ザ・グレート・展開予測ショー

NO NAME(前編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 3/31)

どんなに辛くても悲しくても前を向く生き方がしたかった。

いつでも自分に正直であけすけな生き方がしたかった。




生きる事とはどういう意味かを知りたかった・・・





でも、心にできた傷はもう痛まないから、そんなこと俺には関係無いさ。














NO NAME(前編) written by SooMighty














いつからかゴーストスイーパーという仕事は完全に姿を消した。
悪霊達も自分の身を守る考え方が進化していったのかどうかはわからないが、
人間達、つまり生ある者達を襲わなくなっていき
いつしか完全に霊たるものは姿を見せなくなった。


害の無い霊までが消えていったのはなぜだかはわかってない。
科学が大いに発達したこの時代にもはや本当に霊的なものが住む
場所が無くなってしまったのだろうか。


神や悪魔と呼ばれていた連中も、もうこっちの・・・人間界の
監視は必要ないと思ったのか、それらしき者が見えたっていう
噂すら無くなりつつあった。
それに伴い一般社会では霊力の使用を禁ずるという法律が
新たに加えられた。
人狼、妖狐などの人間と妖怪のハーフみたいな連中は
人間と同種族にまとめる事も同時に決められた。
今もそういう存在は人間社会に紛れて生きているんだろう。

ああいった連中もその力が無ければ普通の人間となんら
変わりないからな。


当然と言えば当然の話だ。
社会は良くも悪くも、少なくとも建前上は平等でなければならない。
人間の想像の範疇を、科学では理解できない事を野放しになんてできない。
むしろようやく普通の状態に戻ったって事だ。









とにもかくにもゴーストスイーパーという職業は無くなったのだ。
当然その職業に就いていた者たちは、転職を余儀なくされた。

当時の同僚たちは長所を生かし、自分の道を歩いていった。
今は何処で何をしているのかはわからない。


俺も必死に、藁にも縋る思いで勉学に勤しみ、通信制の大学
にギリギリで入学して、今は下請けの小さい会社で仕事をしている。

毎日、上司に愚痴を言われながら好きでもない、ましてや適正がある
ともいえない仕事をなんとかこなして
仕事が終われば、家に帰り、バラエティ番組や野球を見たり、
自分が今狙っている同僚の少し可愛い女の子にメールを送ったり(返事はあまり
返ってこないが)して眠りにつく。
そしてけたたましい目覚まし時計のベルと眩しいだけの朝日に起こされ
仕事に明け暮れる。

そんな単調で変わり映えの無い日々を過ごしている。



こんな同じような日々を繰り返していると、たまに
『俺はもう実は死んでいるのではないか?』
なんて非常にアホくさい妄想をしてしまう。

少なくとも『人生』という高速道路からは確実に落ちている。
別に悲しい事だとは思わなかった。
あの事務所でのスリルに溢れながらも楽しく暮らしていた日々。
『生きる』という事を正に実感していた。


今は機械仕掛けのような日々だけど、俺はもう大人だ。
そんな事を実感できないからって嘆いている暇なんか無い。
過去が美しく見えるのなんて当たり前の事だ。
誰だって「昔は良かった。」なんて言いながら生きてるもんだ。


もう俺も20代後半になる。
自分の人生に生きがいとか夢とかなんか言ってられる歳じゃあない。





















結局『生きる』ことの意味なんて無いのだ。
誰もが知っている事だ。








世間知らずだったガキの頃はそんな生き方は嫌だったが
今は別になんてことはない。
あの頃は自分に嘘をつく事はとても難しい事だと思っていたが
実際は何てことなく、むしろ簡単すぎて白けたぐらいだ。
もういい大人なんだからこれぐらいの事ができなくてどうするんだ。
自分を騙すってのは成長した証拠なんだから喜ぶべきことだろ?

俺の心とやらよ。





なのになんで俺の心・・・そう、お前はまた後悔や憎悪を俺自身に
ぶつけるんだ?

