ザ・グレート・展開予測ショー

僕は君だけを傷つけない!/(10)


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(04/ 4/25)


 食事は確かに美味であったが、それにしても腹の虫の収まりが悪い。
 甘いものは別腹と言うが、腹の虫の居所にも別の部屋があるのだろうか。
 そんなくだらない事を考えながら帰宅の途にあるのは、未だに仏頂面が消えていない美神令子である。

 留守番組へのお土産に、魔鈴特製のチェリー・パイが入った箱を持つおキヌは、令子の左脇を歩いていた。
 箱から漂ってくる桜桃の匂いがなんとも爽やかで、ちょっと触れれば厚紙を伝わって、ほんのりと熱が伝わってくる。
 時刻は昼を回った午後2時近くのはず。おキヌは3時になったら紅茶を入れて、このパイを切ることを予定に加えた。

 横島さんとタマモちゃんは大丈夫だろうか。シロちゃんとパピリオちゃんにお留守番は頼んでおいたけど・・・・・・。
 家路を一歩一歩辿りながらも、おキヌは生来の心配性というべきか、天性の勘の良さというべきか、とにかく落ち着かなかった。
 美神の怒り様は相変わらずだなぁ、と軽く苦笑つつも、おキヌとしてはそういう美神令子が大好きなのだからしょうがない。


 「ねー、ひのめ。令子お姉ちゃんったら、まーだ、ふてくされてるわよ? しょうがないお姉ちゃんねー?」

 「あーう♪」


 令子とおキヌを軽く横目で見やりつつ、美智恵は令子の左脇を歩いていた。
 母親の言と妹の笑い声に刺激されたらしく、ますます仏頂面が深刻化してしまう令子である。
 おキヌは隣でくすくす笑っていたが。


 「だって、ママ! ママだって見たでしょう。魔鈴のせいで昨夜はひどい騒ぎだったのよ?」

 「あら、そう? 私は楽しかったけどなぁ♪」

 「こ、この母親は・・・・・・」


 しかめられた眉間の皺が、美神令子の業腹振りをよく表している。隣のおキヌもちょっと困った風情で、汗交じりの微笑が浮かぶ。
 喜ぶ母親の姿だけならともかく、喜んでいるネタがネタだけに、令子としては素直になりきれない。
 というかなりたくない。それ以上に認めたくなかった。あんなネタを認めるくらいなら自分の脱税を認める。

 いや、やっぱどっちも認めない。脱税ではなく、厄珍の裏取引を暴露した方がまだ良い。
 令子本人にもわけがわからない思考の迷路に、すっかり入り込んでいるようである。
 事務所が目に入ってきても、なお途切れない鼻息の荒さは、魔鈴の店を出た後からも変わっていないのだ。


 「美神さん、もう事務所に着いちゃいましたよ? いつまでもそんな怖い顔じゃぁ・・・・・・」

 「な、なによぉ、おキヌちゃんまで! そんなに怖い顔じゃないでしょ?」

 「え、えーと・・・・・・ご、ごめんなさい。けっこう、怖い、かも・・・・・・・・・です」

 「うぅ〜・・・・・・」


 眼前にそびえ立つ事務所を見ながら、美神令子は疲労と共に暗澹たる気分にとらわれていた。
 なんで今日という日はこんなにも天気が良く、自分と来た日には不愉快な空気の只中にあるのだろう。しかも早朝の起抜けからである。
 早く入りなさい、と優しく急かす美智恵の声をぼんやりと聞き流しながら、令子は事務所・最上階の窓を見上げていた。
 屋根裏部屋で寝ているはずの、とある一人の少年に対し、なぜか無性に苛立ちを感じながら。




 ――――――――――――――――――――――――――――――

           僕は君だけを傷つけない!/その10

 ――――――――――――――――――――――――――――――




 玄関をくぐって階段を上り、所長室のドアをくぐればそこは見慣れた客間にしてリビングである。
 所長専用の椅子に深く腰を落ち着ければ、身体的には少し楽に感じる。
 とはいえ心理に直結するわけではない。その証拠に美神令子のしかめた表情はそのままであるのだから。
 子供っぽい感情のほとばしりである事は自覚している。わかっちゃいるが止められない。母・美智恵の苦笑が目の前にあるとしても。

