ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(5‐3)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 4/ 4)

バチィ!
「くっ……!」
重治が繰り出した霊波刀の渾身の一撃は,しかしコートの男の持つ剃刀に軽々と止められてしまった。
シュッ……
「!」
剃刀はそのまま霊波刀の軌道を変え,自らは重治を斬り裂こうと刃を滑らせた。
「ちぃッ!」
ドッ!
重治はその超人的(人狼なのだから当たり前だが)な身体能力で紙一重にかわしたが,掠めた刃で服が少し切られてしまった。
因みに彼女は下着を着けていなく,今着ているシャツ一枚しか身に付けていない。そして,忘れそうになるが此処は街のど真ん中である。
「くっ……,服を切り裂いて身動き出来ない様にする気でござるな……!?」
「へへ,知らねーよ。此奴に訊いてくんな」
男は,歯軋る重治を嘲笑うかの様に剃刀を見た。
「くっ……,卑劣な!この程度の羞恥心を突いた所で,拙者の武士としての誇りは屈せぬぞ!」
ダッ!
重治は,再び斬り掛かる。
バツゥ!
「くうっ……!」
だが,再び剃刀に軌道を変えられてしまった。
「――!」
そのまま攻撃に移行しようとする男(と言うか,剃刀)の一手を,重治は霊波刀を無理矢理振るう事で弾いた。
バチィ!
「……っ!」
その反動で,重治は大きく吹っ飛ばされた。
ドシャア!
路上に不法駐輪された自転車の群に,突っ込む重治。
「がはっ……!」
「へへ……」
男は,にやけながらその重治の元へ歩を進める。
「くっそ……」
ガシャ……
切った口元から垂れる血を拭きながら,倒れた自転車を掻き分け,何とか立ち上がる重治。
バシュウ!
消えてしまっていた霊波刀を,再び作り出す。
「へへ,何だよ,未だやる気か。分かってるだろ?この魔剣の前じゃ,お嬢ちゃんの剣技なんざ,児戯も同然なんだよ」
「魔剣は兎も角……,お主如きに負ける訳にはいかないでござる!」
「けけけ,気の強い嬢ちゃんだなあ。良いぜぇ,そう言うのはタイプさ。君みたいのを屈服させるのは,正に至福の楽しみだね」
「下司が……!」
劣情を丸出しにした顔で歩み寄ってくる男を,重治は強く睨む。
「何時迄強がりを言ってられるかなッ!?」
グォッ!
男が,剃刀で突きを入れる。
「ちっ!」
重治は,上に飛んでそれを避けた。
ゴッ!
だが,男はそのまま勢いで自転車の群に突っ込むなどと言う事はなく,剃刀に導かれ振り向くと,自分を飛び越して背後に着地した重治を斬りつけた。
「!」
バヂィ!
自らも霊波刀を振り下ろす事によって,その攻撃を何とか防いだ重治。
シャッ!
だが,剃刀は例によって霊波刀の刃筋を滑り,重治の肉を狙う。
「はああっ!」
ダン!
「!?」
其処で,重治がもう一歩踏み込んだ。
ズバシュ!
「馬……鹿な……」
重治により,胴を抜かれた男が呟いた。
重治の右手の霊波刀は,剃刀に逸らされ,地上間近である。
「何故……!?」
その答えは,重治の左手に握られた霊波刀。
そう,重治は,踏み込む瞬間に,左手にも霊波刀を作り出したのだ。
「相手の意表を突くのは,狩りの基本でござるよ!」
そして,敬愛する師の得意技でもある。
「はうう,やったでござる,先生!先生に習った二刀流が,拙者の誇りと貞操を守ったでござるよ!」
今,此処にはいない師に,空に向かって勝利を報告する重治の耳に,何やら耳障りな音が聞こえてきた。
ブシュッ……
何やら,肉を斬り裂く様な……
「え……?」
重治が正気に戻って振り向くと,頸動脈から紅い噴を上げている,男の姿が在った。
「な……!?」
目を丸くする重治の前で男は倒れ,暫くの間,ビクンビクンと身体を撥ねさせると,辺りを紅く染め上げ,動かなくなった。
「半兵衛の霊波刀に滑らされた剃刀が,標的を失って自らに還ったのね」
「え?」
呆然とする重治に,ヒカゲが解説を入れた。
「筋肉の支配を明け渡す様な強力な魔剣,支配も出来ない様な人が使えば,当然の末路ね」
ヒカゲは,薄笑いさえ浮かべて言った。
「ね,私の言う通りになったでしょ……?」
人が見れば恐れ戦く様な酷薄な笑みを浮かべたヒカゲだが,幸か不幸か,それは重治の目には映らなかった。
「……先生……」
アスファルトに膝を突いて,男の亡骸と,彼を死に至らしめた剃刀を見つめる重治。その眼には,涙さえ浮かんでいる。
脳裏に浮かぶのは,慕情する師の言葉。

