ザ・グレート・展開予測ショー

妙神山の休日 その6 中編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 4/ 3)









かぽ〜ん

「で、ここが私と来たい場所だったのですか。」

湯浴み着に着替えた小竜姫が、湯船につかりながら横島に質問をする。
正面に居る横島は、視線を小竜姫からピクリとも動かさない。
正直じっと見られるのは恥ずかしいので止めてほしかった。
さすがに嫌とまではいかないのだが・・複雑なところだ。

「俺は今、生きててよかったと心底喜んでます。」

「は、はぁ。」

なんと言っていいのかちょっと迷う。
小竜姫には嬉しいよりも、一緒に入る気恥ずかしさの方が上回るので、湯船から出るに出られなかった。

「ささ、お背中をお流ししましょう。」

そう言って横島は小竜姫ににじり寄るのだが、小竜姫がいつの間にか取り出した剣によって近寄れなくなる。

「大丈夫ですよ横島さん、自分で出来ますから。」

「言わせてもらえば小竜姫さま、風呂場にそういうものを持ってくると危ないですよ。」

二人は全然ロマンチックじゃない見つめあいを始めた。
横島は隙あらばとチャンスを窺うのだが、小竜姫もけっしてさせまいと隙を作らない。

「いえいえ、何故か持って入らないほうが危険を感じましたので。」

「なるほど、俺って信用されてませんね。」

そう言いながらも横島は少しずつ小竜姫を湯船の端にと追い詰めていく。

「そう言う台詞はぜひ、にじり寄りながら言わないほうが説得力が出ますよ。」

「それもそうですね。あはははは。」

「そうですよ。あははは。」

相変わらず二人は、見つめあいながら乾いた笑いを上げた。
そして、一回ため息をつくと小竜姫は剣を鞘に収めて横に置く。

「私も約束守ったんですから、横島さんもちゃんとお話しましょう。」

「分かりました。」

そう言うと大人しく最初の位置に戻って湯船につかる。
今度はさすがに小竜姫をジッと見つめないで周りの風景を見出した。

「ここの風景綺麗だと思いませんか、この修業場には他に何も無いのですが、
これは自慢できると私は思ってるんですよ。」

「ええ、最初見た時には驚きましたよ。ここまで登ってきた甲斐があったってもんです。
いや、作り物なんだから関係ないか。」

少しの間二人は黙って夕日に照らされた山々を見ていたが、横島がその沈黙を破る。

「でも、なんで夕方なんですか、昼間や夜だってよかったでしょう。」

再び小竜姫のほうを向きながら、横島はそっと質問をする。
小竜姫も横島を見つめながらその質問に答える。

「パピリオが、夕方にしてくれって頼んできたんですよ。」

「パピリオがですか。」

横島は不思議そうに聞き返した。

「ええ、姉と最後に話した時に、日が沈む一瞬の光景はとっても綺麗だと教えてもらったそうです。」

「そうですか・・」

横島はまた夕日に目を向けると、ジッと見つめる。

「夕日はお嫌いですか?」

睨むように夕日を見ていた横島に向かってそっと聞いてみた。
しばらくの間横島は黙って夕日を見ていたが、まるで独り言のようにそっと呟く。

「いや、嫌いになんてなれませんよ。
あいつも好きだったし俺も大好きですよ、ただ、ちょっと思い出が多すぎる。」

「そう、ですね・・」

ただ黙って二人は夕日を見つめ続けた、横島が今なにを考えているのか、それは小竜姫には分からない。
自分は不器用だから、人の気持ちの駆け引きは出来そうに無かった。
だから自分は自分なりのやり方をするしかない。

「でも、夕日はやはり作り物より本物を見たほうが綺麗なのかもしれませんね。
作っておいてなんですが、ここは少し悲しい場所です。
永遠に終わることの無い終わる寸前、綺麗だけどなんだか寂しいです。」

