ザ・グレート・展開予測ショー

The Blue Rain 前編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 4/21)

夢を見ている。

そう、それだけははっきりと分かるのに、おびえる心は何時まで経っても落ち着きを取り戻してくれない。
私はそこで何時もなにかから逃げていた、何時もなにかから追われていた。

最初はただ守って欲しかっただけ、仙人や竜たちが当たり前のように居たあの時代では、
私は一人で生きていく力は無かったから。

だから私は人にすがった、その時々の権力者たちに愛されれば守ってもらえたから、
けっして楽では無かったし嫌な事だってたくさんあった。

でも生まれてしまったからには生きるしか無かった。
たとえそれが周りの妖怪から蔑まれようともだ。

最初はうまく行っていたのだ、人に守られていた私には他の妖怪は手出しが出来なかったし、
その時々で権力者に取り入る事もうまく出来ていた。

唯一怖かったのは捨てられる事、移り気な男たちの気分次第で、私は何時だって放り出されてしまう、
それだけは避けなければいけなかった。
外に放り出されたら私に待っているのは死だけなのだ、
だからこそ愛されるために私はどんな事だってしてきた。

いや、そこには愛なんてものは無かったのかもしれない。
誰でもよかったのだ、守ってくれるのならば、生きる為の行為に愛など不要だった。
男たちの都合の良い道具になる事で、私は生き残った。

だが、結局それが原因で自分の周りには争いの種は消えなかったのだから、本末転倒もいいところだろう。
私は都合が良過ぎたのだ、周りの男たちはだれもが私を欲しがった。
そして私を手に入れるには、持ち主を蹴落とせば良いと分かると、誰もが同じ事を繰り返す。

それでも私は何人もの男たちを渡り歩いて生き残ってきた。
そして気がつけば時代が変わり、国が変わり、仙人や竜たちが話の中の存在へと変わった頃、
私は生き残った他の妖怪たちと張り合えるほどの力を持っていた。

ひたすら隠れていた私と違い、外では妖怪たちが勝手に潰しあったのだ。
多くの力ある妖怪や神獣は滅び、生き残った者たちも力を失い滅んでいった。

だが、それを喜ぶ事は結局出来なかった。
昔からの生き残りである私は今まで以上に他の妖怪に目をつけられ、
守ってくれる筈の人間にも、金毛白面九尾の妖弧、傾国の化け物と呼ばれ追われる立場になっていた。

私は逃げた、ただ怖かったから逃げた。
私は生きたかっただけなのに生き残るためだけにがんばってきたのに、
結局大陸には私の居る場所は無くなってしまったのだ。

だが、海を渡って逃げた先でも同じことの繰り返しだった。
まだ力の弱い妖怪しか居ない土地では、私は退治されるべき外敵だった。

逃げ延びた人間の中でも、最後には化け物と呼ばれて追われてしまった・・・・・・

妖怪と人間に追われ、倒されるその瞬間に私は思った、いや思ってしまった。
なぜ私は生まれたのだろうと、生まれた瞬間から逃げ回り、最後の最後まで逃げていた私は、
なぜ生まれてしまったのだろうと。

悔しかった、ただ無性に悔しかった。
だから、まだ絶対に死ぬわけにはいかなかった。

私はただ安らぎが欲しかっただけなのだから、手に入れるまでは死ぬわけにはいかなかった。
それが、逃げる回る事を運命付けられた金毛白面九尾の妖弧としての、たった一つの意地だったから。


















ガバッ

勢いよくベッドから飛び起きた。

「はぁ、はぁ」

しばらくの間、荒い息と煩いぐらいの心臓の音だけが自分の耳に聞こえてくる。
少しばかりの余裕が出来た頃、周りを見渡すといつも寝ている事務所の屋根裏部屋だった。
今はタマモとシロの部屋として美神から借り受けているのだが、
シロもタマモも部屋を飾ると言う事には興味が無いらしく、
部屋の家具は最初に用意されたものからほとんど増えてはいない。
つまり年頃の女の子の部屋として見るなら、ここは殺風景すぎるのだ。
まあ二人とも妖怪なのだから、年頃の女の子と考えるのはおかしいのかも知れないが。

辺りはまだ薄暗かった。
隣のシロのベッドを見ると掛け布団が跳ね上げられたまま放置されており、
ベッドの主はどこにも見受けられなかった。

少しだけホッとする、自分のみっともない姿をシロに見られるのだけは嫌だったからだ。
右手で自分の顔を正面から覆い隠す、まるでそうすればなにかから隠れられるかのように。

「最悪・・・」

そう、はっきり言って気分は最悪だった。
嫌な夢を見たと分かるのだがまったく内容を覚えていない、
そのくせ起きた今ですら胸の中に黒い不純物があるように気分が悪い。

ベッドの横の机から手探りでウーロン茶のペットボトルを手繰り寄せる。
ひどく温かったが乾いた喉は十分すぎるほど潤った。
ふたを閉めて机の上に戻そうとした時に、机の上に置いてある時計が目に入った。

