ザ・グレート・展開予測ショー

小鳩女豹大作戦 第一話 プロローグ(その1)


投稿者名:Dr.J
投稿日時:(04/ 3/30)

 これは一度『夜に咲く話の華』の『小ネタ掲示板』に投稿したものなのですが、もう少し感想が聞きたかったため、こちらにも投稿させてもらうことにしたものです。

 正当派ヒロインタイプでありながら、原作では影が薄かった小鳩に、ここではスポットを当ててみました。
 霊能者ではなく、戦いに役立つ力も持なかったがゆえに、物語の中心からは外れざるを得なかった彼女ですが、もし誰でも、強大な戦闘力と霊能力を手に入れられるアイテムがこの世に有ったら? ただしそれを使うことが、小鳩にとってつらいような、そういう物だったら? これは、そういう物語です。

 ただし第一話は、小鳩がそのアイテムを手に入れるまでの、いきさつを書いたものです。彼女が主人公となるのは実質第二話からなので、あらかじめご了承願います。

 高校を卒業した横島君が、喧嘩別れの形で美神除霊事務所を飛び出して一年余り、西暦2002年の春から物語は始まります。


 私、花戸小鳩といいます。家が貧乏で学費が払えなかったために一年遅れちゃって、いま高三になったばかりです。うちが貧乏だったのは、貧乏神の貧ちゃんが取りついていたせいだったんですけど、三年前、アパートのお隣に住む横島さんと、その雇い主の美神さんの活躍で、貧ちゃんは福の神となり、貧乏という宿命からは解放されました。最近は、貧ちゃんが福の神として力をつけてきたおかげで、どうにかちゃんとした暮らしができるようになっています。

 知り合ってから三年の間に、横島さんには、何度か驚かされることがありました。最初は、知り合って数ヶ月後、横島さんが悪い魔物たちの仲間になったと聞かされた時です。結局それは間違いで、仲間になったふりをして魔物たちの動きを探っていたんですけど、そのことがはっきりするまで、私は気が気じゃありませんでした。
 ところが、その事件の最中に何かあったみたいで、それを境に、横島さんはほんの少しですが、人が変わってしまったんです。何があったのかは、誰にも言わないという約束で、美神さんが教えてくれたんですけど、それを聞いた時、私は涙が止まりませんでした。自殺するか気が狂ったとしても、少しもおかしくないような経験を、横島さんはしていたんですから。横島さんのために何もしてあげられない自分が、本当に歯がゆくて情けなかったです。

 二度目に驚かされたのは、ちょうど一年前、横島さんが突然美神さんの事務所を辞めてしまったこと。その時、美神さんの事務所で働いていた女の子全員が───最後にはおキヌちゃんまでが───横島さんにくっついて来てしまったことです。シロちゃんという女の子───ただしオオカミ少女だそうですが───の言葉によると、美神さんの横暴さにとうとう耐えきれなくなって、ケンカしたあげくに飛び出してしまったということですが、あんなに仲の良かった二人なのにどうして? 横島さんに尋ねても、詳しいことは教えてくれませんでした。もちろんシロちゃんの言う通りなら、横島さんにとっても周りの人たちにとっても、つらくて不愉快なことだったはずで、そんなことを人に話したくないのは当然でしょう。それでもやっぱり話してほしかったと思う、小鳩がいけないのでしょうか?

 三度目は、去年の秋、横島さんが突然このアパートを丸ごと買い取ったことです。なんでも、美神さんがらみで、思いがけない大金───それも億という桁だったらしいです───が手に入ったということですが、やっぱり詳しいことは教えてもらえませんでした。大っぴらに話すと、美神さんとそのお母さんに迷惑がかかるからだと───。

 いま私は、リフォームして新築同様になったアパートの、やっぱり横島さんの隣に住んでいます。うちのアパートには6部屋あって、一階の二部屋を横島さんが自宅と事務所として使い、その隣に私とお母さん。二階の三部屋にはそれぞれおキヌちゃんとシロちゃんとタマモちゃん───殺生石伝説で有名な妖狐、玉藻前の生まれ変わりだそうです───が住んでいます。

 でも私は、やっぱり横島さんのお仕事には入っていけません。ほかの三人は、みんな横島さんと一緒に働いて、横島さんの役に立っているというのに。
 横島さんが私に詳しいことを話してくれないのも、結局は私が、横島さんの仕事───ゴーストスイーパー───に関しては、部外者でしかないからなんだと思います。

