ザ・グレート・展開予測ショー

タマモ三姉妹


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 4/19)

この作品は、拙作『彼等のその後の話』の設定を流用しています。ので、それが未読の場合、少々分かり難い箇所も存在しています事をご了承下さい。















「ねぇねぇ」
「あー?」



横島とタマモの二人(一人と一匹?)は、美神に頼まれ……もとい命じられ、厄珍堂とスーパーに、オカルトアイテムと夕飯のおかずを買いに行った。
これは、本来おキヌちゃんの役目なのだが、何だか委員会とかで学校から帰ってくるのが遅れるそうで、代わりに夕飯を食わせてやるとの条件で、横島がパシられる事になったのだった。
それに、シロが不在で暇を持て余していたタマモもくっついていき、用事を済ませて今は事務所への帰路に在った。


「ねぇねぇ、ヨコシマぁ」
タマモが、鼻に掛けた様な甘ったるい声を発し、横島を見上げる。
「だから、何だよ?」
「……油揚げ」
人差し指を銜えて、タマモは上目遣いで懇願した。
「だーめ!事務所帰ってからな」
「え〜」
にべも無く懇願を却下する横島に、タマモは不満の声を上げた。
「何でよ〜?一切れだけで良いからさぁ〜、ねぇ〜」
「駄目なものは、だ〜め!」
「……お願い」
「うっ……、そ、そんな眼をしても駄目だって!」
「ヨコシマのけちぃ〜」
「けちで結構!けちは大阪人の美徳だぜ」
「何それ……」




(ちぇっ!駄目かぁ〜)
買い物についていけば、その分早く油揚げにありつけると思っていたのだが、少し考えが甘かった様だ。
横島は、子供の相手をするのが割と好きな方だ。そしてそれは、躾に五月蠅いと言う事でもある。
「ふぅ〜……」
あてが外れたタマモは、一つ溜息をつくと、再び人差し指を銜えて、前方を歩く横島の後ろ姿を見上げた。
(油揚げにはありつけなかったけど……)
横島の背負ったリュックにはオカルトアイテム、右腕にはスーパーのレジ袋。
そして、左手はポケットに差し込まれている。
(……横島と腕を組むくらいは、当然の役得よね)
馬鹿犬なんか毎日抱き付きまくってんだし……とか思いながら横島の後ろ姿を見るタマモの眼が、獲物を狙う肉食動物のそれになった。
(でも、私のキャラからすると、どうやっても不自然よね〜。う〜ん、タイミングが難しいわ。何か切っ掛けが無いかなぁ〜)
横島の左腕を凝視しながら、人差し指を吸うタマモ。
そんな彼女に、突然、後ろから声が掛けられた。


「姉様!」





【タマモ三姉妹】





「……はい?」
突然に聞き慣れぬ声で呼び掛けられて、タマモは一瞬、呼ばれているのは自分ではないのかと思った。
しかし、辺りを見回しても、半径十数メートル以内に“女性”と呼べるであろう者は自分しか居なかった。
……ので振り返ってみると、そこには見知らぬ二鬼の妖怪が居た。


「姉様っ!」
その内の一鬼――赤い髪の女がタマモに飛びついてきた。容姿は良いと言える方で、どちらかと言えば美人に属するだろう。
だが、彼女から発せられる妖気が、彼女が人でない事を示していた。
「会いたかったよ、姉様っ!」
「……て……、ええ……?」
彼女の方は涙を流して再会(?)を喜んでいるらしいが、タマモには