――人を殺して恨みを買ったって,誰も何の得もしない。だから,良いか。出来るだけ血を流さない,恨みを買わない方法を考えるんだ。GSってのは,基本的に人助けが仕事だろ。それで人が死ぬなんて事程,馬鹿な事は無いよ――

「……先生,拙者……,先生の教えを守れなかったでござる……」
「……」
「先生……,拙者は……っ」
「……あの二人に連絡入れようか……」
重治が自分の呼び掛けを訊いていないのを確認したヒカゲは,溜息をつきながら携帯のスイッチを押し,西条鍋子の番号を押した。



ピッ
「はい,西条。……ああ,ヒカゲちゃん?」
西条鍋子は,捕らえた殺人犯の男を取り敢えず簀巻きにした所で,別行動をしていたヒカゲからの電話を取った。
傍らには,勿論,愛猿サスケを抱いた万千代めぐみが佇んでいる。
「……えっ?」
ヒカゲからの報告を聞いた鍋子は,思わず混乱を来した。
「犯人を捕まえたって……,一寸待ってよ,だって,犯人なら此処に……」
首を回して,鍋子は男を見る。
一流GSだと言うその男は,手錠を掛けられ,霊波遮断材で作られた手袋を嵌められ,その上普通のロープと呪縛ロープでぐるぐる巻きにされ,道路に転がされていると言う状況の中で,太々しく顔を歪めた。
「ははははは……」
「何が可笑しい!」
笑い出した男を,鍋子が睨む。
「くくく……。馬鹿じゃねえのか,お前ぇ等?何時,俺が犯行は単独犯でやりました,なんて言ったよ?」
「――まさか……!?」
「そうよ。これ迄に俺が刺したのは二人だけ。後は,仲間の二人が殺すのを見てただけさ」
「……!」

鍋子が息を呑んだ時,電話の向こうから,何かが斬られた様な音がし,次いで,ガシャンと言う,何かをぶつけた様な生々しい音が響いた。



慟哭する重治の耳に届いたのは,再び,肉の切られる音。
ズバシュ!
「え……?」
振り向いた重治の目に映ったのは……

日本刀を振り下ろした若い男と,白い巫女衣装を自らの血で紅く染めた,ヒカゲの後ろ姿だった。



「ヒカゲちゃん……,ヒカゲちゃん!?」
電話口へ向かい,大声でヒカゲの名を連呼する鍋子。
しかし,聞こえてくるのはツーツーと言う電子音のみ。
「く……!」
「先輩!」
「しまった,ヒカゲちゃん達が襲われたらしい」
携帯電話を閉じ,苦渋の表情を作る鍋子。
「場所は!?」
「此処から南に約一キロだ!」
「――先に行きますッ!」
「ああ!」
バッ!
めぐみは,箒に乗り天空へと飛び立った。
「……私も行かねば……!」
「キキィ!」
「ん?」
走り出そうとした鍋子に,サスケが飛びついた。その手に在る小さな瓶の中には,めぐみの魔法で身体を小さくされた簀巻き男が入っていた。
「……。ご丁寧な」
めぐみは,今は失われた中世ヨーロッパの魔法の数々を独力で再現する事に成功した天才である。実は,ビデオゲームで言えばゲームバランスを崩してしまいかねない程の反則キャラだったりするのだ。
彼女が憤怒するなど滅多に無いが,実は,怒らせてはいけない人物ナンバーワンかも知れない。
「って,この瓶,空気穴開いてないわよ!?」



