ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『 キツネと姉妹と約束と 第16話 後編 』 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 4/19)




〜 『キツネと姉妹と約束と その16 後編』 〜




「暴走していた私が横島を警戒していたのは・・何も美神との同調だけを恐れていたからではないんだ。」

神妙な顔でスズノがつぶやく。

「横島の中に、高位魔族の霊片が大量に埋もれていることは、分かっていた・・。
 一個一個の反応が微弱すぎて、何かを仕出かすとは考えづらかったが・・
 万一、横島に手を貸すようなことがあれば、おそらく横島の霊力は飛躍的に増大すると・・あの時はそう思っていたんだ。」


少しためらいがちにそう言って・・スズノは、なおも押し黙る横島を見上げた。

・・・・。

(・・・・横島?)

息を飲む青年を、タマモは驚きをこめて見つめていた。
怯えるような表情が覗いたのは一瞬。本当に・・・・・ほんの一瞬。
彼はすぐに・・・まるで仮面でも被るかのように・・・平然とした顔を取り戻してしまう。

それは昔の横島の顔だった。
以前巻き込まれた堕天使との一件以来、彼が一度も見せることのなかった・・・、不安や悲しみを、内面に全て押し込めた顔。
疎外感ともどかしさに・・タマモの胸がチクリと痛んだ。

・・・・。


「あの・・・横島?」


・・・・どうして・・・・?


「へ?ああ・・悪りぃ悪りぃ。疲れでちょっと頭がぼ〜っとしててな。」


・・・・そんなに悲しそうな顔をするの?

・・・・。

言葉には・・しなかった。しかし、それ以上に・・・

「・・タマモ?」

吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳が・・真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
・・それに、横島は・・完全に意表を突かれたように目を丸くして・・・

・・・。

「・・・そっか。・・ごめんな。」
少女の視線を受け止めながら、やわらかな声でそう返した。

「・・横島・・・・・。」

「タマモには・・もう随分前にバレてんだもんな。・・・約束・・忘れたわけじゃないから。」

ポン、ポンと彼女の頭に手を置いてから・・・・・・

「・・・・・。」

気持ちの整理をつけるように目を閉じて・・・横島はスズノの位置までかがみこんだ。

「・・それでスズノ?力を借りるには具体的にどんなことをすりゃいいんだ?」


アシュタロスに一撃を加えたあの時のことを思い出す。
ルシオラと霊体が混じり合った自分は・・・わずかとはいえ、最上位の魔神にも手傷を負わせることが可能だった。
基本的な力の増大に加え、あの陰陽を象る二極の文殊。
その破壊力は計り知れない。

「・・!・・横島・・構わないのか・・?」

「んな、深刻そうなツラすんなって。当たり前だろ?」

そう・・・迷う必要などありはしない。
それでこの場の全員を守れるというのなら・・・


「・・方法論としては・・難しくない。転在している霊片を無理やり一箇所に引き寄せて・・足りない部分を私の霊体の一部で補う。
 魂としては不完全だが・・・数分の間、力を取り戻すことは可能なはずだ。」

「・・・・なんか荒っぽいやり方だな。」

「大丈夫・・横島の霊体にも『彼女』の霊体にも、負担をかけるような真似はしない。・・それだけは誓って言える。」 

力強く言いきるスズノを撫でてやりながら、横島は思案顔で腕を組む。
そのまま、タマモへと目を向けて・・・・・

「・・ちっと協力してほしいんだけど・・お前の方は構わないか?タマモ。」

・・そう、言った。
仮面はすでに外れている・・ありのままの彼の顔だ。

「それはいいけど・・・でも、私に手助けできることなんて・・・」

「相手はあのデカブツだぞ?何もわざわざ正攻法で攻めてやるこたぁないだろ?」

今度は悪巧みを思いついた少年のような顔。
キョトンとする2人を前に横島は巨人へと向き直り・・・・

「ま、見てろって・・。あの野郎のド肝を抜いてやるからよ。」

・・・・・。


―――・・・。


(・・また、ろくでもないことを考えついたな・・・)

