ザ・グレート・展開予測ショー

梅雨の花嫁


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 4/ 6)


(なんか・・・・最近張り合いが無い・・・なあ。)


外は雨が降ってる。シトシトと天から水が零れ落ちてくる。

・・・・なーんて詩的な表現を出してみても私の心は晴れない。



つい先日、横島さんと美神さんの結婚式があった。

色々紆余曲折があった二人。私も側でずっと見てきた。
・・・・今では素直に祝福できる。多分あの二人の間には最初から隙間など無かった。

私の入る隙間なんて・・・・・・。



その後・・・私は事務所を辞める事にした。
二人には止められたが残る気は無かった。邪魔をしたくないし・・見てるのもつらいから。



最初はそのまま田舎に戻るつもりだったんだけど・・・、美神さんに勧められて結局、唐巣さんの所で働く事にした。ピートさんがオカルトGメンになったので助手を探していたらしい。





「おキヌくん?ちょっと頼まれて欲しいんだが・・・。」
「あっ、はい!」





唐巣さんの声で私は我に返る。すぐに返答すると申し訳なさそうにこう返事が返ってきた。



「実は・・・ちょっと地下の整理をお願いしたいんだ・・すまないねこんな事頼んでしまって・・。」
「掃除ですか?なら大丈夫です。私そーゆうの大好きですから!」



嘘じゃないし・・・なんかしてれば気も紛れるしね。



「いや、助かるよ。やっぱりピートくんといた時も男二人だからね・・・大分あちこちちらかってしまっているんだ・・・。」



(・・・そうだろうなあ。横島さんの部屋なんて・・・・やだ・・思い出しちゃった・・。)


頭の中に結婚式の光景が浮かぶ。


(吹っ切ったつもりなのに・・・・中々そうはいかない・・・・・か。)


「それじゃ、片付けてきますね。何か分からない事が聞きに来ますから。」
「ありがとう。・・・それじゃあお願いするよ。」


唐巣さんがにっこりと笑う。
・・・昔の写真でも見たけど、本当は結構この人格好いいんだよなあ。


視線を上に動かす。


(これが・・・・無ければね・・・・・くすっ。)


その視線に気づいたのか唐巣さんは恥ずかしそうに聖書の方に目を移してしまった。


(っと、失礼だったかな・・・。)


急いで私は地下への階段へと向う。


(でも唐巣神父の照れた顔もかわいかったりして・・・・・・・って何考えてるんだろ私。)


思わず私の顔も赤くなる。・・・別に変な意味じゃないのに・・・・。

・・・・っと。


「きゃっ・・・。」
「・・!危ない!」


前をちゃんと見てなかった私は思わず転びそうになった。一瞬目を瞑る。


でも・・・・実際には地面に着くことは無かった。唐巣さんに抱きとめられていたから・・。


「大丈夫かね?気をつけないと駄目だよ。」
「あっ、・・・すいません!その・・。」


顔が真っ赤に染まる。二人の視線が宙で重なった。


「い、いや、そのとにかく足元に気をつけてね。」


身体が離れると咳き込んでそう答える。・・・・なんとなく気まずい空気になってる。


「は、はい・・・じゃあ行って来ます。」
「あっ、いってらっしゃい・・。」


なんかまぬけな会話だ。
・・・・そう思いつつ階段を降りていった。












地下はもの凄く・・・ほこりっぽいなあ。


「全然掃除してないんだ・・・ごほっ。」


こんな所がこの教会にあるなんて今まで知らなかった。いや・・知る必要も無かっただけかな。


(でもここで働いていくんだから色んな事勉強しなくちゃね・・。」


部屋の中を一通り眺めてみる。


・・・・書物関係がとにかく多いかな。聖書とか・・・・悪魔の話とか・・・。


「・・・・よおしっ!なんか気合入ってきた!これぐらいの方が片付け甲斐があるもの!」

頭に頭巾をつけて、作業に取り掛かる。




せこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこ。



「・・・・何だろこれ。変な道具・・・。」



せこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこ。



「・・・・・・ぱんつ。洗濯してないのかな・・・。ていうかここで寝てたの!?」



せこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこ。



「男の人ってやっぱり変わらないんだなあ・・・どんな人でも・・。」



せこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこせこ。






「ふうっ・・・大分片付いたかな・・・・んっ?なんだろこの本・・・。」


薄汚れたカバーの茶色い冊子。なんだか歴史を感じさせるなあ・・・。


「・・・・ア・・ルバム・・・・かな?ちょっと読みにくいけど。」


文字は擦れかけてほとんど読めなかったけど・・多分そう読む・・・と思う。


(唐巣神父の過去かあ・・・・・・。ちょっと気になるかも・・・・。)


人の過去を勝手に見るのは悪い事だと思うけど・・・・・。
でも見ちゃお。こんな所に置いておくのがいけないのよね。

好奇心がむくむくと膨らむ。閉じられている本の表紙を勢い良く捲って見る!





「・・・・・・・・・・・・・・何にも貼ってない。」





中身の1ページ目はからっぽだった。膨らんだ好奇心がしぼんで行くのを感じた。

・・・とりあえずパラパラと枚数を重ねていく。・・・・・やっぱり何にも無い。



(なんだ、つまんないの。・・・・・・・剥がしちゃったのかなあ?)



見せたくない過去だとか?なんか興味をそそる話だけど・・・そこまではしたくないし・・。
まあ・・・どうでもいいか。


パタンっ!


勢い良く本を閉じた。その時・・・アルバムの端から何かがこぼれ落ちる。


「あれっ、なんかあったのかな?」


落ちたものを手で掴む。それは一枚の汚い写真であった。


「・・・・・・・女の人かな?・・・なんか見たことあるような。」
「そろそろ休憩したらどうかな?お茶でも入れるよ?」


上の階から声がする。唐巣さんの声だ。


「あっ・・・、そうですね。じゃあお言葉に甘えて・・・」


気が付けばもう3時間ほど経っていたみたいだ。地下にいたから全然気づかなかった。
私は写真をポケットにしまい込むと階段を昇っていった。










「わあっ、いい匂いですね。」
「まあ、ゆっくりと休憩してくれればいいよ。大分片付いたみたいだね。助かったよ。」


応接間に戻るとテーブルの前の椅子に腰を降ろす。目の前で綺麗な色をした紅茶が湯気を立てていた。


(・・・・・なんとなく意外な趣味。)


「紅茶好きなんですか?」
「ああ・・・ピートくんがお土産で持ってきてくれたんだよ。私一人だとあまり飲まないからね。」


ふーん、・・・・あっ美味しい。


「・・・私はこういうの大好きなんです。毎日でも飲めちゃいますから・・これから楽しみです。」
「そうなんだ・・・いや、助かるよ。嫌いな訳じゃないんだが中々減らなくてね・・・。」


外をふと見ると、どんよりと曇ったままだ。雨がまだしとしとと降っていた。
全くもって、しつこい雨だなあ。



「・・・・雨が止まないですねえ。」
「えっ、ああそうだねえ。まあ梅雨だからね、仕方無いんじゃないかな。」



つい先日の事を又思い出してしまう。・・・結婚式の日。
あの日もこんな感じだったっけ。美神さんもなんか衣装が濡れるって愚痴ってたなあ。


・・・6月の花嫁とは名ばかり。意外とこの時期の結婚式は避けられたりするのだそうだ。
理由は雨が多いからなんだって。ロマンチックでもなんでもないんだなって思った。


「美神くん達は上手くやっているのかねえ・・?」
「えっ、ああ・・・・そうみたいですよ。元々息ぴったりって感じでしたから。」


・・・なんか娘を送り出した父親みたいな言葉。まあ似たようなものかも知れないけど。



(あっ・・・・・・・そう言えば・・・あの写真。)



ポケットの中を探る。そしてそれを引っ張りだした。
・・・もしかして。



「唐巣さん・・・この人ってひょっとして・・・・・。」
「えっ・・・・・・・・、それを見つけてしまったのかね。まいったなあ・・。」


見たことある顔だなあと思ったけど・・・。


「美神さんのお母さんですよね。・・・ちょっと汚れて見にくかったんで気づかなかったですけど。」
「うーん。まずいもの見られてしまったね。・・・まあ過去の思い出みたいなものだよ。」


という事は・・やっぱり。


「・・・好きだったんですか?」
「・・・まあ今更隠してもしょうがないね。そうなんだよ。結局思いを伝える事は無かったけどね。」


恥ずかしそうに窓の方へ顔を背けた。


「・・・それで今まで結婚しなかったんですか?」
「い、いや・・・そう言う訳じゃなかったんだが・・まあ機会が無かったのかな・・はは。」


戸惑う顔がますます赤くなる。男の人ってこういう所がカワイイんだよなあ。



(・・・・さっきから何考えてんだろ私。変だなあ。別に・・・そんな気がある・・訳じゃ・・。)



「唐巣さんは・・・美智恵さんみたいな方が好みなんですか?」
「な、何を言ってるのかなおキヌくん。・・・別にそんな事は無いが・・・。」
「じゃあどんな人が好みなんですか?」


・・・何故こんな事を聞くのだろう。不思議と身体にさっき抱きしめられた感触が蘇ってきた。



(・・・いや、違うよね。そんな事は無い・・・と思う。)



「どんな人と・・・言われてもねえ・・・。何とも言えないよ。すまない。」


私の方へ苦笑い・・というか・・・とにかく困った顔を見せた。
その顔が私のいたずら心を刺激してしまう。


(私ってこんな事考えるような人になっちゃったのか。・・・もう25だしね。)




「じゃあ・・・私みたいのはどうですか?」




にっこりと小さな微笑を向けながら聞いてみる。


「そ、それは・・・どういう意味かね?」


失恋の悲しみがそうさせるのか?いやそうじゃないと思う。少なくとも今目の前にいる人を・・・・




嫌いじゃない。むしろ・・・・・・




「好きなのかも・・・・・いやなるかも知れません。」




そっと・・・・唇に触れた。・・・・・指先がね。



どったーーーん。

唐巣さんが椅子ごと後ろに倒れる。


「大丈夫ですか!!?」


急いで倒れた方に足を向ける。
見ると・・・・・神父様は天井に向って放心しておられました。




「おキヌくん・・・・その・・本気かね?」




搾り出すような声が聞こえた。




「はい!・・・・でも・・・・・なるかもですよ。」




元気な・・・そして心の中が急に晴れたかのような澄み切った笑顔が神父の目の前にあった。


・・外の雨はまだ当分止む事は無さそうだが、彼女の中の雨雲は通り過ぎていったらしい。
そう感じさせる程の微笑みがそこに存在している。


教会のベルがもう一度鳴る日はそう遠くないかも知れない。

おしまい。

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