ザ・グレート・展開予測ショー

小鳩女豹大作戦 第二話 女豹小鳩(その1)


投稿者名:Dr.J
投稿日時:(04/ 3/30)


 私、花戸小鳩といいます。家が貧乏で学費が払えなかったために一年遅れちゃって、いま高三になったばかりです。今日、いつもお世話になってる横島除霊事務所の人たちに差し入れをしたんですけど、そこで、霊能者でなくても霊能者と同じ力が発揮できるアイテムを貰ったと聞いたんです。
 もしそれが本当なら、私も横島さんの役に立てるかもしれない、ゴーストスイーバーの仕事を手伝えるかもしれない───でも、それには厳重な封印がしてあって、使うべき人が触れない限り解けないんだそうです。それでも、もし万一、私にその資格があるのなら───そう思って、冗談のふりをしてそれに触れてみたんですけど───。


────────GS 小鳩女豹大作戦 第二話 女豹小鳩────────


「特定の誰かにしか解けない……ってわけじゃないみたいですよ。今そのことを話し合ってたんですけど、ある条件に当てはまる人なら、誰でも解けるみたいです。」

「へえ……それなら私も挑戦してみようかな。」

 そう言って小鳩が手を触れた瞬間、箱がぴきんと音をたてた。

「え?!」

 一同の目の前で、蓋がゆっくりと持ち上がる───。中には、油紙で包まれた何かが入っていた。横島が、おキヌを鋭く振り返る。

「おキヌちゃん! もしかして、さっき言ってた心当たりって!」

「…ええ、小鳩ちゃんのことだったんですけど……。」

「あの……どういうことなんでしょうか……。」

「…小鳩ちゃん。もしかして、『自分も除霊をやってみたい』なんて思ったことある?」

 小鳩が思わず頬を赤らめた。図星を指されて、とまどっていることがはっきりわかる。

「……私も横島さんの役に立てたらなって……おキヌちゃんやシロちゃんやタマモちゃんみたいに、ゴーストスイーパーの仕事を手伝えたらいいなって、以前から思ってました。……でも、それがなぜ、霊能者になれるアイテムを手に入れる資格になるんでしょう?」

「…さっき話し合った結果なんだけどね。このアイテムを使うべき人とは、『信用できる人で、なおかつ、霊能者じゃないけれども、悪霊や魔物と戦うための力を必要としている人』っていう結論になったんだ。」

 その言葉に、小鳩がますます頬を赤らめる。

「…なるほど、確かにある意味で、小鳩どのはその条件に当てはまるでござるな。」

「ほんとね。なんでこんなことに気づかなかったのかしら。」

「でも……なんで、『GSの仕事を手伝えたら』なんて?」

「……だって横島さん、仕事がからむと、私に詳しい話をしてくれないじゃないですか。アシュタロスの事件の時も、何も教えてくれなかったし……。それって結局、私が、ゴーストスイーパーの仕事に関しては、部外者でしかないからなんでしょう? でも、今の私じゃ、卒業して横島さんの事務所に雇ってもらったとしても、大して役に立てないし……。だから……。」

「『自分も霊能者になれたら、除霊に参加できたら』なんて思ってたのか。おキヌちゃんは、そのことに気づいてたんだな?」

 困ったような表情で、おキヌが無言でうなずく。横島が───こちらも困ったような顔で───小鳩に向き直った。

「それで───小鳩ちゃん、どうするつもりなんだ?」

「──え──。」

「このアイテムをくれた人の言う通りなら、これを使えば、霊能者と同じ力を発揮できる。それが本当なら、使ってみたいと思うかい? 除霊に参加してみたいと思うかい?」

───小鳩が一瞬迷う───が、すぐその顔に決意の表情が浮かんだ。

「やります。やってみたいと思います。」

「……知っていると思うけど、GSって、過酷な職業なんだよ? 命のやりとりが日常茶飯事の世界なんだ。はっきり言って、入り込まないほうがいい世界なんだよ。こんな世界に関わらずに済むなら、それにこしたことはない。やめたほうがいいよ。」

「……横島さんもそうですけど、おキヌちゃんもシロちゃんもタマモちゃんも、そういう世界に生きているんでしょう? シロちゃんとタマモちゃんはともかく、横島さんとおキヌちゃんは普通の人間なんだし……。」

「人間だけど『普通の』じゃないよ。俺たちがこの世界で生きてられるのは、普通じゃない特別な力を持っているからで……。」

───横島が反対するのは当然であるが、この発言はいささか藪蛇であった───。

「でも、そのアイテムを使えば、小鳩もそういう力を手に入れられるんですよね?───だからやります。やらせてください。」

「う………。」

 そう言われては、横島も反論のすべが無い。苦い表情で、箱から油紙の包みを取り出す。

「これを。」

「あの…私が開けていいんでしょうか?」

 うって変わって、気弱そうな表情で問う小鳩。

「小鳩ちゃんは、これを使う資格があると認められたんだよ?───つまり、これはもう小鳩ちゃんのものなんだ。だから───。」

「はいっ!」

 決心したように元気の良い返事をし、油紙の包みを受け取る───外からさわった感じでは、何か着る物のようだ。細い指先が、縛ってある細紐をほどいていく───中から出てきたのは───豹の毛皮で出来た何かだった。

 ところが、広げてみると、『豹の毛皮で出来た霊衣』といった物ではなかった。それは文字通り、豹の毛皮そのもの───それも豹の死体から剥がしたと言うより、豹の中身をくり抜いたと言ったほうが良いようなもので───背中に裂け目があり、中に入れるようになっていた。

