ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(5‐1)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 4/ 2)

元亀二年,九月十一日の夕暮れ。
比叡山延暦寺。
それを取り囲む,織田信長軍の陣所。
耳の大きな小男と,金柑の実を思わせる明るい赤色の髪をした男とが,言い争いをしていた。
「非戦闘員迄殺すのか!?」
「それが命令だ!外から来た俺には,選択の余地など無い!」
「殿の狙いはその評判だけだ!例え命令でも――」
「黙れッ!」
赤髪の男が,反論を封じる様に叫ぶ。
「黙れ……!」
「……っ!」
小男が,赤髪の男を睨む。
「お,落ち着いて下さい,お二人共!」
「陣中での争いは御法度ですぞ!」
周りの兵達が,必死に二人を制止する。
「……彼等は何も知らないのですよ?信仰の名の下に,騙されているだけだ!その様な者達を弑するなど,殿の御心に適うべくもない!」
「だが,命令はそう来た!」
「我々は,現場司令官だ,命令の拡大,縮小解釈も仕事でしょう。それとも……,十兵衛様には無抵抗な者を虐殺する趣味でもお有りでしたかな?」
「貴様ッ!」
上目遣いで挑発する小男に,赤髪の男が掴みかかる。
「……」
「……!」
息を荒げて,至近距離で二人の男が睨み合う。
「こ,これ!何をやっておる!」
遠目にそれを見た中年の男が,慌てて仲裁に入った。周りの者よりも豪奢な鎧を身につけている,一見して名の有ると分かる男だ。
「半助様……」
小男が,中年の男の名を呼んだ。
佐久間半助信盛。
信長が幼少の頃に,その父・信秀の命により信長付き家老となってから,一貫して信長に従っている。前年の姉川の戦いでは,信長の本陣の前を守護して奮戦した。実力重視の信長の元にあって,今だに生き残っており,栄華を得ているのは,譜代の重臣の中では彼だけである。
「両者とも,落ち着かぬか!ええい,一体何があったと言うのじゃ」
信盛が,神経質そうな声で問う。
「……」
小男は,目を背け不貞腐れた様に黙り込んだ。
小男の代わりに,赤髪の男が口を開く。
「木下殿は,殿のご命令が不服の様です」
「む……」
それを聞いた信盛は,苦々し気な顔をした。
「只,唯々諾々と殿のご命令に従う事だけが,家臣として在るべき姿なのか……,と思っただけです……」
目を逸らしたまま,小男が言った。
「藤吉郎……,お前の気持ちは分かる。儂や明智殿も,そのご命令を聞いた時,殿に何も申し上げなかった訳ではないのだ」
「で……,殿は何と?」
剣呑な視線を保ったまま,小男が訊く。
「この霊場を敵陣とした悪僧共を見逃した者は,皆,同罪。玉石共に砕いてこそ,真の浄化が出来るというもの。如何なる者も見逃してはならぬ,と」
「……」
「木や金で出来た物を御仏と称して民を欺く事こそ罪悪,何の遠慮がいろうか……とも,申された」
「……」
「滝川殿が,殿は無神論者だと申しておったが,まさかこれ程とはな」
「……っ!」
小男は,顔を伏せて拳を震わせる。
「藤吉郎……」
「私とて,民草から富を搾り取る破戒僧共に同情など致しませぬ!されど……,僧俗男女の区別無く殺し尽くせと言うのは……,幾ら殿のご命令と言えど,承伏しかねまする。いえ,それが殿の真意などとは,到底思えませぬ!」
「じゃが,それが命令じゃ」
「……分かっております……」
「なれば,如何すれば良いか,分かっておるな……?」
「はい……。……失礼致します」
項垂れたまま,小男は自分の陣所へと引き返した。
「ほれ,明智殿もご自分の陣所へ帰りなされ」
小男の背中を見送った信盛が,赤髪の男にも帰陣を促す。
「は……。では,失礼致します」
「うむ」
赤髪の男は,信盛に軽く頭を下げると,難しい表情のままでその場を後にした。

赤髪の男の名は,明智十兵衛光秀。
小男の名は,木下藤吉郎秀吉。
何れも素性定かならぬ男達だが,彼等が織田軍団の出世頭である事は,誰もが否定し得ぬ事実である。



「如何したんだよ。何をそんなに落ち込んでる?」
「別に……」
「別にって事ぁねえだろ」
「うん……」
部下達が開戦準備に勤しむのを眺めつつ,寸分違わず同じ顔の二人の小男が,欄干に寄り掛かり,話をしていた。
木下藤吉郎秀吉。
二人で,一つの名前を名乗る男達。
彼等は,時空違いの同一人物だと言う。冗談にしては,笑えない事実だ。
「お前は……,何とも思わないのか……?」
先程,明智光秀と言い争っていた方(藤吉郎としておこう)が,もう一人(秀吉とする)を覗き込んで,問う。
「別に……。殿の仰る事は,ご尤もじゃねえか。抑も,この戦国の世で赤の他人の事なんか,一々気にしてられっか。お前や光秀は,神経質過ぎんだよ。大体,敵兵と売春婦,同じ命に何の違いが有るってんだよ」
「いや,違うと思う……。て言うか,問題点は其処じゃない」
「兎に角!女子供は殺したくねえ,若しくは得の高い坊主を手に掛けたくねえなんてのは,お前のエゴだぜ。此処は戦場だ。そして,連中は敵兵だ。殿の天下布武を阻む“敵”に,何の容赦が要るってんだよ」
「それはそうだけど……」
「だろ?気に病むんじゃねーよ。其処等で野盗にでも襲われて,犯し殺されてる女なんざ,腐る程いる。食うものも食えず,腹を空かして死んでいくガキなんざ,其処等辺にゴロゴロしてる。けど,お前にはこれっぽっちも関係ねーだろ?」
「いや,それとこれとは話が……」
「如何違うってんだよ。目の前か,そうでないかの違いだろ?」
「違……,て言うか,お前の考えは如何してそう極端なんだ……」
「るさい。何にせよ,お前が此処でうだうだ言ってても,何も変わんねーよ。まさか,自己満足でウチだけ動かないなんて訳にもいかんだろ?殿のお怒りに触れて,どんな事になるか」
「……ああ……」
「……」
未だ釈然としない顔の藤吉郎に,秀吉は溜息をついた。
「分かったよ……」
「え?」
「今回は,俺一人でやってやる。お前は,後ろで寝てな」
「え,でも……」
「戦意の無え奴が前に出ても,仕方無えだろ?死にたいのか,お前え」
「……」
「心配すんな,貸しだとか言わねーよ。俺等は,二人で一人だろ?」
夕日を背に,秀吉はにやりと笑った。


「……半兵衛」
「は……」
弟の小一郎秀長と共に,部隊の指揮に行った秀吉を見送った藤吉郎は,陣所に軍師の竹中半兵衛重治を呼んだ。
「何でしょうか」
「……頼みがあるんだ。至急,手配を頼めないかな」
「……」



この日,織田勢に斬られた者は,僧俗男女の別無く,三千人余り。火は三日三晩燃え続け,豪壮な伽藍も残らず焦土と化した。尤も,三千と言うのは信長の自己宣伝で,実際に殺害したのは千六百人程と言う説もある。
木下秀吉(藤吉郎の方)や明智光秀等,秘密裏に僧達を殺さずに逃がした武将も存在したが,織田家の将兵達は然したる抵抗も無く僧侶達を斬った。仏罰を恐れて抗命や逃亡を策する者は,終ぞ現れなかった。藤吉郎や光秀にしても,堕落を極めた僧兵達に同情などしていない。ごく一般の庶民と言える将兵達からも,比叡山は尊敬の対象とは見られなくなっていたのである。
信長は近江の比叡山関係の所領を没収,志賀郡のものは明智光秀に,野洲や栗太のものは佐久間信盛に与えた。焼き討ちに反対した二人にその領地を分け与えたのは,恥を掻かせた事へのせめてもの侘びなのか,それとも只の加虐趣味なのか。
『天魔の変化』と表されながらも,信長は黙して語らない――。



戦が終わって,各武将達は,それぞれ陣中の事後処理に向かっていた。
「たく,お前ぇはよお……。甘過ぎるぜ,他人にも,自分にもよ。意味の無え事,すんじゃねえよ」
「……ま,良いじゃん。彼等をこっそり助けた事が,この後,何かの役に立つかも知れないし……」
「け,詭弁だな……」
「そうでもないでしょ」
「ふん……」
「……」
藤吉郎と秀吉は,最早跡形も無い延暦寺を眺めていた。
「……あっ」
不意に,藤吉郎の眼から涙が零れ落ちた。
「如何した,彼奴等の事でも思い出したか?」
「……」
秀吉が問う。
秀吉の言う“彼奴等”とは,嘗ての藤吉郎の友人,ヒナタとヒカゲの姉妹である。
トキヨミ族の末裔だと言う彼女達は,十数年前の天回宗との戦いにおいて,時空の狭間に落ち込んでしまった。即ち,絶対の死である。
そして,その天回宗との戦いの舞台となったのは,他ならぬ,この比叡山だった。
「もう,何年前になると思ってんだ。今更,嘆いたって仕方無えだろ」
「……」
「ヒカゲだかヒカリだかが言ってたろ?あれは,運命だったんだよ」
「運命……なんて……」
「けど,実際,お前にはそれが変えられなかった」
「……」
「何にせよ,後悔したって,もう遅えよ……」
「分かってる……けど……,辛いのは仕方無いだろ……?」
「……まあな」
「……」
「なあ」
「え?」
「お前,今の台詞,ねねの前でも言えるか?」
「……。いや,あのな」
取り敢えず今の所,藤吉郎は浮気などした事ないが,彼の愛妻・ねねは,かなり嫉妬深い。それさえなければ,度量の深い,非の打ち所の無い妻なのだが。
「いや,ま……,そんな所も可愛いかな,なんて……」
「誰に言ってんだ,お前……」
「あ,あれ?」
「ま,兎に角だ」
秀吉が,努めて白けた眼で語る。
「俺等は,生きてる。やるべきは,今を生きる事さ」
「うん……」
「奴等は,自分の意志で逝ったんだ。お前を,死なせたくなかったからだろ?思ってもらえて彼奴等は幸せかも知れないが,それだけじゃ駄目だ」
「分かってるってば!……一寸,感傷に浸ってただけじゃないか」
「なら良いけどな」
「……」
「お前は,前を向いて生きろ」
「俺達は……だろ?」
「ふん……」
「……」
「……」
「ははは……」
「くっ,くくく……」
「ははははは……」
二人の男は,顔を見合わせ,どちらからともなく,笑い出した。




そしてこれは,そんな世界から少しずれた時空のお話。











I,C,P,O,超常犯罪科(通称・オカルトGメン)日本支部。
隊長の織田信秀が,とある事件の資料を部下であり教え子である,西条鍋子捜査官に手渡した。
「女性ばかりを狙った連続殺傷事件。何らかの霊能者か妖魔の類が関わっている可能性が高い。詳しくは資料に目を通してくれ」
そう言う信秀の腕には,史上最年少でのスイーパーライセンス取得を果たした自慢の初孫,淀がいる。彼女は,一歳になるかならずと言う赤ん坊である。それが何故に資格を取れたかは,此処では詳しく触れないでおこう。つーか,【資格試験編】を読んで下さい。
「はい。しかし――」
「うむ,人手不足だな」
「はい……」
相槌を打つと,鍋子は項垂れた。
オカルトGメンの日本支部が出来たのは,つい最近。ほんの一年程前の事である。当初,イギリス帰りの鍋子が主任捜査官として赴任したが,とある重大事件を扱うに当たって,織田家をほぼ一代でオカルトの名門に仕立て上げた信秀に,隊長就任の命が下った。それ以来,信秀がオカGを指揮している。
日本の警察は科学捜査一辺倒で,基本的に霊能捜査の有用性を認めようとしない。又た,国際組織に対して反発が強いのも事実である。今回,警視庁は捜査に行き詰まって,渋々オカGに応援を求めてきた。だが,前述の理由故に,オカGの日本支部は人手が足らないのが現状なのである。今現在も,オフィスに待機しているのは,主任捜査官である鍋子一人だった。
「それなら,倅の所に応援要請を出しておいた。おいおい此方に来る筈だ」
「倅……って,信ちゃんですか?」
「ああ,そうだ」
「そうですか……」
信秀の三男・信長は,この近所で除霊事務所を営んでいる。民間GSの王国とも言われる日本で,最強のGSと言われている逸材だ。因みに,鍋子は信長の愛人の一人である。八つも年下の信長を十年も前から狙っていたらしいが,ショタコンと言うと怒る。……来年には三十歳。イギリス留学時代はプレイガールとして鳴らした鍋子も,そろそろ焦ってきているらしい。
て言うか,信秀の子供達は大方“信”の字が付いているので,本当は『信ちゃん』では区別が付かないのだが,信秀の弟子だった鍋子は嫡男の信長以外とは余り面識が無かったので,こうなっている。信長の異母兄弟達は,大体がそれぞれオカルトの名門である母親の実家で跡取りとして育てられている。今時,こんな派手な乱倫で閨閥作りに勤しんでいるのは信秀位だ。
しかし,何れ日本のオカルト界は織田家に乗っ取られてしまうかも知れないと言うのは,真実味を帯びた予測である。天皇家と千家々に継ぐと言われるオカルトの名家,六道家の跡取り娘にしてからが,信長の愛人なのだから。
閑話休題,それは兎も角。
「分かりました,行きましょう」
心霊捜査の重要性を警察に認めさせるには,事件の解決に貢献するしか他に無い。出来る事なら,オカG単独で解決出来れば,万々歳だ。そして,なるだけ早期に解決するのが喜ばしい。
椅子を鳴らし,鍋子は席を立った。



「――て言う訳だから,信ちゃんが居ると思ったのに……」
「……」
「何で貴女達しか居ない訳?」
「それは悪かったわね」
「……」
「ま,まあまあ……」
数十分後,オカG日本支部の応接室には,鍋子と三人の女性の姿が在った。
一人は,ヒカゲ。信長の経営する『織田除霊事務所』のメンバーで,双子の妹のヒナタと一つの身体を共有していると言う,特殊な体質の少女だ。年の頃は十代後半。彼女達の詳細は,実は謎に包まれている。
もう一人は,竹中重治。人郎族の少女である。『織田除霊事務所』のアシスタント(無免許の見習いを,屡々こう呼ぶ)だ。術は,主に霊波刀を使う。通称は半兵衛。何故かは分からないが。
「信長様は,別の仕事で出てるわ。それで,私達が行く様に言われたの」
金色掛かった白髪の少女,ヒカゲが鍋子に言う。
「そう言う訳でござるよ」
赤と銀の髪に白い尻尾を付けた重治が,相槌を打つ。
「ふう……,まあ,良いけど」
鍋子が,溜息をつく。
「そうですよ,先輩」
その鍋子を宥めるのは,鍋子の大学時代の後輩・万千代めぐみ。今は失われた中世の魔法を極めた魔女で,魔法料理店を経営する傍ら,GSもやっている。今回,ヒカゲと重治の二人だけでは心許ないと踏んだ鍋子が喚んだのだ。
「事件の概要は今,示した通りよ。後は,兎に角現場に行きましょう」
「ええ」
「分かったでござる」
「はい」
鍋子の呼び掛けに,三人は頷いた。



四人は,鍋子の運転する車で現場へと向かった。
車窓の外の風景が,次々と後方へ流されていく。
「所で,何で今日はヒカゲ殿でござるか?」
何とは無しに,,後部座席で重治がヒカゲに問うた。
「え?」
「いや,だって,普段はヒナタ殿が表に出ているでござろう?」
「ああ……,私の方が能力が高い分,消耗が激しいからね。でも,まあ,こっちに来てから修行して,少しマシになったけど」
「それで,今日はヒカゲ殿が表にいるでござるか?」
「ああ……,何か嫌な予感がしてね……」
「嫌な予感?」
「ええ。この時空は,私の知ってる歴史じゃない。だから私は,もう予言者ではないけれど,それでもトキヨミ族の末裔たる私達には,知っての通り霊感が有るわ。特に,予知は得意分野」
「えっと……,それで?」
「今日は,ヒナタを表に出しちゃいけない――。私の予知が,そう告げている」
「……ヒカゲ殿……」
何でござるか,この――,頭の中を覗き込む様な眼は……。
「……」
「……」
「……幾ら出番が無いからって,それは一寸……」
「いや……,出任せじゃないわよ?」
「ホントでござるか?」
「……」
キッ!
其処で,車は止まった。
「着いたわ」
運転席の鍋子が,後ろを覗き込んで二人に告げた。



