「秘密」 蛍の夜は朝瞬く
投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 3/31)
・・・・・・暗闇の中で天井を見つめる男が一人。1、2、3、4・・・と羊の数を数えている。
彼は最近毎日、この行為を続けていた。
(・・・・・・・・・眠れない。)
ここの所、まともに眠れた事が無い。
何せ・・・・・娘と最愛の妻を同時に失ったのだ。当然の事だと思いたい。
あの事故の結果、二人は一人になってしまった。
娘が妻になる。こんな事になるなんて・・・・・いったい何があったんだ。
ただの事故では無かったのか?何かがあそこで起こったのだろうか?
・・・当然の事ながら、考えても考えても何も思いつくわけも無い。
いくら想像を重ねても所詮想像の世界だ。本人で無ければ全てを理解する事など不可能であろう。
連日の睡眠不足で頭の中が疲れきっている。そしていつものドス黒い感情が自分を包み込んでいく。
(令子の身体に蛍の心。これはひょっとして自分の理想だったのでは無いか。)
・・・自分を殺したくなる衝動に駆られる。こんな事を考える自分を。
確かに蛍・・・ルシオラの事を忘れた訳では無い。
しかし、あれから20年以上も経っている。今ではかわいい自分の娘なのだ。
そんな事を考える事態間違っている。
・・・・・あの時、蛍が・・・令子の身体に入った日。
病室で会った令子の顔に・・・ルシオラが一瞬混じった。・・心臓が止まりそうになった。
それ故・・・・娘の言葉を信じる気になった。
あの顔を疑う気にはなれなかったのだ。(あの時の顔を・・・。)
ガタンッ!
「んっ?」
なんだ今の音。
(・・・・蛍が起きたのかな・・・まだ外は暗いのに。)
・・・気になった。なんとなく・・・布団から立ち上がりドアを開ける。
ガチャッ。
「・・・・・・・・蛍か?こんな時間に何を・・・・・・・・・!!」
そこには一人の女性が倒れていた。おそらく令子(蛍)・・・・・だと思う。
だが・・・・なんだか雰囲気が違うような気がする。
「令・・・いや、蛍!!!」
身体を抱きかかえる。・・・意識を失っているようだ。
胸に耳を合わせてみると・・・・・心音はある。
(いったいどうしたっていうんだ!?)
お手洗いにでも来たのだろうか?・・・・・なんにせよ早く何処かに寝かせた方が良い。
身体をそのまま持ち上げ、(とりあえず娘の部屋に!)蛍の部屋へと直行する。
トントントントントンッ。
廊下を走る音が響き渡る。腕に令子の感触がずっしりと伝わってきていた。
そして部屋の前にさしかかろうとしたその時・・・・
「んっ・・・・・・。」
(気づいた!?)
目を覚ましたのか?
「ほ、蛍?大丈夫か?今、部屋に連れてってやるから・・。」
おそるおそる声をかける。しかし、返って来たのは予想外の言葉だった。
「・・・・・・・・ヨコシマ?」
(!?・・・・・今・・何て?)
「・・会いたかった。ずっと・・・・側に居たのに・・・。」
腕から伝わる感触が小さくなってゆく。いつのまにか彼女の腕が首に巻きつかれていたのだ。
(・・・・何を言ってるんだ!!!?)
その顔をどこかで見た気がする。・・・自分の中で血の気が引いていくのがわかった。
「蛍・・・じゃないよ。わたし、・・・・・私は・・「ルシオラ」。」
抱きかかえていた身体を落としそうになる。それほど動揺している自分がいる。
(・・・・そんな・・・馬鹿な。・・・今になって・・・今になって・・・。)
昔の感情は封印したはずだ。なのに涙が溢れて止まらない。
「そ、・・そんな冗談は・・・お父さん・・・好きじゃないぞ。」
声を奥底から搾り出す。・・・自分で明らかな嘘を付いている。
(・・・蛍には・・・ルシオラの事は・・・言っていない。)
「私が・・・・信じられない?」
彼女の腕に力が込められる。俺はとっさに目を瞑った。
(・・・目の前に居るのはルシオラなのか!?)
(駄目だ・・・・顔を見る事が出来ない。・・・見たら・・・・・・・俺は・・・・。)
「こっちを向い・・っつ!!!!!」
急に「ルシオラ」の声に変化が現れる。聞き覚えのある声が耳に伝わってきた。
「い・・・いい加減にしなさい・・・よね。」
「・・くっ・・・!じゃ、邪魔をしないで・・・!!」
(な、何だ!?)
二つの声が交錯している。一つはルシオラ。もう一つは・・・・・令子!?
目の前にいるのは・・・・どっちなんだ!?
