ザ・グレート・展開予測ショー

夏のおキヌ


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 4/14)


・・・桜舞い散る春、あじさい濡れる梅雨、そして迎えた・・・紫外線の季節。
気が付けば時は過ぎ、私が大学に入学して初めての夏休みである。




「しんどいよお・・・・・と言うか騙された。」




日差しが暑い。とにかく容赦無く照りつける太陽。
身体からどんどん水分が抜けていくのを感じる。


「・・・・・・楽な仕事だって聞いてたのに・・・・。」


・・・私は今プールの監視員のバイトをしている。とある巨大総合施設内の屋外プールだ。
友達が一日だけ変わってくれと言うので、やって来たのだけど・・・・。


(なんか目の前の水が憎らしい・・・ああ・・・入りたいなあ。)


足元の液体がたぷたぷと揺れている。ざぶんっ!!って飛び込んだらさぞかし気持ち良いに違いない。
ちょっとでも気を許すと足を踏み出してしまいそうだ。



「・・・・・・最近横島さんも忙しくてなかなか会えないし・・・・もう・・・。」



愚痴も出る出る。何故なら・・・・・ここ一月程電話でしか話していない。
暑さも重なり、はっきり言ってイライラしている。


「あっ、そこの人飛び込まないで!!私だって・・・・いや何でもないです。」


・・・・・・八つ当たりというか何と言うか・・・本当に嫌な私。
今は上手く感情を抑制出来る自信が無いのだ。



(今日も連絡つかなかったし・・・・せめてこの場にいてくれたら楽しい気分になれるのに。)



何となく空を見上げてみる。・・・気持ちいいぐらいの快晴。
でも今日に限っては実にいい迷惑。個人的にはもくもく入道雲を期待していたのだ。


(雨も降りそうにないなあ・・・。)


正直、私を差し置いて夏を満喫する人達にはうんざりしている。
自分が上手くいってないだけに余計腹が立つ。


「あーあ、なんか夏って・・・・・こんなつまんなかったっけ。」


夏のバカヤロー!!っとでも叫びたい気分。思わず握るこぶしにも力が入る。
まあ・・・・・むなしい怒りではあるんだけど。





「花沢さん。そろそろ交代してもいいよ。」


ふいに後ろから声がかかった。一瞬自分が呼ばれた事に気づかない。
でも、すぐに思い直して返事を返す。


「・・・あっ、そうですか。わかりました。」


友達の代わりに来ているので名前も借りているのだ。危ない所だった。
まあ、こんな広い空間だから人の顔なんていちいち覚えて無いと思うけど。



(なんにせよ・・・・これでしばらくは暑さから開放されるなあ。)
「そうそう、これ持っていってね。」



そう言うと折りたたまれた制服と・・・のぼりを渡された。


「・・・・・・・なんですコレ?」
「あれっ、聞いてないの?呼び子さんと交代ってことよ。」


(はあっ!?何それ?監視員だけじゃないの!?)


「き、聞いて無いですよ私!?そんな事するなんて・・・・。」
「最初の説明の時、話したと思うけど?まあ、どちらにせよバイトに選択権なんて無いのよ。」


・・・・・・花ちゃんそんな大事な事、なんで伝えて無いのよ!!


「そ、そんな・・・・・・・あ、ちょっと待って下さい!!」
「とにかく頑張ってねー、バイトさん。」


笑って手を振り消えていく女性。・・・ちょっと!!私は説明なんて受けて無いんだから!!
急いで追いかけようとしたけど・・・すぐに意味の無い事に気づいて引き返した。


「・・・・これも仕事なんだよね。どうせ愚痴っても無駄だし。」


・・・・仕方なく手元にある制服を見つめる。・・・でも・・・これはちょっときついよお。
胸元が大きく空いた、かなり丈の短い奴ですよ。薄いピンクと白の色使いのかなり抵抗のある衣装だ。


(うう・・・、こんなの着れない・・・。)


泣きたくなる感情を抑え、着替えの出来る場所へと急ぐ。
その途中で何人か同じ制服を着ている人に出会った。・・・・・かなり無理目ですが。



(・・・・花ちゃん何か奢ってもらうからね!!)



バタンッ!!
 
結局、決心してバイトの更衣室の中へ入っていく。・・・・・これも仕事!!割り切らなきゃ!!









という訳で着替え中・・・・・・・・・・・・・・。









がちゃっ!!

「・・・・・・・・・恥ずかしい。」

表に出ると周りの視線が全て自分に集中しているように感じる。・・自意識過剰かも知れないけど。
身体がどうしても縮こまってしまう。


(せめて何か上に羽織らせてくれれば・・・・・まあ多分駄目なんだけど。)


正直、早くここから逃げ出したい・・・・・って何処行けばいいのかな。


(あっ、そうだこの「のぼり」に何か書いてあるんじゃ・・・・・。)


視線を上に移す。のぼりには「大好評!GSの集まる喫茶店!!」と書かれていた。


(・・GS?ああ、ごーすとすいーぱーって奴か・・・・。)


テレビや映画で最近良く見かけるようになった職業だ。
つい先日にも「踊るゴーストスイーパー2」と言う大ヒット作品が公開されたばかりである。


(近畿君が格好良いんだ!!・・・っていけないいけない、横島さんに悪いかな。)


でもお気に入りのタレントさんなのだ。一度でいいから会いたい人である。
てゆーか・・握手ぐらいはしたいかな。後は話も出来たら・・・・・。
そんな事を考えてながら目的地に向って歩いて行く私でした。(欲張り)





てくてくてく。





相変わらず周りの視線が気になる。考え事をしてれば気にならないかなと思ったけど、無理みたい。
早く慣れないといけないなあ・・・・・・・・・・んっ、あれかな。看板が立ってる。


