ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと姉妹と約束と 第17話』 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 4/28)



それは・・あまりにも『都合のよすぎる』一撃だった。
敵にとって最高の攻撃が、最大の威力を以って・・・・・そして、考えられぬほど正確に急所を捉え・・・・

・・・。

・・・出来すぎていた。

目の前の敵が狙ったのか?・・一瞬、そんな思いにとらわれたが・・・それも違う。


「沈めぇええええええええ!!!」

咆哮が轟く。光が迫る・・。そして、眼前に広がる『死』の世界。


(ク・・・ク・・ククッ・・)

巨人は笑った。
今、まさに自分を打ち倒そうとしている一人の人間を見て・・ただ笑う・・・。

そう・・・出来すぎている・・。
こんなことが本来、起こりうるはずが無い。自分が倒されるなど・・・しかも、矮小なたった一人の人間の手によって・・


(・・・・お前も・・・同じか・・・・)

・・自分が呪縛したあの妖狐と同じ・・・・・
所詮、大きな歯車に糸を巻かれる・・・無様な操り人形に過ぎない。

マリオネットがマリオネットを救い出す・・・。なんと哀れで・・そして、滑稽な一幕だろう?

・・。

嘲笑う巨人の瞳には奇妙な愉悦が生まれていた。

(・・これが死か・・存外、大したものではないな・・)

この感覚には覚えがある。

これは・・・
これは・・・たしか・・・・・・・



瞬間、巨人は理解した。

何のことは無い・・・。覚えていたのは『二度目』だから。
自分が、とうの昔に死んだ存在だと、彼がそう気付くのに・・さして時間は掛からなかった。



〜 『 キツネと姉妹と約束と 第17話 』 〜



・・・爆発が起きる。

激震ととともに、目も眩むばかりの光が破散した。
灰は灰に・・そして、塵は塵に・・・・・
死をその身に宿す巨人が・・・在るべき場所へと還ってゆく・・・。


―――――― オオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・・ ――――――


轟音。衝撃。そして..........



―――・・。


(・・やったのか・・?)

混濁した意識の中、爆風に吹き飛ばされる体。
全身に走る激痛に顔を歪めながら・・・横島は数秒前、自らが立っていた場所へと目を向ける。

そこに、巨人の姿はすでに無く・・ただ、無数の闇の粒子が無数に天に昇り消失していく・・そんな様だけが広がっている。
遠のいていく『死』の気配に・・彼は大きく安堵した。
どうやら今回も・・なんとか生き延びることができたようだ。


(さ〜て・・これからどうすっかな〜・・)


・・とんでもない速さで近づいてくる地面・・、まずはあれを何とかしようか・・このままでは、またギックリ腰になりかねない。
そして・・その次は・・・

(また、タマモの奴をからかうってのも・・悪くないかな・・)

苦笑とともに、なんとなく浮かんでしまう彼女の顔。
さて・・あいつは一体、どんな顔で自分のもとに駆けよってくるだろう?


そんなことを思いつつ・・彼は夜空の闇の中、一直線に落下していくのだった。

          
                        ◇



「・・横島・・っ!?」

苦しげな息遣いと・・不安に張り詰めたように自分を呼ぶ少女の声。

脱力しきって木陰に倒れこんだ横島は・・・それに少し、たじろいだような仕草を見せて・・・・

・・聞いた瞬間、、まずい、と思った。
怒声というより、涙声に近いこの声は・・・実は彼の最も苦手とするものの一つである。

(うわあ・・やっぱ、無茶しすぎたか・・。やば・・・・)