「邪魔・・・してんのは・・・あんたでしょうが・・・・!!」
「・・・・令子なのか!?」
今の声は明らかに令子だ!令子が戻って来ている!
「あ・・なたの時間は・・・終わりなの・・・。」
「そー・・簡単に・・はいかないわ・・・・・蛍!!起きなさい!!・・蛍!!!!!」
「令子」の声が廊下に響き渡る!
「・・・・・・・・・・・えっ?何・・・お母さん?」
パシッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!
何かが弾けた音がした。
「うわっ!!」
身体ごと弾き飛ばされる。俺は背中から壁に激しく打ち付けられた。
ドンッ!!
「ぐっ!」
(何が起きたんだ!蛍の声がして・・・・・!?))
痛みなんか感じている暇など無い。立ち上がるとすぐに令子の元に駆け寄る。
「令子!!令子!!!」
令子の身体を激しく揺さぶる。大丈夫なのか!?
「・・・・・・・・・・・・・すー、すー、すー。」
がくっ!
(・・・・・寝ちまった。)
そこに寝ている顔は、昔良く抱っこしてやった顔だ。・・・・・蛍の寝顔。
(寝てる時がそっくりなんだよな。)
憑き物が落ちたかのような安らかな表情。緊張感が解けていくのが分かった。
・・・・落ち着いた所で令子の身体をベッドへ運び込む。そしてその上に布団を掛けてやる。
(・・・・・何だかエラい事になっちゃったな・・・。)
一つの身体に3つの人格。
・・・・・・・・・・一人は愛する妻。
・・・・・・・・・・一人は愛する娘。
・・・・・・・・・・一人は昔愛した女。
(本当に・・・・今頃になってこんな事になるとは・・・・・。)
居間のソファーに座り込むとぼんやりとテレビ画面を見つめる。
外は薄っすらと夜が明け初めていた。
・・・・結局俺は今夜もまともに寝る事は出来なかった。
・・・次に目を覚ますと、私は元のお母さんに戻っていた。
(あれは・・・・何だったんだろう。)
起きた時は死ぬほど頭が痛かった。そして気持ち悪かった。
昨日の事を考えるとまだ寒気がする。
(あの人は・・・・黒髪の・・・・。)
今考えると、何となく自分(蛍)に似ていた。私が成長したらあんな風になるのかも・・・。
(・・・とにかく・・・・調べなくちゃ。色々と・・・・。)
適当に服を引っ張り出すとそれに着替える。
・・・年の割には若い格好してたんだよねお母さん。自分の着ている服を見ながらそう思う。
最初は抵抗があったけど次第に慣れた。
・・一通り着替え終わると、部屋の壁に掛けてある鏡で自分の姿を確認する。
(・・・・・・よしっ。)
・・・・やっぱり綺麗だなお母さん。にっこりと笑顔を作る。
少しづつ気分も良くなっていた。頭痛も気が付けばどこかへ行ってしまったようだ。
そして落ち着いた所で、ゆっくりと階段を下りていった。
「おはよう。お父さん。・・・早いね。」
「・・・・おはようれ・・・蛍。」
居間に降りるとお父さんが食事の準備をしている。
名前を間違えるのはいつもの事だ。気にしない。・・・それより私を見る目がおかしい。
(どうしたんだろ?何かあったのかな?)
「・・・・ねえお父さん。何かあったの?」
「な、・・・何言ってるんだ。・・・・・それより身体の方は大丈夫か?」
(・・・・・・・???なんでそんな事聞くの?)
よく理解出来ない。・・・やっぱり昨日何かあったのかな。
例えば、あの夢・・・・・・・・正夢だったとか。(・・・まさかね、布団で寝てたし。)
普通に身体の事心配してくれたんだと思う。・・・最近色々あったから。
お父さんだって大変な筈なのに・・・。
(お父さんってやっぱり優しいなあ。)
お母さんが惹かれたのがわかる。私もこんな人と結婚を・・・・・ってもう無理か。
(もういないんだっけ私。)
自分の葬式に立ち会った事を思い出す。
(頭の中がどうかしちゃったのかな。)
・・・・なんか妙に冷静な気持ちだ。不思議。・・・・悲しむのが普通だと思うんだけど。
・・なんて変な事を考えてるとお父さんと視線があった。・・・・心配そうな目。
何か・・・・むくむくといたずら心が芽生えて来る。
・・とりあえず愛情の視線をお父さんの顔に向けた。ついでに・・少し笑ってみたりして。
「な、何してるんだ蛍。令子の顔で怖い事するな・・・。」
「ふふっ、好きよ。あなた。」
「!!!!!」
お父さんに明らかに動揺の顔が見られる。ちょっといたずらが過ぎたかな。
(でも面白い!すぐ顔に出るんだもの!)
