から贈られた。

 銅の剣、皮の盾、皮の鎧、木の兜、最後に百ゴールドである。

《いや、伝説に謳われた勇者かもしれない人物に対してこの装備はねえだろ、普通? プレイヤーを馬鹿にしてんのか、もしかして?》

 ごねた所で事態が好転する訳でもないので、王様に対して適当な感謝の言葉を返す横島。
 最後に王様は、脇に控えた大臣に何事かを耳打ちする。
 軽く頷いた大臣が、侍女に命令して大き目な弁当箱程の容器を持って来させた。

「タダオ殿。その箱の中には、女神への供物が入っておる。出会うことが叶ったら、お二人に捧げて欲しい」

「承知いたしました。中を確認してもよろしいですか?」

 大仰に頷く王様に一礼すると、横島は容器の中身を確認し、その場に膝を突きたくなる衝動と必死に戦うハメになっていた。

「ほ、骨付き肉と油揚げ……」

 中世ヨーロッパをモデルに構築されたはずの世界に、何故油揚げが有るのか?
 深遠な悩みが鎌首をもたげたりした横島だが、結局何も言わず、黙したままその場を辞した。

「しっかし、こんなもんを持たされてもなあ……腐る前に会えりゃ良いんだが」

 腰の後ろに取り付けた鞘に剣を通し、身に付けた装備をカチャカチャと鳴らしながら人ごみの中を歩く横島。
 脇に抱えた容器に視線を落としながら独りごちる横島だったが、その他大勢のキャラ達は気にする風も無く、往来を所在なげに行ったり来たりしている。

「前も思ったんだが、やっぱり不気味だよなあ。ゲームの世界に直接放り込まれると。しかも、今度は自力で解決せにゃいかんし」

 しばらく歩いていると、この街の酒場の看板が視界に入って来た。
 まずは情報収集と仲間集めだ、と割り切って中へと足を踏み入れる横島。
 次の瞬間、昼間から酒場にいる人達の間から大声が上がる。

「あ〜〜〜〜〜〜ッ! 横島先生、やっと来たでござる〜〜ッ!!」

「こら〜〜ッ! 横島〜〜ッ! 何やってたのよ、この唐変木〜〜!!」

 声の主達を見付けたと同時に、横島はその場にくずおれる。受けたダメージはかなり深そうだ。
 倒れた理由は、そこに大きなジョッキに入った酒をあおりながら呑んだくれる二人の少女の姿があったためである。

「あ、有り難味のかけらも無ぇなあ……出会いに至るまでのドラマは無いんかい……」




 〜 第二章「初めての戦闘」 〜


 今、横島は恐るべき敵と対峙していた。タマモとシロは、最初の一撃は勇者である横島が入れるべきだと言い張り、高みの見物中である。
 震える右手に持つ銅の剣を握り直し、だらだらと額から頬へと流れ落ちる脂汗を拭う事すら出来ずにいる横島。

「駄目だ、こんなことでは……こいつを殺さないと経験値が手に入らんのだぞ。気張るんだ、横島忠夫。ここが正念場だ」

 必死にマインドセットを試みる横島だったが、成功しているとは言い難い。
 現に、敵に攻撃するために足を踏み出す事が出来ずにいる。
 横島が対峙している敵、その正体とは――?

「横島先生――ッ! 早く倒さないと日が暮れるでござるよ――ッ!!」

「一番弱いス○イムごときに手間取ってちゃ、これからどうすんのよ、横島――ッ!?」

「うるせ――ッ! おまえらには、こいつの恐ろしさが分からんのだッ!!」

 ぷるぷると震える柔らかそうな涙滴型の体。
 うるうると潤んだ、つぶらな丸い瞳。
 いつも微笑みを絶やさない大きな口。
 それは正に、愛らしさを具現化したような存在。

「できん! 俺にはとてもできん! こいつを殺す事なんて酷いこと、できる訳がないだろう!!」

 横島の叫びを聞いたソレの雰囲気が柔らかくなったような気がして、彼は我知らず足を踏み出す。
 種族の垣根を越えた友情が芽生えるかと思われたその瞬間、突然、ソレの身体は激しく燃え盛る炎に包まれたのだった。

「ああっ!? スラ吉――――ッ!」

 剣を取り落とした右腕を差し伸ばし、悲鳴を上げる横島。いつの間にか、勝手に名前まで付けていたりする。
 その篝火が消えるまで見詰め続けた後、横島は背後に立っている少女に食ってかかった。

