ザ・グレート・展開予測ショー

「秘密」 少女の約束


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 4/ 7)


・・・私の家は東京から少し離れた所にある。
どうやら私が生まれるのと同時に引っ越したらしい。昔は23区内に住んでいたのだそうだ。


実は都心に住む事が出来るぐらい裕福な我が家だが、お父さんがそれを何となく嫌がった。
その言葉には普段見栄っ張りのお母さんも何故か賛同した・・・と美智恵さんから聞いた話だ。
細かくは教えてくれなかったけど・・・・。



「出来る事なら「あれ」が見えない所の方が良かったんだ。」



そんな事を小さかった私にお父さんが漏らした事もある。結局当時は良く教えてもらえなかった。
別にたいした事じゃないとも言っていた。


でも・・・何だか隠し事というのは子供心をくすぐる。・・私は一生懸命、何度もお母さんに聞いた。


「んー、・・・・・あんたが知ってもしょうがないのよ。・・・ごめんね蛍。」


お母さんは困った顔でいつもこう答えた。思えばお母さんの顔は悲しそうだったような気がする。
そこにいたのは気の強い「横島 令子」では無かった。それに気づいた時、聞くのを止めた。


そんなお母さんを見たくなかったから・・・・・さ。









・・・・何故こんな事を思い出しているのだろう。
・・・・目の前にある光景が私の記憶を刺激している。多分そうだ。




今、私の目の前には・・・・・東京タワーがある。




食事が終わり、家の外に出た後・・・何処に行こうか考えた。
最初は美智恵さんに聞きに行こうかと思っていたけど・・・お父さんに止められてたから。


・・お父さんは今回の件で実はそうとう参っている筈だ。だから余計な心配はさせないほうがいい。


(それならお父さん連れてこれば本当は良いんだけど・・・・それも私がちょっとね・・・。)


・・・完全に行動に規制が掛かるのも困るからなあ。



という事で、昔の記憶を辿り・・・・・思いついたのがここだった。
意味は特に無いかも知れない。でもちょっと気になる事があったのを思い出したからだ。













・・・・それは私の10歳の夏休み。珍しくお父さんが暇だったので二人で遊びに出かけた。
お母さんは暑いから出かけたくないってついて来なかった。


行き先は東京デジャヴーランド。意外にも一度も行った事が無かった。
近くに住んでるからってほいほい行く訳じゃない。名所なんてそんなものだ。
だから無理を言って連れて行ってもらった。




・・・・あの日の事は良く覚えてる。すっごく楽しかった。




スプラッタサンデーマウンテン。・・・・・正直死ぬかと思った。

シンデレラ城と七人の下僕・・・・・夢壊すよなあアレ。

カオスの海賊とその仲間達・・・・・実話らしい。

マジカル・ミステリー・ツアー・・・・・これはお母さんの監修なんだって。




その他、色々と・・・・・とにかく全部一日かけてまわった。
まさしく夢のような時間だった気がする。






でも・・・・肝心な事はここでは無い。問題はその後の事だ。

・・・帰りの途中でふとお父さんが変な事を呟いた。


「そう言えば・・・今日は・・・・・・・・・。」
「んっ?どうしたのお父さん?」


考え込んでいるお父さん。目の前には今日の日付を示す電光掲示板があった。

(・・・・なんか今日あったっけ?)