経験測からしてこのパターンは・・
もの凄く怒られるか、逆に本気で泣かれるかの、どちらかの状況に陥る可能性が非常に高い。
・・・どちらの場合も対応に困る。

・・・。

「あ〜・・え〜と・・タマモ。怒ってる?それとも泣きそう?・・どっちだ?」

地面に突っ伏したまま、横島が言う。そんなこと寝返りをうてば自力で確かめられそうな気もするが・・
・・とりあえず、ダルい。疲れているのでとりあえず、このまま。

背後から、息を飲む気配が感じ取れた。
そして、そのままタマモは・・自分のすぐそばまで近づいて・・・少しだけ楽な姿勢に抱きかかえてくれる。

・・ようやく、彼女の顔をのぞくことが出来た。

―――・・。


「ううむ・・・こりゃあ、怒ってるか、泣いてるかっていうより・・・・」

「・・・両方。」

「・・・・・左様で。」



肩をすくめてまた苦笑。本当に、泣きそうな顔で怒っているのだから器用なものだ・・。


「・・・心配かけた・・・ごめんな・・。」


「・・・・・ばか。」


短く、そう答えた後、タマモはこちらの胸元に顔をうずめてしまい・・・
・・・これだ。一番、対応に困るのは・・。他の仲間が見たら、絶対に誤解されそうなこの体勢。

・・しかも、さらに最悪なことに・・現在、この場には・・・あの男がいる。

(西条・・・てめぇだけは来るな・・来たら本気で殺す・・)
なんてことを横島が考えた・・その時、丁度タイミングを見計らうかのように・・・

「・・・おや?お邪魔だったかな?横島くん。」

「・・・・・・ってか、てめぇ・・絶対、狙って出てきたろ・・」

ガサガサと茂みから這い出してくる西条に・・横島は、半眼のまま、つっこみを入れた。


・・結局はこうなってしまうのだ・・・なんとなく予想はしていたが・・・・



「女性陣は、みんな必死になってこちらに向かっている途中だよ。そのままの格好でラブラブぶりを見せつけるかい?2人とも。」

そんな西条の言葉に・・・

「だ・・・誰がこんな奴のことなんて・・・!」

タマモが慌てて身を離し・・・・

「あうあっ!?・・タマモ・・頼むから、急に動くのは勘弁してくれ・・。体の色んなところが痛くて、死にそうなんですけど・・」

さらには、横島が・・ぐったりとその場に崩れ落ちてしまう。

「ご・・ごめん・・大丈夫・・?」


・・・・。

そして・・・・・

「・・!みんな・・見つけた!横島とねーさま・・・?あと、何故か西条もここにいる・・」

「横島さん・・・!よかったぁ・・」

まばらに近づいてくる・・たくさんの足音・・。

・・それを聞きながら・・横島は、大きくため息をついた。
今日の自分は・・本当に、随分と無茶をやらかしたらしい・・一体、後何回、頭を下げればいいのやら・・・

・・・じょじょに賑やかさを増す周りの空気に・・横島は、わずかばかり頬を緩めたのだった。

 
                           ◇


「・・折れてるわね・・コレは・・・」

横島へと向けられた・・疲れたような美智恵の声。
プラプラと、あり得ない方向に曲がっている右腕が怖い。1個ほど増えた関節に目を向けて・・横島は驚いたように眉を上げる。
言われてみれば・・先ほどから、右半身に激痛が走っているような・・・

・・本格的な骨折なんて、本当に何ヶ月ぶりだろう・・?

「あの・・早く手当てしましょう?横島さん・・」
オロオロしながら言ってくるおキヌに・・・

「?ああ・・大丈夫大丈夫。最近、ヒーリングのスペシャリストと知り合ってさ・・うちの学校の先輩なんだけど。」
横島は(折れているほうの(汗))手を、ヒラヒラさせながら、そう言った。

