ザ・グレート・展開予測ショー

似た者同士


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 4/12)

「ピートぉぉぉぉおっ!」
「やっ、止めて下さい、エミさんっ!」


横島忠夫は、その日、とある公園で嫌な光景を見た。

「逃げないで、ピートっ!」
「ちょっ……、本当に止めて下さいってば!」
小笠原エミ、ピエトロ=ド=ブラドーに言い寄るの図。

「……」
まあ、はっきり言って見慣れた風景なのではあるが、美男の友人が美人の女性が言い寄られていると言うのは、見ていて余り気持ちの良いものではない。
て言うか、むかつく。特に、横島にとっては。
「ちくしょー!何だかとってもちくしょー!」
泣き叫んで、近くの木に藁人形を打ち付ける横島。
そんなものを、何故持っているのか。訊かれれば、彼はこう答えるだろう。俺だからだ、と。
彼としては、そんな自分が可愛かったりするのだ。
因みに、ピートはキリスト教徒なので、藁人形の呪いは効かない。





【似た者同士】





「……ちっ、逃げられたワケ!」
数分後、ピートはヴァンパイア・ミストで逃げ切った。
逃げられたエミは、じゃあ帰ろうかと言うところで“それ”を見付けた。

「ちくしょー!ちくしょーっ!」

「……横島?おたく、何やってるワケ」
「うわあ!エミさんっ」
未だ藁人形を打ち付けていた横島が、突然に声を掛けられて仰け反る。
「な、何よ、そんなお化けでも見た様な顔で見ないで欲しいワケ!」
と言うか、横島はGSなのでお化けを見たくらいでは驚かないが。
「び、びっくりした……」
「そんな所で、何やってるワケ?寂しい奴ね」
「エミさんこそ、ピートはどうしたんすか?」
「う……、五月蠅いワケっ!」
「逃げられたんすか?」
「う゛……」
「なら、俺が慰めて……」
「大きなお世話なワケっ!」

ドカン!

訳の分からない事を言って飛び掛かろうとした横島を、エミはブーメランで撃墜した。



「と言うか、何でおたくがそんな事知ってるワケ?」
「そんな事って?」
「ピートと居た事よ」
「え、いや、偶々見掛けて」
今し方思いっ切りぶん殴った相手と普通に話してるエミも、殴られた相手と何事も無かったかの様に会話を続ける横島も、何気に普通じゃない。
「それで藁人形打ち付けてたワケ?本当に寂しい男ねえ。ま、令子にはおたく位がお似合いなワケ」
「むか……」
横島の額に、少しばかり四つ角の青筋が浮かんだ。
自分で分かっていても、他人に面と向かって指摘されると腹が立つものだ。それに、敬愛する(?)師匠を馬鹿にされた事もある。
なので、普段は言わない様な嫌味で返してみた。
「そ、そう言うエミさんこそ、ピート狙いなんて意外と女子高生みたいなミーハーな趣味してますよね」
「むか!」
今度は、エミの額に四つ角が浮かぶ番だ。
「言ってくれるじゃないの、横島ぁ……。そんなしょぼい呪いしか掛けられない素人同然のくせして、大きな口叩くワケ」
「別に俺、呪い屋じゃないですもん」
ふてくされた様に、口を尖らせてみせる横島。シロや小鳩辺りならこれでKOされてしまっていたかも知れないが、残念ながら相手はエミである。
それを見て、何か癇に障ったエミが反論する。
「そうよね、おたく、令子の弟子だものね!令子の奴、日本最高のGSなんて呼ばれてるけど、要するに器用貧乏って事だものね。専門も持てずに、いつもいつも中途半端にしか活躍出来なくて、私達に尻拭いさせてる様な奴だからね。その弟子なんて、高が知れてるわ」
「……っ!」
基本的にフェミニスト(の解釈が激しく間違っているが)の横島だが、そんな彼も怒る時はある。
今は、正にそれだった。
「でも、エミさん、その美神さんに何回も負けてますよねっ!?」
少し怒った横島が,一寸した嫌味のつもりで言ったこの一言。
しかし、それは禁句だった。
「あれは令子が……って言うか、何でそれでおたくがえばるワケ?」