9時12分

一瞬、朝の9時か夜の9時か迷う。自分が寝たのは何時だったかはっきりと思い出せない。
だが夜の9時なら外は真っ暗のはずだから朝の9時だろう。

少し耳をすますと窓にあたる雨の音が聞こえた。
ベッドから降りると窓へと近寄る、閉めっぱなしのカーテンを開けると外は黒い雲に覆われていた。
豪雨と言うほどでもないが、それでもかなりの強さで降っている。

ますます気分が悪くなる。雨は嫌だ、冷たくて寒い、逃げる足はぬかるみにはまって思うように動かなくなる
すぐに我に返る、自分はなにを考えているのだろう、そんな記憶は無いはずだ。
雨の日に追いかけられた記憶なんて自分には無い・・・と思う。

ふと視線を下に向けると、事務所に向かって歩いてくる人影が見える。
片手には安っぽいビニール傘を差して、もう片方にはコンビニのビニール袋を持っていた。
見間違えるわけが無い、特徴のあるバンダナをつけた少年は、美神除霊事務所の一員である横島だった。

カーテンをつかんでいた手に一瞬ぎゅっと力が入る。
胸が苦しい、胸の中に潜んでいる黒い不純物が表に出せと騒いでいるようだ。

ちがう、これは最近少しずつ覚えてきた横島に向ける気持ちとはまったくの別物だ。

意識がぼんやりとしてくる、心の中の誰かがあれが欲しいと囁いてくる。
また何時ものように相手に取り入れと、別の誰かが耳元で囁く。

いやだいやだいやだいやだ
そんな姿を横島だけには見られたくない。

ベッドにうつ伏せに倒れこむと、布団をかぶってじっと耐える。
これは嫌な夢を見たせいだ、だからこんなくだらない考えをしてしまうのだと、自分に言い聞かせて。




次に気が付いたのは事務室のドアの前だった。

どうやってここまで来たのか思い出せない。
それ以前に自分はベッドでジッと耐えていたはずなのに、なぜここに居るのだろう。

だが目の前にあるのは確かに事務室のドアだった、
耳を澄ませば部屋の中からラジオと思われる音楽の音が流れている。
カーペンターズのイエスタデイ・ワンス・モアだ、
たしか前に横島が聞かせてくれたCDの中の一つにあった。
甘い声とスローテンポの曲は、今の自分を不思議な気持ちにさせる。
横島も好きだと言っていたこの曲は、自分もすぐに好きになった曲の一つだ

ガチャ

ふと気が付くと部屋のドアを開けていた。
自分の体が自分の物じゃないように感じられる。
熱病に侵されたように薄ぼんやりとした意識しか保てないのだ。

「お、タマモおはようさん。」

横島は事務室のソファーでラジオを聴きながら漫画を読んでいた。
事務室の中は美神の机を正面に、左右に3人掛けのソファーが並んでいる。
ソファーの間に机が置いてあるのだが、今は横島が買ってきた飲み物やお菓子が並べられていた。
横島は入ってきたタマモを見ると、ソファーに寝転んだまま挨拶をしてきた。

「おはよう」

なんとかそれだけを言うと、横島とは反対のソファーに倒れこむ。
横島を見てしまってから、体を侵す熱病が一気に加速してしまった。

囁くのだ、もう一人の自分が横島を手に入れろとずっと耳元で囁き続ける。
イライラがつのる、違うこれは違う、これは私じゃない、こんなのは私じゃない!
だがそう思っても囁きは止まらない、だからイライラする。
うるさい、うるさい、うるさい、黙れ、お前なんて私は知らない。

「うるさい!!」

気が付くと思いっきり叫んでしまった。
はっとなって横を向くと、声に驚いた横島が何事かとタマモを見ている。

「悪い、うるさかったか。」

我に返った横島は、そう言うとラジオのボリュームを絞る。
勘違いされた、そう思ったタマモは急いで起き上がる。

「違う、横島違うの、ラジオがうるさかった訳じゃない。」

嫌われちゃ駄目だ、横島に嫌われては絶対にいけない。
横島と喧嘩する事だってよくあるのに、今は嫌われるかと思うと不安で心が押しつぶされそうになる。
急いで言い訳をするタマモを見て、横島は不思議そうな顔をする。

「あれ、そうなのか。じゃなにがうるさかったんだよ。」

「えっと、その、ちょっと耳鳴りが酷くて、それで少しイライラしてただけ怒鳴っちゃってごめんなさい。」

素直に謝って頭を下げると、やはり横島は驚いた顔をする。

「タマモが頭下げるなんて珍しいな、顔が赤いし風邪でも引いたんじゃないのか。」

そう言って横島はタマモに近寄ってくると、額に手を当てて熱を測りだした。
いつもだったら横島の手を払いのけるぐらいはするのだが、今は横島に近寄られると身が縮こまる。
手を払いのける事も、後ろに逃げる事も出来ずにただジッとされるがままになってしまう。