 一方、お茶の支度を始めたおキヌは、台所でまだ暖かいチェリー・パイをテーブルに置き、グラス類を棚から出し始めた。
 今のうちに用意しておき、横島とタマモの目覚めにも備えておこうという心積もりであるのだろう。
 が、留守番をしてくれたシロとパピリオには、まず先だってお礼をしておいた方が良いかもしれない。
 そう思い立ったおキヌは台所から階段へと向かい、階下から声を上げた。


 「ただいま〜。シロちゃん、パピリオちゃん。おやつがあるわよ〜」

 「・・・・・・返事がないわね。2人ともどうしたのかしら?」

 「屋根裏部屋にでもいるんじゃないの、アイツら?」


 出かける前に横島たちのことを頼んでいったのだが、彼女達が階上にいるとすれば、ひょっとしたら彼らが起きたのかもしれない。
 魔鈴の言葉によれば、一晩で薬の効果は切れるとのことだから、もし横島たちが起きているとすれば、今時分は平常状態なのだろう。
 憶測ばかりの我が身が何とも頼りないが、令子とおキヌとしては上の階に上るのが、どうも気分的に億劫なのである。
 ともすれば仕事以上に神経をすり減らしているかもしれない。名の売れたGS、美神令子としては、実に忌々しい事ではあるが。


 (あらら。肝心な時には2人とも足がすくんじゃってるのねぇ。青春してるな♪)


 しょうがない2人ね、と、彼女達の気弱さを理解しつつも、ちょっと歯痒く思っている美智恵である。
 自ら行動を起こすべくソファーから立ち上がろうとしたが、足に力を込める前に行動は妨げられてしまった。
 コンマ数秒単位の差で、向こうからの、ある意味お招きがやって来たからである。


 「わわわーっ、タマモぉぉっ! お、お主ってば、ぬぁにを、やっているでござるかぁー!!」

 「こらーっ! わたちを差し置いて、うらやましいコトやってんじゃないでちゅよぉーっ!!」


 言葉が落雷に変わったら、きっとこのような感じなのだろう。
 屋根裏部屋の壁も床も真っ直ぐに突き抜け、リビングに突き刺さった時には、4人の姿は階段の途中にあった。
 令子、おキヌ、美智恵、そしてひのめという面子は、イヤな予感と好奇心がハートに満載のまま、足を階上へと向けている。
 3人分の足音であるはずなのに、伝わる振動は群集のような地響きである。

 灼熱の鼓動が、南国さながらの熱気を心中に生み出すのも気に留めず、10秒とかけずに、3人はまっしぐらに階段を上りきった。
 上りきったところで見出したのは、シロとパピリオの恐れおののく後ろ姿であった。
 ぶるぶると全身が震えており、まさに只ならぬ様相である。表情は当然見えないのだが、部屋中を漂う空気が硬い。
 冷静に事に当たろうと思っていた美神令子とおキヌであったが、ベッドに目をやったとたん、目口が埴輪に変じてしまった。


 「あら、まあ!」


 美智恵でさえ軽く両目をむいて、このような声を出して驚いていたのだから、2人としては声も出ない。
 というか声さえ出せない令子とおキヌは、驚愕による埴輪顔は当然の姿であると言えた。
 責める者はいない。むしろ責められないのである。
 2人にとって、眼前の光景があまりにも予想外のものであったからだ。

 シロのベッドには横島が寝ていた。その全身を上はタオルケット、下はシーツに挟まれて。軽い寝息を立てながら。
 が、一同の心胆を激震させたシルエットは、タオルケットの上に鎮座ましましていた。
 着ている服はTシャツ一枚だけという姿のタマモ嬢が、寝ている横島の腹の上に跨って。


 「き、きゃーっ! タ、タマモちゃぁーんっ!?」

 「ひ、ひ、人の職場で何をやってんの、アンタらはぁーっ!!」

 「まぁー、早熟早熟♪ 私の若い頃を思い出すわ♪」

 「だー?」


 令子とおキヌの表情温度は、光よりも早く、かつ容易く沸点へと達していた。双方とも上ずった声がどもって、まともに聞こえない。
 美智恵は好奇心に溢れた喜色満面である。ひのめは軽く首を傾げて興味深々の身振り。
 女声四重唱による騒動開始のベルが鳴り響いた。