お前だってわかってるだろ?
そんな事を苦しみながら考えても何も出てきやしないって。

こんな名前も無い感情に苦しむなんて馬鹿げているってぐらい
わかってくれよ。

俺よ・・・










自分をとうに押し殺したはずなのに。
幼い頃についてしまった傷はもう痛まないはずなのに。

それでも苦悩している自分に腹が立ってしょうがなかった。






















「はっ! やめだ やめだ。仕事中に考えることじゃあねぇな。」
今は会社で1人で残業をしていた。
徹夜で。

「ただでさえ上司にボッーとしている時があるって言われてる
んだからな。しっかりしねぇと。」
ましてや自分で自分に語りかけるなんて危なすぎる。

昔の上司にもよく言われてたっけ?
とりあえず、このつまらない仕事を終えてさっさと家に帰って寝たい。
そのためにも考える事をやめて集中しないとな。


本格的に仕事に力を入れることにした。
















午前4時。

ようやく仕事を全部終えた。
今から帰ると家に着くのは5時か・・・
シャワーを浴びる時間も考慮すると寝れるのは、
4時間ってところかな。
こんな生活も社会人になってからは割りとお目にかかれる。
もう自分でも、それが慣れてきている。
当初は死にそうになったが・・・


「さて、帰るかな。電気は消したし、忘れ物もないよな。」
とりあえずやるべき事はやったので帰れる。
少しだけ解放感が味わえる。



外に出ると朝日が目に眩しかった。
もはや腐るほど見ている朝日だが、これだけは目に慣れる事
はなかった。
変なもんだな。わかっちゃあいるのに慣れないってのは。
本当におかしいもんだ。
まあ、どうでもいい事だけど。
さっさと帰ろう。


駅でもその眩しい朝日のおかげでホームレスが何人かだるそうに
目を覚まし、屈伸運動をしていた。

ホームレス。

不景気の昨今、いまや彼らもそう珍しくない。
都会の駅内なんかではかなりの人数がいる。


社会不適合者と呼ばれ、雨や風をよける場所も無く、食うのにすら
困っている人間達。
世界で最も隔離している人種であり、それ故に最も神聖な人種でもある。
彼らは一体何を思って今を生きているのだろうか?
そんな状態なら死んでいるも同然だ。









なんてな・・・俺も大してこいつらと変わらないか。
『人生』から降りているのは一緒だ。
俺だってこの社会に適応できているとは思えないし。
自分も理不尽な道徳に色んなものを奪われた1人だ。
屈辱だって何回も味わされた。
今は乗り越えたと言っていいかどうかわからないけど、
なんとか生きてはいる。それらを乗り越えた先
に何があるのかなんて全く見えてはいないが。



そんな彼らが何を考えているのかは興味が尽きない。
自分と同じ考えなのだろうか?

それとも全く別の事を考えているんだろうか。
直接聞こうとは思わなかったが、知りたいと思う自分が確かにいた。
ホームレス達とすれちがう度にそんなことを考える俺は
やっぱりアホなんだろう。
知ったところでどうすんだよ。全く本当にどうかしているぜ。













ようやく家に着いた。
会社で決めていた通りにシャワーを浴びて、明日の仕度を
整え、寝た。
疲労感満載な体はすぐに睡魔に襲われた。




やっぱり寝るのは気持ちいいな・・・
眠りに落ちる瞬間そんなことが頭に浮かんだ。

それと同時に全てを忘れてしまいそうな感覚が怖く、























悲しかった。




















また今日というコピーされた様な日常が始まる。
午前9時7分。少しだけ目覚ましよりも遅く起きた。

「今日は各駅には乗れねぇか。」

いつもは各駅電車に乗る。
そうすれば座れるし、また睡眠時間が増えるからだ。
まあ、この時間でも準急か急行にでも乗れば遅刻はまずしないから
いいけど。
準急とかは常に満員で息苦しく、仕事をやる前から疲れるので
できれば避けたかったが、上司にどやされるよりは遥かにマシだ。


身だしなみをそれなりに整え、様にならないスーツを着て駅に向かった。




9時19分発 準急

その電車が人々の、俺の目の前に停車した。
案の定、ほとんどの人が準急目当てだった。
これでもかってぐらいに押し込まれて身動きすらままならない。
この状態が後20分は続く・・・そう考えるだけで憂鬱になる。