「ヒカゲ殿ッ!」
重治が叫ぶ。
今の状況を分析するに,如何やら自分がこの男に斬り付けられたのを,ヒカゲが立ちふさがって,身代わりになってくれた様だ。
「くっ……!」
例えば不意打ち等を喰らって,明らかに自分達が不利な場合は,そのまま粘って打開案を探すより,三十六計逃げるに如かず。確か,信長だか藤吉郎だかが,そんな事を言っていた。
バッ!
正直,重治一匹だったら,意地でも踏み止まって戦っただろう。
しかし,此処にはヒカゲが居る。自分の身代わりになって,斬り付けられ,血を流すヒカゲが。
上手くかわした様で致命傷ではない様だが,決して浅い傷じゃない。寧ろ,血は出過ぎていると言って良いだろう。このままでは,失血死してしまうかも知れない。
其処迄考えが及ぶと,重治の決断,そして行動は早かった。
「ワオーン!」
狼モードに戻ると,倒れかかってくるヒカゲを背に乗せて,二撃目を振り下ろしてきた日本刀男の脇を擦り抜け,一目散に逃げ出した。
「……」
男は,重治に逃げられても殊更慌てはしなかった。
何故なら,何処へ逃げても目印が有るから。
ヒカゲの流した血が,転々と道標を描いているから。
「くくく。血が止まる迄は,何処へ逃げても紐付き同然だ。さあ,俺は,ゆっくり狩りを楽しませてもらうか」
含み笑いをしながら,悠々とした足取りで重治とヒカゲを追おうと,歩み始める男。
そんな彼の頭上から,女の声が聞こえた。
「待ちなさい!」
「?」
男が上を見上げると,箒に乗った黒服の糸目女が,此方を見下ろしていた。
言う迄も無く,万千代めぐみである。
「何だ,お前ぇ。あの犬と金髪女の知り合いか?」
こんな街中に血の付いた日本刀を持って歩いていたら,そうでなくても怪しい奴と思うだろうが。
勿論,空にふよふよと浮いているめぐみも,充分怪しいのであるが。
「じゃあ,矢っ張り貴方があの二人を?彼女達を如何したんですか!?」
めぐみの問いに,男は刃を向ける事で答えた。
「さあな。あんたが俺に斬られるなら,教えてやっても良いぜ?」
「……!」
「へへ……,如何するよ?」
「……」
ザッ……
下卑た笑みを浮かべる男に対し,万千代はアスファルトの地面に降りた。盛大にパンチラした。
「なら,呪いでも掛けて,吐いてもらいましょうか」
「……!」
めぐみは糸目なので,幾ら恐い顔をしても今一迫力に欠けるが,プレッシャーは伝わったらしい。男は,少したじろいだ。
「くす……」
矢張り,魔女と言うだけの事はあって,めぐみの精神も普通ではない。特に,魔術を使う時の彼女は常軌を逸している。
「……!」
プレッシャーに押された男は,後退って自転車の群に突っ込んだ。
ガシャアン!
「……あ……」
男は,バランスを崩して転倒した。
「……もう一度だけ,訊きます」
男を追い詰めるかの様に,めぐみは箒を突きつけた。

「彼女達は,如何したのですか?」



ヒカゲを背負った重治は,ひとまず,少し離れた路地裏に逃げ込んだ。
「ぐっ……つ……」
「大丈夫でござるか,ヒカゲ殿!」
人型に戻った重治が,ヒカゲを気遣う。
「一寸やばいわね……。血が止まらないよ」
「そ,そんな……」
「くぅっ……」
「ヒカゲ殿っ!」
「……」
「ヒカゲ殿!」
「お迎えだよ,パトラッシュ……」
「拙者は,犬ではござらん!」
……冗談はさて置き,冗談ではない出血量である。
「せめて血を止めないと……。このままじゃ本当に死んじゃう……」
「ヒカゲ殿……っ!」
二人が途方に暮れた時,人影が路地裏に入ってきた。
「!」
敵か!?
重治が身構える。

「如何したんだい?こんな所で」
そう,声を掛けてきたのは,見知らぬ男性だった。
派手な柄のシャツの胸元を大きく開け,洒落たネックレスを掛けている。ラテン系の,軽そうな容姿の男だ。
「……」
ヒカゲと重治は,不振を込めた目で男を見つめる。
「……!大変だ!」
「?」
男が,突然慌てだした。
「酷い怪我じゃないか!見せてみて」
「え,いや……」
「良いから!」
男はヒカゲの前に跪くと,背負っていたバックから救急箱を取り出して,ヒカゲの傷を治療し始めた。
「……」
ヒカゲは,恐怖と不振の入り交じった目で,男の天然パーマを見下ろしていた……。


「はい,これで良し」
そう言って,男はヒカゲから離れた。
「一応,血止めの薬を塗っておいたから,応急手当としては充分だと思うよ」
バタ臭い笑顔で男は言う。
「……有り難う」
上目遣いに礼を言うヒカゲ。
「ああ,全然。けど……」
「けど?」
「これが恋の始まりだったらなー,なんて……」
「馬鹿な事を……」
「おや,つれないねえ」
「……」
戯けた顔で軽口を発する男。ヒカゲは,それをじっと観察する。
「あはは,じゃあ,俺はこれで」
そう言うと,男は立ち上がって路地裏から出た。
「又た会おう」
そう言い残し,男は雑踏へと消えた。