 私も横島さんの役に立ちたい───でも、今の私では、卒業して横島さんの事務所に雇ってもらったとしても、簡単な事務と雑用くらいしかできません。もちろん霊能者にはなれないから、除霊の役には立てないし。簿記とか経理の資格があれば少しは違うんでしょうけど、そういう資格は簡単に取れるものじゃないし。(お金もかかるし。)
 私、どうすれば、横島さんの役に立てるんでしょう───でも、いつかはきっと、横島さんの役に立てるようになって見せます。二階の人たちがみんな横島さんを狙っているのはわかっていますけど、小鳩は負けません。


────────GS 小鳩女豹大作戦 第一話 プロローグ────────


「おっしゃることはわかりました。要するに、依頼内容に見合う額の報酬が払えないということですね?」

「そーなんですわ。掛け値なしで、うちとしてはもうこれ以上の額は出せしまへん。こちらでなんとかしてもらえまへんやろか?」

 オカルトGメン東京支部の一階にて、受付係の女性が中年の男性に泣きつかれていた。民間GSを雇えない貧しい人々をオカルト事件から救うのもオカルトGメンの仕事であり、それゆえ、この種の問題をかかえた人々が駆け込んでくることがままある。しかし当然ながら、すべての訴えに応えることは、現実問題として不可能だった。

「……残念ですが、私共のほうで除霊するのは無理です。」

「へ?!」

「私共オカルトGメンでの除霊は、民間GSを雇えない貧しい方のための除霊と、放っておくと社会的に影響があるケースの除霊を優先しますので、民間GSを雇える方のための除霊はちょっと……。」

「そんな殺生なあ!」

「最後までお聞きください。要するに、実力は超一流、料金は良心的という民間GSが見つかれば良いわけですよね?」

「へ? そういうとこ、有るんですか?」

「ええ、私共のところには民間GSに関するデータベースも揃っていますし、そちら様のようなケースも決して少なくないので、そのような場合には適当な民間GSを紹介することになっています。」

「たしかに、筋は通ってますけど……」

「とりあえず、ここから遠くない所に一軒有ります。今確認をとりますので…………ああ、もしもし、オカルトGメンです。所長様はいらっしゃいますでしょうか………ああ、すいませんが、予定は開いていますでしょうか。またそちらに引き受けていただきたい依頼が来まして………依頼料は二千万で、悪霊は一体ですが、強さは最強クラスのようです………ええ、南村さんという方です……はい、では、詳しいことはそちらで。よろしくお願いします。」

 それだけ言って、彼女はがちゃんと電話を切った。

「OKです。あとは直接向こうに行ってみてください。」

 手元のキーボードを操作し、住所・電話番号・地図をプリントアウトして、相手に手渡す。

「えーっと……横島除霊事務所? はて、聞いたことの無い名前でんな。」

「つい最近開業したばかりの事務所ですから。ただし実力は、掛け値なしに、我が国全体でも五本の指に入ります。」

 半信半疑の南村氏に対し、受付嬢はそう言い切ったのである。


 20数分後、横島除霊事務所と看板のかかった建物の前で、南村氏はいささか躊躇していた。オカルトGメンが保証した以上、実力はあるのだろう。開業したばかりだというから、腕はあっても金はないことも想像がつく。しかし目の前の建物は、お世辞にも立派とは言えない。いや、一見小綺麗ではあったが、よく見ると明らかに安っぽかった。
 おそらく、元は普通のアパートだったのだろう。一階角の一部屋だけが事務所らしい造りになっており、あとはアパートそのものの部屋が並んでいる。オカルトGメンの保証がなければ、今すぐ回れ右したいところだった。しかし、他にあてが無い以上どうしようもない。意を決して、インターホンのスイッチを押した。

「はい、どちら様でしょうか。」

 いささか意外なことに、若い女性の声であった。

「オカルトGメンからここを紹介されて来ました。南村というもんですけど。」

「南村さんですか。話は承っております。少々お待ち下さい。」

 かちりと音がして、ドアが内側から開く。笑顔で出迎えたのは、まだ十八,九の、なぜか巫女姿の女性であった。

「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい。」

「それでは失礼しまっす。」

 外から見たイメージを裏切らない、デスクが二つと簡単な応接セットがあるだけの部屋だった。デスクの一つから革ジャン姿の青年が立ち上がり、片手を差し出す。

「初めまして、所長の横島忠夫です。」

「私は助手で、氷室キヌといいます。」

 青年と、あの巫女姿の女性が自己紹介をする。

「へ? いや、あの、すいまへん。わて、南村清(みなみむら・きよし)いいます。」

 南村氏は、少々面食らっているようだった。日本有数のゴーストスイーパーと紹介された人物が、せいぜい二十歳くらいの若造で、その助手に至っては、まだ十代の小娘である。驚かないほうが不自然だろう。この若造が、実は日本どころか世界でも有数のゴーストスイーパーであり、世界で唯一と言われる能力の持ち主であること。少女が、世界でも十人と確認されていないネクロマンサーであることを知ったら、この中年男はどんな顔をするだろうか。