「・・・・・・蛍、東京タワー行きたくないか?」





・・・・・妙な事を急に言うなあと思った。確かに行った事は無かったけど・・・。
私はもう疲れてたし・・・正直あんまり行きたいとは思わなかった。


「えー、今日はもう帰ろうよー。疲れたしー。」
「そんな事言わずに・・・な。そうだ、蛍の好きなものなんでも食べさせてあげるから。」

「・・えっ、本当!?じゃあでっかいパフェが食べたい!!」


私は昔から甘いものが好きだ。とにかく甘ければ甘い程たまらない。


「・・・・また甘いものか、ほんとに蛍はそういうのが好きだな。」
「やならいいよ。帰ろっかお父さん。」


こういう時のお父さんは別の意味で甘いから誘導しやすい。


「い、いや、好きなだけ食べなさい。・・・・じゃあ、行くか。」
「だからお父さん好き!」


お父さんの腕に掴まる。・・その時のお父さんの顔は今でも想像するだけでおかしい。
とにかく・・・・・嬉しそうだった。・・それだけしか言えない。









・・・その後は記憶が曖昧なんだけど・・・・気づけばタワーの鉄骨の上だった。


「うわっ・・・ね、ねえ、お父さんこんな所来てもいいの?」


下を見る事が出来ない。私はお父さんに必死にしがみついていた。


「まあ、今日だけは特別な。蛍は一人で来ても昇っちゃ駄目だぞ。」
「・・・・・出来る訳無いじゃん・・・・・。」
「・・そりゃそうだ。」


・・・・なんだか笑ってしまった。不思議と力が抜けて怖さを感じなくなる。
これがお父さんの魅力なんだな・・・・・と子供ながらにそう思った。






・・・遠くの方の景色が全て掴める。夜の帳に明々と点が瞬く。


車の流れ。ビルの明かり。住宅街の灯火。それら一つ一つがこの風景を彩る。


まるで地上の天の川のように光がうねり、そして明滅していた。






「わあ・・・・・・・凄い。」
「だろ?・・・まあこんな時間に来た事はお父さんも無いんだけどもな・・・。」


「・・・・??じゃあいつもはどんな時間に来るの?」
「・・・・・・・・・・・夕方・・・・かな。その一瞬が美しいんだって・・・。」


「・・だって??誰かがそう言ってたの?お母さん?」
「いや・・・・・そうだな、・・・蛍・・・・・かな。」
「はっ?」


その言葉の意味が良くわからなかった。私はここに来たのは初めてなのに・・・・。


「・・・・・どういう意味?」
「いや・・・・何でも無い。・・・・そうだ!蛍とここに来た記念に何か残しとくか!」
「????まあ・・・・いいけど何するの?」

「んーと・・・・・・・・場所はここがいいか。」


何やらお父さんがごそごそとやっている。


「コレをな・・・・ここに置いとこう。」
「あっ・・・・お父さんそれ持ち歩いてるんだ。」

「当然だろ。・・・・・・これが俺の全てなんだから。」
「ふーーん。何かカッコいいよ。お父さん。」


お父さんが嬉しそうに笑う。・・・・まるで私の同級生みたいな顔して。


「いいか?「上から5段目、陽に向って中心の真下」。忘れるんじゃないぞ!」
「わかってるよもう!何度も言わなくていいから!」
「あっ、お母さんには内緒な・・・・・恥ずかしいから。」






「・・・そうだね!でも・・・・今度はここに三人で来ようよ!お母さんも一緒に!!」











・・・・・・・・それがお父さんと私だけの初めての「秘密」。
最近まですっかり忘れてた。なんかちょっと寂しい。











・・・あの日から結局一度も来てない。そして久しぶりに私はその場所に来ている。




(お父さんは確かにこう言った。)




「いや・・・・・そうだな、・・・蛍・・・・・かな。」




あの時は、意味は分からなかった。でも何となく今その言葉が引っかかる。
ひょっとしてここにそのヒントがあるかも知れない。


私は意を決して、建物へと乗り込んでいった。













・・・・・・・・・・・・・・・中略












「はあはあはあはあ・・・・・・・やっと着いた。昔どうやって昇ったんだっけ?」


下を眺めるのも怖い。良く出来たなと私も思う。これもお父さんの血のお陰かも知れない。
昔良くこういう事やらされたって・・・・・お母さんに。


・・・とりあえず一息ついたところで鉄骨に腰を降ろして景色を眺めた。


「・・・・・・・・あの時とほとんど変わってないなあ。」


時間の違いはあれど、昔の記憶のまんまだ。
東京も首都を移転してからは大きな建物は建てられなくなっていた。


そこで私は携帯を取り出して時間を確認する。



「5時・・・半前か・・・・。・・・・そろそろかな。」



お父さんが言っていた時間帯は夕方。目の前の太陽がゆっくりと沈み始めていた。


「そういえば・・・・アレはどうなったかな?」


ふいに立ち上がって周りを見る。


「えーっと・・・・・いや、・・・・・やっぱり止めとこうか。」


・・・・これはお母さんの身体だ。これもひょっとしたら約束を破る事になってしまうかも・・。






「そうね・・・・・・・、止めたほうが良いわ。」






(!?今の声は!????どこから!?)