目配せをする横島に・・西条は疲れたようにこめかみを押さえる。
わかった、わかったと手をヒラヒラさせながら・・彼は神通棍を構える美神へと苦笑して・・・

「やる気みたいだよ、横島君は・・。自分が打って出たら援護しろということらしい。」

この状況での一斉攻撃・・・。と、いうことはまず間違いなく・・・・

「・・私たちは囮・・か。横島の奴・・あとでひどいわよ。」
半眼で美神がそんなことを言う。


(『あとで』・・か。)

聞きながら、西条は吹き出した。
どうやら、彼女も・・・そして自分も・・まだまだ生き残るつもりでいるらしい。
頼みの綱があの男だというのが、なんとも癪な話ではあるが・・・・

・・・・。

「・・・全くだ。あとでひどいぞ?横島君。」

今日の自分は柄にもなく楽天的だな・・。

呆れるようにそう考えて、西条は霊刀をかまえたのだ。



                       ◇




―――――作戦は決まったかね・・?

「てめぇが指をくわえて待っててくれたおかげでな。・・礼を言うよ。」

脱力したかのような緊張感のない声音。
気のない様子を装いながら、横島が一歩前へと進み出る。

・・・チャンスはたった一度きり。
目算が正しければ・・自分たちを見くびっているあの巨人は、必ず隙を見せるはずだ。


「・・・スズノ。」


「・・うん?」


「力を借りるって言ってたけど・・・あいつと、もう一度話すことは・・出来ないんだよな?」

わずかな期待と不安が込められた台詞。それにスズノはかぶりを振って・・・

「・・私が出来るのは霊力を宿らせることだけだ・・。・・すまない・・。」

「・・・そっか・・。」

タマモにもスズノにも見えない位置で、横島は泣き笑いような顔になる。

未練・・・なのだろうか。
例え話せたとして・・・一体、彼女に何をしてやれる?また、ルシオラにつらい思いをさせるだけだというのに・・


・・・・。


「・・準備はいいか?タマモ・・スズノ。」

最後の逡巡を断ち切るように、横島は大きく息を吐く。



「・・ねぇ・・横島・・本当に・・・」
おずおずとした調子でタマモが尋ねる。

横島が先刻、話したことが本当なら・・この戦略の中核を成すのは間違いなく自分だ・・。
美神でも西条でもなく・・・・自分。

早く認められたいと思う気持ちに偽りはない・・だが、これはあまりにも・・・・

・・『無謀』という言葉が頭をかすめる。
未熟というからに閉じこもっていれば、不安に押しつぶされることもない・・心の何処かでそう思っていたのかもしれない。
自分が手違いを起こせば、誰かが死ぬかもしれない・・・そう考えただけで背筋が凍る思いがした。

・・・。

不安に震えるタマモの額を軽い調子で横島がこづいて・・・・

「・・った!・・何するのよ?」

なんだか以前にも見たことがあるようなやりとり。ただ、唯一違うことといえば・・・・

「心配すんなって。お前の力は折り紙つきだ。オレが保障するよ。」

そう言って、彼が少女へと手を差し出したこと。

・・・・。

彼女は強い・・・。スズノを必死で守ろうとするタマモの姿に・・正直、横島は目を奪われていた。
・・そして、先ほど差し伸べてくれた救いの手。

(ほんとに・・守るつもりでいつの間にか守られてるんだもんな・・)

参ったとばかりに苦笑する。一度目は命を・・二度目は心を守られた。


「ったく・・頭が上がんねえよ、お前には・・」

「え・・?あ・・あの・・横島?」

横島は少し照れくさそうにタマモの手のひらを握り締めて・・・

「・・・頼りにしてるぜ、相棒。」

まだあどけなさの残るパートナーに・・パートナーと認めたキツネの少女に微笑みかけた。

・・・・。

「・・・・・・。」

かけられた言葉の意味を・・まるで、それが信じられないかのように、タマモは胸の中で反すうする。
それでもやはり、分からないとばかりに横島を見上げ・・・・

「だ〜から!つまり、なんだ・・・くっそ〜恥ずかしいこと言わせやがって・・
 オレは・・アレだ・・・世界中の誰よりもお前のことを認めてるっていう意味だよ!これで満足か、キツネ娘!?」

