ザ・グレート・展開予測ショー

酒宴の後に 後編


投稿者名:TRY
投稿日時:(04/ 4/ 1)



「あら、もうこんな時間。そろそろ終わりましょうか」

二時間ほど二人で飲んで美知恵がそう言った頃には

「ふぁい、そうでふね」
「……横島君平気?」
「らいじょうぶでふ」

横島は潰れる寸前だった。

「…横島君。ここに泊まっていきなさい。今日は私、車で来てないから送れないわ。
 そんな状態だったら危ないしね」

普通、女性だけの部屋に一人男を残しておくのはまずいだろうが、美知恵は横島の事を信頼していた。
普段はセクハラ少年な彼だが、女性を傷つけるような男ではない。

「う〜。そうさせてもらいまふ」
「念の為言っておくけど、みんなに襲い掛かったら駄目よ。明日の太陽をみたいなら」
「うぃ、わかってまふ」
「それじゃ、またね」

そんなやりとりのあと美知恵は帰っていった。かなりの時間飲んでいたはずなのに、そんなのは微塵も感じさせない足取りで。
すさまじいまでの酒豪である(汗)

「ふぅ〜」

横島は美知恵が帰ってからしばらくソファーでまどろんでいた。
酔いも少しだが冷めていた。

「こんなに酒を飲んだのは久しぶりだな、あの頃以来かねぇ」

『あの頃。ルシオラが消えてしまったあの時からしばらくの間、俺は何度もあの決断した場面を夢に見ては飛び起きていた。
深く眠る為に酒を飲む日が何日も続く、酒に溺れ現実から逃避したかったのかもしれない。
親父にはよく飲まされていたので抵抗が少なかったのもあるけどな。親父曰く、女性を口説くには酒が強くなくてはいけないらしい。
むぅ、そういえば酒を飲んでるのがばれた時、二人でよくおふくろに折檻されたっけか(汗』

「今はもう皆のおかげでそんな事もないしな」

横島は周りを見る。未だ眠りの園にいる彼女達。
あわただしい日常、命をかける仕事をしていても間違いなく幸せな日々だと胸を張って言えるこの日常が
心に出来た穴を優しく吹く風のように、包み込むようにゆっくりだが癒してくれる。
もう一度横島は皆を見ると掌に文殊を作り出す。「暖」の文殊発動。

「これで風邪を引く心配は減るかな?」

寝息と秒針が時を刻む音が部屋に流れる。
再びチビチビと酒を飲んでいた横島は静けさに耐えられなかったのか不意に歌を口ずさみ始めた。
少し前にクラスの女子が愛子と一緒に教室で歌っていたバラードの曲。

『この歌は体に刻み込まれて忘れれん』

苦笑まじりに歌う横島。理由はある日の放課後にあった。
その日、職員室で出席日数その他含めた説教を聞いて教室に戻ろうとすると歌声が聞こえてくる。
首をかしげ教室の外から覗くと愛子が女子数人と歌っていた。
愛子は学校では有名で、よく皆から話し掛けられている。その時に学校の外の情報を仕入れていると横島は聞いていた。
この日もそうだったのだろう。普段とは違う表情で歌う彼女達。横島は入るに入れずどうしようかと悩んだ時、愛子と目があった。
その瞬間、あたりを静寂が支配する。あとはもう逃げるに逃げられず愛子が自分の本体を振り上げたところで記憶が飛んだ。
その時以来、殴られた事を思い出せばこの歌を思い出すようになったようだ。血まみれになりながら頭にはバラードが流れる。
あまり嬉しくないだろう。

『あんなに顔を赤くしてどつかないでもいいだろうに、そんなに恥ずかしかったのか? 
 それにしては今度カラオケに行こうとか言ってくるし、女は解らん』

女性達も美神と同じで照れ隠し故の行動だったのだのだろう。もっとも美神より積極的ではあるようだ。
しかし彼女達は間違えた。あの照れ隠しが過剰すぎたので横島の中で美神さんと同じ存在に近くなり、
その淡い想いに気づく可能性は少なくなっただろう。

 『まぁ、隊長からお祝い貰ったし。今週末にでもピート達も誘ってカラオケ行ってみるかねぇ。』

そして、横島の歌は歌い終わる。歌の余韻を残し、また静寂へと戻っていく部屋。

「となると、今週末休み貰わないとなぁ。あの子達には明日にでも直接言えばいいか」

ピキィィィン

空気が凍りついた。酒で暖かくなっていた体に寒気が走る。
原因はいわずとも読んでくれている人にはわかるだろう。
そう彼の心を癒してくれていた女性達。酒によるダウンで突っ伏したままの格好なのだがかえって怖い。
彼女達は実を言うと起きていた。どの辺りから起きていたのかというと横島が歌い出したあたりから。
普段、聞くことのできない横島の歌声に聞きほれていた四人は起きる事が出来ずそのままの姿勢でいたのだ。
それにしてもさすが横島である。思っていた事を口に出してしまうこの癖は彼の首を締め付ける事を学習していない。

