〜 『 キツネと姉妹と約束と 第16話 前編 』 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 4/19)
(・・メドーサが・・生きている!?)
驚愕に目を見開く小竜姫に・・紅髪の少女はやれやれとばかりに嘆息する。
「彼女の名前を出すことは、出来れば避けたかったのですが・・・」
そう言った後、平然とした様子でもう一口、お茶に口をつけ・・
・・・。
「・・何故です・・!?メドーサは・・あの時・・」
アシュタロスとの最後の決戦で・・確かに横島の手によって倒されたはずだ。
「?そう不思議がることもないでしょうに・・。ベスパさんは後できちん再生したではありませんか?
同じ原理です、メドーサの霊体の断片・・我が部下が欠片も残さず回収しました。」
「・・・・・!」
薄笑み。
それを境に、少女の力の上限が膨れ上がっていく。
あっという間に自分を追い抜き、さらにその数十倍、数百倍へと・・・・
(どうして・・ベスパのことを・・・・)
相手を・・見くびり過ぎていた・・?・・・・この少女は、全てを見透かしている。
「そのご様子では・・おそらく、協力は仰げないのでしょうね?」
彼女は言葉を切りながら、悲しげな表情でこちらを見据え・・・
「・・当然です。メドーサを従えるような輩に・・捧げる剣など持ち合わせていません!」
毅然として、小竜姫が刀を水平に構える。
そして・・・・・しばしの静寂。
・・・・。
「・・致し方ありませんね。斉天大聖ともども、しばらく行動を封じさせて頂きますので・・そのおつもりで。」
口にしながら、少女が立ち上がった。
魔界でも最長の刻を永らえてきたと言われる彼女は、あくまで自然体のまま・・おだやかに微笑み・・・・、
「・・私の名はドゥルジ。虚と熱を司る、魔神の一柱を為す者です。」
小さく、自らの敵対者へと死を宣告したのだった。
〜 『 キツネと姉妹と約束と その16 』 〜
大地に・・巨大なクレーターが穿たれる。
張り裂けそうなほどの霊圧。身震いするほどの瘴気。灰の巨人が雄たけびを上げた。
―――――― フハハハハハハッ!!!どうした!?少しは反撃してきたらどうだ!?
「!?」
声はそのまま殺意の言霊へと変わり・・ワルキューレとジークを吹き飛ばす。
数瞬。
わずか1秒にも満たない時間で、消耗しきった仲間のほとんどが地に伏していた。
(・・・くそったれ・・!)
力に酔いしれているように見えて、巨人の攻撃は薄ら寒くなるほど理に適っている。
美神と横島の霊波同調が脅威となることを見て取ると、まずは2人を分断するように攻撃を仕掛け・・
そうして、能力の高い者を、順に一人ずつ狙い撃つ・・・。
今や、戦闘が続行可能なのは・・横島、美神、西条、タマモの4人・・そして霊波の嵐の中、タマモがなんとか守りきっているスズノのみ。
・・何にしろ、こちらの切り札は完全に封殺されたといっていい。
(・・あと・・試す価値がある方法っていったら・・・)
流れ弾を避けながら、横島は体勢低く身構えて・・・
――――――『模』の文殊を使い、お前が私の力を複写するか・・・この場で唯一、私に匹敵する強さを持つスズノの回復を待つか・・
・・二者択一という訳だ。
揶揄するような声。
見透かす巨人の言葉に、横島がピクリと反応する。
――――――可能だと、本気で思っているのか?前者の方は試すだけ無駄だぞ。種が割れれば防ぐのは容易い。そして後者は・・
・・・・。
・・・敵の台詞をみなまで聞く必要はない。
横島自身、その無茶は承知していた。今の状況・・巨人が遊んでいるこの状況でも、正直、攻撃をかわすのがやっとなのだ。
いいところ、もって後数分。本当に殺す気で仕掛けられれば・・・自分たちはおろか、都心一帯が壊滅する。
(・・・・・。)
・・・。
「―――・・横島っ!危ない!!」
背後で誰かがそう叫んだ。
不意に横島の胸へ『何か』が飛び込み・・・彼の全身が吹き飛ばされ形で宙を舞う。
・・油断した・・!!
とっさににそう思ったが、思いの外少ない衝撃に、それが間違いだと気付く。
巨人の霊弾が頬をかすめていき・・・・
自分が助けられたと理解したのはさらにその数秒後だ。
「横島・・・よかった・・」
胸の中で、ひどく安心した表情を浮かべるタマモ。
間一髪で彼女が飛び込んでくれなければ、今ごろ自分は、粉微塵にされていただろう。
「・・悪りぃ・・。お前の方は大丈夫か?」
頷くタマモを見つめながら、横島は静かに歯噛みした。
・・落ち着け・・。取り乱してどうする・・?この最悪と言っていい状況を打開できるとしたら・・それは間違いなく文殊の力しかない。
ここで自分が死ねば、こちら側の敗北はほぼ完全に確定する・・・。
・・・。
(・・・それに・・・)
そこまで考え、横島の顔に苦笑が混じる。我ながら、少々不謹慎な気もするが・・・・
「・・・どうしたの?」
「・・いや、離れるな・・とか言っておいて、お前に守られてたんじゃ世話ねえなあって思ってさ。」
キョトンとするタマモの手を借りながら、横島がなんとか立ち上がった。
・・・・。
しかし・・・あの巨人の強さにはいい加減、舌を巻く・・。有効な手段が全くと言っていいほど思いつかない。
彼は遠く離れた場所にいる、美神と西条へ目を向けるが・・・・・
・・・・。
・・・合流はやはり難しいと・・改めてそう認識させられるだけだった。
・・・・・。
・・・・クイックイッ。
・・・・・・。
・・・・・・・・・?
・・・・クイックイッ。
前触れもなく、下の方から服の裾を引っ張られる。
見れば、そこには懸命に横島のジャケットへとしがみつくスズノがいて・・・
――――・・。
「・・?どうしたスズノ?じっとしてないと傷に障るだろ?」
気遣わしげな横島の声にスズノはつらそうに目を伏せた。
「・・・すまない、横島。本当は・・こんな手は使いたくなかったのだが・・・」
「・・・・・・?」
「・・力を・・・借りるしかないと思う。」
・・・。
・・・・・・??
途切れ途切れに紡がれる声。
いまいち要領を得ないスズノの提案に、横島とタマモが顔を見合わせる。
「スズノ・・・力って・・誰に?」
姉の問いに対し、少女は一瞬、答えあぐねた表情になり・・・・
そうして、チラチラと横島の方を窺いながら・・・・・・
「・・横島の霊体の中に眠っている女の人。・・正確に言うなら、わずかに残っている彼女の霊体の破片・・。」
・・・・。
そんなスズノの言葉に・・・・横島は呆然と立ち尽くしたのだった。
◇
(――――・・・この人・・・)
全身から汗が噴き出す。
抜き身の刀を抱えたまま、小竜姫は微動だにできず震えていた。
ドゥルジと名乗る魔神も先ほどから身じろぎ一つしていないが・・・ただ、両者の間には決定的な違いがある。
(・・何を・・・・怖気づいているのですか!?私は・・・)
・・信じられなかった。
ドゥルジが『動かない』のに対して、自分は『動けない』のだ。
敵を前にして恐怖するとは・・・
幾度も繰り返した戦闘の内、こんなことは初めての経験だった。
「・・・無駄ですよ。」
無感動な声でドゥルジが呟く。
そのまま・・一歩、また一歩と間合いを縮め・・・・・
・・・。
「無駄とは・・どういうことです?」
「・・万に一つも、あなたに勝ち目は無い・・ということです。」
そこで、ドゥルジが一気に距離をつめる。
決して速くはなかった。ただ・・それはあまりに周囲と一体化した不自然なほどに自然な動き。
簡単に視認できるのにもかかわらず、気配が全く読み取れない・・・・・故に、反応することがままならない。
「・・・え?」
気付けば、小竜姫の霊刀は、はるか後方へと弾き飛ばされている。
唖然とする竜神に少女は目を細め・・・・
(・・・・ドゥル・・・ジ・・・)
そこで・・小竜姫は、ある一つの噂話を思い出す。
魔界にその名を馳せる・・最も危険な魔神の一人と言われる少女の噂。
創世の時代より生き続け、他者の心理を蜘蛛の如く絡めとる・・・・
魔神の中枢を担う者にして、謀略の調律者。
「・・・・・あなたが・・!」
「・・?私のことをご存知なのですか?魔界で流れている噂で気に入っているものは極わずかなのですが・・・」
魔神がうそぶく。
決して余裕の態度を崩そうとしないドゥルジの様子に・・小竜姫は少し眉をひそめた。
・・・・余裕・・という表現は果たして適切なのだろうか?