はっきりと口にする横島の声は・・・まるで魔法だった。
一言・・。しかしその一言が・・・タマモの心の霧を嘘のように払っていく。

そうして・・・・・・

「・・・・・うん・・・・!」

かすかに頬を赤く染めながら、少女は大きく頷いたのだ。


彼女の笑顔が合図。

満足気にタマモを一瞥して、横島は前方へと飛び出した。
それを確認すると、美神が・・西条が・・追うように巨人の前へと躍り出る。

・・・・。

身構えながら、スズノは数分前、横島が説明した手順を頭の中に思い浮かべていた。

―――・・。

『どの道、大博打になるのは間違いないだろ?だったら、オレの力を上げるのはギリギリまで待ったほうがいい。』

・・・。


―――――・・フン・・。何かと思えば、バカの一つ覚えのように突進してくるとはな・・。失望したぞ!

巨人が腕を旋回させる。
岩が紙くずのようにひしゃげる中、前衛の3人はまるで意に介することなく前進して・・・

(・・・・っ!・・内、2人は囮か・・・)

怯む様子を全く見せようとしない敵の姿に・・巨人の脳裏に一抹の不安がよぎる。

・・・どれだ・・?どれが本命だ・・?

現時点でもっとも余力を残しているのはGメンの男・・。
しかし、切り札とも言える文殊が使用されないとは考えづらい・・・。
ここはやはり・・・・

・・・・・。

チラリと視線を移した先で、横島が文殊を取り出して・・・・

(浅知恵だな・・・・。)

巨大な掌を源として・・・黒い光弾が生み出される。
危惧する必要などない・・。底が知れたのなら、まとめて吹き飛ばせば済むことだ。

練り上げられた霊波は・・向かってくる3人を、絶命させぬ程度に叩き落すことを目的として作られたもの。

彼は狡猾だった。・・おおよそ、無駄というものを嫌い、必要最小限の力で獲物を仕留めようとする。
そして何より・・・彼は残忍だった。身動きが取れなくなった弱者をじわじわと蹂躙することに、無上の喜びを感じていた。


・・・・・・故に・・・・・・


―――――なっ・・・!?

一たび、弱者と見なしたものが反撃に転じた時、対抗する術を持ち合わせていない。

横島の影・・・巨人の死角となった場所から現れたのは・・・・・・


(・・・・・スズノ・・・だと!?)

銀の光を身に宿す・・・強大な力を持つ妖狐の娘。
あらゆるものを焼き尽くす・・・怒りの炎をかかげながら・・スズノがこちらへと向かってくる。

・・・。

(・・・バカな・・・・・・・)

全快といっても過言ではない様子の少女の姿に・・・巨人は顔を引きつらせた。

回復はまだ先のはずではなかったのか?
第一・・・、こちらに気づかせもせず、どうしてあそこまで巨大な炎を生成できる?

・・・・汗が首筋を伝っていく。

今から力を練り上げたところで間に合いはしない。
そして・・あんな出力の直撃を喰らえば・・・いかに自分といえど・・・・

・・・・。

―――――ま・・・・待てぇえええ!!!

震える声で巨人が叫ぶ。

―――――貴様・・人間の次は私を殺すのか?この一線を越えれば・・スズノ、お前は正真正銘、化け物に成り下がるぞ!?

余裕など微塵も感じ取れぬ声でスズノをなじるが・・・しかし、スズノは・・・・

「・・・・・・・。」

それを黙殺し・・グイグイと・・・とてつもない速さで巨人の側面へと侵入する・・。
獰猛な獣の眼で睨みつけると・・そのまま、力を解き放ち・・・・


(――――っ!!!)


死ぬ?

私・・・・俺が・・・死ぬ?

こんな・・・こんな下等な操り人形に殺される?

馬鹿な・・・・そんな・・・・馬鹿な!!



―――――オオオおオオオオオおおオオオオオオッ!!!???


巨人の頭部へと・・特大の炎が叩き込まれる・・・その瞬間だった。

炎が・・まるでガラスのように・・・・『割れた』

怒りの顔を歪ませる少女も・・・目の前に突進してきた3人の人間さえも・・・全て『割れる』
一瞬・・・いや、半瞬にすら満たない時間で・・その場には誰も・・・・

・・・異常な事態だった。

戦闘中であることも忘れ、愕然と辺りを見回す灰色の巨人に・・・・


「・・・・本当・・・面白いぐらい簡単に騙されてくれるのね?」

澄んだ高い声がかけられる。

・・・・・。
・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・!?

