〜 『キツネと姉妹と約束と 第14話 前編』〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 4/ 3)
「私は・・考え違いをしていた・・。タマモちゃんと引き合わせることがスズノの暴走の引き金になると・・。
だけど・・原因はもっと別のところにあったなんて・・。」
祭壇が崩れ落ちていく。
コントロールを失ったスズノの魔力が、迷宮を形作る幻影にまで影響を及ぼしはじめたのだ。
神秘と壮麗さを兼ね備えた水晶の壁は今や見る影もなく・・
残されているのは中央へと続く一本の通路のみ。
閉塞された部屋からの脱出に成功した美神たちは、その通路のさらに奥へと歩みを進めていた。
この先にスズノが待っているのは・・・どうやら間違いないらしい。
そして・・彼女の心に巣食うという、何者かとも、程なく対面を果たすことになるだろう。
(・・上等だわ。どんな奴かは知らないけど・・必ずしばき倒してやるんだから・・。)
美神は一つ息を吐くと、闇に嗤う蒼白の月を見上げたのだ。
〜『キツネと姉妹と約束と その14 前編』 〜
「・・横島っ!!」
「・・?タマモ!気がついたのか?」
扉の向こうから駆け寄ってくる彼女の姿を目に留めたとき、一体、自分はどんな顔をしていたのだろう?
驚きの後に訪れるわずかな安堵。彼女がいち早く駆けつけてくれたのが嬉しかったのかもしれない。
・・・。
「横島・・ケガしてるの?」
そう言って、心配げに見つめてくるタマモの軽く苦笑を浮かべて・・
「・・オレは・・大丈夫だ。・・それより・・」
横島は・・さらに十数メートル先に在る火柱へと視線を移した。
数万、数十万度の熱量からなる巨大な火柱。・・吹き荒れる業熱の嵐が、手当たりしだい、触れるものすべてを喰らい尽くしていく。
文殊の結界がなければ、おそらく留まることすら許されない。
・・そして、その猛威の中心には・・・・
「・・スズノ・・・なの?」
まるで眠るように、一人の少女が空へと浮かび上がっている。炎に冴える彼女の姿は、彫刻のように美しく・・そして儚く悲しげだった。
「悪りぃ・・。詳しく説明してる暇がない・・。それにオレも何から何まで知ってるってわけじゃないんだ。」
・・パズルのピースが不足していた。
自分の持つ真実を、どれほど上手くつなぎ合わせようと・・出来あがる一枚絵には決定的な部分に欠落がある。
足りないのだ・・彼女の『過去』という1ピースが・・・。
・・・・。
「・・・・・横島・・・。」
少し間をおいて・・タマモが驚いたように声をもらす。
「・・・?どうした?タマモ。」
「私・・・知ってる・・・。」
「は?」
知るはずもないこと。聞いたこともないこと。
18年前、スズノの身に何があったのか・・?そして、彼女の規格外の力が一体どのようにして生じたのか?
一連の事件に関する情報全てが、何故か事実として頭の中に納まっている・・。
「・・・まさか・・・あの時に・・・。」
一瞬だけ果たした、蒼髪の少年との邂逅。この知識は・・あの少年から受け継いだものだとでもいうのだろうか?
「お・・おい、タマモ?」
「・・横島、話しておきたいことがあるの。」
タマモは小さくそうつぶやいた。
◇
昔のことを・・思い出していた。
―――――・・。
銀の光。淡い月の夜。
闇の中・・・・
「スズノ・・・ちゃ・・ん」
名を持たぬ少女は・・悲しく私の名を呼んだ。わき腹から血がにじんでいる・・・致命傷だった。
「あ・・・・・・」
音も無く、少女は崩れ落ちて・・・・
「い・・・いや・・だ・・。」
気づけば・・そんなことを口にしていた。私は、彼女に駆けよって・・・何も考えられず、ただ駆けよって・・
そして、彼女の前で泣き崩れた。
「スズノ・・ちゃん、泣か・・・ないで?」
「っく・・・だって・・・だって!」
「逃げ・・なくちゃ・・・お姉さんに・・・会うんでしょ?」
こんな時まで、彼女は微笑んだままで・・・・
「お前も・・いっしょだ!いっしょに・・・いっしょに逃げよう・・。」
彼女は・・私の言葉に首をふる。
「私は・・もういいよ・・。もう、十分・・幸せだもの・・・。」
目がかすんで見えないのだろう。少女の腕が私を探して宙にさまよう。
私はその手を握りしめた。
涙で声がつまる・・。伝えたいことがたくさんあるのに・・本当に・・本当にたくさんあるのに・・・
・・・なのに・・言葉が何も出てこない。
・・・。
一つだけ・・・つぶやいたこと。
それは彼女の名前・・・私が考えた・・・彼女の名前。
それを聞き・・
・・・・ありがとう・・・・・・・・
彼女の口がそう動いて・・それから先に、さらに言葉は続いていく。
(何を・・言っているのだ?)
