ザ・グレート・展開予測ショー

妙神山の休日 その5


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 3/30)







妙神山の朝は早い。
だてに修業場を名のっていない様で、日が昇り始める頃には、朝食を準備する音が建物の中から聞こえだす。
今日も珍しく小竜姫が台所に立つと、ご機嫌なのか鼻歌まで歌っている。

「さて、そろそろ皆さんをおこさないといけないですね。」

大体の料理を作り終わると、後はジークに任せて台所を出て行く。



「パピリオ〜、朝ですよ〜」

パピリオをおこす為に部屋へとやってきた小竜姫は、この建物唯一のベッドの上で、
芋虫のように布団に包まっているパピリオを発見する。

もちろん小竜姫は片手にフライパン、もう片手におたまと完全武装だ。

「ほ〜ら、おきなさいパピリオ。」

おたまでフライパンを意味の無く叩いてみる。

「後5分寝かせてくだちゃい・・」

もぞもぞと、芋虫がベッドの上を這い回って小竜姫から逃げ始めた。
しかし、当然小竜姫はそれを許すはずも無く、逃げるパピリオを捕まえる。

「駄目です!、そう言っておきてきた事なんて無いじゃないですか。」

小竜姫はパピリオの布団を剥ぎ取ろうとするが、パピリオもさせまいと必死に布団をつかむ。
布団の事を考えるとあまり本気を出せ無いので、小竜姫はうまく剥ぎ取る事ができない。

「あ、横島さん。」

「え、ヨコシマ!」

パピリオが小竜姫の声に驚いて布団から顔を出した瞬間、隙を突いてパピリオから布団を奪い取る。

「さ〜さっさと顔を洗ってきなさい。朝食の準備が出来てますよ。」

布団を剥ぎ取られベッドに転がったパピリオは、しばらくぽかんと辺りを見回していたが、
やっと騙された事に気がついて抗議の声を上げる。

「ひどいでちゅ〜〜〜、神族が魔族騙すなんて詐欺ですよ、ヨコシマ居ると思ったのに〜〜
居ないなら布団返してでちゅ〜〜。」

布団の上でじたばたと暴れるパピリオを見て、小竜姫もやれやれと言った顔をする。

「横島さんなら朝食を食べる時に会えるじゃないですか。
それより会った時にみっともなくない様に、顔を洗って髪整えてきなさい。」

それを聞いたパピリオは、横島が遊びに来ていることを思い出したのか、急いで部屋から飛び出していく。
見ていた小竜姫が楽しそうに微笑む。

「あんなに慌てなくても横島さんは逃げたりしないのに。」

可笑しそうに少しだけ笑うと、パピリオから奪い取った布団をきちんと直してやる。
直し終わった小竜姫が部屋から出ると、廊下の向こうからジークが現れた。

「すごい勢いで走って行きましたがどうかしたのですか?」

「横島さんに会いたくて、どうしようも無いみたいですね。」

「ああ、なるほど」

ジークは納得したい顔をすると、一度だけパピリオが走り去った方を見て、再び小竜姫の方を向く。

「私は朝食の準備を終わらせますから、小竜姫さまには申し訳ないのですが、
他の方も頼んでよろしいですか?」

「ええ、かまいませんよ。」

ジークが頼むと、小竜姫はとくに悩まずに答える。

「まあ、準備と言っても後は並べるだけなんですけどね。」

少しだけ申し訳ないような顔をする。

「丁度私も皆さんをおこしに行こうと思ってたので大丈夫ですよ。」

「すみません、よろしくお願いします。」

一度頭を下げるとそのままジークは台所へと戻っていく。
小竜姫はそれを見送ってから、まずはシロとタマモの部屋へと向かった。



中庭に面した縁側を歩いていると、もう少しで二人の部屋と言う所で、シロを見つける。
いつものジーパンにタンクトップ一枚と、季節を感じさせない格好で柔軟体操をしていた。