「……」
ヒカゲは,押し黙った。
「今の御仁……」
不意に,重治が声を発した。
「!」
「人間ではなかったでござるな」
重治は,人狼故に,人間に比べて『鼻が利く』。即ち,霊的探知能力が高いのだ。人の発する霊波と,妖怪等の発するそれぞれの“気”は,重治の鼻にしてみれば大分違う。
人間でないとすれば,要するにあの男は神様か妖魔と言う事である。
「……ええ……」
「神族……でござるか?」
以前嗅いだ勝竜姫の『臭い』と照らし合わせ,重治は言った。
「恐らく……ね……」
そう応えたヒカゲは,何故だか酷く震えていた。
「ヒカゲ殿……?」
さては傷が熱を持ったのかとも思ったが,所がそうではないらしい。
「あれだったんだ……」
「何が……でござるか……?」
一人納得して怯えるヒカゲに,重治が首を傾げる。
「ヒナタに,会わせちゃいけない……」
「え?」
「彼をヒナタに会わせてたら,屹度大変な事になってた……」
「それは……,如何言う……?」
彼がヒナタと会うと,如何なると言うのか。重治にはちんぷんかんぷんだ。
「あの人の“気”……,何処かで感じた事が有る……。何処だか分からないし,その記憶も無いけど……」
「……?」
「兎に角,ヒナタを表に出してなくて良かった……。虫の知らせって言うのは,信じるものね……」
荒い息を整え,ヒカゲは額の汗を拭った。
「……」
陽の光が,眼に痛い程眩しい。



「我々はーーーッ,何だあァーーーッ!?」
「武田総合病院ですッ!!」
「風林火山の旗はーーーッ!!」
「優秀優秀優秀優秀優秀〜〜〜ッ!!」

めぐみに発見されたヒカゲは,武田総合病院へと運ばれ,治療を受けた。傷は浅いものではなかったらしく,数日入院する事になった。
「犯人グループの三人はGS仲間。動機に関しては,何と無くとか言ってたわ」
見舞いに来た鍋子が,呆れ顔で言う。
「何と無くで殺されたら,被害者の人達も立つ瀬が無いわね」
ベッドの中のヒカゲが言う。入院着が似合っている。
「でも,得てしてそんなものかも知れませんよ。人は,誰しも心に闇を持っているものです」
めぐみが,林檎を剥きながら言う。
「特に,霊能者なんてのは,深い闇を内包しているものではないですか。人の死を日常的に扱う商売ですから死に対する畏れも希薄になりますし」
「そうね。強力な力を得れば,それで何かをしたいと思うのが人情よね……」
めぐみと鍋子の会話を聞き流しながら,ヒカゲの精神はあのラテン系男の存在に囚われていた。
「……」
何者なのだ,彼は……

「……『又た会おう』……か……」



神界,極楽浄土。
「くぅっ……,やれやれ……」
この極楽浄土の主,阿弥陀如来の直属の眷族である『六観音』の一柱,十一面観音は,ペンを置いて伸びをした。
「やっと終わった……」
彼は,先の八丈山の“幻の村”でのミスへのペナルティとして,阿弥陀如来から書類整理を押し付けられ,此処数日間,机に囓り付いてペンを走らせていた。
「ご苦労様だな」
「!」
不意に,後ろから声がした。
十一面観音が首を回して振り返ると,派手なシャツを着たラテン系の男が居た。地上で,負傷したヒカゲを応急治療した,あの男である。
「馬頭か……」
彼は,馬頭観音。十一面観音と同じく,『六観音』の一柱である。
「如何したんだ?」
疲れてるんだ,後にしてくれと言う気持ちが,露骨に声に出る。
だが,馬頭観音はそんな十一面観音の態度を気にせず,マイペースに話を進める。彼は,そう言う男だ。
「“トキヨミの巫女”に会いに行ってきたよ」
「ほう……?」
そう言う話ならば,十一面も興味は有る。何せ,“トキヨミの巫女”は,上司の阿弥陀如来の命令で,最近自分達が動いている“事”に,重要な影響を与える存在であるらしいから。
「で……,如何だった?」
「残念。“守護者”(ガーディアン)に阻まれたよ。アポ無しでは,会わせてくれないらしい」
「なんだ……」
「しかし,“守護者”も素敵な女性だった。美しかったよ」
「ふん,ロリコンが」
「馬鹿を言うな。美しい女性に,年齢など関係ないよ」
「……」
此奴に女性を評させると,長くなる。十一面観音は,呆れ顔で肩を竦めた。

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