 ――――――――――――――――――――――――★――――――――――――――――――――――――



 目を凝らせば、タマモの九房の金髪はしっとりと水気を含んでおり、少し前まで入浴をしていた事を窺わせた。
 湯上り特有の艶めく素肌と、ほのかに漂うシャンプーとリンスの香りがその証明である。
 だが、それらにも増して、際立つ輝きが放たれているのは、彼女の眼差しからであった。

 目の前のものしか目に入らない、映らない。いや、映していないと言うべきか。
 そんな一途さを力強く秘めているかと思えば、風に揺れる柳のような、流されそうな心細さもまた感じさせる。
 時折、眼差しを覆うヴェールが、すっ、と小波立つ湖面のように揺れるからだ。
 そんな時の両の眉もまたささやかに、本当に微かに窄められ悲しげな形を見せている。

 視線の先で寝息を立てる少年に、彼女がどんな思いを抱いているかなど他人には知り得るはずも無い。
 が、指先が横島の口元に辿り付いた時には、彼女の表情から憂いの色が、熱気の前の氷のように消え失せていた。
 妙に嬉しげなタマモの表情は、横島の頬をゆっくりと指でなぞるにしたがって、今度は透き通った優しさを深めていく。


 「ふふっ・・・・・・・・・ばーか♪」


 彼女の艶やかな口元から、小さく笑いが漏れた。湯上りという事もあって血色がとても良い。
 横島の唇を人差し指で軽く突付けば、薄く開いた唇の隙間から寝息が微かに漏れてくる。
 揺れた空気は指先に触れて、温もりが纏わりつく。

 口紅を塗るように、指先を口唇に沿ってゆっくりと丁寧に動かせば、横島の表情が軽く歪んでそっぽを向いた。
 素っ裸の上半身がタオルケットから少し零れ、右肩から腹部にかけて丸見えである。
 意外に細目で引き締まった肉体は程好く鍛えられており、タオルの隙間から覗いた胸板や腹筋の割れ目が存外にたくましい。

 一方、横島の寝姿をまじまじと見ることになってしまった美神令子とおキヌ。
 タマモが横島に跨っている時にも赤面したものだが、今の血管内の血液濃度はその時以上だ。
 ウォッカの一気飲みをしても、全身がここまで真っ赤にはなるまい。そんな例えも出来そうである。


 「み、み、み、み、み、みか、みか、美神さん美神さん美神さぁーんっ!」

 「ああああ、歯の根が合ってないわよ、おキヌちゃん!」

 「うーん、ひのめにはともかく、令子やおキヌちゃんにはちょーっとばかり早いかしらね? ほほほほほ♪」

 「だーう?」


 美智恵の言は、普通は逆のような気もするが、ある意味さすがは、と言うべきだろうか。
 貫禄すら感じさせるその気構えは、部屋中をぬけめなく走らせている視線が、その一端を仄めかしている。
 口に出せばまた騒動の種だが、美智恵はタマモがTシャツの下に、下着をきちんと身につけていることを見知っていた。
 である以上、娘たちの騒動がなんとも滑稽でしょうがない。気分はまさに『青春ねぇ♪』である。これは観客に徹すべきかもしれない。

 金魚見たく、口を開閉させている令子とおキヌは互いの姿を見ていない。それ以前に身体が硬直していて、視線がベッドから外せない。
 階段を背に、左からシロ、パピリオ、令子、おキヌ、美智恵という順番に、加えてなんとも丁寧なまでに横一列である。
 昨夜の映画的シーンの再現。あるいはそれ以上の光景に、観客一同は順番の確認どころではなかったが。


 「さっきから何を騒いでいるのよ、あなた達?」


 不意にこちらを振り向き、一同へと投げかけたタマモの声音には、周囲の騒動など気にかけた様子も無かった。
 窓の外で囀る小鳥たち以上に、意識に留めていなかったらしい。
 そんな声を耳にした一同は、熱湯で身を締めた魚の如く身を強張らせていた。なんという事だ。昨晩よりもはるかに大人っぽい。
 だが、そんなことで怯むシロとパピリオではなかった。たかが声ごときに負けてなるものか。


 「タ、タマモのえっちっちー! すっごいえっちっちーでござるぅ!」

 「わたち達にはもちろん、ヨコシマになにしやがるでちゅか、このバカ狐!」


 シロとパピリオ、年少2人組としても見過ごす事の出来ない光景であり、現状であった。
 そもそも、横島のベッドで一緒に寝ていたはずの2人は、突然、ベッド・サイドに転げ落ちた時に目が覚めたのである。
 当初は寝相の悪さかとも考えた。狭いベッドから転げ落ちても、それは仕方の無い事だった。