周りの顔を見渡すと俺と同じく疲れた顔をしている者。
既に慣れてしまったのか、ケロッとしている者。
そしてそういう事とは無関係に何を考えてるかわからない者。


様々な顔が見れて、少しだけ気が紛れる。
この人達も『生きる』ことに悩んでいた時期があったのだろうか。

もしくは・・・




選ぶこともままならないこの時代に今現在も悩んでいる最中なのか。




そんな迷宮みたいな考えに陥っても20分という時間では
解るわけもなく、いつのまにか目的地に着いてしまっていた。

終着駅と都会って事もあり、みんなこの駅で降りる。
そこからさらに山の手線に乗り換える者もいる。



思わずお疲れさんという言葉をかけたくなる。
人の事を気遣う余裕があるわけではないけど。
見ず知らずの人にそんなこと言えるわけないけど。

みんな必死に生きているのは痛いほどわかる。





それはともかく俺も職場に向かわんとな。
せっかく疲れてまで準急に乗ったのに遅刻したらバカバカしい。
今の時間は42分か・・・これなら余裕で間に合うな。













職場に着いて時計を見ると50分。
ちゃんと10分前には着けたな。
とりあえず自分の机の前に座り荷物を置く。

・・・昨日の残業の報告書ダメ出しされたらめんどいなぁ・・・


そんなことをおぼろげに考えていた。
ここんところは卒なくこなしているから多分大丈夫だろうけど。



入社したばかりの俺は会社の雰囲気を掴めず、
ただオロオロしてはミスを連発して頭を下げていた。
毎日が怒られに行くようなもんだ。嫌になるさ。
今は可も無く不可も無くって感じでこなしていけるぐらいのレベルにはなった。
愚痴は相変わらず言われてるけど。
それでも自分に向いている仕事だなんて到底思えないが。
ただでさえつまらないのに向いてないって実感していたらなおさら
つまらなかった。










そんなこと漠然と考えていたら、いつのまにか10時になっていた。
厄介なお仕事の始まりだ。












会議したり書類をまとめていたら、アッという間に昼飯の時間になっていた。
朝は何も食ってないので、昼はしっかり食っとかないとな。

俺の会社には食堂なんて便利なものは無いので外まで調達
しに行かなければならない。
最も食堂があってもそこで食べる気はさらさら無いので気に
してなかった。


いつも昼食はどっかの適当な安い店で食って、近くにある公園で煙草を吸う。
少しぐらいは仕事を忘れていたいからな。
そんな時間を作ったてバチは当たらない筈だ。





適当なジャンクフードで安い飯を食って、日課の如く
公園に来てみると人影があった。
珍しいな・・・ここにはあまり人は来ないのに。

本当に人が居るのは珍しい。
だからこそ、ここを愛用しているんだ。
結構な穴場だと思っていたが実はそうでもなかったりして。


・・・近づくにつれ姿がハッキリ見えてきた。
どうやらホームレスのおっさんがゴミを漁っているようだ。

意外だ。

こんなところにもホームレスはいるんだな。

ただそのおっさんは俺が見てきたようなホームレス
とは違い、かなり特徴的で、まずかなり大柄な体型だ。
そして、左腕が無かった。

そんなおっさんを煙草を吸いながら見ていた。
最初は少し驚いたが、もう慣れた。
ホームレスはもう飽きるほど見ているから、
少し容姿が違うぐらいでは別に心は乱されない。


やがてそのおっさんはゴミ箱にめぼしいものが無いみたい
なのかどうかは知らないが、どっかに行ってしまった。
何にせよここでは目的は達成させれなかったんだろう。



まあ、あんな奴も世の中にはいるよな。
こんな時代だ。どんな奴が居たて別に変じゃない。


腕の時計に目を運ぶと、午後12時48分

・・・そろそろ時間か。
頭を切り替えていかないとな。
今日の仕事の出来具合なら
なんとか終電には間に合いそうだな。



また職場に戻って、適当に作業をこなす。
心配していたダメ出しは無かった。
今日の仕事分は思っていたより速く終わり、終電よりも1時間
前に帰れた。
つっても体が昨日の徹夜もあってか異常に疲労感を感じていた
ので、家に帰ってもさっさと寝ることにした。







ベッドに寝そべって、静寂を噛み締めてしまうと
また苦悩する時間が始まる。




帰っても睡眠を最優先にしている俺は・・・
仕事に食い潰されてしまっている俺は・・・

こんな疲れるだけの人生を送っている俺は間違っているのだろうか?
「人生なんてこんなもんさ」なんて諦めや悟りを抱えながらそれでも
納得して生きていけるんだろうか?


