ザ・グレート・展開予測ショー

小鳩女豹大作戦 第二話 女豹小鳩(その2)


投稿者名:Dr.J
投稿日時:(04/ 3/30)


 2002年4月13日、土曜日、午前8時45分───学校が休みなのを幸い、小鳩は、開いたばかりの事務所へと駆け込んだ。メンバーはすでにそろっており、何やら真剣な表情で、話に興じている───。

「あっ、あのっ、横島さん。あのっ。」

 焦りと動揺で、容易に言葉が出ない小鳩。あの夢のせいで、結果的には寝過ごしてしまい、朝食もそこそこに飛び出して来たのである。

「小鳩ちゃん? どうしたんだ? そんなにあわてて?」

「あのっ、横島さん、実はっ……。昨日の、あの着ぐるみのことなんですけど。」

「あれがどうかしたかな?」

「あの…実は……ゆうべの夢の中にあれが出てきて……その中で……その……。」

 それだけ言うにも真っ赤になる小鳩。困った表情で、横島がそれに答える。

「……女性が、口では言えない姿で、あの中に入ってたとか?」

「ええ?!」

「やっぱり小鳩どのもでござるか。」

「それじゃ──もしかして──事務所の皆さんも全員?!」

「どうやらここにいる全員が、同じ夢を見たらしいのよね。」

 タマモがうなずきつつ答える。

「それで今、そのことを話し合ってたんです。ひょっとして、伊藤仁明さんの言ってた、『使い方はこれ自体が教えてくれる』っていうのは、このことだったんじゃないかって。」

「あの……それじゃ……昨日何もおこらなかったのは……。」

「…あの夢の通りだとすれば……そう考えるしかありませんね。」

 おキヌが、顔を赤くしてうなずく。

「あの、小鳩ちゃん、そのことなんだけど……。あの夢の通りだとすれば、使うのは余計まずいんじゃないかと……。」

 横島が、こちらもさすがに顔を赤くして言う。

「──いえ──確かにまずいと思いますけど──このまま確かめもせずに投げ出してしまっては、やっぱり気がかりって言うか──納得できそうにありません。」

「ってことは……夢で見たのと、同じようにしてみると?」

「……はい……だから…横島さん、しばらく外に出ててください。」


───横島さんが外に出たこと、入り口にも窓にも、すべて鍵がかかっていること、室内のブラインドが、すべてきっちり降りていることを確認の上、小鳩は、セーラー服のリボンをほどきました。胸元のホックを外し、上着を頭から抜きます。靴とソックスを脱ぎ、スカートの金具を外します。ファスナーを降ろし、スカートを脚から抜き取ります。シャツも脱いで、昨日はここまでだったんですけど、あの夢の通りだとすれば、これではいけません。女の子ばかりとはいえ、三人に見つめられながら脱ぐのは恥ずかしかったけど、勇気を出してブラのホックを外しました。ショーツを降ろして、小鳩は完全に生まれたままの姿になります。シロちゃんとタマモちゃんが、あの着ぐるみを持ってきてくれました。
 夢の女の人のように、背中の裂け目から脚を入れます。皮を腰まで引き上げ、ずりおちないように、その場にしゃがみます。しゃがんだ姿勢で、前足に腕を入れます。最後に頭をかぶるのは、おキヌちゃんとシロちゃんが手伝ってくれました。
 四つん這いになった途端に、昨日も感じた、あの肌に吸い付く感触が襲ってきます。でも、昨日はすぐ元に戻ったのに、今日は違いました。それどころか、全身を締め上げられているような感じがします。次の瞬間、身体の中から、骨がぎしぎし言うような感覚が襲ってきました。

『痛っ……。』

 全身に鋭い痛みが走り、私はその場に突っ伏しました。身体の中で、骨がぎりぎりと形を変えていくのがわかります。痛みに悲鳴をあげようとしたのですが、なぜか声が出ません。もしそれができたなら、私はその場で泣き叫んでいたことでしょう。それでもなんとか、その痛みに耐えていると───突然、すべての痛みがすっと消えました。

『えっ?』

 驚いて顔を上げると───皮でさえぎられていた視界が、完全に開けています。思わず見回すと───自分が四つ足で床に立っていること。自分の身体が、完全に豹のそれになっていることがわかりました。
 何かを着ているという感じはしません。豹の鈎爪も、牙も、尻尾も、身体に生えた一本一本の毛も───すべて、自分の身体の一部として感じられます。あの夢で見たことは、やはり本当だったのです。

「小鳩ちゃん、大丈夫ですか?」

 おキヌちゃんが、心配そうな顔で訊いてきます。私は『大丈夫』と答えようとしたのですが───口から出たのは、豹のうなり声でした。どうやらこの姿では、言葉はしゃべれないみたいです。

