ザ・グレート・展開予測ショー

私の創造主


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 4/25)

この作品は、拙作『狂乱の宴』の設定等を流用しています。ので、それが未読の方は先にそちらを読まれる事を推奨致します。



前回のあらすじ
 昔々あるところに、アシュタロスと言う濃ゆいマッチョがおりました。
 彼は、ある時自殺したいと思いました。
 数百年の時を経て、漸く彼の自殺計画は実り、念願通り彼は死ぬ事が出来ました。
 しかし、意識を失った彼が次に目覚めると……………、(声が変わる)身体が縮んでいた!
 何故か子供として生き返ってしまった彼は、彼を殺してくれた張本人である横島忠夫の元に身を寄せる事となりました。


 身体は子供、頭脳は大人!でも、心は子供!
 その名は、魔王アシュタロス!















皆さん、こんにちは。
俺の名前は、横島忠夫、もうすぐ二十歳。職業はゴーストスイーパー。

俺は今、師匠の美神令子さんの事務所から独立して、フリーのスイーパーとして生計を立てている。
この仕事は、自分に合っていると思う。両親の才覚が遺伝しているとすれば会社勤めも良いのかも知れないが、自分の腕一本で渡れるこの気楽な仕事は、性に合ってる様な気がする。
勿論、死を扱い、常に死と隣り合わせのこの職業は危険極まりないものだが、好い加減実績も伴ってきた今となっては、仕事もある程度選べたりするので、無理や油断をしなければ何とかなるだろう。
事務所を持たない気楽さは、更に自由度を上げる。未だ若いのだし、暫くはこのままで良いだろう。

それにしても、師匠の美神さんには頭が上がらない。
俺が短期間でここまで実績を積み上げてこられたのは、勿論、俺の実力なのだが、それ以前に仕事が多く入ってきたからに他ならない。アシュタロス戦で活躍した(と言う程でもないと自分では思っているし、ルシオラの事など、自分の中でも整理が完全についたとは言い難いので余り触れたくないのだが)事などは一般には明らかにされていない……っつーか、寧ろ一時は人間の敵扱いだった。ようやっと師匠から認可を貰えた様なフリーの若僧に多くの仕事が舞い込んできたのは、ひとえに“美神令子の弟子”と言う看板のお陰だった。
“日本最高のゴーストスイーパー・美神令子”の雷名は、その出来の悪い弟子にさえ、十二分に恩恵を与えるものなのだ。
自分の努力のお陰と言う訳ではない(強いて言うなら、美神さんの門に入り、そこで彼女に認められたと言うのは俺の努力だが、俺としては、それが努力と言う気がしない)ので、正直かなり後ろめたい。なので、最近の俺はせっせと美神さんへの恩返しをしようとしている。とは言っても、俺が美神さんにしてやれる事なんて高が知れてるもので、酒に付き合う(勿論、費用は俺持ちだ)くらいが関の山だったりするのだが。……て、俺、未だ未成年なんだけどな。
本当に、俺は良い師匠を持ったと感謝している。いつか、もっときちんとした形で師匠孝行をしたいものだ。



さて、そう言う訳で俺は今、二人の助手と共にフリーのGSとして働いている。
もう事務所開いても良いんじゃないかとも言われているが、事務所にすると色々と面倒だし、手続きとかもめんどいので暫くはこのままでいるつもりだ。斡旋所から貰う仕事やオカルトGメンからの捜査協力依頼とかで充分食っていけてるので、取り敢えずは問題無いだろう。


ここは、俺の自宅。
兼、仮事務所みたいなものか。都内の某住宅マンションの一室だ。
流石にあのボロアパートじゃ、一般に“儲かる仕事”と思われているGSの住処としては見栄えが悪いし、手狭になってきたので引っ越したのだ。

