ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと姉妹と約束と 第15話』 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 4/12)



「・・?下界が少し騒がしいですね。」

妙神山。
窓から差し込む月光に、小竜姫は少しだけ目を細めて・・・

まだ雨が上がったばかりの夜。
中庭の木の葉からは、わずかに雫がこぼれ落ち・・それが、消え入りそうなほどに淡い光を放っている。

パピリオを寝かしつけ、自分も部屋へと戻ろうかと考えていた・・その矢先だった。
山の外に立ち込める障気を目にし、彼女は静かに歩みを止める。

この悪寒は・・人里、それも美神や横島たちの住まう都心と呼ばれる場所から漂ってきたものだろうか?


(・・まぁ、横島さんがいれば・・そう滅多なことはないと思いますけど・・)


最近になって頻繁に顔を出すようになったあの青年。彼は本当に不思議な人だ。
強くもあり、情けなくもあり・・そして優しい。
なんとも形容しがたいが・・とにかく、『不思議』という言葉ピタリと当てはまる・・そんな人。

・・・。

(・・だけど・・人一倍、無茶をやらかす人でもありますね・・。)
空を見上げながら、はた、とそんなことが頭をかすめ・・・

・・ちょっと待った。本当に大丈夫と言い切ってしまっていいのだろうか?

たしかに、人間としては破格といってもいい力の持ち主ではあるが、彼はまだ半人前。
ここは師として・・いや、決してやましい気持ちなどある訳ではなく(彼女は誰に言い訳をしているのだろうか?)あくまでも師として・・
自分も下界に降りてみた方がいいのでは・・?

・・・・。

そんなことを考えながら、一人うんうんとうなっていた小竜姫を呼び止めたのは・・彼女がいつも聞きなれた声。

・・・・。


『小竜姫さま、門前に客人と申す者が訪ねてきておりますが・・』

「・・客人?こんな時分にですか?」

鬼門の2人の進言を聞き、小竜姫は困惑したような表情を浮かべる。
・・正確な時間はわからないが、はっきり言って刻は深夜近い。
ただでさえ人の出入りが少ない妙神山へ好き好んでこの時間帯に訪問するとは・・・

・・単に非常識なだけか・・?それとも何か火急の用でもあるのか・・?

「・・わかりました。とりあえずは居間にお通しして下さい。」

一応の用心はしておいた方がいいかもしれない。
壁に立て掛けられた剣を手に取ると・・小竜姫は階段へと足を差し掛けたのだった。



〜 『 キツネと姉妹と約束と その15 』 〜



「・・夜分、遅くに申し訳ありません。どうしても今日中にお話をしたかったものですから。」

遠慮がちな声。
小竜姫は・・目の前の少女の様子をポカンとした顔で見つめていた。

居間で自分を待っていたのは・・・思っていた以上に普通の・・穏やかな印象を受ける人間の少女。

いや・・、普通ではないか・・容姿が飛び抜けている。
深紅の髪に、きめ細やかな純白の肌、そして黒い優しげな瞳。
同性でも思わず魅入ってしまいそうな・・・あまりに美しい神秘的な顔立ち・・。


「?あの・・私の顔に・・何か?」

「へ?あ!い・・いえ。それで・・今日はどういったご用向きで妙神山に?友人の紹介でここを知ったとは伺っているのですが・・」

やはり、やや困惑気味といった風に小竜姫は尋ね・・・
・・霊波の出力から考えて、この少女が人間であるということは・・どうやら間違いなさそうだ。
服装が多少、珍妙ではあるが・・・・
・・・黒い・・ドレスだろうか?そういえば、一度ベスパがここに来た時、持ち込んできた雑誌にこんな服が載っていたような・・