「さ、さあ、いつまでも突っ立ってないでご飯食べるぞ!」
「はーい!忠夫さん。」
「それをやめい!!」
顔を真っ赤にしたお父さん。からかわれ上手である。
・・・・・・うんっ!やっぱりお父さんはこうでなくちゃ!!
そして・・・食事を終えると、お父さんと今後の事を話し合い始めた。
「私は、元に戻る方法を探したいの。ずっとこのままって訳にはいかないでしょ。」
「・・・でも、いいのか?それはお前が・・・・「死ぬ」ってことなんだぞ。」
神妙な顔つきでお父さんが答える。
「うん。・・・なんかもう決心ついたから。それよりお母さんを元に戻して上げたいの。お父さんだってお母さんに会いたいでしょ?」
「そ、そりゃあそうだが。・・・・お前を失うのも・・・・。」
お父さんの目に涙が浮かぶ。感情が止まらないと言った感じだ。
(・・・・それだけで十分だよお父さん。)
「私があそこで死ぬのは運命だったと思ってる。だからもういいの。」
「蛍・・・・・・・・・・お父さん何も出来なくて・・・・・すまん。」
静けさが部屋の中に満ちていた。二人の視線が宙で重なる。
・・・・・・ここにいる二人は今世界にいる誰よりも分かり合っているだろう。
「・・さあ、こんな話はもうおしまい!それでね、私一人で色々調べて回ってみようと思うの。」
「な、何言ってるんだお父さんも付いてくに決まってるだろう!」
慌てるお父さん。・・・予想通りだけど。
(駄目だよお父さん。これは私の問題だから私一人で解決したいの。)
「お父さんもいつまでも仕事休む訳にはいかないでしょ!!」
「し、しかし・・・何があるか分からないし・・・・。」
・・・・・ここでこの一言を。
「私の言う事が聞けないって言うの!?」
「ひっ!!いえそんな事はございません!!」
頭を地面に擦り付けてる・・・・・・・習慣って面白い。ふふっ!
「あ、いや、何言ってんだ蛍!!変な事するんじゃない!!」
「男が一回言った事引っ込めちゃ駄目だよお父さん。雪之丞さんにも言われてたじゃない。」
「ぐぐっ・・・!」
(ホントに扱いやすい・・・・「この人」!)
私がニヤニヤ笑っていると・・・・急にお父さんはポケットの中を探り始めた。・・・・・なんだろ?
「じゃあ、これを・・・持っていきなさい。」
お父さんが差し出した手の平には・・・・・・・・文珠?・・にしては形が変。
楕円形だし。台座までついてる。
「お母さんにあげた指輪だよ。世界で一つしか無い・・・。これが蛍を守ってくれる。」
「へえー・・・見たことない。普段つけて無かったよね。」
「なんか恥ずかしがってつけてくんなかったんだよ。照れちゃって。」
(・・・・まあお母さんらしいかな。)
私の目に綺麗な緑色の指輪が映る。・・・・・文字は入ってないな。
「ありがと・・・・あなた。」
熱っぽい目を向ける。愛する旦那様・・・・なんてね。
「・・・・・蛍、それは勘弁してくれ。」
・・・・お父さんは泣きそうな顔でそう言った。
続く。
今までの
コメント:
- とりあえず二話目です。ご意見お待ちしてます。 (cymbal)
- 何か微妙に良く分からなかったんですが,続きが気になる展開です。 (竹)
- あぁぁぁやっぱりルシオラ黒いよぅ。・゚・(ノД`)・゚・。
それともルシオラは何か大事なことを伝えたいがために一時的に令子の体を借りてるのかな?(さりげなく展開予想)
ストーリーとしては文句なしに賛成ですが、作品の言葉を借りるなら「娘と最愛の妻を同時に失った」横島がちょっと軽いかな、とも思います。
もっと悲しんでもいいと思うんですよね、まぁそれは実際には蛍の魂も令子の肉体も死んでいないのだから混乱してもしょうがないとは思うんですけど。
偉そうなことを言ってしまい申し訳ない、続き期待してます(^^) (耶麻M)
- なんか世にも奇妙な物語に出てきそう…
ってことでかなり黒めだけど面白かったです。 (ポトフ)
- 皆様、コメントありがとうございます。
やっぱり軽いですか・・・。原作の匂いをだそうとするとどうもこうなってしまいまして・・・・。まあ、徐々に重くなっていくと(多分)思います。
世にも奇妙な感じにも確かに見えますね。あんまり意識してないですが(原作あるし)。
ちょっと微妙に分かりにくい物語になっておりますが、お付き合い頂ければ嬉しいです。
しんばるでした。 (cymbal)
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