ゴゴゴゴゴ……

エミの顔は何故か笑顔になり、その手には先程まで横島が持っていた藁人形と、横島の髪の毛(何で持ってる?)が握られていた。
そして、無く子も黙る様なプレッシャーが、その華奢な身体から溢れ出ている。
普段の横島なら、此処でびびって屈服してしまうところだが、この時の横島は何故か強気だった。
「そんな呪い、簡単に文珠で『解』けますよ?」
「ほぅ〜?面白い事言うワケ!ついこの間、GSになったばかりの煩悩魔人が大口叩くわねっ!?」
「エミさんだって、ピートの尻追っかけてばかりじゃないすか!」
「令子の下品な尻を追っかけ回してる、おたくよりマシなワケ!」
「俺は、美神さんの弟子ですもん!」
「はっ!本当、師匠の下劣さは弟子にも影響するワケ!」
「じゃあ、タイガーのセクハラはエミさんの影響って訳ですね?」
「違うわ!おたく、もっ回コミックス九巻読み直してきなさいよ!」
「でも、タイガーが試験に落ちたのはエミさんの教育が足りなかったからっすよね?」
「何ですってぇ!?ベスト16如きで、良い気になってるんじゃないワケ!」
こうなると、もう売り言葉に買い言葉だ。
二人の紡ぐ罵詈雑言が、静かな公園に大音量で響き渡った。




数十分後。
「大体、おたくは……ねえ……、はあ……はあ……」
「な、何すか、エミさん……、ぜえ……ぜえ……」
「……」
「……」
「……何で、喧嘩してたんだっけ?私達……」
「あれ……?そう言えば、何ででしたっけ……」
「……疲れた……」
「そうっすねえ……」

ドサッ

数十分もの間、口喧嘩をし続けたエミと横島は、疲れ切ってその場に座り込んだ。
「はあ、はあ……」
「ぜえ、ぜえ……」
「あー……ったく、もう。おたくが、しょーも無い事言うから……」
「す、すんません……。けど、エミさんだって悪いっすよ」
「ま,未だ言うワケ!?」
「い、いや、そう言う訳じゃ……」
「……たく……」
「……」
相性が良いのか悪いのか,微妙に良く分からない二人である。



「……ねえ、横島」
「何すか、エミさん」
上がっていた息が整ってきた頃、不意に、エミが横島の方を向いて訊いてきた。
「何で、令子なワケ?」
「へ……?」
質問の意図が掴めず、横島はキョトンとなった。
「いや、おたくの周りにはさ、綺麗な女の子が沢山居るじゃない。何で其処まで令子に拘るワケ?」
「え……、いや……」
突然に変な方向に話を振られ,慌てる横島。元来,性欲だけは人一倍有るものの,好いた惚れたの類の話には疎い男だ。
「矢っ張り、前世からの付き合いだから?それとも、本気で性欲の対象としてしか見てないとか?」
「え……、いや、えっと……」
「どうなのよ?」
いつに無く真剣な眼で覗き込んでくるエミの、何とも言えない迫力に気圧され、横島は余り意識した事も無かった“その理由”を必死に探してみた。
「……えっと……、自分じゃ良く分からないんすけど……」
「……」
自分と目を合わせ、離そうとしないエミを見て、横島は誤魔化すのは不可能だと悟った。
まさか、こんなところで暴露大会(参加者二人)をする事になろうとは思っても見なかった。
しかし、参ったな〜、と思いつつも、この人になら話しても大丈夫かと言う、妙な安心感も横島にはあった。それは、エミとの関係が、親しくもないが疎遠でもないと言う、微妙な関係だったからか。それとも、エミの立場と人柄に、それに類する“何か”があったのか。
「多分……ですけど……」
「良いわよ。自分の事なんて、案外、自分が一番分からないものだものね」
「じゃあ……」
前置きして、横島は語り始めた。