「やはり人狼同様、獣の姿では口は利けないようでござるな。」

 私がうなずくと、シロちゃんは、「もう先生を呼んで良いでござるか?」と訊いてきました。私は再びうなずきます。

 扉の外から、「先生、もう良いでござるよ。やっぱり夢の通りだったのでござる。」という声が聞こえてきます。入ってきた横島さんは─── 一瞬、絶句しているようでした。

「いや…驚いたな。本当に小鳩ちゃんかい?」

 うなずく私に、横島さんは、「いまどんな気分?」と訊いてきます。私が困っていると、シロちゃんが、「先生、小鳩どのはいま口が利けないのでござるよ。」と助け船を出してくれました。横島さんは、「あ、そうか。シロやタマモと同じなんだな。」と照れ笑いをしています。私はといえば、横島さんに言われて初めて自覚したのですが、妙に身体が軽くて、動き回りたくてしかたのない気分でした。

「……でも、これで本当に、悪霊や魔物と戦えるんでしょうか?」

 おキヌちゃんの言葉に、私は、自分がうっかりしていたことに気づきました。そうです、肝心なのはその点なんです。確かに身体は軽いし、身体の中に力のような物も感じます。でもそれだけでは、人や獣とはともかく、悪霊や魔物とは戦えません。これで本当に、私は、霊能力が身に付いたのでしょうか?

「戦えるんじゃない? 今の小鳩からは、結構霊力を感じるわよ。」

 タマモちゃんがそう言ってくれて、私は少しほっとしました。それでも、やはり不安は消えません。本当のところは、やはり実際にやってみなければわからないでしょうし。

「確かに霊力を感じるでござるが……やはりここは、実際に試してみるべきでござろう。とりあえずは、動きを見るでござるよ。小鳩どの、庭へ出るでござる。」

 シロちゃんの言葉に、私も異論はありませんでした。なにしろさっきから、身体を動かしてみたくてうずうずしていたくらいですから。

「ちょっと待ったあ!」

 突然の横島さんの叫びに、私もシロちゃんも、驚いてその顔を見上げます。

「シロ、お前、『横島除霊事務所は豹を放し飼いにしている』なんて噂をたてるつもりか?!」

「あ!」

 私も心中『あっ!』と叫びました。そのことに気づかなかったのは、迂闊としか言いようがありません。意識の上では人間でも、今の私は豹なんだということを、改めて自覚させられました。

「でも、それじゃ、どうやって試します? まさかいきなり、除霊現場へ連れて行くわけにもいかないし……どこか人気の無い場所へ行きますか?」

 もちろん私も、いきなり実際の除霊ができる自信はありません。今の自分に実際どれくらいの力があるのか、試してみないと不安でたまりませんでした。

「そうだな。うーん………。」

 おキヌちゃんの言葉に考え込んだ横島さんでしたが、何かを思いついたらしく、受話器を取り上げると、どこかへ電話をかけ始めました。

「………もしもし、隊長ですか? 横島です。実は、昨日伊藤仁明から託されたアイテムのことなんですが、あれを使うべき人が見つかったんです。………ええ、こんなにすぐ見つかるなんて、俺も驚いています。それで、いわばテストをしてみたいんですが、差し支えなければ、オカルトGメンのトレーニングルームを使わせてもらえないでしょうか? いささか図々しいお願いですが……………え?! 本当ですか?! それなら願ったりかなったりです! ……ええ、できるだけ早くお伺いします! ありがとうございます!」

 通話を切ると、横島さんは喜び勇んだ表情で、私たちの顔を見渡しました。

「ついてるぞ! あの霊的模擬戦闘システムが使える!」

「横島さん! 本当ですか!」

『はあ?』

 横島さんの言葉の意味がわからず、私は目をしばたかせました。おキヌちゃんは知っているようですが、シロちゃんとタマモちゃんは私と同じのようで、やはりキョトンとした顔をしています。

「オカルトGメンの訓練施設として、悪霊や妖怪を人工的に再現して、それと戦えるという設備があるんだ。動かすのに金がかかるんで、そうやたらとは使えないんだが、今日これから、伊藤仁明から託されたアイテムのテストを、そこでやるんだそうだ。良かったら一緒にやらないかってさ。」

『悪霊や妖怪を人工的に作り出せる装置』なんてものが、本当にあるのでしょうか? 私は半信半疑でしたけど、横島さんはすっかり舞い上がっています。昨日は反対してたのに、こういう所はほんとにお調子者ですねえ。

「というわけで、小鳩ちゃん、ひとまず元に戻ってくれるかな?」

 え? そういえば私、どうすれば元に戻れるんでしょう? 夕べの夢が本当かどうか確かめることばかり考えていて、元に戻る時のことを考えていませんでした。もし、このままずっと豹だったりしたら………。

『いやーっ!』

 そう思ったとたんに、あの全身の痛みが、再び襲ってきました。つらかったですけど、『これで元に戻れるのなら』と思い、なんとかその痛みに耐えました。痛みがすっと消えると同時に───首から上が、ぽろりと着ぐるみから抜け出しました。思わず見上げると、なぜか横島さんの顔が赤くなっています。あわてて自分の身体を見ると───皮がずり落ちかけ、胸とお尻の一部が見えてしまっていました。

「きゃあ!」私はそう叫んで自分の身体をかかえこみ、横島さんは「ご、ごめん」と言って、入り口から飛び出して行きました。

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