ザ・グレート・展開予測ショー

妙神山の休日 その6 後編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 4/ 3)

しばらくの間ぎゅっと横島の頭を抱き締めていたのだが、そっと離して顔を自分の正面に向ける。

「横島さんの話を聞かせてもらったので、今度は私の話を聞いてくれますか。」

「なんですか?」

さすがにちょっと恥ずかしくなって顔を赤くした横島が、最初の位置に戻ると湯船に顔を残してつかる。
それとは逆に、風呂の端の段になっている場所に腰掛けた小竜姫が、横島のほうを向く。

「私にはずっと昔に姉さまが居たんです。」

「え、大竜姫さまですか!!」

驚いた横島が湯船から上半身を出して聞いてくる。
だが、小竜姫はちょっと首をひねって考えた後、くすくすと笑い出した。

「だれですかそれは、私の姉さまはそんな名前じゃありませんよ。」

「え、あれ、だって大竜姫さまって・・あれ?」

横島は不思議に思って首を捻るのだが、そういえば確かに自分の勝手な想像だったかもしれない。

「大体、姉さまの話をするのは今が初めてなんですから、名前なんて知ってるわけ無いじゃないですか。」

「はあ、すみません、勘違いだったみたいです。でもあれ、居たんですって。」

その言葉の意味に気が付いた横島は、聞くべきか一瞬迷う。

「ええ、もう居ません。」

「その、お亡くなりになったんですか?」

横島が恐る恐る聞くと以外にも小竜姫は首を横に振った。

「いえ、私にはそれすらも分からないのです。」

「分からないって・・」

小竜姫の言っている意味がいまいち理解できない横島は、頭の上に?マークが飛び交っていた。
そこで小竜姫はちょっと悲しそうな顔をする、
そして夕日に照らされた山々をもう一度見ながらゆっくりと喋りだした。

「姉さまの存在は抹消されたんです。
罪を犯してしまったために、それは竜神族にとって許されない罪でした。」

「罪ですか・・・」

そこで小竜姫は横島の顔をまっすぐ見ると、今までとは全然違う質問をする。

「ねえ、横島さん。有史以来妖怪、神族、魔族と、人は恋に落ちたって話は多いのですが、
意外と神族と結ばれて幸せになったって話は少ないの知ってましたか?」

「え、そうなんですか?」

横島は突然話をふられた事にびっくりしたが、質問の内容にもちょっと驚いてしまった。

「ええ、とくに竜神族と結ばれる話は悲劇以外ほとんど無いんですよ。
妖怪は元々自由奔放な存在ですし、魔族はある程度の規則はありますが、
その本質の中に束縛からの解放って言葉があるように、好き勝手をしても許されるのです。
ですが神族はそうじゃありません。
本質は法と秩序、なにをするにもそれに従わなければいけない存在なんです。」

「じゃあ、小竜姫さまのお姉さんて・・もしかして。」

「はい、人と恋仲になってしまったんです。
姉さまは私よりもずっとすごい人でした、一族中の期待を背負えるだけの力と知識、
そしてやさしさがありました。
竜神族って神族の中でもかなり力のある一族なのですが、
その力を維持するために近親婚を繰り返しているんです。
たまに他の血も入れるのですが、それは自分たちの一族より優れている他の一族だけ、
当然姉さまにも幼い事より決められた許婚がいました。
ですがいつの間にか姉さまは人間と恋仲になっていたんです。
もう一族中は大騒ぎになりました、なまじ期待されていただけに、
他の種族にばれれば竜神族の恥になりますから。」

その言葉に横島が怒りの声を上げる。

「恥って、そんなひどいですよ。」

その言葉に嬉しそうに微笑むと、思い出すようにそっと目をつぶる。

「そうですね、馬鹿みたいですよね。でもそれが私たちの普通だったんです。
結局姉さまは想い人と一緒に、下界に逃げたんです。
追っ手を差し向けられたそうですが、幼かった私にはどうなったかは結局教えてもらえませんでした。
結果は姉さまと言う存在の抹消、最初から姉さまは存在しない事になりました。
他の種族から突っつかれるより、多少強引でも居なかったと言う事にしたみたいですね。
そして私にも忘れるように言い渡されました。でも、私には出来ませんでした。
姉さまは逃げる最後の夜に私の部屋に来たんです。
ただ一言ごめんなさいと言いに、あなたを見守ってあげられなくてごめんねと、
自分の方が大変なのに私を気遣ってくれたんです。」