「そうですね、そう考えればそうなのかもしれませんね。」

横島は夕日を見ながらしばらくジッとしていた。
それを見ながら小竜姫は、聞こうと思っていた事を質問する。

「横島さん、アシュタロス事件の事は報告書で見ました。あの時私は何の役にも立てなかったけど、
だからこそ後で一生懸命に事後処理をしてきたんです。
そして、横島さんとルシオラさんの事も、失礼だとは分かってましたが大体は調べさせてもらいました。
パピリオからもルシオラさんの事は聞いてましたし・・・・
横島さん、まだルシオラさんを見捨てた事を後悔しているのですか?」

小竜姫は言い終わった後もジッと横島を見つめるのだが、横島は答えを返さずにジッと夕日を見つめ続けている。
いや、見つめるというよりずっと考え込んでいるのかもしれない。
小竜姫には10分にも20分にも感じられたが、実際には数分も立っていなかっただろう。
ゆっくり小竜姫の方を向く。

「そうですね、後悔しなかったと言えば嘘になると思います。
でも、あいつもそれを望んでいた、ルシオラは死ぬと分かっていながら俺に魂を分けた時、
覚悟は出来ていたんでしょうね。
おれ、馬鹿だったからルシオラの気持ちに、なんにも気づいてやれなかった。
気づいてやれればもっと違うやり方もあったかも知れないのに・・
ただ、それだけが今も残ってる俺の後悔です。」

「横島さん。」

小竜姫はどう言えば良いのか分からなかった、きっと横島は慰めなんてほしいとは思っていないだろう。
自分が犯してしまった取り返しのつかないミスに、これからもずっと後悔を続けるかもしれない。
だがそれはとても悲しい事だ、罪と言うものは自分で自分の事を許せない限りずっと己を苦しめる。
けっして楽になる事の無い、内側から自分を腐らせる毒のようなもの、
横島はこれからもずっとそれを抱えて生きていくのだろうか。

そんな気持ちが顔に出ていたのか、横島は小竜姫に近寄るとそっと頭の上に手を置く。

「そんな顔をしないでください、大丈夫ルシオラは最後に言ったんです。
魔族にとって生まれかわりは別れじゃないって、今回は諦めるけど次は必ずって・・・
今はもう娘として愛する事しか出来なくなりましたけど、
ルシオラをきちんと復活させてやれば来世で一緒になるかもしれない。
だから、もう一度ルシオラに会えたら、その時は自分を許せる気がするんです。
それは娘だけど、自分なりに愛してやれる気がする。
まあ、嫁さんに怒られない程度にしておきますけどね。」

軽く笑って頭を撫でてくる。
小竜姫は何も言えずに横島に頭を撫でられている。

「でも、俺を好きだって言ってくれるやつに、申し訳ない気持ちもあるんです。」

「なぜですか。」

急に手が止まって横島が弱気な事を言い出したので、小竜姫は急いで顔を上げる。

「俺は自分の事を好きだって言ってくれる人を、ルシオラを復活させる道具にしてしまうんじゃないかって。
だれだって、自分を使って他人を復活させるなんて嫌でしょ。」

小竜姫はその言葉にキッと目元をきつくすると、少し怒ったように質問する。

「横島さんは好きでもない人に、子供を生ませる事が出来るのですか?」

「そんな事できるはず無いじゃないですか!!、俺はいい加減なやつだけどそこまで馬鹿じゃありません。」

その答えに満足した小竜姫は、横島の頭を自分の胸に抱え込む。

「なら良いんですよ。きちんと相手にルシオラさんの事を話せば、きっと協力してくれます。
横島さん、女性にとってルシオラさんを生む事が怖いんじゃないんです。
生む事によって横島さんの気持ちが、ルシオラさんに言ってしまうのが怖いんですよ。
だからちゃんと奥さんを愛してあげれば、誰も悲しまずに幸せになれるはずです。」

横島は小竜姫の胸の中で目をつぶる、そして少し考えた後で小竜姫に返事をした。

「はい、おれ自分の奥さんは絶対に幸せにして見せます。」

「はい」

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