・・・。

動きにくそうだなぁ・・・。
そんなことを考えながら小竜姫が少女の顔を覗き込んでいると・・・・


「スカウトですよ。」


ニコリと笑って・・まるで世間話でも始めるかのように彼女はそう切り出した。

「・・はい?」

「ふふっ。言い方が悪かったでしょうか?あなたに協力を仰ぎたいということなのですが・・」


こちらの顔を一瞥すると、少女は何事もなかったかのように出されたお茶へと口をつけ・・・・

「・・はぁ・・。小竜姫殿の煎れるお茶は絶品ですね・・。うちの部に欲しいくらいです。」
・・なんてことを言う。

・・・。


・・スカウト?・・茶道の?・・しかし、妙神山にわざわざ赴いて、さすがに用事がそれだけということは・・・

キョトン・・どころか小竜姫の目はすでに点になっていたりして・・・
それに、少女も少しビックリしたように口を手で押さえる。無意識のうちに発した言葉が、相手を誤解へと導いたことに気付いたのだろう。

「・・コホン。・・失礼しました、所用で少し茶道部に在籍していまして、つい・・。趣味の上、私事ですので・・忘れてください。」
一つ、少し恥ずかしげな様子で咳払いする。

・・そして・・


「・・話を戻しましょう。あなたのその闘争力をぜひ私のもとで役立ててほしい・・つまりはそういうことなのですが・・」
やはりあっさりと・・彼女はそう低く呟いた。

相も変わらずの穏やかな物腰のまま・・しかし、その真意は全く読み取れない。
18、9程度にしか見えなかった娘の全身からは・・いつの間にか老獪を思わせる空気が漂い始めている。

「・・・・・。」

わずかな沈黙。・・そして、小竜姫が口を開く。

「・・素性の分からない相手に助力するほど・・私は軽率ではありませんよ?」

警戒の色を露にし、そばへと刀を引き寄せる。
竜神として生を受け、彼女は初めて自らの勘を疑った。
・・目の前の少女は・・本当に人間か?・・そう見えるのはあくまで相手が巧妙に力を隠しているだけなのでは・・?

「・・そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね。この山の場所を教えたというご友人のこともぜひお聞きしたいのですが。」
険しい表情とともに、闘気を発する小竜姫に、少女は涼しげな顔でつぶやいて・・

「本名はもうしばらく控えさせていただきますが・・便宜上、今は神薙 美冬と名乗っております。
 ・・友人については・・。そうですね、お教えしましょう。」


彼女は笑顔を崩さない。

「そう・・彼女は私の部下であり、古くからの友人でもある人。あなたのよく知る女性です。」

しかし・・・だからこそ逆に感じ取れる・・確かな恐怖。

「アシュタロスの組織に潜らせたのはもともと彼の動向を探ってもらうためだったのですが・・
 最後の方はどちらの配下だったのよく分からなかった節がありますね。」

彼女は・・笑顔を崩さない。

しかし・・・・・・・

「・・!?・・今・・・何て・・・」

私の・・よく知る女性?・・アシュタロス?
一体・・・何を・・・・・?



「・・・まさか・・・・・」

「彼女の名はメドーサと言います。ずいぶんとあなたに会いたいご様子でしたよ?」

                        
                           ◇



「月が・・きれい・・・・。」

どこか遠くを見つめるように・・、言いながらスズノは空を仰いで・・・
月は・・嫌いだった。一目見るたびに、悲しい記憶を思い出してしまうから。

それは・・今でも変わらない。

一面の焼け野原の中で、一輪だけ残った白い花を見つめ・・スズノは親友の残した最後の言葉に思いをはせる。


――――ありがとう・・。 

彼女が・・・そう口にした後、言葉はさらに続いてゆく。

――――大丈夫・・。スズノちゃんは幸せになれるよ。・・幸せ・・なって。・・ね?スズノちゃん・・。

泣きじゃくりながら・・それに自分は頷き返して・・・・

・・・。

約束は・・・

月を見れば・・その約束は・・いつだって思い出せるはずだった。事務所に来たばかりのころ、そうねーさまに教えたことだってあるのに・・

(・・なのに・・・ここ最近は思い出せなかった・・。)