「あっ、あの……つまり……これを着ろということなんでしょうか……。」

 再び気弱な表情に戻って、小鳩がとまどう。

「ほかに考えようがないでしょ。」

 タマモの言葉は、こんな時でも容赦がない。

「あ、あの、小鳩ちゃん、嫌だったらやめても───。」

 小鳩の性格からして、豹の皮を被る(=豹の姿になる)なんて行為には抵抗があるに違いない───そう考えての発言だったのだが、先程同様、結果的には逆効果だった。

「──いえ──もし本当に、これを着ることで霊能力を手に入れられるんだったら──試してみたいと思います。」

「──小鳩ちゃん──。」

 感極まったようにつぶやく横島。

「あの──それで──申しわけありませんけど。」

 そう言いつつ、小鳩が真っ赤になる。

「あ! ごめん!」

 あわてて事務所の入り口から飛び出す横島。背後で、入り口に鍵をかける音がした───。庭に一人立ちながら、横島は、今回の一件について考えを巡らしていた。

───ったく、伊藤仁明さんも、おかしな物をくれたもんだよな。嘘でないことはわかっていたけど、あんな奇妙な代物だったとは。
 それにしても、小鳩ちゃんが、霊能者になりたいと思っていたとは意外だった。彼女の気持ちに気づいていなかったわけでは、もちろんない───以前の俺ならともかく、今の俺が、その程度のことに気づかないはずがない───。小鳩ちゃんが、おキヌちゃんやシロやタマモのことをうらやましく思っていることも、気がついていた。しかしそれは、自分より俺に近いところにいる三人がうらやましいのだと、今まで思っていたんだ。事実そうでもあったんだろうけど、俺と一緒に戦いたいとまで思っていたとは、正直意外だった。俺と肩を並べて戦えることが、うらやましいなんて───。そのためだけに、霊能力が欲しいと思うなんて───。

「横島さん。」

 横島の思いは、わずか二,三分で中断させられた。振り返るとそこには、元通りセーラー服を着込んだ小鳩と、その背後に立つ三人の姿があった。

「どうしたんだ、何かあったのかい?」

「逆なんです。何も起こらなかったんです。」

「……あれを着てみても、何も起こらなかった?」

「そうなんです。一瞬肌に張り付くような感じがしたんですけど、すぐ元に戻って、それ以上は何も……。」

「……どうなってるんだ?」

「何十年も封印されてたせいで、力がなくなったんでしょうか?」

「……何か別の条件でもあるのかもしれないでござるな。あるいは、何か使い方があるのかも……。」

「でも、あの人が、『誰でも使える』って言ってたじゃない。『使い方は、これ自体が教えてくれる』とも。」

「……あるいは、周囲から気を吸い上げるのに、時間がかかるのかもしれないな。幸い、伊藤仁明の霊は、今オカルトGメンの本部にいるはずだ。明日は土曜日だし、仕事の予定も無いから、直接行って訊いてみるとするか。」

───誰も、それ以上の策は思いつけなかった。



 その夜、小鳩は寝床の中で、今日の出来事を思い返していた。

───これで私も、横島さんの役に立てると思ったのに、なぜ何も起こらなかったんだろう。豹の皮を被るのは、もちろん抵抗があるけれど、横島さんのためなら、横島さんの役に立てるのなら、大抵のことは我慢できる自信があった。
 あの着ぐるみをくれたのは、伊藤仁明さんっていう昔の霊能者の幽霊で、状況から考えて嘘とは思えないって言ってたけど、本当に嘘じゃなかったんだろうか。明日直接訊いてみるから、一緒に来て欲しいって、横島さんたちは言ってたけど、私なんかが、オカルトGメンの本部に行っていいんだろうか……。

 そんなことを思いながら、小鳩はとろとろと浅い眠りに落ちた。

───眠りの中で、小鳩は夢を見ていた。どうやら場所は、昔の日本の御殿のようで、時代劇に出てくるような狩衣に烏帽子姿の人物が、何人も並んでいる。上座に腰を降ろした主人らしい人物が、家来らしい二人に、何かを命じる。そうして運ばれて来たのは───あの豹の着ぐるみだった。

『え!』

 小鳩の意識が見つめる中、再び主人が、今度は隅に控えていた女性に、何かを命じる。すると彼女は───着ていた白い着物を、みるみる脱ぎだしたのである。

『ええっ!』

 あれよあれよと言う間にすべてを脱ぎ、髪をしばっていた紐もほどいて、明らかにまだ若い、一糸まとわぬ生まれたままの姿が、そこに立った。
 その姿で彼女が、豹の皮に脚を入れる───下半身を入れ、しゃがんだ姿勢で、両の前足に腕を通す───最後に頭をかぶり、その場に四つん這いになる───少しだぶついていた皮が、身体にぴったりと張り付いて───背中の裂け目が、ひとりでに閉じていった。
 直後、ある意味で予想外、ある意味では思った通りのことが起こった。彼女の体型が、変わり始めたのである。脚が短くなり、腕と胴が長くなる。同時に、それまで作り物めいた印象だった着ぐるみが、にわかに生気を帯び始め───数十秒の内に、その姿は、生きた本物の豹としか思えなくなっていた。
 彼女にそれを命じた主人が、上座から降り───いとおしそうに、豹になった彼女を撫でる。彼女もまた、嬉しそうに、主人に身体をすりつけていた───。

 小鳩は、がばと寝床からはね起きた。思わずあたりを見回し、今の光景が夢であったことに気づく。驚きと興奮で、心臓がドキドキいっている───本人は気づいていなかったが、顔が真っ赤になっていた。
 目覚まし時計を見ると、まだ夜明け前である。───しかし、もう眠れそうになかった。

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