 寝起きと床に落ちたショックとで、やや朦朧とした意識の中、ふと見上げたベッドに居たのはタマモであった。
 数秒が経過した後、ぼんやりとした表情は崩さないまま、顔を見合わせていたシロとパピリオは同様の結論を得ていた。
 タマモが自分達をベッドから突き落としたのだな、と。

 加えて横島に跨っていることにも憤激し、激昂の叫びを上げるには2秒も要らなかった。
 美神たちが階下で聞いた、シロとパピリオの叫び声はこの時のものだったのである。
 が、加害者のタマモには一向に悪びれる様子が無かった。
 自分が横島と共にいるのは、さも当然と言わんばかりの自信に満ちた言動が帰ってくる始末である。


 「何って・・・・・・決まっているでしょ? 横島を起こしているのよ。良い所なんだから邪魔しないでくれる?」

 「ぬぁにが良い所よっ! もうちょっと普通に起こさんか、このばかたれー!」

 「いぃぃ、いけませんっ! えっちです、みだらです、ふしだらですぅーっ!」


 自分たちとベッドとの間に遮るものは何も無いはずなのに、この遠くの世界を見やっているような感覚は何なのだろう。
 昨夜の横島、今のタマモ。日常と非日常の境界線はどこにあるのだろう。
 考えた事も無い議題が頭脳をよぎり出したのは一体何の兆候なのか、美神令子は脳の片隅で自失しそうな意識を自覚していた。
 が、次の瞬間には怒りの熱気で脳内を完全制覇していた。このくらいで呆然とするなど、美神令子のプライドが許さない。

 おキヌもこれまた、切実に声を上げていた。こんな事で気持ちが振り回されるのはイヤなのだ。
 自分が彼の一番になれる、なんて自信は無い。しかし黙っていたままで、どさくさまぎれに置いてけぼりを食らうつもりも無かった。
 酒の勢いとか、薬の勢いで決着がつくのなんてイヤだ。気付いてもらえないままで終わるなんてイヤだ。
 そんな深層心理のあるか無しかは自覚せぬまま、おキヌは赤唐辛子さながらの赤面状態でタマモへと声を向けていた。


 「うわー、美神もおキヌちゃんもそーとー興奮してるでちゅねー」


 自分も当事者のくせに、達観しているつもりのパピリオである。
 思わぬところからの援護射撃に当初は驚いたものの、これはよくよく考えれば好機といえる。いや、好機とすべきかもしれない。
 あの憎むべき女狐は、いつもの女狐ではない。なぜかはわからないが昨夜の『せくしー』なタマモである。
 認めるのは腹立たしい事だがしょうがない。たとえ『どーぴんぐ』をしてても、『せくしー』である事は否めないのだ。

 あぁ、敵をも認めるわたちって、潔くてかっこ良いでちゅね♪
 などとパピリオが浸っていたのもつかの間、横ではシロが最初の攻撃を試みていた。
 胸の前で両方の拳を握り締め、小刻みに震わせながら。


 「だいたい、そのTシャツは先生のものではござらんか! 人の物を黙って取って、しかも着るとはどろぼうでござるぞ」

 「あんですってぇ!? よ、横島クンの!?」


 とりあえずの味方であるはずの令子とおキヌが、まっさきに驚愕していた。
 今のタマモはTシャツ一枚の姿。下着は穿いているが、美神には見えてないので無いも同然。
 シロ曰く、そのTシャツは横島のもの。横島は上半身が裸。
 とりあえず20代ではあるため、そこそこの性的知識を持ち合わせていた美神令子は、少なすぎる情報ゆえに誤解街道一直線であった。
 

 「よこしまぁぁああ!!」

 「ちょっと待ちなさい、令子」

 「んぎゃっ!」


 横島に跳びかかり、誠意を込めて殴りまくろうとした美神令子は、実の母親の足払いによって床に激しく激突した。
 見事すぎるほどの絶妙なるタイミングである。しかも両腕にひのめを抱きかかえたままでの早業だ。
 般若に変じた娘を諌めるべく、表情を変えぬままに鬼の技を繰り出す母親の姿がここにあった。
 美智恵としては実力行使は止むを得ないところであった。だって娘の令子は『言っても聞かないから』がその理由である。