「タマモ――ッ! おまえには、血も涙も無いのかぁっ!?」

「バカじゃないの? あいつは所詮、電子データにすぎないのよ? 甘っちょろいこと言ってないで、勇者の役割を果たしなさいよ」

 けれど、返って来たのは、どこまでも横島を小馬鹿にしたような冷たい視線と態度。

「う、うおおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜ッ!!」

 その日の夜遅くまで、号泣しながらスラ○ムを斬殺しまくる勇者の卵の姿が見られたそうな。
 これ以降、可愛い造型をしたモンスターが出現する度に、似たような光景が繰り広げられたのは言うまでもない。




 〜 第十三章「夜に咲く華」 〜


「姉ちゃ〜〜ん! こっちこっち〜〜ッ!!」

「また外れた〜〜ッ! よぉし、今度はルージュの六よ!!」

 この世界で一番大きな街に辿り着いた三人だったが、横島とタマモはそこにあるカジノにはまってしまっていた。
 バニーガールの格好をしているウェイトレスにちょっかいをかけまくる横島に、スロットやルーレットに金銭を注ぎ込むタマモ。

「横島先生も、タマモも、早く経験値稼ぎに戻らないと、いつまで経っても終わらんでござるよ〜〜ッ!!」

 今夜もまた、人狼の少女の嘆きが夜の歓楽街に溶けて消えていった。




 〜 第十九章「新たなる世界への誘い」 〜


 横島達三人は、苦戦の末、魔王を倒す事が出来た。だが、それは新たな戦いの始まりを告げる狼煙でしかなかったのだ。
 魔王が今わの際に残した言葉を頼りに、世界の中心に開いているという地下世界への入り口に辿り着いた三人。
 だが、その場所で近付く者を排除する”守護獣”のドラゴンを前に、絶体絶命の危機に陥っていた。
 三人は知る由もなかったが、そのドラゴンはイベント・モンスターであり、プレイヤーは絶対に倒す事は不可能だったのである。

「は〜〜っはっはっは!!」

 その時、突如聞こえて来た大音量の笑い声。三人がそこに顔を向けると――そこには、一人の巨漢が仁王立ちしていた。

「「「変態……!?」」」

「誰が変態かッ!!」

 上半身は裸で毛むくじゃら。ズボンはピチピチな上、二本のサスペンダーで肩に吊ってある。極め付けは、頭に被った両目の部分だけ穴が開いた皮袋。
 これを変態と言わずに、他にどう表現すれば良いと言うのか?
 彼――変態は高笑いしながら、横島達のいかなる攻撃も受け付けなかったドラゴンを、素手で肉塊に変えて行く。
 とびっきりの悪夢を前にして、何も出来ずにいた横島達の方を向いた血まみれの変態。

「若き勇者よ! なかなかやるようだが、まだまだ未熟ッ! この私を超えたくば、追って来るが良い!!」

 そう言い残すと、変態は三度高笑いしながら、底の見えない大穴へと飛び込んで行ったのだった。

「……思えば遠くへ来たもんだなあ……」

「そうね……」

「そうでござるな……」

 三人が見上げた空は、どこまでも青く果てしなく、そして美しかった。




 〜 第二十六章「空を飛ぼうよ」 〜

 新しい世界へと降り立ち、いくつかのイベントをこなした横島達は、空を移動する手段として気球を手に入れていた。
 三人がそれに乗り込むと、気球は勝手に浮き上がり、横島の意思の通りに移動して行く。

「この気球って、どうやって移動してるの? 地下世界で風なんてほとんど無いのに……」

「それを言ったら、どんな原理で浮いてるのかすら分からんぞ? 熱やガスじゃないようだし……まさか、重力制御なのか!?」

「二人とも、ゲームの中のアイテムにケチをつけても、どうしようもないでござるよ!」

 シロの言う事が一番説得力が有ったため、横島とタマモは、この便利なアイテムによる恩恵を賜るだけにしとこうと思い直した。




 〜 最終章「伝説の終焉」 〜


「って、ちょっと待て! もうラスボス戦なのか!? 血沸き肉踊る大冒険は!? 美しき姫君との甘く切ないラブ・ロマンスは!?」

「そんなものはスルーでござる。そうでないと、話が終わらんでござろう?」

「シロの言う通りよ。あんたのニーズに一々応えてたら、十八禁ゲームになっちゃうでしょうが」

 数々の試練を乗り越え、とうとう最大最強の大魔王の居城へと到達した勇者様御一行。
 何故か肝心の勇者様が錯乱気味だが、まあ些細な問題であろう。
 シロに襟首を掴まれて引きずられながらも、勇者様の青年の主張は続いていたが、タマモの方がとうとう堪忍袋の尾を切らしてしまった。

「諦めて腹を括りなさい、横島。さもないと……燃やすわよ?」

「あい…………」

 不承不承戦列に復帰する横島。未だに愚痴を漏らしていたりするが、今度はきっぱりと二人に無視され続けた。
 しばしの時が流れ、ダンジョンの最下層の一番奥、むやみやたらに大きな扉の前で、万感の想いを胸に抱き決戦に臨む三人の冒険者達。