キィ……

部屋の中扉が開いて、少年が眠そうに目を擦りながらやってきた。
「ふわぁぁ……」
口に手を当てて、小さく欠伸をかますこの少年。見た目、小学校高学年と言ったところか。
その彼はライトパープルの髪に、顔には入れ墨の如き紋様、頭には角。どう見ても、人間じゃない。
はい、その通り人間では無く、彼の名は“芦 優太郎”。
……と書けば、賢明な読者の皆様には見当が付くだろう。そう、彼はあの魔王アシュタロスのなれの果てと言うか残りカスと言うか、そんな感じの奴なのだ。いやだから、細かい事は前作を読んで下さいってば。取り敢えずここでは、アシュタロスが子供の姿で生き返っていると言う事だけを認識して頂ければ結構です。
……って、何を言ってるんだ、俺。
兎も角、記憶や性格は生前(と言うのも、おかしいか?)のものを丸々保持しながら、精神年齢は外見相応のものとなってしまっているアシュタロスを、俺は縁有って預かっているのだ。
「?どうしたんだ、小僧」
アシュタロスが、あどけない表情で尋ねてくる。
「って、お前のが小僧だろ」
「馬鹿を言え。私が、君の何千倍生きたと思っているんだ」
「でも、今はガキだろ?肉体的にも精神的にも」
「うぬ……」
実際、この少年があの濃ゆい腐れマッチョだとは到底思えない。て言うか、あのままだったらどんなに弱ってたとしても、引き取ろうとか思わなかったろうが。
自分で言うのも何だが、俺は子供に弱い。アシュタロスをして俺に責任を感じさせたのは、彼の外見が子供となっていたからだろう。例え、頭の中身はそのままだったとしても。
「ふん、まあ、良い。飯にしろ、小僧」
「何でお前、そんなに偉そうなんだよ……。躾の悪いガキだな」
流石、元・魔王なだけあって、子供になっても態度がでかい。自分の立場、分かってねーんじゃねーのかと、とても思う。
しかし、その欠片に過ぎない今の彼の魔力は、シロレベルにまで落ち込んでいる。今の彼に危険が無いと判断したからこそ、神界や魔界も俺に彼を預ける事にしたのだが。

まあ、そう言う訳で。彼・アシュタロスが、俺の助手第一号な訳だ。




「ちわーす!」

バタン!

俺とアシュタロスが、トーストにベーコンエッグと言う簡単な朝食を摂っていると、大きな音を立てて部屋の扉が開き、元気な声と共に高校生くらいの歳の少年が勢いよく入ってきた。
「お早うございます、師匠!」
「お早う、縦陸くん」
「魔王サマもお早う!」
「む……」
彼は、縦陸義雄(たておか・よしお)くん、十六歳。俺の、もう一人の助手だ。
GS希望だった彼と、俺はある事件を通して知り合った。
そして、今年のGS資格試験をパスした彼は、決まった師匠がいないとして、俺のところへ弟子入りさせてくれるよう、GS協会に申請したらしい。結局、それが受理され、俺は彼を雇う事と相なった。
彼が俺の何に惹かれたのか分からないが、俺の方も彼の事は気に入っている。特に、女性に弱いところなど、他人とは思えない。
……って、いやだから、そっちの趣味に目覚めた訳じゃないんだってば。
ホントだって、だからそんな眼で見るな、タマモ!
ああっ、かと言って、私は信じてますみたいな眼で見られるのも辛いよ、おキヌちゃん。
そして、シロの何も分かってない純粋な眼が一番痛いんだよ!
って、ああっ!何で神通棍構えてるんすか、美神さんッッッッ!?
「ど、どうしたんだ小僧。先程からブツブツと……」
「師匠?」
「え……?あ、御免。ちょっとヤな事、思い出しちゃって……」
「?」
……コホン。失礼。
ま、兎に角そう言う訳で、俺はこの二人と一緒に何とかやっていってます。

じゃ、ナレーションにマイクを返します。





数時間後、三人は妙神山の山道を登っていた。
「す、凄いトコっすね、師匠」
「おう、死ぬなよ、縦陸くん」
「うーす……」
「これしきで情け無いな。全く、人間と言う奴は……」
「黙れ、腐れ魔王」
そこそこ力のついてきた縦陸に、妙神山で修行を受けさせてレベルアップさせようと言うのだ。
黒雲が、山麓に妖しく掛かっている。
「でも、楽しみっすね!妙神山で修行すれば、俺も師匠や美神さんみたくなれるんすかね!」
「いや、それはどうか分からないけど」
「腕がなりますよ!」
「本音は?」
「美人で有名な小竜姫様にお目にかかれるのが、楽しみです!……って、ああっ!」
「いや……、良いって。その気持ちは、痛い程に良く分かるから……」
「そうですよねッ!流石、師匠!良く分かってらっしゃる」
「ははは……」