「あ、あのさ?」
「はい!なんですか、姉様」
「……あんた、誰?」

                               身に覚えが無かった。



「だ、誰って、そんな姉様っ!?私を忘れたの!?」
女が喚き始めた。
「いや、忘れるも何も……。私、生まれてこの方あんたに会った事なんか……」
抑も、外見年齢から考えたっておかしい。この女は、見た感じ人間の感覚で言えば二十代くらい。対してタマモは、中学生かそこらと言った感じだ。寧ろ、タマモの方が妹と言う感じだろう。
「タマモ?どうしたんだ」
その内に、騒ぎに気付いた横島が引き返してきた。
「あ、ヨコシマ。何かこの妖怪が、突然変な事言いだして……」
「この妖怪……?」
そう呟いて、横島は女の顔を覗いてみた。
「うお、美人!」
「え?」
「――て言うか、あんた……」
タマモに縋り付いて泣き腫らす女妖怪の顔に、横島は見覚えがあった。
「ハーピー!?」
それは、時空間移動者である美神親子の命を狙った、あのハーピーだった。
「げげっ!貴様は、確か美神令子のところの奴じゃん!何で貴様が姉様と一緒に!?」
「姉様?」
「いや、何かこいつ、私の事を姉様とかって……」
好い加減疲れた様な顔で、タマモが溜息をついた。
「姉様ってぇ?何を言ってるんだ、お前、鳥の妖怪じゃないか」
それ以前に、タマモとハーピーとでは歳が合わな過ぎる。タマモは、最近になって殺生石から目覚めたばかり。時空間移動能力者を数百年に渡って捜し続けていたと言うハーピーの方が、どう考えても年長だ。それがタマモを姉様とは、ジョークにしてもドッキリにしても、こんなに笑えないのも珍しい。
「種族なんか関係無いじゃん!我々は、三千五百年の昔に義姉妹の契りを交わした……」
「私、生まれたのついこの間なんだけど」
「いーえっ!間違いありませんっ!確かに少し容姿が幼くはなっていますが、その妖気は確かに間違い無く姉様のものじゃん!」
「え〜?マジで知らないってば。記憶に無いよ」
「くっ……!さては人間達が、妖力と記憶を姉様から奪ったんだな!?」
「そうなの?ヨコシマ」
「知らないよ!」
横島まで巻き込んで、再び言い争いを始めたハーピーとタマモを見て、それまで黙っていたハーピーの連れが口を挟んだ。
「なあ……、取り敢えず場所を移さんか?周りが見ておるぞ」
横島は、その顔にも見覚えがあった。
「あ!お前、フェンリル狼!?あんた、確か神様になったんじゃ……」
これも矢張り、昔戦った敵。フェンリル狼こと犬飼ポチだった。因みに、勿論今は人狼モードである。
「そうだったのだが……、う〜む、自分でも良く分からぬのだが……」
「そうか……」
「ん?」
「アルテミス様に振られたんだな……」
「だから違うと言っている!何でみんな、そう言うんだ!あっ、そんな可哀想な者を見る様な眼で見るなぁ〜!」
ポチとの再会を喜ぶ(?)横島の袖を、タマモが引っ張った。
「誰?又たヨコシマの知り合い?」
「ん?ああ、シロと同じ人狼だよ。こいつは犬飼ポチって言ってな、シロを狙ってるロリコン野郎だ」
「ふ〜ん……」
軽蔑しきった様な眼でポチを流し見るタマモ。
「だから、拙者はロリコンではないっ!うあっ、そんな眼で見るなぁっ!」
タマモのジト眼は、破壊力抜群である。それに曝されると、慣れている横島であっても結構辛い。ましてや、ポチの繊細な感情では一溜まりも無かった。
「ま、まあまあ、気持ちは分かるぜ」
「ん?」
フォローを入れるかの様に、横島がポチの肩を抱いた。
「俺も、パピリオにポチとか渾名付けられちゃってさぁ。あれって結構、精神的に辛いよな。少しくらいアブノーマルな性癖に走っちゃうのも無理無いと思うよ」
「ポチは本名だ!大体、誰だよ、パピリオって!」
「落ち着けよ。ほら、ドックフード買ってやるから」
「拙者は犬ではない!」
「尻尾振ってんぞ」
「……」

「……確かに……、誰かに似てるわね……」
今は里帰りをしているその“誰か”の顔を思い浮かべ、タマモは静かに呟いた。




四人(一人と三匹)は、場所を移して話し合う事にした。
「……で?あんたのその義姉とやらと、私の妖気が同じって訳?」
「そうですっ!」
呆れ顔のタマモに、ハーピーは勢い良く手を挙げた。
「間違いありません、妲己姉様!」
「私の名前はタマモよ。誰よ、ダッキって……」


蘇 妲己
 1、殷の紂王の寵姫。淫楽・残忍を極めたと言われる。周の武王に殺された。
 2、転じて、毒婦の意。


「……何、それ」
「いや、何かそこに辞書が落ちてたから……」
「何で……」
「細かい事は気にするな……」


「まあ、それは兎も角、これってお前の前世なんじゃないのか?タマモ」
「え?」
「だってほら、確か楊貴妃も玉藻前も全部お前だとかって……」

タマモこと九尾の狐は、傾国の怪物。美女に化け時の権力者に近付き、その国を混乱に陥れる。嘗てインドや中国を混乱に陥れ、平安時代に日本に渡り、保元の乱を引き起こした……と言われている。その伝説の真偽は兎も角、その為にタマモは国連から指名手配を受けていた。