 「あだだだ・・・・・・・・・・い、いきなり何すんのよ、ママぁっ!」

 「何すんのよ、じゃありません! よく見なさい。タマモちゃんはちゃんと下着を穿いてるでしょ?」

 「は、穿いてるからって、ど、どうしてアイツらが・・・・・・え、え、えーと・・・・・・ボーダー・ライン越えてないってわかるのよっ!」

 「私は母親で、美神美智恵よ。そのくらい目を瞑っていてもわかります! ほーっほほほほ♪」


 どこから来るのか、美智恵のその自信ありげな態度はまさしく鉄壁の如し。
 実の娘である美神令子と、半ば観客のおキヌは美智恵の高笑いの前に呆然としていた。
 ひのめもきゃっきゃと笑い声を上げ、どうやら母の応援をしているらしい。
 そんな家族光景の隣では、シロとタマモによる舌戦がまだ続いていた。


 「あら、羨ましいの?」

 「う、う、うらやましくなんかないやいっ! 拙者だってせんせいにお願いすれば、Tシャツくらい貸してくれるでござるよっ!」

 「なら、それで良いじゃない。なかなか気持ち良いわ。今の時期はこの方が過ごし易くてよ」


 その流し目と微笑みは、銀幕の中のハリウッド女優も真っ青の高慢振りである。
 ローティーンの外見でありながら、淑女的な身のこなしや仕草は大したものだが、いかんせん今のところ、観客には気恥ずかしすぎた。
 

 「涼しそうなのは見ればわかるでござるが、拙者の敬愛する先生のTシャツを盗むとは許しがたいでござるっ!」

 「お風呂に入ってたのはともかく、なんでヨコシマのを着るんでちゅか? 自分のがあるのに」

 「人聞きの悪いこと言わないでくれる? 借・り・た・の。それに自分のだけじゃマンネリだし。ちょっと趣向を変えてみたのよ♪」


 艶笑にウィンクまで交えて、その高慢振りにはすっかり堂が入っている。
 タマモがこのまま成長したならば、騙される男が続出する事は確実だろう。
 が、今のところは少年を1人、尻に引いているだけである。しかも文字通りに。

 当の少年は、未だ小さい鼾をかいて寝ているままだ。ある意味、大した度胸である。
 重さも感じていないのか、彼が気付く素振りも見せない事は、尻に引いている彼女としても内心かなり不満気であった。
 しかし彼女以上に不満なのはシロである。普段、女狐呼ばわりしているヤツに先んじられる事は、やっぱり自尊心が傷つく事である。
 武士として、人狼として、そして、同じ女の子として。芽生えかけの恋心を、絶対に裏切りたくない。絶対に背きたくなかった。


 「ならば拙者は先生の上着をお借りするでござるっ!」


 気持ちが純粋でも方向性は皆無だった。
 もっとも恋心というものの存在を、シロがきちんと自覚している事すら疑わしいのだが。
 白衣を勢い良く脱ぎ捨て、椅子にかけてあったカッター・シャツを素早く拾い上げると、シロはおもむろにジーンズへと手をかけた。
 その仕草が、どう見ても脱衣行為にしか見えない令子とおキヌは、慌ててシロへと駆け寄った。


 「なっ、なにをするのっ、シロちゃん!?」

 「なに張り合ってんのよ、シロっ! アンタまさか!?」

 「お、お放しくだされ、美神どの、おキヌどのっ! 拙者は武士として、タマモにだけは負けるわけにはいかないのでござるっ!」

 「だからって、いきなりヌードは大問題なのよ、ばかたれ!」


 美智恵とひのめ、パピリオが半目のまま3人の狂騒を眺めている。
 脱ぐ、脱がない、脱がせない、の3拍子で口角泡を飛ばしていたが、終止符は突然に打たれた。


 「・・・・・・なんだ? さっきからうるさいな」


 居並ぶ女性たちに静寂をもたらしたのは、一人の男性の声であった。
 たった今、目覚めたばかりの横島の声が。










        「こんにちは、魔鈴めぐみです♪ 次回でいよいよ最終話です。ここまでお疲れ様でしたっ♪ ほら、ご挨拶は?」

        「にゃ♪」

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa