ザ・グレート・展開予測ショー

『 T I M E 』


投稿者名:BOM
投稿日時:(04/ 4/ 3)




 時計の針は、午前6時。




 窓から朝日が差し込んでくる。カーテンの隙間から差し込むその光が顔に照らされる。
 目覚まし時計の音が部屋中に響く。毎朝の恒例行事。ジリリリとなる時計をストップさせて、彼女は目を覚ました。

 「ふっ・・・ふあぁ・・・・・・っ・・・・・・」

 体を起きあがらせ、ベッドの上で大きな背伸びを一つ。背筋が伸びて、体中に何とも言えない爽快感が走る。
 ついで二、三回目をこすると、意識がハッキリとしてくる。

 「さて・・・っと・・・」

 窓に近寄り、カーテンを開けて窓の前に立つ。さっきまでは顔にしか照らされていなかった太陽の光が全身を包み込む。
 窓を開けて感じる朝の清々しい空気。ひんやりとした空気は目覚めを促すには最高だ。

 「すうぅ・・・はあぁ・・・」

 深呼吸をして、この空気を吸い込む。肺に新鮮な空気がたまり、体中を駆けめぐる。
 十分に朝の空気を堪能した後、頬を軽くぺちっ、とたたき、自分自身に言い聞かせる。

 「さぁ、今日も頑張ろうっ!!」

 ――旧姓――氷室キヌ。新婚六ヶ月であった。



『 T I M E 』



 時計の針は、午前7時。



 じゅーっ・・・

 テレビの音声が少しだけ聞こえる部屋に、何かが焼ける音が響く。それはフライパンの上で卵が焼ける音であり、なおかつ、自分の後ろにあるトースターで、パンが焼ける音。

 とんとんとんとん・・・

 リズミカルに刻まれるその音は、新鮮な野菜を切る音で。
 瑞々しさがまだ残るそれをサラダボウルに入れて、食卓へと持って行く。

 「え〜と、あとはミルクと・・・」

 トースターから取り出した焼きたてのパンと、フライパンから皿へと移した作りたてのハムエッグ。それに冷蔵庫からミルクを取り出す。
 ありきたり、と言えばそうなるのかもしれないそのメニューを食卓へと運んでいく。

 「・・・よしっと・・・っ・・・」

 目の前にある本日の朝食を眺めつつ、そう言うおキヌ。なんとなく時計を見る。
 もうそろそろ起きてくる時間だ。枕元に立って、彼が目を覚ました時、隣にいて笑顔でおはようのあいさつをするのもいいかもしれない。
 そんなことを思いつつドアの方へと一歩足を進める。その時、ガチャリとドアが開いて、

 「ふあぁぁ・・・おはよう、おキヌちゃん」

 まだ少しばかりの眠気を残したように目をこすりながら、彼女の最愛の人が姿を現した。
 そんな彼を見て、くすっと笑いおキヌは言う。

 「ふふふ、どんな寝相してたんです?髪がめちゃくちゃですよ?」
 「え?・・・あっ・・・ま、いいっていいって。それよりさ、朝飯食べよう?」
 「もう、ちゃんと後から直してくださいよ?」
 「わかったって・・・ってと、いただきまーす!」

 言うやいなや、がつがつと朝食にありつく。そんな彼を見て、腕を組んでぷんすか言いながらもおキヌはこの時間を楽しく思っていた。
 一緒に事務所で食べていた時もそうだが、彼との食事はいつもよりも一段と楽しく感じられる。
 この時間――朝食の時間――がおキヌにとって、朝一番大切で一番楽しい時間でもあった。



 時計の針は、午前9時。



 ズゴー・・・

 夫を仕事に送り出した後、おキヌは掃除をしていた。今日は弓と魔理とで買い物に行くつもりだ。先に掃除を済ませてしまおうというあたり、実に彼女らしい。
 夫は現在、美神除霊事務所で正社員として働いている。流石の美神もおキヌが結婚してからだと時給制などではなく、月給制に切り替えてくれた。その美神も今は西条と付き合っているとかいないとか。

 「これでお掃除はおしまいっと・・・えっと、約束の時間には間に合うわね」

 掃除用具一式を片づけた後、部屋へと戻り身支度を済ませる。しばらくして支度がすみ、部屋から出て玄関へ。
 そして玄関で靴を履いてる時、ふと何かを思い出してリビングへと戻った。そしてリビングに置いている、あるかごへと近づく。