「?ヒーリングのスペシャリスト・・ですか?」

「そうそう・・それが凄ぇ美人でさ。ああ・・明日学校で会えるのが楽しみだな〜」

『・・・・・・・。』

「・・な・・なんだ?みんなどうした?恐い顔して・・」

横島のそんな言葉に、尋ねたおキヌどころか・・女性陣全員が、白い目をして・・・

・・・。

彼らの様子に、西条は軽い調子で肩をすくめた・・。

―――・・。

「・・今度こそ・・終わったな。それにしても、手ひどくやられたものだね。」

霊剣を鞘に納めながら・・彼は苦笑まじりに周囲を見渡す。

地には大量の穴が穿たれ・・野原付近の建築物は、完全に原型を失っている。
破壊の限りを尽くされた・・そんな表現がピタリと当てはまるかのように・・・・

・・人的被害が未だ報告されていないのが・・今のところ唯一の救いか・・

・・・。

「ひっかき回されたもんだよな・・ただの低級霊に・・・」

半眼のまま、横島が、そう気だるげに口にして・・・

「・・・低級霊?」

「・・・・『もと』な。」

いぶかしむタマモへと、意味ありげに口を吊り上げる。


「・・オレも、攻撃をぶっ放したとき気付いたんだけどな。あの感じは間違いないよ。
 妙に薄っぺらい手ごたえといい、何といい・・・・。浮遊霊が魔神並の力を持ったら、ちょうどあんな感じになるんじゃないか?」


・・敵自身の口ぶりから察するに・・
あの霧の形をとっていた化け物は、スズノに憑く以前にも・・多くの宿主を操り・・様々なものを蹂躙してきたのだろう。
それは・・人を憎むという、悪霊の本能が為せる業だったのか・・。

頭脳と力の割りに、内容の薄い発言を連呼する・・。最後まで、人間たちへの殺意によって突き動かされていた存在。
本来、知恵や力を手に入れるべくもない者が、その両方を手にしてしまった・・・・・

それが・・横島があの巨人に抱いた印象の全てだ。


「・・寒気がする話だね。浮遊霊がたった一体でここまでやるとは・・」

「オレには、奴そのものよりも・・奴がどうしてそんな力を手に入れられたのか・・ってことの方が気になるけどな・・。」

横島は、あお向けのまま空を仰いだ。


巨人が力を直接得た原因は・・・紛れもなく、スズノの作り出した火柱の霊力を吸収したことによる・・。
・・しかし、あの強大な爆発を耐え抜き・・あまつさえ、そのエネルギーを喰らい尽くすとは・・

そして・・『霧』として初めて出会った時に感じた・・得体の知れない異質な気配。
亡霊や悪魔とはまるで違う・・全く別の何かと闘ったような錯覚すら覚える。


・・・。


「・・君が頭脳労働とは・・珍しいこともあるものだね。」

思考の渦に飲み込まれそうになったその瞬間、意地悪く西条が声をかけてきて・・・

「・・あぁ?あのなぁ・・オレだってたまには・・・」

「いずれにしろ、ここからはGメンの仕事だ。君の方は傷の治療に専念したらどうだい?」

食ってかかろうとする横島を西条は余裕の態度でいなしてしまう。
珍しいといえば、滅多に自分へと向けらることのない・・西条の気遣いの言葉の方がもっと珍しいわけで・・・


「な・・なんだ・・?もしかして、お前・・オレのこと心配してんのか?一体、どうゆう風の吹き回しだ?」

「いや?僕は単に死体を切り刻む趣味はないということを・・・・・」

「結局、オレを殺す気かよ!!?」

・・お決まりのやりとりの後、一度しまった武器を再び取り出す横島と西条。
周囲の静止にも聞く耳を持たず、互いにヘロヘロになりながら・・微妙に大激戦を繰り広げているのだが・・・


(・・そういえば・・)

西条の剣撃をかわしながら、横島はふと思い出したかのように首をひねる。
頭をかすめたのは、話題に昇ったヒーリングのスペシャリスト・・。

(・・神薙先輩・・今頃何やってるんだろ?)


・・・風に乗せて・・少し冷たい空気が横島の頬を撫でていった。



〜appendix.16 『 もう一つの結末 』


永遠の氷獄。
その名をまるで冠するかのように・・空間を、圧倒的な冷気が覆っていく。

物理法則を超越した・・アブソリュート・ゼロを下回る凍度。
触れるもの全てを包み、支配し、破壊する・・・音も無く出現した巨大な氷輪に、天空が大きなきしみを上げる。

言葉のあやではない・・文字通り、山に立ち込める濃密な闇が『凍りつき』・・次いで粉々に砕けてしまう。
後の残るのは真っ白な・・からっぽの空間。

・・想像を絶する光景だった。

「小竜姫!急ぐでち!!もうすぐここも飲み込まれるでち!」

防護壁を展開し、山道を切り開いていくパピリオに、小竜姫は小さく頷いた。

「・・そう・・ですね。早く美神さんたちに、このことを伝えなければ・・」

言葉を濁す。尾を引かれるようにもう一度だけ振り向いた先。そこには・・極冷の霧に沈む、妙神山が鎮座している。

(・・何が・・起こっているの・・?)