再び目を開けた小竜姫が横島を見つめる。
横島もなにを言って良いのか分からないので、見つめ返す以外に出来なかった。

「私ね横島さん。姉さまに質問をしたんです。」

「なんてですか。」

やっとそれだけを言えた横島は、小竜姫から視線を外せない。
いや外そうと思わなかった。

「どうして、禁じられているのに人と結ばれようとするのかって。
今思えばひどい質問ですよね、自分の思いやりの無さに頭がくるぐらいです。
でも姉さまは笑って答えたんですよ、あなたも大きくなればきっと分かりますよって。」

「やさしい人だったんですね。」

「ええ、とってもやさしい人だった。
そして、私はもう一つ質問をしたかったのですが口に出す事が出来ませんでした。」

「どうして?」

そんなにやさしい人だったら、小竜姫の質問にきっと最後まで答えてくれるだろうと思うので、
なんで途中で止めたか不思議に思った。

「口に出すのが怖かったんですね。答えを知ってしまった時自分がどうなってしまうか怖かった。」

「そこまで怖がる質問てなんだったんですか?」

しばらくう〜んと小竜姫は悩んでいたが、顔を突然顔を赤くしてしまう。

「いえ、それはたとえ横島さんでも教えられません。
それに姉さまからは教えてもらえませんでしたが、代わりの人がそれを私に教えてくれました。」

「代わりの人ですか。」

横島はよく分からないって顔をするのだが、小竜姫はそれ以上説明する気は無いようだった。
そっぽを向いた小竜姫は誰にも聞こえないような小声で呟く。

「言えませんよ、人を好きになるって気持ちがどんなだか知りたかったなんて。」

「え、人がなんですって小竜姫さま?」

ほんの小声で喋ったつもりだったのだが、横島の耳にはかすかに聞こえていたらしい。
顔を真っ赤にした小竜姫は、お湯を横島の方へと手ですくって投げる。

「なんでもありません!!」

「うわ、小竜姫さま止めてくださいよ」

何度もすくっては投げつけて横島をびしょ濡れにしたのを確認した小竜姫は、
やっと満足したのか攻撃を止めた。

「前に、人の世に広まっている竜神と人との昔話をいろいろ調べたのですが、
幸せになった話があまりに少ないのでびっくりした事があります。
そしてこの中の一つが姉さまの話かもしれないと思うと、正直姉さまは幸せだったのかと悩んだ事も
ありました。でも、魔族にとって生まれかわりが別れじゃないように、
神族にとっても生まれかわりは別れじゃないんですよ。
だから姉さまはきっと生まれかわって、想い人と幸せになっていると信じる事にしました。」

「そうですね、きっとそうですよ。」

横島は濡れてしまった頭を犬のように左右に振って水を切る。
それを見た小竜姫はくすくすと笑い出した。

笑われた横島は、一瞬どうしようか迷ったがすぐに閃くと、少しずつ小竜姫に近寄っていく。

「え〜つまりですね、今までの話をまとめますと、俺が愛する小竜姫さまが、
竜族を捨てて添い遂げてくれると言う事ですね〜」

恥ずかしさを誤魔化そうと、いつも通り小竜姫に飛び掛るのだが、
思っていた小竜姫の抵抗がまったく無く、風呂場の床へと小竜姫を押し倒してしまった。

先ほどからお湯が流れているので床が冷たいという事は無いだろうが、
押し倒せてしまった横島もかなり焦ってしまう。

「え、え、え〜と」

「それはつまり、竜神族から一緒に逃げてくれるって事ですよね、
そして私を横島さんの奥さんにして、一生愛してくれるって事と思って良いですね。
大丈夫ですよ、赤ちゃんは産んだこと無いですけど、きっと元気なルシオラさんを生んで見せます。」

小竜姫の思わぬ反撃に、横島は額に汗を流しながら焦りだす。
ああ、目の前の小竜姫さまは美味しそうだ、でも手を出したら小竜姫さまを茨の道に・・・
小竜姫の湯浴み着からでている肌が、ほんのり桜色に染まっているのを見て、
横島の理性は風前の灯火だった。

「私のことお嫌いですか?」

その一言に横島の理性が切れる。

「小竜姫さま〜〜〜」

湯浴み着を脱がそうと手を伸ばすと、小竜姫はさっと横に避けてしまった。

「冗談です。」

「えっ?」

パッコ〜ン

小竜姫が避けた瞬間に、正面から桶が横島にぶち当たる。

「横島〜〜〜〜なにやってるのよ!!!」

薄れ行く意識の中で正面を見ると、湯浴み着を着たタマモが、
シロとパピリオが押さえつけてるにも係わらず、もう一個桶を投げつけようとしている姿が見えた。
なぜ、ここに居るんだと言う疑問を思い浮かべながら、ちょっとだけ助かったかもなんて思ってしまった。