ここには誰もいない筈!この声は・・ひょっとして・・私の中から!?




「そうよ。私とあなたは同じ。あなたは蛍。そして・・・・・私は「ルシオラ」。」
「!??あ、あの夢の・・・・!?」




驚きが隠せない。てっきり夢とばかり思っていたのに・・・・!!




「・・・・全く・・・・あなたすぐ気絶しちゃうんだもの。ちゃんと挨拶する暇も無かったわ。」
「あ、あなたは誰なの?同じってどういう事!?」


身体の中に強烈な違和感を感じる。なんか・・・とにかくすごく嫌な感じだ。


「・・・・言葉通りの意味よ。まあ正確には違うんだけどね。」
「???それじゃあ良く分からないわ!?ちゃんと説明して!!」


このはぐらかす言い方にかなりイラつく。はっきり言ってくれないと何にも分からないじゃない!


「そんなに怒らないで・・・・。私だって混乱してるのよ。それにあんまり時間が無いし・・・。」
「時間が無い?どーゆう事?」

「それは・・・・・ああっもう!また邪魔が入った。ごめんね、明日にでも会いましょう。」

「何言ってるのよ!?ちょっと・・・・・」

「そうね・・・・・この時間にまた・・・・・待ってるわ。」



シュン。



「わあっ!!」



身体の中から違和感が抜けていった。その代わりに懐かしい感情が込み上げて来る。


「蛍!?大丈夫だった!?」
「お母さん!!」


これはお母さんの声だ!間違いない!!


「・・・どうやら元気みたいね。・・・・私の身体を手荒に扱うんじゃ無いわよ。」
「お母さん生きてるの!?大丈夫なの!?」


この喋り方・・・全然変わって無い。・・・・一ヶ月ぶりだ。


「んーーっ、何とも言えない。と言うか私もどうなってるのか良く分かんないのよ。」
「・・・・良かった・・・・・。私の身代わりになっちゃったかと思ったんだから・・・ぐすっ。」




「蛍・・・・。ごめんね・・・・心配させて。」




涙が零れ落ちる。暖かい思いが身体の中を駆け巡ってくる。
・・・・・・生きてたんだ・・・・・・・・・・・。






「・・・・・お母さん。あの人は誰なの?・・・「ルシオラ」って人・・・。」

「・・・・それは・・・ちょっと時間が無いわね。いい蛍?良く聞きなさい!とにかくママに相談するのよ!お父さんに何を言われようとも気にしちゃ駄目よ!」

「お母さん!!ちょっと!?ママって・・・・美智恵さんの事?」
「・・・・あなたは私の子よ蛍。・・・・・それを・・忘れないでね。」


「お母さん!!?お母さん!!!!!!」



・・・・・もう一つの何かが身体から離れていく。




(ちょっと待ってよ!!!まだ・・・それじゃあ何にも聞いて無いよ・・・・・!!!)




目の前で日が完全に沈んでいった。・・・・・それと同時に10歳の時の景色が広がる。










・・・遠くの方の景色が全て掴める。夜の帳に明々と点が瞬く。


車の流れ。ビルの明かり。住宅街の灯火。それら一つ一つがこの風景を彩る。


まるで地上の天の川のように光がうねり、そして明滅していた。










「お母さん・・・・・。一緒に・・・お父さんとお母さんと三人で・・これ・・・見たかったよ。」





・・・・・それは二度と叶わぬ夢。一つが入れば一つが消える。
どうしようも無い現実。


地上300メートル上の「少女」は一つの「秘密」を握り締めて泣いていた。


続く。

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