「……類は友を呼ぶ……だな」
騒ぐ師弟の間で、元・魔王が小さく呟いた。




さて、無事、修行場に着いた横島達。
「おう、久しぶりじゃの。どうした、小僧」
「よう、久しぶりだな、鬼門。小竜姫様いるか?」
早速、鬼門と言葉を交わす横島。
「も、門のレリーフが喋った……!?」
後ろでは、縦陸が退いている。アシュタロスは興味の無さそうな表情で目の前のやり取りを見ている。
「む?誰じゃ、そのもの達は。見ない顔じゃな」
「ああ、俺の弟子なんだ」
「小僧の弟子?しかも、男じゃと……?」
「……何だよ、何か文句でもあんのか?」
「いや……。のう、左の」
「お、おう。そうじゃ、右の」
「……。ま、良いや。でさ、こいつの修行を頼みたいんだけど、小竜姫様いる?」
そう言って、横島は縦陸を指した。
「む、待て小僧。よもや我が妙神山の掟を忘れた訳ではあるまいな。我等鬼門の認めた者以外は、この門を通る事、まかりならぬぞ」
「えー、ああ、そう言えばそうだったっけ?良いじゃないか、そう固い事言わずに通してくれよ。俺とお前等の仲じゃないか」
「どんな仲じゃっ!」
「お主、ますます美神令子に似てきたの」
「そっか?」
とか駄弁ってる内に、扉は内側から呆気無く開いた。

ぎーーーーっ

「あら、お客様?」
言う迄も無く、この修行場の管理人、小竜姫である。
「しょ……小竜姫様ああっ!」
「不用意に扉を開かれては困ります!我等にも役目と言うものが……」
「固い事ばかり申すな。アシュタロスの乱以後、一度破壊された妙神山を訪れる者も少なく、私も丁度退屈していたところです」
頭に手を当てると、小竜姫は事も無げにそう言った。
「あっ、貴方が小竜姫様ですか!いやー、お美しい!ちょっとロリっぽいけど、想像以上ですよ!」
縦陸が、小竜姫の手を取り、捲し立てた。
「小竜姫様に気安く触るな、無礼者っ!」

ばきっ!

「ぶっ!」
そして、お約束通り鬼門にぶっ飛ばされた。
「えっと……、修行者の方ですか?どなたの紹介で……」
「あ、すんません、小竜姫様。そいつ、俺の弟子なんすよ」
「横島さん!?」
横島の姿を認め、驚く小竜姫。心なしか、ほんのりと頬が朱に染まっている様な気もする。
「……ああ、なるほど。道理で既視感を感じると思いました」
「そら、えろうすんませんね……。あ、じゃあ、お礼に着替え手伝いますよ」
「くすくす、相変わらずですね、横島さんも。私に無礼を働くと、仏罰が降りますので注意して下さいね?」
「へい……、肝に銘じます。……だから、その神剣はしまって下さい」
「うふふ」
軽口を叩きながらも、妙に嬉しそうな表情を作る小竜姫。
それを見て、縦陸はアシュタロスにぼやいた。
「小竜姫様も、師匠に気があるみたいだな……。何で、師匠ばっかり……」
「う〜む、まあ、面白い男ではあると思うがな。見た目よりずっと骨のある奴だし」
「でも、本人、あんまり気付いてないよな……」
「そのくらいのが良いのではないかな?いつまでもそれと言うのもアレだが、少なくとも今は、誰も小僧に気があると明確に示していないが故に、バランスが保たれているとも言えるしな。誰か一人を選ぶにしろ、残りと愛人関係を結ぶにしろ、小僧が女共の好意に気付けば、波風が立つは必定だ」
「師匠って、優しいもんなあ……」
「ふむ……」
まあ、好意に気付かぬのは、単に鈍いだけでは無いかも知れんがな。
と言うか、もしかすれば気付かぬ振りをしておるのやも……。
「え?」
「いや、何でも無い……」
矢張り、ルシオラの事が尾を引いているのかな。




「ポチーーーーーっ!」

ドカア!