 「ごめん、忘れてた。じゃあ行ってくるね」
 「みっ♪」
 
 そう言ったのはかごの中にいるグレムリンの子ども。名前は『ぐーちゃん』おキヌちゃんが命名。
 結婚した時におキヌちゃんがどこからともなく連れてきて、ついつい飼ってしまった。
 あの『がじがじ』はしないようにしつけたらしい。今ではもう立派な家族の一員だ。

 「あっ!急がないと遅れちゃうっ!?じゃっ、じゃあ行ってきまーす!」

 おキヌが時計を見て慌ただしく玄関へと向かう。
 そしてばたん、と勢いよくドアが閉められた。そしてそれからすぐ、

 「みっみみっみ――♪」

 まるで、いってらっしゃいと言うように羽をぱたぱたとさせつつ、ぐーちゃんが鳴いたのだった。



 時計の針は、午後3時。



 ずずー・・・

 弓達との買い物から帰ってきたおキヌは、ちょっとした休憩とばかりにお茶を飲んでいた。
 ソファに座って、ほっと一息。隣にあるのは今日買ってきた新しい服。
 あまり派手でない、淡い水色のワンピース。
 魔理が言うには、

 「もっと派手なのでもいいじゃん」

 らしいのだが、結構迷った結果こちらに決めた。弓は弓で

 「まぁそちらの方がおキヌさんらしいですわね」

 などとも言っていたし。
 彼が帰ってきたら、これを着て見せてやるつもりだ。一体どんな顔をするのだろう。そう思っただけで胸が高鳴る。
 ちょっとばかしにやけながら、そんなことを思っているうち、おキヌはとあることを思い出した。

 「あっ、そうそう。今日録画しといたワイドショー見よっと」

 リモコンに手を伸ばして、ビデオを再生させる。画面に映し出される、お気に入りの番組。

 「ふ〜ん、あの人が・・・」

 朝食とはまた違った、至福のひとときである。



 時計の針は、午後5時。



 うずうず

 うずうず

 まただ、とおキヌは思っていた。結婚してから半年、いつまで経ってもこの時間に来るこのもどかしさは抑えられない。
 理由はわかっているのだ。彼の帰る時間は、いつも決まっているからだと。そして一刻も早く逢いたいからなのだと。
 もう夕食の準備もほとんど終わってしまったし、さっき買ってきたワンピースも着ている。
 後はただソファに座って帰りを待つだけなのに、それすらできず。

 「・・・・・・っ・・・・・・!!」

 どうしようもなくなり、部屋の中をぱたぱたと歩き回って、10分。
 まだ時間が余るので掃除をして、20分。
 しかたなしに夕食にもう一品加えようとして、20分。
 それでも、あと10分残り、またどうしようもなくなって、また部屋の中を歩き回る。

 ぱたぱたぱた・・・

 もどかしさを必死で抑えながら、まだかな、とおキヌは時計を見た。目に入る長針と短針。

 「あと・・・10秒っ!」

 針を目にした瞬間、ばたばたと慌ただしく急ぎ足でドアへと近づく。もちろん、カウントダウンは忘れない。

 「7・・・6・・・5・・・4・・・」

 カウントが少なくなっていくほどに高鳴るのを感じる、自分自身の鼓動。

 「3・・・2・・・1・・・0!」
 
 『ピンポーン♪』

 0になると同時に鳴るインターホン。鼓動が最高潮に達する。
 そしてドアの向こうから聞こえてくる、彼の声。

 「おキヌちゃーん、ただいまー!」
 「はっ、はい!今開けますっ!」

 返事をしてドアに手をかける直前、一回深く深呼吸。
 すると今までけたたましく鳴り響いてた鼓動が、すうっと抑えられ、自然と顔が笑顔になる。

 (そうだ、笑わなきゃ・・・笑顔で、今の気持ちを全部込めたこの笑顔で、笑って出迎えてあげなきゃ。)

 そう自分に言い聞かせて、ドアを開ける。

 「お帰りなさい!横島さ・・・あなた!!」



 時計の針は、午後6時。



 いつも彼女が、笑う時間。

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