聞き取れなかった。彼女の・・最後の言葉が聞き取れない・・・思い出せない。
とても大事なことだった・・・そんな気がするのに・・・
・・・・・・何も・・・わからなかった・・。
―――――・・・。
スズノの記憶はそこで終わる。
気づけば、周りには奇妙な空間が広がっていた。真っ白な空間・・・見覚えのない場所だ。
・・ここはどこ・・・?ねーさまと横島は・・何処にいるのだろう?
「・・ここは・・君の心の中。」
声が響く。
振り向いた先に立っていたのは、蒼い髪の少年だった。女と見間がうほどに美しく、自分たちとはどこか違う・・そんな少年。
「・・・誰?」
「はじめまして・・かな?ようやく会えたね、スズノ。」
そう言って、彼はは優しく微笑んだのだ。
◇
「18年前の暴走を・・あの子はずっと引きずってるの。だからスズノは自分の命を顧みようとしない。」
自分でも恐ろしいほどに整理された記憶。それら一つ一つを確認しながら、タマモは慎重に言葉を選ぶ。
横島は歯噛みしながら、彼女の話に聞き入っていた。
「あいつが・・死んでたまるかよ・・。それじゃあ、あの霧に踊らされたままってことじゃねえか・・。」
「・・うん。私たちが・・止めなきゃ。」
言って、タマモは前を見据えた。
問題は・・部屋に渦巻くこの強大な炎をどうするか。このままではスズノに近づくことすらままならない。
おそらく、後数分もすれば、暴走した彼女の魔力が一斉に開放される。
・・タイムリミットを考えれば、こうして戸惑う時間すらも惜しいのだが・・・
「文殊を使っても・・やっぱり・・?」
「・・ああ。スズノとオレじゃあ力の桁が違いすぎる。あんな中心に移動したら、結界なんて一秒ももたない。」
よしんば近づけたとして・・そこから一体どうする?自分は何をしてやれる?
「・・くそっ・・!手をこまねいてる場合じゃないってのに・・・。」
横島がくやしげにそうつぶやいた・・その瞬間だった。
「弱音を吐くなっ!!バカ者っ!!!」
そこで・・気合の声に一喝される。
前にどこかで経験したことのあるシチュエーション。何より・・この声・・・
「・・ワルキューレ?それにジークも・・・」
「久しぶりだな、横島君。無事でよかった。」
なつかしそうに笑うジークに、横島は少し苦笑する。
「お前も、な。・・ってかワルキューレ、久々の再会第一声が、怒鳴り声ってのはちとキツくないか?」
「・・フン。らしくないことを言っているからそうなる。諦めるのはまだ早い・・そうだろう?」
言いながら、ワルキューレの表情は諭すような、やわらかいものに変わる。
ベレー帽を被り直す彼女は、昔出会ったころと同じ・・頼もしさすら感じられるあのワルキューレだ。
・・・。
「・・・・誰?」
怪訝そうな顔をするタマモに・・
「?ああ、オレのダチだよ。男の方がジークで、女の方がワルキューレ・・ほれ、あの胸のデカさは特筆に値すると思わんか?」
横島はからかうようにそんなことを言って・・・
「・・・はぁ。お前という奴は本っ当に変わらんな。・・それよりも・・見ろ。」
頭を抱えるワルキューレが、唐突に火柱を指差した。
「?もう、うんざりするぐらい見てるけど・・・」
「・・お前の目は節穴か。あれを見てなにか気づくことは?」
・・・・・。
・・・・・・・?
首をかしげながら、横島はもう一度スズノの方へ目を向ける。
周囲の温度は数分前よりもさらに上がり・・・どう考えても事態が好転しているようには見えなかった。
中央には・・・相変わらず眠ったままのスズノ―――――
・・・
―――――!?