「……でも、今の私には関係無いわよ?前世の事なんか記憶に無いし」
「そ、そほんなぁ〜。我々義姉妹三人で暮らした、あの日々を忘れてしまわれたのですかぁ〜!?」
「うん」
「そんなぁ〜!」
泣き崩れるハーピーに、横島が声を掛けた。
「ところで、結局お前は何なんだ?」
「え?」
「いや、タマモが妲己なら、お前は何なんだよ」
「見て分からないか?」
「分からないから訊いてる」
「私は、稚鶏精・胡 喜媚じゃん」
「悪ぃ、聞いても分からねえや」
「この……!」
思わず拳を振り上げるハーピーに、今度はタマモが再び口を開いた。
「でさあ、私がその姉様の生まれ変わりだったとしてよ?あんたはどうするつもりだった訳?」
「それは勿論、再び妲己三姉妹を結成して……」
「て、二人しかいないわよ」
「いや、この妖気。間違い無く、末妹の王 貴人もこの近くに居るじゃん」
「ふ〜ん……」
胡散臭げな眼でハーピーを一瞥すると、タマモは徐に立ち上がった。
「じゃあ、その何たらとか言う妹を捜してみようよ。何か分かるかも知れないし、話はそれからよ」
「だな……」
タマモの意見に、横島も同調する。
放っておいても良いものを、つくづく面倒見の良い男である。
「んで?その何とかとやらは何の妖怪なんだ」
「そんな事も知らないのか?お前は、『封神演義』を読んだ事が無いのか」
ハーピーのかなり自分勝手な問いに、横島は事も無げに返した。
「悪ぃ、中国文学にゃ興味ねえんだ」
「……。まあ、良いじゃん。貴人は、石琵琶の妖怪じゃん」
「琵琶?私の知る限りじゃ、この辺に琵琶の妖怪なんて棲んでない筈だけど……。ヨコシマ、知ってる?」
「さあ……」
「でも、間違い無く貴人の妖気がするじゃん!」
「はいはい、又た何か生まれ変わってるのかも知れないしね」
必死になって力説するハーピーに、タマモは面倒臭そうに手を振る。
「んじゃ、一寸ばかし行ってみましょうか……」





「……こいつなの?その妹とやらって」
「はい!姿形は変わり果てていますが、この妖気は間違い無く貴人のものです!」

王 貴人の妖気を辿って四人がやってきたのは、三丁目の公園だった。
「何だい、突然やって来て失礼な奴等だね」
「……」
ハーピーに王 貴人だと名指しされたのは、おキヌちゃんに代わって辺りの浮遊霊を束ねている、公園の祠の石神様だった。
「て言うか……、こいつは妖怪じゃなくて神様じゃねーのか……」
「う〜む、俗界の妖怪ともなると、そこら辺の線引きは結構曖昧だからのう……」
一歩引いてそんな話をする横島とポチの視線の先では、三姉妹が感動の再会を果たしていた。
「何だい、お前さん等。あたいは、あんた達なんか知らないよ!」
「きっ、貴人までそんな事を!?」
「矢っ張り、あんたの人違いなんじゃないの?」
「そ、そんな筈は……」
「抑も、この神様は琵琶じゃないでしょ」
「う゛……」
タマモに痛いところを突かれ、黙ってしまったハーピー。
そんな彼女を気の毒に思ったのか、石神が助け船を出した。
「そこの立て札、見てみな?」
「え?」
石神に促されて、タマモは祠の由来の書いてある立て札を見上げた。
「え〜と、何々……?『この祠には、欽明天皇年間に中国から渡ってきたとされる石琵琶を祀ってあります。やがて、年月を経て壊れてしまった石琵琶から切り出した玉石を、神として祀ったのがこの祠の起源です……云々かんぬん……東京都』……」
「ま、あたしには切り出されて祀られた後からの記憶しか無いけどさ」
要するに、彼女も又た生まれ変わってしまっていたのである。
「うう……、それでこんな不格好な体格に……」
「余計なお世話だよ!」