別段、こちらを侮っているわけでも、軽んじているわけでもない・・。
ただこの感じは・・・・。
今まで自分が相手にしてきた魔族たちとどこか・・・・何かが違う。
・・・・。
「・・・・やれやれ・・・」
不意に、ドゥルジがため息をついて・・・・
「・・・・・?」
「少々、無駄話が過ぎたようですね。」
残念、とでも言うように肩を落とす少女。そんな彼女を小竜姫が睨みつける。
「・・何か・・予想外のことでも起こりましたか?」
「はい、それはもう・・。まさか、こんなにも早く真打ちが登場するとは思いませんでしたから。」
言いながら、ドゥルジはにっこりと笑う。
そして満面の笑みを浮かべたまま、振り返りもせず・・・・
「・・相変わらず素晴らしい闘気ですね。うらやましいですよ、斉天大聖。」
・・・・。
・・直後だった。
魔神の側面から、凄まじい速さで棍の一撃が打ち降ろされる。
刹那、衝撃とともに・・居間全体が散り散りに爆砕し・・・・・
・・・。
「・・・!・・老師さま!?」
「小竜姫・・。パピリオを連れてここから離れろ!!」
礫煙の中。
そこには神界の上位神・・・小竜姫に師にあたる斉天大聖が佇んでいる。
荒ぶる天の神・・そんな言葉を体現するかのように仁王立ちし・・
・・吹き出す霊力はかつて横島たちと相対した時の比ではない。
「お久しぶりですね、老師。」
棍の打撃を軽々と受け止め、ほこりを払いながらドゥルジが言う。
「・・・ふん。わしの十倍は生きとる魔神に老師扱いされたくないわい。」
「クスッ。乙女に年齢の話はタブーですよ?」
暗い瞳。彼女も手を抜いて勝てる相手ではないと悟ったのだろう・・。
ドゥルジの周囲を守護するように・・無数の魔法陣が展開されていく。
「・・老師さま!私も助太刀を・・・」
「二度言わせるな。パピリオを連れて早く妙神山を出ろ。」
高速で敵へと激突する師に、なんとか加勢しようとして・・・、しかし、小竜姫は唇をかむ。
爆炎と雷撃・・そしてそれを打ち砕く豪棍。
速さ、技術、威力・・・どれを取っても自分の力量の遠く及ばない場所に2人はいる。
飛び出したところで足手まといになるのは目に見えていた。
・・・・・。
建造物を支える支柱が・・・張り巡らされた結界が・・次々と崩壊していく。
ためらう時間は・・もう残されていなかった。
・・・・。
「・・・わかり・・・ました。」
悔しげにうつむく。
拳を握り締めながら、小竜姫はパピリオの眠る部屋へと走り出した。
「私たちは人界の『知人』のもとへ向かいます。後で・・後で必ず落ち合いましょう!」
そんな声を最後に、足音が遠ざかっていき・・・・・
―――――・・。
「・・黙って見送るとは・・お主らしくないな・・。」
「そうでもありませんよ?あなたを封じ、妙神山と他界とのチャンネルを断つことが出来れば・・戦果としては十分ですから。」
そう・・
これでまた一つ・・神界は増援を送るための『門』を失うことになる。
胸に手を当て、ドゥルジは吟ずるように言い放った。
「・・ゲームセットです、斉天大聖。私が何ゆえ・・未だ数多の神魔族から恐れられるのか・・。
その訳を・・身をもって知っていただきましょう・・・。」
◇
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