『なんだか悪酔いしたかな……寒気が…寝るか……うん、寝た方が良いにちがいない。今寝よう、すぐ寝よう』

生存本能が警笛を鳴らす。そして横島は素早く必殺睡眠アイテムを取り出す。

「眠」文殊発動。

自分に押し当てて深い眠りへと落ちていった。

そしてソファーに倒れた横島が倒れると同時に

ゆら〜り

そして起き出す夜叉達

「「「「ふふふふふ」」」」

「う〜〜ん(汗)」

横島は「眠」の文殊の効果で眠ってはいるが見ている夢は悪夢だろう。
夢を見る事もなく深い眠りに落ちれる文殊を超えるプレッシャー。
恐ろしいのは嫉妬に身をゆだねる女性である。


翌日


「痛ぅぅ、寝違えたか? ん、ここは屋根裏部屋? 何故に?」

ソファーにから身を起こすと自分の状態が寝る前と変わっている事に不思議に思う横島。
昨晩はあれから深い眠りの中にいる横島をサンドバックにして気分を晴らした女性達がいた。
一人の女性は爽快な気分で自室にもどり、さっさと眠りの中へ。
またある女性はあまりの横島の状態に横島の懐にある文殊を使って回復させ、横島をソファーで寝かせたあと自室に戻って眠りにつく。
そして、二人の少女が二人の女性が寝たのを確認し、それから横島を自分達の寝床まで運び三人で寝た事を彼は知らない。

「あ、横島君起きたのね」
「おはようございます、横島さん」

ベッドから起き、昨夜の会場となった階下へ現れた横島を美神達が見つけ声をかける。

  びくぅぅぅぅ、ブルブルブル

「お…お、おはようございます、美神さん。おはよう、おキヌちゃん」

何故か体と声が震えるのを感じながら横島は挨拶を交わす。
普段と変わらないはずなのに何故か怖さを感じる横島。

「はやく席につきなさい、あんたの分もおキヌちゃん作ってくれたんだから」
「は、はい。あ、そうだおキヌちゃん。昨日の料理美味しかったよ。来た時にはもうおキヌちゃん寝てたから言えなかったけど」
「ありがとうございます」
「はいはい。冷めるわよ、食べましょ」
「「「いただきます」」」

本当に嬉しそうに微笑みを浮かべるおキヌちゃん。それを見て少し面白くなさそうな美神。
まともな食事が二連チャンで大喜びの横島。
「三人」は食事を開始した。

「そういえば、シロとタマモは先に食べたのか?」

食事が開始されてすぐに横島は二人が食事の席ではなく、部屋の隅でぐったりしてるのを見てそう言った。
当然の質問だろう。普段は出来るだけ皆一緒に食べるのだから。

「あの子達はほっといていいのよ」
「また何かやったんっすか? ……いえ、何でもないです。ごめんなさい」

横島は質問したら凄い目で睨まれたので思わず謝ってしまう。 
そして、三人の食事は微妙な空気のまま終わった。
食後のお茶を飲み、おキヌちゃんが御代わりを持ってくると席をたった時
その話は始まった。

「そうそう。皆、しばらく週末は空けておいてね。仕事が沢山入ってるから」
「え、今週末だけでも休んだら駄目っすか? ちょっと予定が…」

昨日考えた予定。今週末が駄目になるなら次回にまわせばいいが、
その次回が何時になるかわからなさそうなので勇気を出して言ってみた。そして後悔する。
空気が先ほど感じた時よりも重くなった気がした。

「ほう、理由は?」
「え、いや、その。学校の方での用事なんですけど…」
「へぇぇ。随分真面目ねぇ」

正体不明の重圧に横島は冷や汗が止まらない。いや、正体は解っているのだ。いつも、何かかとしばかれているのだから。
ただ、何故彼女が不機嫌なのかが解らない。

『俺はまだ何もしてないはずだぞ(汗』

「横島さん」
「先生」
「横島」

何とか打開策を考えようとしている横島に三人の声が後ろからかけられる。
その声は重く、前に座る美神と同レベルの重圧を感じさせた。
横島はゆっくりと振り向くとそこには、何時の間にか部屋の隅にいたタマモとシロ、
お茶の御代わりの為に席を立っていたおキヌちゃんが後ろに立っている。

『囲まれた』

そして、その三人は

「学校よりも仕事の方が大事(ですよ)(ござるよ)(よ)ね」
「ハイ、ソウデスネ」

逃げ道は既になかった。というよりも考える事を半ば放棄したといったほうがいいかもしれない。
横島は何で朝っぱらからこんなに皆がピリピリしてるのかは解らないが、
ここで下手な事を言うと殺されるというのは充分すぎるほど本能で解っていた。

『あぁ、修行の旅にでも行こう。そう、今日学校から帰ったらすぐに。
 そうだよな、もう誰も失わないようにするってお前に誓ったものな、ルシオラ』

そして横島はいい感じに現実逃避していた。
しかし彼は知らない妙神山に行けば行ったで波乱に満ちた日常が待っていることを


つづかない(笑)






おまけ

横島がカラオケにはしばらく行けないと誘ってくれた女子達に言うと鉄拳が飛んできた。

「俺が何をしたぁぁぁぁ」

とぼろくそになりながら横島が叫んでいる中

「「「「「何もしてないのが悪いのだよ、級友。せめて一人にしぼれ」」」」」(クラスの男子多数)

嫉妬のあまりこめかみをピクピクさせながら級友が遠巻きに見ていた。

そして修行の旅に出ることを彼は決意した。







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