「此処が,つい先程起こった,五人目の被害者の遺体が発見された場所。血痕等から考えて,此処が殺害現場と考えて良いと思うわ」
鍋子が,調書を読み上げる。
此処は,とある駅前の陸橋の下だ。不法駐輪された大量の自転車の横には,今時珍しい電話ボックスが見える。
そして,番号の付いた幾つもの小さなピラミッドと,死体を現す,人の形を象った白いテープ。
「と言う訳で,半兵衛ちゃん」
「何でござるか,西条殿」
「先ずは,人狼故に鋭敏な霊的感覚を持つ貴女に,この場を霊視して欲しいの。何か,手掛かりが掴めないかしら」
「任せるでござる!」
鍋子の指名に,重治は元気良く手を挙げた。

と言う訳で,先ずは霊視である。
「くんかくんかくんか……」
「……う〜ん……」
「くんかくんかくんか……」
重治が,四つん這いになってアスファルトの臭いを嗅いでいる。
……彼女は基本的に美少女と言って良い位に整った容姿をしている為,何と言うか……その……,何ともアレな光景だ。
「ギャラリーからの視線が痛いですね……」
「て言うか,嫌らしいわね」
「そうですね……」
「……」
めぐみとヒカゲが,気恥ずかしさ半分呆れ半分で言葉を交わす。これが事件解決への最良の方法とは分かっているのだが。
「貴女の巫女衣装が目立ってるんじゃないですか?」
「いや……,どっちかって言うと貴女の魔女ルックの方が……」
「そうですか?」
「……」
と言うか,どっちもどっちだ。因みに,鍋子は何故か制服姿である。
結論,四人揃うとより恥ずかしい。
何処のキャバクラだ,此処は。
「!」
不意に,重治の動きが止まった。
「如何したの,半兵衛ちゃん。何か見付けた?」
近寄って,鍋子が訊く。
「死臭が……。弱過ぎて,途切れ途切れでござるが」
「本当!?」
「間違いないでござるよ」
この場合の“死臭”とは,専門用語で人が死んで霊力が抜けていく時に発する独特の霊波の事を指す。
「でも……」
重治が,言い澱む。
「何か,不審な点でも?」
「死臭が,枝分かれしているでござるよ」
「え?」
重治が,顔を上げた。
其処で,めぐみが口を挟む。
「これは,連続殺人なのでしょう?殺人を犯した人には,被害者の恨みと死臭が染みついて,簡単には取れません」
「詰まり,行きと帰りって事ね?上手い事,正しい方を選べれば良いけど」
ヒカゲが,後を引き取る。
「でも,もし間違えたらやり直す時間は無いわ。もうすぐしたら,此処の霊波も消えてしまう。半兵衛ちゃん,どちらが正解か分かる?」
「え,う〜ん……」
鍋子の問いに,苦しそうな表情を浮かべる重治。
「なら,こうしましょう」
「え?」
「じゃん」
めぐみはそう言うと,何処からか“使い魔”の猿・サスケを取り出した(?)。
「流石に犬神程ではないですけど,このサスケも,人間よりは鋭敏な感覚を持っています。片方はこの子に追わせると言うので如何でしょう」
「そうね……,そうしましょう」
めぐみの提案に,鍋子が頷いた。
「じゃあ,私とめぐみはサスケと一緒に此方を,ヒカゲちゃんと半兵衛ちゃんはそっちをお願い出来るかしら」
「任せて」
「もし,犯人を見付けたらすぐに私に連絡入れて。良いわね?」
「分かったわ」
鍋子の言葉に,ヒカゲは傾いた。
「じゃあ……,捜査開始よ!」

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