「そっすね……、多分……、美神さんは、俺にとって“憧れ”なんすよ」
「“憧れ”?」
「ええ、高嶺の花……と言い換えても良いかも知れないっすね」
「高嶺の花ねえ……。あれが?」
「あれがって事ぁないでしょう。まあ、それこそお嬢様とかお姫様とか、それ以上の高嶺の花も一杯有るでしょうけど……」
「けど?」
「けど、同じ“果てしなく無理めの女”でも、そう言うのは物理的に無理めなんじゃないすか。でも、美神さんは……」
「まあ、おたくが男を上げれば良い話よねえ」
「そう言う事っす」
「ふ〜ん……」
公園の芝生に座ったまま、横島の話に妙に感心した様な顔で相槌を打つエミ。
「おたくみたいな煩悩魔人がねえ」
「良いじゃないすか!俺みたいな煩悩魔人は、いつか美神さんを振り向かすのを目標に、毎日頑張ってるんすから!」
「さ、寂しいわよ、それ。ホントに……」
力説する横島に、思わずエミは右肩を下げた(呆れた)。
「それに、まあ、今となっては切っ掛けとか理由とか、どうでも良くなっちまってる様な気もしますし」
“何となく”。
確かに、これは横島くらいの年齢の恋愛観においては、一番の要素かも知れない。
「成程ね……」

「さ!次はエミさんの番っすよ」
「へ!?」
急に話を振られ、今度はエミが戸惑う番だった。
「へ!?じゃないっすよ。ピートに眼ぇ着けた理由、教えてもらいますよ?」
意地の悪い目つきで、横島はエミを見た。
「って、ちょっ、何よ!何で私が、おたくにそんな事教えなきゃいけないワケ!?」
「な〜に言ってんすか!俺には白状させたくせして。先に言っときますけど、『美形だから』ってのは無しっすからね?」
「ぐ……!」
嫌らしい笑みを顔に張り付けて、勝ち誇った様に迫ってくる横島を見て、エミは余計な事をしてしまったと歯噛みした。
「……どうしても、言わなきゃ駄目なワケ……?」
「ええっ!エミさんが美神さんを心配な様に、俺も友達として、ピートの事が気に掛かりますからっ」
横島の何処までが本気なのか分からないが、エミは取り敢えず反論を試みた。
「べっ、別に私は令子を心配して訊いた訳じゃ……」
「またまたぁ!照れちゃって」
「……」
本当にしまった、とエミは思った。状況は、エミに圧倒的に不利だった。
「……っ」
「そんなに紅くなる事、ないじゃないすか!誰にも喋りませんからっ」
「……本当よ?」
「はいっ!」
「……」
明らかにキャラ変わってる横島に、しかし変えたのは自分の責任なのでどうしようもないエミは、真っ赤にした顔を横島から逸らして、何とか声を絞り出した。
「私は……ね」
蚊の鳴く様な声だった。普段のエミとのギャップが、横島の悪戯心を益々刺激する。
「私は……」
「ふんふん」
しかし,次の瞬間。
「私は……、昔、殺し屋だったの」
開き直った様にしっかりした声で、エミはそう言った。
「え……」
「……」
その台詞に固まってしまった横島に、エミは少し余裕を取り戻した顔で、小さく笑みを送った。
「すっ、すいません、エミさん!俺……」
「良いわよ」
「で、でも……」
「私も、誰かに聞いてもらいたかったしね……」
「……」
横島は、一時の興味で人の心の深みに土足で押し入ってしまった自分の愚を恥じた。
エミは、構わずに続ける。
「私みたいな、一旦世界のキタナイとこを知っちゃった人間にはね……、ピートみたいな清廉なのは眩しすぎるのよ……」
「……」
「普通は、だから憎いってなるもんと相場が決まってるんだけど……、何でだろ、“欲しい”って思っちゃったワケ」
「そっすか……」
横島は、何も言えなかった。
この人は、自分なんかよりも余っ程壮絶な人生を歩んできてる。勿論、そんな人は沢山いるだろうけど、身近な人だと思うと、又た違うものがある。
「だから、かな。これで良い?」
「あ、はい。すいませんでした」
「良いってば」
そう言って横島に笑いかけるエミは、余裕を持った大人の女だった。