「熱は無いな、てか逆に冷たいぐらいだぞ。」

額から手の感触が無くなると、恐る恐る顔を上げて横島を見る。
心配そうな顔をした横島は熱が無い事が分かると、取り敢えず自分の座っていたソファーに戻った。

「本当に大丈夫なのか?」

いまだにボーとしているタマモを見て心配になった横島が声を掛けてくる。
頭を振って先ほどまでの体を侵す熱病や、囁きが無いのを確認する。

「ええ、大丈夫、少し寝起きでボケてたみたい。」

「ならいいけどさ」

先ほどまでの気分の悪さが少しだけ軽くなっている。
ただ先ほどよりはましと言うぐらいで、意識が飛びそうになるのはどうしても直らない。

「そうそう、美神さんからの書置きがあったんだが、
おキヌちゃんとシロつれて緊急の仕事片付けてくるってさ。
昨日は明日は雨だから仕事なんてやるもんか〜って叫んでたのにな、
だから俺もゆっくり来たんだけど、どうやら置いて行かれたみたいだ。」

「そう」

いつもならもう少し会話が続くのだが、今はそっけなく返す事しか出来なかった。
横島も何も言わないタマモを意識してしまうのか、さっきから落ち着かない様子だ。
つい横島の横顔をジッと眺めてしまう。

「・・・・・」

「・・・・・」

しばらくの間無言の時間だけが過ぎて行く、聞こえてくるのはラジオから流れる微かな音楽だけ。
イーグルスのHotel Californiaだ、やはり横島がもってきたCDの中にあった曲だ。
さまざまな批判を受けたバンドだったけど、俺はそれを含めて好きなんだけどなと、横島が言っていた。
横島の言っている意味は分からなかったけど、横島が好きだと言っていたバンドはタマモも大好きだった。

「なんか食うか、タマモもカップうどん食うだろ。」

沈黙に耐えられなくなった横島は、そう言って自分で買ってきたコンビニ袋の中から、
カップうどんを取り出し始めた。
しばらく横島が用意するのを横目で見ていたのだが、
お湯を入れてくると言って部屋から出て行こうとする横島を見て、
胸を鷲づかみにされるような気持ちになる。

気が付いたら横島の手をつかんでいた。
驚いた横島がこちらを振り返る。そしてお互いの目が合ってしまった。
その瞬間自分の意識が一瞬にしてもう一人の自分に切り替わる、
そしてタマモとしての意識が消える瞬間、自分が笑ったような気がした。
心の底からうれしそうに・・・




「ほんじゃ、お湯入れてくるよ。」

さっきからタマモにじろじろ見られているのを感じて、
少し居心地が悪くなった俺は台所に一時避難することにした。

今日のタマモは少し様子が変な気がする。
まず元気が無い。シロのうるさいとはまた違うのだが、タマモは突っかかってくる元気さがいつもはある。
だが今日は何を言ってもほとんど返事が帰ってこない。

美神さんが帰ってきたらちょっと相談してみるかな。

部屋から出て行こうとすると、手首がつかまれて引き戻されてしまった。

ころん

つかまれた方のカップうどんが落ちてしまったが、取り敢えず現状確認をするために振り返る。
手首にすがり付いているタマモと目が合った瞬間、一瞬意識が飛びそうになる。

なんだ、タマモの目に見つめられると自分を見失いそうになる。
このままタマモを押し倒してしまいたい気持ちになってしまう。
そのぐらい今のタマモは魅力的に見えるのだ。

横島が蛇に睨まれた蛙のようにジッとしていると、
うれしそうに笑っているタマモが、手首をつかんでいた手を少しずつ横島の首へと伸ばしていく。

そして気がついた時にはタマモにキスをされていた。
しかも横島の頭にすがり付くようなキスなので後ろに逃げる事も出来ない。

「ん〜ん〜」

必死に抵抗するのだが全然引き剥がせない。いや必死に抵抗しているつもりだが、
タマモにすら抑え込まれるぐらいの身動きしかしていないのが現実だった。
タマモはキスをしたまま横島をソファーへと引っ張り倒した。

どさっ

倒れこんだ横島は、見た目的にはタマモをソファーへ押し倒しているように見える。
焦った横島はなにがどうなったのか考えようとするが、
タマモが舌を口の中に入れてきたことで一瞬にして頭の中は真っ白になってしまった。
しばらく頭が真っ白になるディープキスをされた後、ゆっくりと唇を離した。

「タ、タマモ」

「横島、好きにしてもいいよ。」

薄っすらと微笑みながらタマモが耳元で囁いてくる。
くらっとする、今まで見せたことも無い色気をタマモから感じてしまう。
心の中で戦っている、俺はロリコンじゃない派と据え膳食わねば男の恥派が後者に傾きそうだ。


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