身を切り裂く空気は・・・まるで凶獣のように荒れ狂い・・・

震える・・・揺れる・・・・・

・・。

世界は闇に包まれていると・・・。

小竜姫は不意に・・そして不可解にも、そんな思いに捉われたのだ。


―――・・。

魔。

果てない闇と・・黒き法を司る者。

何千、何万、何億・・・・数え切れぬほどの氷塊を操りながら、ドゥルジは細く・・本当に細く目を開いた。
手を伸ばせば届くほどすぐ近く・・・目の前に立つ一人の天神へと、悲しげに目を伏せて・・・

「・・ゲームセットと・・言ったでしょう?・・」

「・・馬鹿・・な・・・」

まだ完全に自由を奪われていないとはいえ、今の斉天大聖に敵を討ち果たす力は残されていない。
じょじょに近づく破滅へと抗う術もなく・・緩慢に身を任せる・・ただそれだけ。

「何を・・・した・・?ドゥルジ・・」

「・・私が支配するのは熱の力。ならば、熱を『奪う』ことも当然、可能でしょう?」

好んで炎を行使することは、彼女が真の力を隠し抜くための擬態にすぎない。
霊的な域にまで高められた・・絶対の氷結。
この氷撃こそ、同族である魔神からも恐れられる・・ドゥルジ最大の武器なのだ。


「私の冷気は・・・あらゆるものを凍てつかせます・・。正真正銘・・掛け値なしに・・・」

魔が歌う。

「炎を・・、音を・・、光を・・。・・刻すらも・・私の前では抗う術を持たない・・・。」


・・・。

瞬間だった。
とどめとばかりに・・ドゥルジの発する魔力がさらなる高まりを見せ、追って斉天大聖を封じる氷がどんどんとその厚みを増していく。

「・・命までは奪いません。しかし、先刻、告げた通り・・しばし眠っていただきましょう・・。」
淡々と口にする彼女に、斉天大聖は失望の色を表情を浮かべ・・・

「何故だ・・ドゥルジ・・?お主がこのような真似をするとは・・未だに信じられん・・。一体、お前に何があったのだ・・?」

・・・。

「今は・・時間が無い、とだけお答えしておきます。・・お休みなさい、斉天大聖



一言。

ただの一言。

それだけで、辺りの存在全てが・・その活動を停止し・・そして、少女が一人『取り残される』。
孤独と沈黙・・・光の差し込むことのないその場所は、まるで罪人を断ずる牢獄のようだ。


「・・・ごめんなさい・・・。」

紡がれた謝罪は、目の前の氷の彫像へと向けられたものなのか・・・
少女の口から、嗚咽をかみ殺したような声が漏れ・・・・・



それは一言。


・・・ただ・・一言・・。


〜続きます〜


『あとがき』

こんにちは〜かぜあめでございます。

今回、『聖痕』で出てきた横島の伏線がちょっと更新されました〜

しかし・・老師さまを噛ませ犬にした小説は・・多分この『姉妹』が初なのでは・・(汗)
と、いうわけで『霧』さん・・なんだか謎が解けたのか解けてないのかよく分からない最後を迎えてしまいましたね(笑
彼の存在自体が、一種のデカイ伏線だったりしたりして・・・色々、大変です。

そして、ドゥルジさまに攻撃については・・・(汗)ノーコメント!!(爆


いやはや、長かった『姉妹』もあと2回で終了でございます。
メインキャラも出揃って、ようやくシリーズが動き出します〜
アニメでいうと、丁度、オープニングテーマが変わるあたりでしょうか?(爆

では、次回・・18話でお会いしましょう。

あ・・あと、すでに短編でなくなっている短編なのですが(笑)『姉妹』の最終回を送ってから、投稿しようと思います。
うう・・・こんな難産になるとは思いませんでした。

それでは〜

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