「だからね?私は、恋をしたら躊躇ったりしないのよ!誰かと違って。形振り構っていられないわ!」
「はは……、どっかで聞いた様な台詞っすね……」
その“誰か”が誰なのかは、訊かない方が良いだろう。
「ま、それこそ、高嶺の花よねえ……」
「そっすねえ、ピートは齢七百のヴァンパイアだし……」
「関係ないわ!絶対、手に入れてやるから!」
気勢を上げて,腕を振り上げるエミ。
「……っ!俺、応援しますよ!頑張って下さい、エミさん!」
それに、何故か同情して同調し始めた横島。
「応っ!おたくも頑張るワケっ!」
「はいっ!」
「令子なんて、一寸メンタル面を突けば簡単に落とせるワケ!私が、令子の弱点を教えてあげるわ!」
「じゃあ、俺もピートの情報をリークしますよ!」
「ふふふ、ギブアンドテイクって訳ね!よし、その話乗ったワケ!」
「俺等が手を組めば、恐いもの無しっすよ、エミさん!」






「良いこと、横島ッ!令子みたいなプライドの無駄に高い女はね、それをへし折られて落胆してる時に口説けば、簡単に落ちるのよ!絶望した女程、口説き易いものは無いワケ!」
「はいっ!エミさんっ」
「と言う訳で、私が今から令子をやっつけるから、儀式の生け贄になるワケっ!」
「か、勘弁して下さい!」



「良いっすか,エミさん!ピートは葫に弱いっす!」
「て、それは苦手って意味でしょ?苦手なものを教えてくれてどうする……、って、あ、そうか!」
「そうっす!」
「私と結婚しなかったら、教会を葫漬けにするって言って脅迫すれば良い訳ねっ!」
「その通りっす!唐巣神父には可哀相っすけどね!」



「女は、運命とかそう言う言葉に弱いワケ!特に、霊能者なんて言う信心深い輩は特にね!」
「て、俺達もっすよね?」
「だから!前世で恋人同士だったとか言うあんたは、凄い有利なのよ!ロマンチックに攻めて、速攻で落としなさい!」
「て、それが出来れば苦労はしてませんよ!俺は、基本的にギャグキャラなんすから!エミさんと同じで」
「誰がギャグキャラだ!」



「エミさんは、いつも可愛い女で攻めて行ってますけど、それは間違いです!」
「どう言う意味?」
「ピートのこれまでの言動からプロファイリングして、ズバリ!奴は美神さんみたいな強い女に弱いでしょう!」
「どっから出したのよ、そのぐるぐる眼鏡」
「いや、それは良いじゃないすか」
「兎に角、ぶっちゃけた話がピートはMって事ね!」
「分かり易く言えば、そう言う事です!」
「よーし!そう言う事なら任しておくワケ!」



「恋愛の基本は、ライバルを如何に潰すかなワケ!」
「そ、そうなんですか!?て事は……」
「そう!あの道楽公務員を陥れるワケ!」
「おおっ!」
「先ずは、あのロン毛が実はヅラだとか言う噂を流しまくるワケ!」
「成程!確かに信憑性がありますしねっ!」
「そして、最終的には表歩けない様になるくらいまで、社会的に抹殺してやるワケ!」
「其処までするんすか!」
「当たり前よ!恋愛とは戦争よ!相手をやらなきゃこっちがやられる世界よ!」
「言えてますね!特にあのロン毛が相手なら!」
「そう言う事よ!」



「エミさんのライバルは、アンちゃんです!」
「アン!?誰よ、それ!」
「アン=ヘルシングちゃんですよ!」
「……?そんなの居たっけ?」
「いや、ワンエピソードだけのゲストキャラでしたから」
「私が出てない回のキャラね!?」
「そうっす。けど、此奴は強敵ですよ!」
「そうなの?」
「何てったって、有名なヴァンパイアハンターの孫娘なんすから!」
「くうっ!運命的ね!これは不味いわ!」
「そうですよ!ピートもそう言う事、気にする方ですし!」
「よしっ!じゃあ、早速呪殺といきましょうか!」
「殺すんすか!?」
「冗談よ。十年程眠ってもらうだけなワケ!」
「似た様なもんすよ!?」






数週間後。
「うう……」
「どうしたんですかいノー,ピートサン」
「タイガーか。いや,最近,何かエミさんだけじゃなくて横島さんまで、何故か僕の周りを彷徨き回っててね……」
「そう言えば、最近、エミサンと横島サン、仲良いですノー」
「ええ……」

「まあ、基本的に似た者同士ですケンのー」



似た者同士。
何かおかしな方向に向かっていってしまっている彼等の活動が、実を結ぶ時が来るのか。

それは,神にも分からない。

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