「・・・・まさか・・・・」
「そうだ、これだけ温度が上昇しているのにもかかわらず、その中心にいるスズノは火傷一つ負っていない。
・・これが何を示しているか・・・。」
・・・。
―――――炎の核・・スズノの周囲のみ、熱量が著しく低下している・・。
「おそらくは、横島が見たという霧の仕組んだことだろう。スズノが初めに燃え尽きてしまっては爆発など起こりえない。
それでは奴にとって都合が悪いというわけだな。」
ワルキューレが唇を吊りあげる。皮肉にも、『霧』が施した奸計が・・活路を未だつないでいるのだ。
その言葉にタマモが弾かれたように顔を上げ・・・
「・・!・・いけるかもしれない。横島の超加速なら、ここからスズノのところまで数秒でたどり着けるわ。」
「その数秒は・・我々が稼ごう。おそらく近づけさえすれば、結界を張る必要もない。
ジークの声に・・・4人は顔を見合わせながら頷きあう。
・・・部屋には炎に嵐が飛び交っていた。
◇
『・・・そうですか・・。では、スズノの捕獲はもう諦めるべきですね。』
静涼な声が夜天を震わす。
遠く離れた地から、自分へと向けられるドゥルジの言葉に・・コカトリスはうやうやしげに頭を垂れた。
「・・よろしいのですか?」
『ええ・・。あとのことは・・人間たちに任せるしかないようですね・・。』
少し沈んだ声は不満というよりは心配によるものだろう。
おそらくは、スズノや人間たちの身を案じている。・・この方はお優しすぎるのだ・・おおよそ悪役には向かぬほどに・・
「ドゥルジ様は・・どうお考えですか?スズノ殿に憑いた存在について・・・」
『私にも正体は分かりません。・・ですが、悪知恵が働くだけの小物でしょう。まだ何か・・企んではいるようですが・・。』
そこでドゥルジは嘆息する。
『どちらにせよ、あなたはその場を離れるのが賢明です。深手を負っているのですから・・』
気遣わしげな言葉に・・・コカトリスは忠誠を誓いひざまづいた。
「・・全てはわが君の命のままに・・。」
◇
「起きろっ!!お前たちっ!!」
怒声。
いや、彼女にしてみれば怒声でもなんでもなく、普通に起こしたつもりだったのだが・・
とにかく、そんなワルキューレの大音量の呼びかけに、ピートたちは慌てて目を覚まし・・・
「・・あ・・あれ?ワルキューレさんに、ジークさん?どうして・・」
「説明しているヒマはない。お前たちも手を貸してくれ。」
「・・ぬぅ・・。わしは・・・そういえばキスは!?キスはどうなったんじゃ!?」(相手は一応子供だったりするのだが)
「きゃ・・・きゃあああ!!つ・・机・・机に火が!!よ・・横島くん、水・・水出して・・!!」
・・なんて会話。
愛子の机の消火活動を行いながら、横島は思いっきり半眼になって・・
「うあ・・・緊張感なさすぎ。」
「ま・・まぁ、最後の休息だと思えば・・。そういえば美神さんたちはどこにいるの?」
そんなタマモの問いにジークが、
「今、こちらに向かっているようだ・・が、正直、到着を待つ時間は・・」
少し言い難そうに言葉をにごす。
「・・そっか。霊波同調が出来れば少しは楽になりそうなのにな・・。」
「ないものねだりしても仕方あるまい。それにスズノを説得する分にはいつものお前の方が効果的だと思うが?」
肩をすくめるワルキューレ。
納得したように笑みを浮かべた後、横島は・・スズノのいる炎柱の核へと向き直った。
・・・。
少女は悲しげに表情を曇らせたまま・・死人のように目を閉じている。
・・・スズノがどんな悪夢を見せられていようと、それも今日で終わりだ。・・自分たちが・・終わらせる。
―――・・。
「・・よっし!それじゃ行くか。タマモ、しっかり掴まってろよ?」
・・そんな横島の言葉をかわきりに・・・・
「わかった。私はいつでも大丈夫だから。」
「・・死んだら承知せんぞ、横島。」
「二人とも、武運を。」
「スズノちゃんのこと、頼みます。横島さん」
「さ〜て・・わしらも久しぶりに大仕事じゃな。」
「がんばって、横島くん、タマモちゃん。」
おのおのがおのおの・・・決意を込めてそれに答える。
瞬間、3つの文殊が輝きを放った。光は・・・横島とタマモを大きく包み・・・・・
「さ〜て・・・ミッションスタートといくかっ!!」
言って、横島は、鋭く自らの体を加速させるのだった。
今までの
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