「ぐふう!」
小竜姫の案内で、縦陸とアシュタロスを連れて修行場の中に入った横島は、飛びついてきたパピリオに、ヘッドパットを鳩尾に決められ、5メートル程吹っ飛んだ。
「久しぶりでちゅね、ポチぃ〜〜〜〜!会いたかったでちゅよぉ〜〜〜〜!」
パピリオは、横島に抱き付いて頬ずりした。
「お、おう……、久しぶりだな、パピリオ。元気そうで良かったよ」
「それがそうでもないでちゅよ〜。小竜姫ってば、ホントに厳しいでちゅ。修行とか言って、パピリオを苛めるでちゅよ〜」
「なっ、何を言ってるんですか、パピリオ!私は、貴方の為を思ってですね……!」
「って、そんな子供の言う事に真面目に反応せんでも……」
まあ、そんなところが彼女の可愛いところとも言えるのだが。しかし、同時に最大の欠点である事も否めない。
「師匠……、矢っ張りロリコ……」
「何が矢っ張りだ!」
縦陸の声を震わせた一言に、横島のキレの良い突っ込みが入った。ボケも突っ込みも出来る横島は、どつき漫才大好きな大阪人だ。
「あ〜、そんな事言ってると、後悔ちまちゅよ、ポチ。その内、パピリオはベスパちゃんにも負けないくらいに“ないすばでぃ”になるんでちゅから!」
「……悪ぃ。その頃には、俺、多分死んでるわ」
神族魔族は、人間に比べ、長命であり成長も遅い。詰まりは、そう言う事だ。
「む〜!まあ、良いでちゅ。折角来たんでちゅから、早速向こうで一緒に遊びまちょう!」
「駄目ですよ、パピリオ。横島さんは、お弟子さんの修行で来たんですから」
「え〜!?」
すっかり保母さんが板に付いた小竜姫の言葉に、パピリオは膨れて見せた。
「あ〜、まあ、ほら、終わったら幾らでも遊んでやるから。な?」
横島が、そうフォローを入れる。子供には勝てない男なのだ。
「ホントでちゅよ!?じゃあ、さっさと終わらせて早く遊ぶでちゅ!」
「いや、そう言う訳にも……」
「ポチ……、そんな男の方が、パピリオより大事なんでちゅか……?」
「おい……、やめろよ、そう言う台詞は……」
「師匠……あんた……」
「あーっ!もう、何とでもしろぉっ」
頭を抱えて叫んだ横島の眼に、我関せずとばかりに平然としているアシュタロスの姿が映った。
「あ、そうだ、アシュタロス。お前、縦陸くんが修行してる間、パピの相手してやれよ。子供同士さ」
「え?」
アシュタロスが面倒臭そうに傾き、小竜姫とパピリオが怪訝な顔を作った。
「アシュ様って……、どう言う事でちゅ?」
パピリオが首を傾げる。
「え、ああ……、ほら、こいつがアシュタロスなんだよ」
そう言って、横島は傍らのアシュタロスの背中を押して見せた。
「え?え〜と……?」
パピリオは、何と言って良いのか分からないと言った表情でアシュタロスを見た。そこにいるのは、自らの主ではなく、どう見ても自分と同年代くらいの子供だ。
一方、小竜姫はヒャクメ辺りから少し話は聞いているのか、未だ驚いた表情を作ってはいるものの、それ程動揺している様子はない。
「ま、詳しい話はアシュ本人から聞けよ、パピリオ」
「……何で私が、そんな事をしなければならないんだ」
「良いじゃんか、どうせ縦陸くんの修行なんか見てもつまんねえだろ?それに、パピはお前の子供だろ。偶には遊んでやるのも親の務めだぜ」
「親って……あのな」
渋々と言った表情ながらも、アシュタロスは横島の案に同意した。




ピュンピュンピュン!

畳敷きの部屋におかれた小さなテレビから、コミカルな電子音が響く。
「くっ、やりまちゅね、アシュ様!初めてとか言ってたのに、なかなかどうして上手いじゃないでちゅか」
「ふむ……、まあ、魔王とは言え、私も一応は学者畑の出身だからな。こう言うのを扱うのは得意なのだよ」
「ああ……、この無駄に横柄で無駄に丁寧な言葉遣い……。間違い無くアシュ様でちゅね!懐かしいでちゅ……」
「……。そうか」
縦陸の修行の間、パピリオとアシュタロスは向こうで遊んでなさいと言われ、じゃあと言う訳でゲームステーションをしようと言う事になったのだった。
「……」
「?どうしたんでちゅか、アシュ様」
「……いや……」



あんまり長い間ビデオゲームをやってると目が悪くなるので、妙神山ではゲームは一日三時間まで、連続では一時間と決められている。
で、一時間経ったので、パピリオとアシュタロスは休憩を入れる事にした。
「アシュ様、麦茶で良いでちゅか?」
「うむ……」
そう答えるアシュタロスの表情は重い。
「?どうちたんでちゅか」
麦茶を入れたコップを乗せたお盆を、卓袱台に置いたパピリオが尋ねた。
「パピリオ……」
「あい?」
「……」
「何でちゅか?」
「……私が……、憎いか……?」
「え?」
急にそう訊かれ、パピリオは訝しげな表情を作った。
「憎い……って、何で又た?」
「……憎い、だろう?」
「アシュ様が……でちゅか?」
「ああ……」
「何ででちゅか?別に、アシュ様を恨む理由なんか、私には無いでちゅよ」
一瞬にして話を暗い方向へと持っていった嘗ての主に、パピリオは困惑した表情で答えた。
アシュタロスが、何らかの理由で、今、過去を激しく悔いているらしい事は、パピリオにも分かった。そしてそれは、自分との再会と交流が発端ではないかと言う事も。
だが、実際に彼女にはアシュタロスを恨む気持ちは無かった。
「アシュ様?どうなされたんでちゅか、急に」
「憎くないのか……?」
「え……?」
「嘘だろう、パピリオ。気を遣わなくても良いぞ」
「い、いや、本当に……」
「……私が、お前達にやらせた事を考えれば……」
「な、何を言われるんでちゅか。私達はアシュ様の眷族なんでちゅから、アシュ様の言う事を聞くのは当たり前でちゅよ」
「しかし……、僅か一年で尽きる命を与え、姉妹を争わせたのも全ては――」
「でも、アシュ様が創ってくれなかったら、それもなかったでちゅ。悲しい事も嬉しい事も、全てはアシュ様が私達を創ってくれたからでちゅよ」
「だが、抑も生まれてこなければ、その苦しみも無かった。その苦しみを得る為だけにお前達は……」
「アシュ様!」
暗い表情でブツブツと言葉を並び立てるアシュタロスに、パピリオは大声で一喝した。
「……」
その剣幕に、アシュタロスも思わず唖然としてしまう。
「そんなの、幾ら言ったって堂々巡りじゃないじゃないでちゅか。良いんでちゅよ、私が良いと言ってるんでちゅから」
「しかし……」
「そりゃあ……ルシオラちゃんの事は残念でちたけど、兎に角何とかなって、全部丸く収まったんでちゅからそれで良いじゃないでちゅか」
「パピリオ……」
「それに」
「それに……?」
「こんなの、アシュ様らしくないでちゅよ。アシュ様は、もっとこう、偉そうにふんぞり返っててくれなきゃ駄目でちゅ」
「は……、言う様になったな、パピリオ」
「えへへー」
「……いや、すまん。そうだな……」
精神が子供になった分、己の過去の所業の重さに押し潰されかけたか……。
ふ……、情け無い事だ。私らしくもない……。
「アシュ様っ!」
「わっ」
飛びついてきたパピリオに、アシュタロスは押し倒された。
「へへっ、アシュ様!私ね、アシュ様の事、大好きでちゅよ」
「……そうか」
どこか頼りない笑みを浮かべ、アシュタロスは胸の中のパピリオの頭を撫でた。
「ね、アシュ様」
「何だ?」
「パパって呼んでも良い?」
アシュタロスを見上げて、パピリオは白い歯を見せた。
「んなっ……!?」
「あれぇ?何、どうしたんでちゅか。照れてるの?」
「ぱ、パピリオ!」
「あはは、アシュ様、可愛いー!」
「……っ」
顔を真っ赤にしたアシュタロスの脳裏には、横島の言葉が浮かんでいた。


――なぁーに言ってんだよ、ガキのくせに。……あ?でも、今はガキだろ。余計な事、気にしなくても良いんだよ――


――パピはお前の子供だろ?偶には遊んでやるのも、親の務めだぜ――


「パパ……か……」
アシュタロスは、微かに呟いた。

「それも良い……」





「そう言えば、アシュ?」
「何だ?」
「ルシオラ達って、お前が創ったんだよな」
「……そうだが?」
「まさか、あれってお前の趣味って訳じゃないよな?貧乳・グラマー・ロリ、って……」
「……」
「……なあ」
「想像に任せる……」
「おい……」

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