足元には・・膝をつきながら笑うタマモの姿。
美神も・・西条も・・スズノも・・・初定の位置から一歩も動かずこちらを見守っている。

全てが幻影。消耗したスズノに巨人と抗する力など残されていなかった。


「・・・どう?文字通り、キツネに化かされた気分は?」


―――――き・・・・貴様あああああああああああっ!!!!

状況を理解し、巨人が猛る。
魔神にも匹敵する存在を最後まで欺き通した少女の幻術。
それはまさに、驚嘆に値すべきものであったが・・彼は完全に我を忘れていた。

―――――殺してやる!!下級魔族の分際で・・・・この俺を・・この俺を!!!

殺傷に特化した、いびつな爪を振り上げながら・・狂ったように歯軋りする。
襲いかかる恐怖と怒り・・2つの要素に囚われた巨人の意識には、致命的といっていい隙が生じていた。

唯一、確認することのできなかった『ある人物』のことなど気にも留めず・・全ての激情の捌け口としてタマモを見据え・・


・・・・。


「・・・って・・誰も飛び出せとまでは言ってねえだろ!ケガしたらどうすんだよ!」


「・・私は横島の相方なんでしょ?・・だったら、危険な役回りも半分くらい受け持たせてよ・・」


ふわりと笑う少女。そして・・・・その笑顔の先には・・・・・・


・・・・・。


・・・・・・・・・・。


―――――・・・どうして・・・・・お前が・・・・・・・?


横島・・・忠夫・・・・・?

・・・。

巨人の背後、無数に飛び交う瓦礫の山を・・横島は一直線に駆け抜ける。
止まることを知らないその様は・・・・まるで一陣の風のよう・・・・・

「・・・・お前に一つ、教えてやるよ。」

懐にまで踏み込むと、青年は静かにつぶやいた。

・・おおよそ、人間が持ちうるとは思えない強力な霊気・・・そして、『粉砕』を刻む二極の文殊。

・・・。

おのれ・・・・。

―――――おのれ・・・・おのれえええっ!!!!!

絶叫し・・・それでも破滅を撒き散らそうとする灰の巨人を中心として・・・・


「・・恐怖だろうが、怒りだろうが・・・・そんなものに飲み込まれたら・・、終わりだぜ!!

・・・・閃光の渦が巻き起こる。

かざされた掌が・・人の身であるはずの一本に腕が・・・・迫りくる闇を打ち砕き・・・・・
そして・・大気を覆う無数の瘴気が・・・一瞬にして薙ぎ払われる。



「沈めぇえええええええええ!!!!」


―――――っ!!!!!!!!!!!!


視界が白く染まる。

広大な光の奔流が・・・轟音とともに、灰色の『死』の化身を撃ち抜いた――――――。


〜続きます〜


『あとがき』

決着〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!(爆)

と、いうわけでみなさん、こんにちは〜かぜあめです。
ラストバトルの一つがついに終了しました。

横島とタマモの関係もパートナーにステップアップ!でも横島は、恋愛対象として、まだタマモを見ていない!(笑)がんばれタマモ!
しかし・・・シリーズ半ばのラストバトルをこんなに派手にして大丈夫なのでしょうか?(汗
絶大とか強大とか・・凄い言葉のオンパレードでしたね〜

当初、このバトルには蒼髪の少年が乱入してきて、圧倒的力の差を見せつけつつ、巨人を葬り去るという設定だったのですが・・
それでは・・あんまりも巨人の扱いが『・・・・。』であるということと、スティグマーター戦と状況が被るということもあり
こういう形に落ち着きました。

『霧』の正体がなんだったのかは、ようやく次回明かされます・・・(ん?でもあれは・・・どうなんだろう?)

次回はドゥルジさまV.S.老師さまの闘いにピリオドが打たれます。
う〜む・・終わりが近づいてきましたね〜・・次のシリーズのプロットを本気で考えはじめないと・・・・

次回は短編の後編です〜長編版とは少し違った感じのタマモの様子を描こうと思います。それでは〜

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