「おかけください。依頼の内容をうかがいましょう。」

「へえ……わては、練馬区で、不動産屋を経営しとりますんですが、先日、人の住まなくなった古い屋敷を手に入れまして、更地にした上で売る予定やったんです。ところが、解体作業にかかろうとした途端に……。」

「霊が現れて、それを妨害し始めた、と言うんですね。」

「そうなんです。『この屋敷から出ていけ』ちゅうて、作業員を無理矢理追い出してしまうんですわ。そこで、まずは二流どころのGSを雇ったんですが、霊のほうが強くて、まったく歯が立たんのです。仕方なしに、なんとか二千万ひねり出して一流GSを雇ったら、返り討ちにあって全治二ヶ月ですわ。成功報酬ですから損はしまへんでしたけど、うちとしては、もうこれ以上の額は出せんのです。なんとかしてもらえまへんやろか。」

「一流GSを雇った……ということですが、誰を?」

「蒲原幹保(かんばら・みきやす)っちゅうGSですが……」

「あの蒲原さんですか……」

 蒲原幹保の名は、横島も聞いている。GSランクは、確かAマイナス級。かなり強力な霊波砲使いで、強引かつ荒っぽいやり方で知られているが、腕は確かだった。それが返り討ちにあったとなると、たしかに二千万では安すぎる。普通のGSなら、少なくともその二倍は貰わなければ引き合わない。そう、普通のGSなら。

「……どうでしょう。まことに申しわけない話ですが、受けてもらえますやろか?」

「わかりました。お受けいたしましょう。」

「は?」

 最後の頼みの綱でも断られるのかと、悲痛な表情になっていたのが、あっさり承諾され、南村氏は一瞬呆気にとられたようである。

「本当によろしいんですか?」

「ええ、かまいません。実を言うと、オカルトGメンを通しての依頼は、少々断りにくい事情がありましてね。」

 横島がニヤリと笑う。

「では、そちらで差し支えなければ、今日これから向かいたいと思うのですが。」

「ええ?! そんなにすぐ除霊できるんですか?」

「ええ、うちの所員たちはみんな、除霊のための特別な道具を必要としないんです。だから特別な準備は必要なくて、依頼があればすぐに仕事にとりかかれるんです。おまけに、仕事のための必要経費もほとんどゼロで、だから、普通の事務所なら割に合わない仕事も受けられるんです。」

「へえ……じゃあ案内しますわ。ここから車で一時間ちょっとの所です。」

「じゃあ、俺の車で行きましょう……おキヌちゃん、シロとタマモを呼んでくれ。」


───10分後、助手席に南村氏を、後席におキヌ・シロ・タマモを乗せ、横島は車を西へ走らせていた。ちなみに車は三菱パジェロ・イオのロング。色は赤とシルバーの2トーン。四〜五人のれて荷物も積めること。仕事で人里離れた場所へ出向くことも少なくないため、凸凹の山道も走れること。しかし普段の足として使うことも考えると、車体はあまり大きくないこと。なおかつその車で乗り付けて、依頼主に軽く見られないことという、難しい条件に合わせて選んだ結果である。
 運転する横島の服装も、かつてのジージャンとジーンズではない。黒の革ジャンにアイボリーのスラックス、黒の革靴に、首に巻いた純白のスカーフという、いささかキザな格好である。ちなみにどれも、最高級ではないにしても充分上等な代物だ。年齢のことで依頼主に軽く見られるのは仕方ないとして、それ以外のことでも軽く見られるのはやはり損である。そのための配慮から選んだ服装であった。同じ理由で、依頼主の前では、極力精悍な表情を作るようにしている。

「…ったく横島も、オカルトGメンを通してるからって、いいかげん相場より安く受けるのはやめなさいよ。そのうち足元をみられて、そんな依頼ばっかり押しつけられる羽目になるわよ。」

「良いではござらぬか。押しつけられても、こちらは少しも困らぬのでござるから。そもそも、本当に困っている人のためなら安く受けるからこそ、うちは感謝され、信用されているのでござる。」

「そのうち、以前の唐巣神父みたいなことになっても知らないわよ。」

「先生は、そこまで甘い人ではないでござるよ。人の善意につけこむような、卑怯な相手は許さないのは、タマモも知っているではござらぬか。」

「わかってるわよ。横島が、嘘や演技を見破ることに長けているってこともね。それでもやっぱり文句は言いたくなるわ。」

 シロタマのそんな会話に、南村氏が恐縮している。それを横目で見ながら、横島は、この一〜二年のことを思い出していた。

───そもそも、今タマモが言った力を手に入れたことが、独立するきっかけだったっけ───。

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