そんな事を考えていると、またあの同じみの・・・
俺の心の叫びが聞こえてしまう。


「俺はもう死んでいるのではないか?」

と。
自分というものを把握したつもりになっても、結局はすぐに
見失ってしまうのだ。
俺が俺を見失うなんて、そんな馬鹿げた話は信じたくない。

だが、現に見失ってしまっている。
なぜ、俺はこんなわけのわからない、名前すらない感情に
毎回苦しめられているんだろう。


本当に自分を信じられなくなりそうだ。



そして一番わからないのが、それでも死のうと思えない事だ。
どんなに考えても、大人になっても
この答えだけはどんなに年月を重ねても出せそうも無い。
出せないってわかっていながら自分に何度も
語りかけてしまう自分は一体何なのか。

そう結局は堂々巡りだ。

俺の脳みそではわからないことばかりだ。
だからもういい加減やめて寝ることにしよう。
睡魔には勝てないしな・・・










今日の日常は雨に目覚めた。
窓ガラスを強く叩いていた。
いきなり憂鬱な気分にしてくれるな。オイ。
こんな雨に起こされていい気分になるわけがない。
始まりからして最悪の1日になりそうだ。
しかも睡眠不足だってのによ。

傘はかさばるし、電車ではなおさら邪魔になるので
非常に面倒臭い。
少しぐらいの雨だったら傘は持っていかない事にして
いるが、どうやら雨音からしてかなりの雨だってのが嫌でもわかる。
傘を持っていかないってのは叶わぬ願いだな。

まあ、しょうがない。
ずぶ濡れになって出勤するわけにもいかんしな。
男が雨に、ましてや俺みたいな平凡な男が濡れたって到底絵になんかならない。

せめて各駅に乗れるように急いで身支度を整えて、
家を出た。

駅には雨のせいか、いつもより人が多い。
自分は各駅に乗るから関係ないが、準急や急行なんて
もうこれでもかって程満員なんだろう。


9時15分発 各駅停車

案の定この電車に乗車する人は少なかった。
おかげで座れるから願ったり叶ったりだ。
昨日はあまりよく寝れなかったので、すぐに眠りに落ちた。
終着駅のアナウンスを目覚ましに使う。
それが自然と身についてしまっているので安心して目を閉じれる。
嬉しいやら悲しいやら感情がこっちゃまぜになるけど
便利なのは確かだ。



目覚めて外の風景を眺めてみると終着駅の近くの街が映った
どうやら雨が止んでいるみたいだ。
眩しい光がその持ち前の眩しさを主張せんばかりに照らしていた。

そんな光を見るとより自分が哀れな男に思えてくる。

いくら天気が晴れようとも、いくら風景が光に満ち溢れていても、
俺の心にはきっと鳴り止まない雨が降っているんだろう。
またしても下らない事を考えてしまう。

そして、そんなことを考えながらも職場に足を向けてしまう自分
も一層悲しさを引き立たせてしまう。
習慣というものは意識していなくても表に出てしまうんだから
恐ろしい。


会社も見えてきてまた今日も仕事が始まる。
俺が望んでいようがいなかろうがそれは変えられない。
だから俺はどう思うと目の前の仕事をこなすのだ。
それだけだ。


世の中の真理なんてそれだけだ。
それだけだと思えばいいんだ。

それが一番楽だってわかっているさ。
俺は頭が良くなったんだから、それぐらいわかってるさ。
だから機械のように何も考えず、つまらない仕事でも
疑問を感じずにこなしていくんだ。




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