単に苦痛によるものなのか・・はたまた、あの『霧』が記憶を捻じ曲げていたのか・・今となっては知る術もないが・・・

・・・・・・。

「スズノ・・冷えてきたし、そろそろ戻らない?」
不意に、タマモが声をかけてくる。

「うん・・。それなら、他の者に改めて礼を言ってから・・・・」

「あ・・それはまだいいと思うわ。もう遅いし、今日は事務所で全員分の部屋を貸すみたい。」

言いながら、彼女は数時間後に確実に展開されるであろう、ドンチャン騒ぎを思い浮かべ・・・そして頭を抱える。
何しろ、事務所にはスズノの歓迎会の準備がそのまま、ほったらかしにされているのだ。
カオスも顔を出すと言っていたし・・・このメンツが揃って、料理の山を放置しておくとは・・まず考えられない。

(横島は横島で・・あんなにボロボロなのに、はしゃぎたくてウズウズしてるみたいだし・・・・)

呆れたように、半眼になりながら・・・・・2人は連れ立って、野原を歩く。
すると、スズノは思い出したように顔を上げ・・・

「・・そういえば目を覚ます前・・夢の中で不思議な少年に出会った・・。」

「・・・少年?」
タマモが怪訝そうにスズノを見つめる。

「・・うん。蒼い髪で緑色の目をした・・・優しそうな人。」

特徴を思い出すように指を折り折り言ってくる。・・ねーさまと横島の知り合いだと聞いたぞ?・・と。

・・・・・!?


「・・そいつ・・・会った時、何か変な感じがしなかった?」

「・・よく分からない。でも、優しいところは横島に似ていた・・。」

そんな言葉に・・タマモは少し首をかしげる。横島に・・似ている・・だろうか?
会ったのは今回で3度目だが・・そういえば、恐怖と得体の知れなさが先立って・・彼の内面にまで気を配る余裕はなかった。

「今、私がここにいるのは・・あの人のおかげでもあるから・・。」

「・・・そう・・・・。」

微笑むスズノの頭を撫でながら、タマモは微かに目を細めて・・
いずれにしろ、あの少年であることには間違いなさそうだ。突然目の前に現れ、見透かすような言葉を残していく不可解な少年。

「もしまた会えたら、今度はきちんとお礼を言いたい・・。」
隣からこちらを見上げてくるスズノ。
・・タマモは・・・何かを考えるような顔のまま・・・・

「大丈夫・・。そう遠くないうちに姿を見せると思うから・・・必ず。」

小さく・・そして一言だけ口にしたのだった。

  
                          ◇


〜appendix.15 『絶望の方程式』


『リンゴをひとくち ほおばると、しらゆきひめは そのばに くずれおちてしまいました。』


                                  〜 グリム童話「スノー・ホワイト」 〜 


                      
                           
                           ◇


「・・・・?」


不意に・・空気が震えた。
かすかに感じる違和感。どこか深淵を思わせるその感覚に・・横島は弾かれるように顔をあげ・・・

「・・どうかした?横島。」

事務所に向かってまだ歩き始めたばかり。突然、取った青年の奇妙な行動に、周囲の者たちが眉をひそめる。

「・・いや、ちょっとな。」

気のせいだと・・口にしようとした。
予感を打ち消そうと・・・焼け野原を振り向いた。
そして・・・・、目にした。

ずれた位相の隙間・・空間に生じた一条の亀裂を・・・。

前触れもなく・・・・『それ』は、うぞうぞと・・闇を切り裂くように這い出してくる。
狂気じみたうめき声とともに、ゆっくり・・ゆっくりと・・。


―――――――・・まだ・・・終わりでは・・・無い。


灰色の霧。
限りなく希薄で・・虚ろであったはずのその存在は・・今や、確かな実体を持って空の黒へと結集していく。

全員が・・・その場にいる全員が・・凄まじい悪寒とともに天を仰いで・・・

「・・・そん・・な・・・」

スズノがつぶやく。

・・・・・・瞬間。


―――――――素晴らしい・・これが力というものか。・・ククッ・・!クハハハハハハハハハハハッ!!!