(早く中入ろ・・・。)


本当は宣伝なんだから中に入ってはまずいんだけどね・・・・。
とりあえず目的地が見えたので、足を速めた・・・・その時だった。



「お嬢ーさん、お茶でも!・・・・・・っておキヌちゃん!?」
「・・・・・・・横島さん!?・・・なんでここに!?」



突然の出会いに心が踊る・・・・・・って待てよ。これは「ナンパ」してきたんじゃあ・・・・。


「横島さん、今私に何て声かけてましたっけ?」


ドスの利いた声を彼に浴びせる。明らかに彼の顔は引きつっているようだ。


「な、何を言ってるんだおキヌちゃん。これはちょっとしたお茶目と言う奴で・・・!!」
「ふーん、そうですか。お茶目でいつもこう言う事してるんだ・・。」


更に薄目で睨みつける。無言の圧力と言う奴である。


「だから・・・・その・・・何でしょう・・・・・あっその服カワイイよね。」
「あっ、ちょっと!・・・・恥ずかしいからあんまり見ないで下さい。」


うっかり自分の着ていた服の事を忘れていた。顔が赤らんでいるのが自分でわかる。


「ああ・・・ごめん。・・・そう言えば今日はバイトでもしてるの?」
「えっ、あっ、そうなんです。友達の代わりに来てるんですけど・・・。」
「・・・・ふーん、大変だね。」


気が付けば、話を逸らされているような・・・・・まあ、いいか。会えて嬉しいし。


「・・・・そうだ!横島さん最近電話も繋がらないから心配してたんですよ!!」


身体の中にたまっていたものを吐き出す。これが言いたかったのだ。


「いや、それは・・・ちょっと色々仕事が忙しかったもんで・・・・申し訳無い!」


平謝りする横島さん。ほんとに悪いと思ってるのかなあ・・・。
とそこで、ある事に気づく私。


(横島さんなんでここにいるの?)

「・・・・ところで今日は横島さんは何してるんです。・・・一人で来る所じゃ無いですよね。」


はっきりと気になった。ひょっとして・・・・・。


「えっいや、その仕事だよ。ちょっと頼まれたもんで。」
「・・・・・本当ですか?何の仕事なんです?」


仕事?こんな所に?


「そりゃあ・・・・その園内の警護みたいな事を・・・。」
「・・・・・ふーん、そうなんだ。」


・・・・・何か怪しいなあ。隠し事をしてるような気がするんだけど。
さっきから横島さんは私と視線を合わさない。嘘つきの顔だ。


「横島さん隠し・・・・・・んっ?」

その時、ふと胸元のぽっけに目がいった。



(あれは・・・・・・・・・・・・ぷっ。)



「ふふっ・・・・・・横島さん、私に何か隠してないですか?」
「えっ、・・・別にそんなことは無いけど・・・なんで?」
「本当に?間違い無く?」
「本当だって!・・・どうしたの急に?」


にんまり。・・・・良い事思いついちゃった。


「・・・・・じゃあ、もしその言葉が嘘なら今日一日私の言う事聞いてくれます?」
「そ、それは構わないけど・・・何か訳分からんなあ・・・・。」


何か動揺している彼。バレバレの嘘までついちゃって。


「まあ確かめるまでも無く、賭けは私の勝ちです。GS横島忠夫さん・・・・・でしょ!」
「!!!!・・・・・な、なんでそれを!?まさか記・・・・おっと。」


(・・・ん?何言おうとしたんだろ?・・・まあいいか。)


「・・・その胸のバッチはなんです?横島さん。」
「胸の・・・・ああっ!!しまった!!!!そーゆう事か、俺の馬鹿!」


・・・だってはっきりとそこに書いてあるもの。「ごーすとすいーぱー」ってね。
きっと園内を歩き回る為の許可証みたいなものなのだろう。その間抜け加減が可愛らしいけど。


「という事で今日一日は言う事聞いてもらいますよ!横島さん!!」
「まあ・・・仕方無いか・・・よっしゃおキヌちゃん!!どんと来い!!」









「・・・・・・・・じゃあ、私と結婚してくれます?(にこっ)」







ずざあっ!!

「けっ、けっ、・・・・・結婚!!!!!?そ、それは・・まだちょっと・・・・。」


驚愕の表情を見せる横島さん。まあ予想通りといったところかな。


「今日一日だけですけど・・・・・ね。」




唇と唇が触れ合う。一瞬の事だったけど。・・・これで三回目だ。(全部私から♪)




「私はあなたを生涯愛する事を誓います。汝横島忠夫は私、氷室キヌを一生愛しますか?」




本日の最高の笑顔を見せる私。
そしていつものように呆然とする横島さん。私はこの人が大好きだ。
でも・・・・・・・・嘘付いてたのは許せないけど。


(・・・・・うん、なんかつらい事なんか全部吹っ飛んじゃった!)


夏の暑さなど何処へやらって感じだ。


「あ、あのおキヌちゃん。その・・・・・。」
「あっ、もうこんな時間!ごめんなさい横島さん。戻ります。」
「えっ?いや・・・ちょっと。」


日が落ち始めている。さすがに夏は日が暮れるのが早い。


「あっ、今日のお願いはまだ残ってますから、なんか食事でも奢ってくださいね!」


・・・・ぽつんと残された横島さん。まだ何が起きたのかわかってないんじゃないかな。
・・・・食事楽しみにしてますよ、あ・な・た。・・・きゃっ!何言ってんだろ私。







・・・・・・夕暮れの赤く染まった日差しが彼女の姿を照らす。


「やっぱり、夏はこうあるべきです。恋の季節って奴だし。」


一人空に向って呟く彼女。おそらく夏に負けない女性の姿がそこにありましたとさ。


おしまい。

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