「長かったな……ここに来るまで。一瞬だったような気もするが、終わる時にはそーゆー錯覚を起こしたりもするだろう、うん」

「先生とタマモとはぐれたと気付いた時には、どうなることかと思ったでござるが……これで最後でござるな」

「どーでも良いから、さっさと終わらせちゃいましょ。残りも少ないんだしさ。急いで巻いてかなきゃ」

 三人が重い扉を開け、大魔王の間へと入っていくと、身長五、六メートルはありそうな巨体の人物が待ち構えていた。
 そこでしばらくの間、あまりに在り来たりな台詞の応酬が有ったりしたのだが、書いても仕方がないので割愛させていただく。

「それでは、勇者タダオよ! 世界を救いたくば、我を倒して見せい! そのようなことは不可能で有ろうがな!!」

「はいはい。もー何でも良いから、さっさと終わらせようぜ?」

 こうして決戦の火蓋は切って落とされたのでは有るが、やはり現実の霊力の差はいかんともし難く、あっけなく決着は付いてしまった。
 人間以上の霊力を持つ人外娘二人に、人間の中ではトップクラスの霊力を誇る横島が相手では、単独で戦いを挑むのは分が悪すぎた。

 大魔王が消滅すると同時に、壁の一部が真黒になり、スタッフロールが流れ始める。
 シロは感慨に浸って涙ぐんでいたが、横島とタマモはどこか納得いかないものを感じ、周囲に気を配っていた。
 やがて、壁の表面に”セーブしますか?(はい/いいえ)”の光る文字が現れ、シロが”はい”の文字に触れようと壁に近寄った時――

「シロッ! そこから離れろッ!!」

「近付いちゃ駄目ッ!!」

 横島が投げ付けた勇者の剣が壁に突き立ち、タマモの狐火が壁一面を包み込んだのである。

「ぐぎゃあああ〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 直後に壁の方から響いて来た絶叫に、驚愕の目を向けるシロ。
 すると、壁一面を覆っていた闇が一箇所に集まり、大魔王の姿となって再構成された。

「何故だ……何故分かった……?」

 片膝を床に突き、肩で息をしながら横島とタマモに問い掛ける大魔王。
 対する二人は、鼻を鳴らしながらその疑問に答えた。

「スタッフ全員が同じ名前な上、会社名も違ってたんだ。気付かない訳ないだろ?」

「本気でばれないとでも思ってたの? おめでたい奴ね」

 これには、大魔王だけでなく、一人だけ気付けなかったシロにとっても、受けた精神的ダメージは大きかった。

「よくも……拙者たちを騙そうとしたなあっ!!」

 怒りに打ち震えるシロの霊波刀が大魔王の正中線を走り抜け、大魔王は本当の最期を迎える事になったのだった。

 その後、本物のスタッフロールが流れた後に表示された光る文字の”はい”に触れた三人。
 気が付くと、三人は大魔王の居城の正門前に戻されてしまっていた。

「な……何で帰れないんだ!?」

 愕然とする三人。横島の叫びを聞いたタマモの脳裏に、次なる試練への情報が滑り込んで来た。

「そんな……大魔王を倒すことで、私たちはボーナス・ダンジョンへの挑戦権を得たようなの。
 そこの最下層に待っている原初の魔王を倒さないと、元の世界に戻れないらしいわ」

「……うわあああん! もう、おうち帰る〜〜〜〜ッ!!」

「先生〜〜ッ! あとちょっと、頑張るでござるよ〜〜ッ!!」

 彼らの冒険は、もう少しだけ続くようである。




 〜 エピローグ「再び日常へ……?」 〜


 夕闇の中で明かりが灯される街を、連れ立って歩く横島とタマモとシロ。
 ゲーム内での体感時間では半年くらいに感じていた三人だが、元の世界に戻って来た時には三時間程度しか経っていなかった。
 一仕事終えた解放感からか、歩きながら会話を交わす三人の表情も弛みがちである。

「いやあ、酷い目に遭ったな、実際。美神さんにばれたらと考えただけで、ひやひやしたぜ」

「全くよ。あんたのドジのおかげで、こっちも良い迷惑だったわ」

「無事に終わったのだから、もう良いではござらんか」

 ふと、突然黙りこくった横島に気付き、訝しげにその顔を見上げるタマモとシロ。
 横島が向ける視線の先を見やった二人は、呆然として彼に問い掛ける。

「何よ……何なのよ、あれ?」

「横島先生……拙者たちは、本当に戻って来れたのでござるか?」

 三人が見ている壁の表面には、”セーブしますか?(はい/いいえ)”の文字が光っていたのだった。





 終わり。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa