ザ・グレート・展開予測ショー

「秘密」 娘が生まれた日


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 4/23)



全く、何と言うか・・・・落ち着かない。


普段は吸わない煙草なんぞを咥えてみたが、一吸いで止めた。肺が受け入れなかった。
腕の時計の針は、もうすぐ夜10時を指そうとしている。


「蛍は何をやってるんだ・・・・、ひょっとして何かあったのか?」


今日は久しぶりに仕事に行き、腕が落ちていないか不安だったが、難なくこなしてきた。
蛍が心配だったのでなるべく早くと思い、7時前には帰って来たのに・・・・。


携帯にも何度も電話をかけた。メールも送ってみた。
しかし・・・・一向に繋がる気配も返信が来る様子も無い。


「探しに行くか・・・・、いやしかし何処にいるかわからんしなあ・・。」


やはりついて行くべきだったかも知れない。何を言われても後を追うべきだったのだ。
何故なら・・・・・昨日の事があったばかりなのだから。問題が起きてからでは遅い。



「・・・・・んっ?・・・・何か・・・この感じは・・・何だっけ?」



・・・・・・・その時、妙な既視感に襲われた。
この感覚には妙に覚えがあるような・・・。いつの事だったか・・・あれは・・・確か・・・・。




時間は過去へと遡って行く・・・・・・・・。










16年前・・・・・・・、娘が生まれた日に。










その日も当然落ちつかなかった。


普段は吸いもしない煙草を咥えてみる。当たり前のように咳き込む。
そして天井を見つめる。それの繰り返しだ。


「まだなのか・・・・あーっ!!もう!!早くしてくれー!!」


頭を掻き毟ってこの気持ちを発散しようとする。・・・何とも無駄な努力だが。
もう病院に来てから半日が過ぎようとしていた。


「ふふ・・、まあ落ち着かないのはわかるけど・・・・、あなたが焦ってもどうしようも無いのよ。」
「お兄ちゃん、リラックスリラックス。ほら、深呼吸してみたら?」


横に座っている親子が励ましの声をかけてくる。令子の母親、美智恵さんと次女のひのめちゃんだ。



「深呼吸って・・・・・こ、こーか?・・・すーはーすーはー・・・。ふー・・・。」



深く息を吸い込み吐き出す。・・・・なんだか馬鹿みたいだな。


「どお?落ち着いた?」

「いや、まあ・・・・そうだな、ちょっとだけね。ありがとひのめちゃん。」


にこにこと笑う妻の妹さん。今年10歳の筈だ。非常に可愛らしい子である。
正直、令子と(ある意味で)同じ血が流れてるとは思えない。おっと・・・・何考えてんだ俺。


「・・・・少しは楽になったみたいね。顔が笑ってるわよ横島くん。」
「えっ、ははっ・・・そうですか。・・・参ったな、隊長にはかないませんね。」
「・・・もう部下じゃないんだからそんな呼び方しなくても、お義母さんでいいのに。」


それはちょっと・・・って娘とは違う魅力を持った「お義母さん」。一体いくつなのやら・・・・。
見た目は30代後半ってとこだが、まあ秘密らしいので聞いた事は無い。


(まだ死にたく無いしな・・・・。危険は避けて通らねば。)


バタンッ!!


忘れ去った頃に出来事はやって来る。突然開かれたドアに心臓が跳ね上がりそうになった。
そして一つの声が響き渡る。




「生まれましたよ!!元気な女の子です!!」















・・・・・・翌日の病室。


「結構難産だったわね・・、まあこの子の事だから心配はしてなかったけど。」
「な・・・・・母親なら・・・ちょっとは・・心配して・・・・よ。いたたた・・・。」


結局、帝王切開で赤ん坊を取り出した。どうやらかなり大変な出産だったらしい。
顔色も真っ青な感じで、令子にいつもの元気は無い。


「大丈夫か?令子。何か普通じゃないぞ顔が・・・・。」
「まあ大分時間掛かったしね。出産後ってのはこんなもんよ。」
「あんた・・・・にはわかる・・・・筈も無い苦労よ。」


まあそんなものなのだろう。毒づく言葉にも迫力は皆無だ。
ただ苦労なら死ぬ程体験してる訳だが・・・・、それよりもえらいとは・・・・。


(何と言うか・・・女じゃなくて良かった・・・・・。)


ほっと胸を撫で下ろす。だがその仕草が令子の癇(かん)に触ったらしい。
考えている事がわかったのかも知れない。


「あんた・・・もサボってない・・・・で仕事でも・・してきなさい!!」


ちょっと吹き出してしまう。どこまでも令子な言葉だ。
この分ならすぐに元気になるだろう。


「あんたねえ・・・、こんな時ぐらいしおらしくしたら?」
「ママは・・・関係・・・ないでしょ!!あいたたた!!」
「んじゃ、行ってくる。令子安静にしてろよ!」









5日後・・・・・・。


「あー、やっとご飯が食べれる!ちょっとまだ痛いけど・・・・嬉しいー!!」


令子の目の前には病院食らしきものが並んでいる。
普段なら文句を言うだろうが、数日まともに何も食べていないのでこの喜び様だ。


「んっ。はい箸ね。」
「はっ?・・・・なんで俺に渡すんだ。」
「・・・いーじゃない、たまには「夫」に甘えたって。悪い?」


ああ、そーゆう事か。・・・珍しい事もあるもんだ。
まあここのところ一緒に居れる事も少なかったし、いくら令子と言えどそんな気分になるだろう。


「はい、あーん。」
「あーん。」


部屋の中に甘い空気が流れる。正直嬉しい。
この、時に見せる可愛らしさがたまらんのだよ!!とにかく・・・・結婚して良かった!!!


「・・・あっ、そーだ。もうすぐ赤ちゃんこっちに連れて来てくれんのよ。」
「へー、そっか。・・・・ていうか早く見たいなあ!!」
「昨日もその前も見たでしょーが。たくっ、あんたも親馬鹿ね!・・・まあ私もだけど!!」


ワクワクする夫婦二人。これも連日繰り返される光景な訳で・・・。


ガチャッ!


期待を込めた視線をドアに向ける、・・・・がそこを抜けて来たのは二人の期待通りでは無かった。


「お姉ちゃん元気ー!?やっと来たよーー!!」
「・・・・なんだひのめか。何か用?」
「ひのめちゃん、いらっしゃい。」


すかされた感で気のない返事をする令子。わかりやすい態度だ。


「あー、冷たい!何その態度!せっかくおみやげ持って来たのに・・・お兄ちゃんアイス食べる?」
「あっ、ちょっと!よこしなさい!!要らないなんて言って無いでしょ!!」


・・・・・まるで子供みたいなだなと苦笑する。
昔は大人っぽかったが・・・年を取るにつれて逆に幼くなっていっているようだ。


トントン!


「横島さん入りますねー。」


そして・・・・・・遅れて部屋に喜びがやって来た!!





「かわいいー!!やっぱりお兄ちゃんにそっくりだねー!!・・お姉ちゃんには似ちゃ駄目だよ。」
「・・・・・・・何か言ったひのめ?」

「ま、まあまあ。いや令子にも似てるんじゃないか。ほら目元とか・・・・。」
「ふーん、まあ言われてみればそーかもね。ほーら、お金は怖いものでちゅよー。」

ぺしっ!

「あいたっ!!何すんのよお姉ちゃん!!」
「・・・・・ふんっ!!」


・・・相変わらず変な意味で仲の良い(?)兄弟だなあ。
正直、年はふたまわりは違うのだが・・・・・・。


「そうだ!名前は決まったの?どんな名前にするの?」
「えっ・・・・・・名前は・・・そうだな、決まってるよ。」
「まあ、あんたの事だから聞くまでも無いと思ってたけどね。・・・・好きにして良いわよ。」


・・・・令子の方に顔を向ける。目線が合っても逸らそうともしない。
多分、内心は複雑なのだろう。でもその素振りをみせるような妻では無い。


(・・・・・・・・・ゴメンな令子。)


令子の為を思うのならこの名前は付けない方が良いのかも知れない。
でも・・・・これだけは一つの思い出として残して置きたいから・・・。





彼女が・・・・・・・この世界にいた証として・・・・・・・・・・・。





そして・・・・・・・愛する女性では無く、愛する娘である彼女に・・・・・・捧げる。





「・・・・・・・・ほたる。横島・・・・蛍。」


「ほたる・・・・。凄い綺麗な名前ー!!!いいなあー!!」


「あんたには似合わない名前ね、ひのめ。」
「なにさ!!お姉ちゃんの方が絶対似合わないと思うわよ!!」
「あんたには言われたく無い!!」



・・・・せっかく人が綺麗に決めてみたのにぶち壊しだ。
まあこれがらしいと言えば、らしいのだろうが。





蛍をベッドから抱きかかえる。・・・・・暖かい感触が腕から全身に伝わって来る。
そこには確かに「二人の間に出来た娘」がいた。


昔の幻想などでは無い。代わりなどでは無い。唯一人の存在。
そして世界で一番カワイイと思う自分達の子供。





「こんにちわ、蛍。」
「・・・だあー。」





にこにこと父親に目を向けてくる。気づけば目の前の姉妹二人もこちらもじっと見つめていた。


「・・・私も抱きたい!!貸してお兄ちゃん!!」
「馬鹿言ってんじゃないの、母親が先に決まってるでしょうが!!」


(・・・・・・・・また始まったか。やれやれ。)


その日、部屋の中はどたばたと騒がしい雰囲気が一日中続いたのであった。










・・・・・・そんな思い出。記憶の片隅から零れ落ちて自分に降りかかる。


「・・・・・・・・・・・蛍。」
「あっ、お父さん起きちゃった?」


目を開けると目の前に令子・・・・じゃなくて蛍がいた。
どうやら考え事をしている内に寝てしまったらしい。



「・・・・タオルケットかけてくれたのか・・・ありがとう蛍。」
「どう致しまして。風邪ひかれちゃ困るからね。」



腕に巻かれた時計を見る。時刻は12時。2時間程寝てたのか・・・。


「あっ、そうだ、ごめんね、遅くなっちゃって。ちょっと・・・・・・・色々あってさ。」
「・・・・そうか。いや何にせよ無事で良かった。探しに行こうかと思ってたからな。」
「ふーん・・・心配してくれてありがとうお父さん。そうだ、コーヒー淹れるね。ちょっと待って。」


パタパタとスリッパの音を立てて、キッチンへと入っていく娘。
自分が気が付かない内に気の利く年頃になってたようだ。




(でも・・・・・・あの夢は・・・・・・・・見たくは無かったな。)




想像しただけで涙腺が緩む。必死で目頭を抑え、涙が流れるのを拒んだ。
・・・・・・・・今、一番悲しいのは娘の筈だ。自分が取り乱してどうする。


キッチンの中でごそごそとコーヒーを淹れる蛍が見える。
・・・・あの娘はもういない。けどそこに妻の姿で存在する。



・・・・・娘は母親を助けたいと言った。たった15、6の娘が自分の人生を捨ててだ。
その気になれば別の人生を生きていく事も出来るのに・・・・。



(もう・・・手段を選んでいる場合じゃないのかも知れない。)



何とか娘の願いを叶えてやりたい。そして当然・・・自分も令子に会いたい。
ならば・・・・・やはり相談するべき人がいるだろう。あの人なら何か案を出してくれる筈だ。


本当は「彼女」が関わっている以上、出来れば言いたくなかったのだが・・・・。
背に腹は変えられない。と言うか最初からこうするべきだったのだ。



「お父さんお待たせ。」



蛍がコーヒーを持って戻ってきた。暖かな湯気を立てて、良い香りが立ち上る。
しかし・・・・・コレを飲む前に言う事があるんだ。





「それでね、お父さん話があるんだけど・・・。」
「話があるんだが・・・・・蛍。」





同時に言葉を発した。まさかこれが内容まで重なっているとはこの時は知る由も無い。
親子の絆と言うものを感じる瞬間であった。





・・・・・・そして次の日、娘と供にある家を尋ねる事となる。
全ての謎を解く鍵を得る為に・・・・。

続く。

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