パッコ〜ン

二発目が見事に顔面に当たる。

「惜しかったですね、もうちょいだったのに。」

すごく残念そうに小竜姫が言ったのを聞こえたような気がしたが、まあ気のせいだろうと思う事にした。



そして、意識は暗闇へと落ちていった。













結局、そのまま夜まで気絶していた横島は、
その後はパピリオたちに捕まってとうとう逃げ出す事が出来なかった。

食事などで小竜姫と顔を何度か会わせたが、まったくのいつも通りなので、
風呂場の出来事が夢だったのかも知れないと思ってしまったほどだ。

だが、タマモたちの視線が現実だったと教えてくれる・・てかタマモ目が怖いって・・



そしてあっという間に3日目になってしまった。

当初の予定通り、横島たちは昼前には下山する事にした。
妙神山修業場の前には小竜姫、ジーク、パピリオ、
鬼門コンビと全員が横島たちを見送るために出て来ている。

「ヨコシマ、絶対また近いうちに来てくだちゃいね。
シロとタマモも来たらまたいろいろな服着せてあげるでちゅ。」

「絶対着ないわ!!」

「いや拙者も、ひらひらは勘弁でござる。」

二人とも口では嫌がっているのだが、けっして本心からではなさそうだった。

「おう、任せろまた近いうちにくるよ。」

そう言って横島はパピリオの頭を撫でてやる。
パピリオは嬉しそうにしばらくの間ジッとしていた。

「横島さん、また是非来てください。今度は姉上もがんばって呼んでおきます。」

「ワルキューレにも会いたいから期待しているよ。」

ジークが手を伸ばしてきたので握手する。

「お二人ともパピリオの相手ありがとうございました。これに懲りないでぜひまた来てください。」

「まあ、考えとくわ。」

「タマモは素直じゃないでござるな。」

「うるさいわよ馬鹿犬!」

二人はいつもの喧嘩を始めてしまったが、タマモのテレからきているのを、
みんなが分かっているので笑って見ている。

「横島さん。」

「はい、小竜姫さま。」

小竜姫に呼ばれた横島は正面に立つ。

「パピリオの相手どうもありがとうございました。私も話を聞いてもらって少しは吹っ切れたと思います。
いつでも歓迎しますからまた来てくださいね。」

「はい、喜んで来ます。」

そこで小竜姫は横島の手を握る。

「もし、私の覚悟が出来たら、私の方から横島さんに会いに行くかも知れませんよ。」

小竜姫に手を握られた事で動揺した横島は、なんの覚悟かよく分からなかったが、
来てくれるのは嬉しいので素直に喜ぶ事にした。

「はい、楽しみに待ってますね。」

「ええ、その時は多少迷惑を掛けてしまうでしょうが、楽しみに待っていてください。」

「先生なにやってるでござるか!!」

横島と小竜姫が手を握っているのを見つけたシロが、文句を言いにやってくる。

「ば、ばか、別れの挨拶をしていただけだよ。」


そして横島たちはみんなに見送られて山を降りて行った。
見えなくなるまで三人を見送った小竜姫たちは、また修業場へと入ろうとする。

門に入る手前でジークは止まり、貼り付けてあった看板を外す。

「妙神山の休日もこれで終わりですね。」

「ええ、そうですね。ねえパピリオ。」

「なんでちゅか?」

もう一度ゆっくり横島たちが去って行った道を見つめると、小竜姫はそっと呟いた。

「人間の一生は私たちに比べれば本当に短い一瞬です、だから悩んでいる暇なんて無いのですよ。
一度決めたらすぐ行動に移らないと、手遅れになってしまいます。それを分かってくださいね。」

パピリオには小竜姫の言葉がいまいち分からなかったのだが、
そうですねと返事を返すと、小竜姫と一緒にいつまでも道をジッと見つめていた。

この子に私が言った事が理解できるまで、何もかわらないでいてほしいと願うのだった。

そして私はいつかきっと・・・






あとがき

ども青い猫又です。
はじめに言いたいことは、ペース配分ぐらいちゃんとしろよ私!!
その6が全体の1/3近くある事に気が付いて、軽いショックを受けてしまいました・・
しかもそのせいで、前編後編じゃおさまりきらなくなってしまいました。
変な切れ方してごめんなさい
いろいろと突っ込みたいところはあるでしょうが、勘弁してください。

まあ気を取り直して。
みなさん妙神山の休日いかがだったでしょうか?
出来れば感想お願いします。
ではでは

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