「牧野の戦いではぐれてから三千年、やっと妲己姉様と貴人を見付けたと思ったのに……」
「二人とも、既に一遍死んで、生まれ変わってたって訳ね。ご愁傷様」
タマモの言葉に、ハーピーは再び泣き崩れた。
「くうっ!いやっ、未だ遅くないじゃん!再び義姉妹の契りを交わして、再び妲己三姉妹を結成……」
「はぁ〜……」
又た何やら訳の分からない事を喚き始めたハーピーを見て、タマモは深々と溜息をついた。
「付き合ってらんないわ。帰ろ、ヨコシマ」
「あ、ああ……」
そう言って、タマモは横島の腕を取った。
「ちょっ、一寸待って……!」
「だから、何よ」
追い縋るハーピーに、タマモは冷たい一瞥を与えた。
「い、いや、だから……」
九尾の狐の眼力に当てられたハーピーは、思わず口籠もってしまう。
「……あのさあ」
タマモは、冷ややかな眼をしたまま、ハーピーを諭し始めた。
「私はさ、もう生まれ変わってる訳。前世の私が何をやってようが身に覚えはないし、その責任を取るつもりもないわ」
「う……」
「私の前世が、過去にあんた達とどんな事をしてたか知らないけど、私は今の生活が気に入ってるの。それを捨てて、見知らぬ昔日に回帰する気は無いわ」
「それは……」
「あのさ」
「はい……」
「あんたにも、もう帰る場所が在るんでしょ?」
「え……」
「だったら、自ら進んで過去に縛られる必要性なんか、これっぽっちも無いじゃないの」
「……」
「兎に角、私にはあんたの為に今の自分を捨てる気なんてさらさら無いわ。じゃあね」
「姉……」
「ほら、行こ、ヨコシマ。早くしないと、ミカミに怒られちゃうわ」
「あ、ああ……」
ハーピーにそれだけ言うと、タマモはもうそれきり振り返らずに、事務所への帰路を歩んでいった。



ま、ヨコシマと腕を組む、自然な口実が出来たからね。
連れ回した貸しは、チャラにしといてあげるわ。

ね、喜媚……。




「……」
タマモと横島が出て行った夕暮れの公園で、ハーピーは目に涙を浮かべて立ち尽くしていた。
「なあ……」
そんな彼女に、石神が声を掛けた。
「貴人……」
「あんたがあたいの姉さんだか知らないけどさ、あたいも石琵琶時代の事はさっぱり覚えてねえんだわ」
「うん……」
「素性の知れねえ妖怪を自分のシマにのさばらせておける程、あたいの肝は太くねえんだ」
「……」
「帰んな。あんたの、帰るべき居場所に……さ」
「ああ……」



夕暮れの街道を、ハーピーとポチは歩く。
「……」
沈んでいるハーピーに、ポチが努めて無感動な声で問うた。
「どうする?これから……」
「……そうだな……」

そうだ。
私の“居場所”は、ここに在る。
こいつの側に。


「取り敢えず、桃と猿を探すじゃん」

帰るべき場所は……。








「はあ〜、疲れたぁ〜」
夜。
今日も今日とて法外に扱き使われた横島は、疲れ切って我が家の敷居を跨いだ。
すると、三匹の妖怪が出迎えてくれた。
「よう、今日は早いじゃないか」
「お邪魔してるじゃん」
「邪魔しておるぞ」

ドガア!

横島は派手にずっこけた。
「五月蠅いねえ。飯時なんだ、静かにしたらどうだい」
お椀に横島の分のご飯を盛りつけながら、メドーサが注意した。
「な……な……」
「な?」
だが横島は、それを無視して叫んだ。
「何でお前達がここにいるんだよ!?」
「え?」
横島の指差した先には、夕方分かれたハーピーとポチが、卓袱台を囲んで鍋をつついていた。
「いや、良く考えたら行く当てが無かったじゃん」
「それで、何で俺ん家で飯食ってるんだ!」
「飯の当ても無かったでな」
「……ッ!」
それがどうしたと言わんばかりに、平然とした顔で答える二鬼に、横島は憤然した。
「まあ、落ち着きなよ。良いじゃないか、一食くらい」
「って、お前も、何、我が物顔で人ん家に居着いてんだよ、メドーサ!」
「匿ってくれと言っただろ?なに、アシュ派狩りのほとぼりが冷めるまでさ」
「いつの話だよ、それ」
「まあ、二、三百年てとこかね」
「その前に、俺が死んどるわ!」
「細かい事をごちゃごちゃと五月蠅いねえ。それでも男かい、横島」
「細かくねえっ!」
種族間の時間感覚のギャップが、メドーサと横島にコントをさせた。
「ま、それは兎も角」
メドーサからお椀と箸を受け取った横島に、ハーピーが訊いた。
「桃妖怪か猿妖怪に心当たり無いか?」
「え〜?知らねえなあ……。猿っつったら、妙神山の老師くらいか……?」
「そうか、ありがとうじゃん」
「あ?ああ、どういたしまして?」




翌日、妙神山を二匹の野良妖怪が訪れたと言う。
それでどうなったかは、ここには敢えて記さないでおこう。

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