声・・・いや、それは大地が悲鳴を上げるほどの・・轟音だった。
同時に空間一帯から、爆発的な勢いで妖気が放出される。

―――――――人間共・・よくぞ我が手の内で踊りきってくれた・・しかも三文芝居のオマケ付きとはな。

黒い風が巻き上がり・・・。
辺り一面が嵐に包まれたように、木々が・・建造物が・・次々と叩き潰される。

「・・・・なっ!?」
横島の目が大きく見開かれ・・・

全てが・・まるで悪夢のようにバラバラにされていく中・・・巨大な何かが浮かび上がる。

人影・・・。
雲を遥かに突き抜ける体躯は・・・灰色の石像を思わせるよう・・・。
ところどころにボコボコとした腫瘍のようなものつき出ているが・・・・それは確かに人を模っている。
鬼のような形相から紡ぎ出される、けたたましい哄笑。

「・・どういう・・・ことなの?」
息を飲む美神にスズノがうめく。

「・・取り込んだ・・?あの爆発の力を全て・・・・?」

唇をかむ少女は、灰色の巨人を睨みつけた。
自分に憑く以前に吸収した蓄積分でもあったのだろうか?
爆発に巻き込まれ、どれだけのエネルギーをものにしたかは知らないが・・敵の力は、今や全快時の自分の力にも匹敵する。


「・・・冗談きついぜ・・・。」

横島は舌打ちした。
本当に悪夢だとでもいうのなら、そろそろ覚めてほしいところだが・・・。


「・・横島・・・。」

「・・・やれるだけやってみるさ。・・だから・・絶対離れんなよ?」

タマモに少しだけ笑いかけた後、横島は文殊を取り出した。
目がかすむ・・・。今まで危険な目には何度も遭ってきたが・・・正直、これは極め付けだ。

―――――――・・万策尽きた・・といったところか?

なおも戦意を失おうとしない・・哀れな獲物たちのなんと滑稽なことか・・。
顔を愉悦で歪めながら、巨人は腕を虚空にかかげ・・・・・・


―――――――さぁ・・お前たちの絶望を見せてみろ!!最後の舞台だ・・派手に踊るんだなぁっ!!!


・・・・・闇が・・・・弾ける・・・・

圧倒的な力とともに・・夜空へ灰色の咆哮が木霊した。


〜続きます〜

『あとがき』

短編の後編を送ろうとしたら、それを保存していたフロッピーが紛失してしまいました(泣
打ち直して2、3日後に投稿しますので・・・本当にごめんなさい・・。

と、いうわけで・・今回は『姉妹』の15話ということに(汗)
かぜあめです。みなさん、いつも読んで頂きありがとうございます〜

ついにラストバトル開幕です。
ラウンド1はドゥルジさまV.S.小竜姫さま。ラウンド2は横島たちV.S.灰色の巨人。

ヒロさ〜ん!!!約束通り・・メドーサ復活です!!(笑)でも実はしばらく出てこなかったりしますが(汗
いやはや、
『今回は横島のバトルシーンが少なくてつまんないよ!!』と思われていた皆様、お待たせしました(笑
次回、彼は恐ろしいほどに大活躍します。主人公の面目・・ようやく躍如です。
やっぱりラスボス戦といえば、超巨大ボスバトルということで・・・一度やってみたかったことの一つでして・・
タマモと横島の関係が次回、一つ(そんなに大したものではありませんが)ステップアップします〜

しかし・・キツネシリーズの基本コンセプトは
『横島×タマモ派の人も、そうじゃない人でも楽しめる横タマ長編小説を作ろう!!』なのですが・・・(笑)
これって実はすごく難しいことですよね・・・そんな小説がいつか書けるといいなぁ・・・
・・・としみじみしている場合じゃないですね(汗)日々、精進精進。

次は今度こそ短編の後編でお会いしましょう。それでは〜

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