「あ、小竜姫どの、おはようでござる。」

小竜姫に気がついたシロが、すぐに声を掛けてくる。

「おはようございます。朝の鍛錬ですか?」

「そうでござる、最近ちょっと怠けてたので気合を入れ直してるでござるよ。」

話しながらも体をほぐしている。
小竜姫はしばらくの間様子を見ていたが、終わりそうも無いので朝食の準備が出来ている事だけを伝える。

「もうすぐ朝食の準備が終わりますので、用意して来てくださいね。」

「了解したでござるよ。もうちょっとだけやって向かうでござる。」

そこで小竜姫はもう一人の姿が見えない事に気がつく。

「タマモさんはまだ寝ているんですか?」

「寝てるでござるよ、あいつは同じイヌ科の癖にいまいち朝が弱いでござるからな。」

やれやれと言った感じでシロがあきれた顔をする。

「そうですか、じゃこれからおこしてきますね。」

「悪いでござるよ。
タマモは拙者がおこすゆえ、小竜姫どのはご自分の用事をすましてくだされ。」

シロは小竜姫に気を使わせてはいけないと思い、客間に向かうのを止める。
小竜姫は一旦止まると、シロの方を振り返る。

「いえ、大丈夫ですよ、ここは朝が早いせいか、おきれない方も多いですからね。
そういう場合はおこしてあげる事にしているんです。」

まあ大抵はおこすのは自分ではないのだが、そこまでは言う必要は無いだろう。

「ですが」

「こら〜〜〜〜!!シロ〜〜〜〜」

シロが小竜姫に自分が行くと告げようとした瞬間、顔を洗い終わったパピリオがシロを見つけて叫んできた。

「渡した服はどうしたんでちゅか! せっかくがんばって作ったのに、着ないなんて失礼でちゅ。」

「い、いやあれはひらひらが多すぎて寝にくいでござるよ。」

苦しまぎれの言い訳をするが、パピリオに通じるはずも無く、
シロはパピリオの部屋へと引きずられて行く。

「罰としても〜〜とすごい服着せてあげるでちゅ。」

「嫌でござる〜〜〜勘弁してくだされ。」

じたばたと暴れるのだが、パピリオの前ではお風呂を嫌がって押さえつけられる犬と言った感じだろうか、
まったく歯が立たない。

「大丈夫でちゅよ、ヨコシマが好きそうな服でだから、きっと気に入ってももらえるでちゅよ。」

「え、せ、先生が・・気に入る」

シロもちょとだけ期待を込めた顔をした。
それを見たパピリオがうれしそうにシロを引きずっていく。

だが・・シロは横島が好きそうな服が、どんなだ服かちゃんと想像したのだろうか?
シロよ・・・南無

「あれじゃ、しばらくはもう駄目ですね。」

一人だけ取り残された小竜姫は、しばらくぽつんと突っ立っていたが、それだけ告げると客間へと向かった。



シロやパピリオと別れた小竜姫は、二人が泊まっている客間の前まで来る。

コンコン

軽くノックをするが中からの返答は無かった。

「タマモさん、入りますよ。」

小竜姫が襖を開けて中に入ると、室内は雨戸を閉め切ったままのようでかなり薄暗かった。
まず、部屋の中を明るくしようと雨戸を開け始めた。

「う、う〜ん」

敷かれたままの布団の片方から、もぞもぞと動く気配が感じられる。

「ほら、もう朝ですからおきて下さい。」

そう言ってタマモが寝ていると思われる布団を見ると、まぶしそうに朝日から逃げているタマモが居た。
朝日を避けるため、布団に頭の一部を残して潜り込んでしまったのだが、
その残った頭の一部に猫耳が見える。

・・・猫耳?

小竜姫は不思議に思って布団に近づくと、上から軽くゆすってみる。

「タマモさん、おきて下さい。朝食の用意が出来てますよ。」

「う〜ん・・おキヌちゃん、だめ。
おきれないから朝食はパスするわ。」

タマモは寝ぼけて小竜姫をおキヌだと思っている。
少しどうしようか考え込んだ後、パピリオと同じ手でいってみる事にした。

「あ、横島さん、おはようございます。」

ガバッ

「え、横島! 違うのこの格好は私の趣味じゃない・・・の・・」

飛び起きて辺りをきょろきょろ見渡しながら言い訳をしていたタマモは、
そこでやっと横島が居ない事と、目の前に人物が小竜姫だと言う事が分かる。

「あ、・・・おはようございます。」

「はい、おはようございます。」

顔を真っ赤にしたタマモが、どこかぎこちない動きで小竜姫に朝の挨拶をした。

「えっと、別に横島は関係ないの、だから変な勘違いはしないでください・・・
だから、その・・・・えっと、横島には黙ってて・・・」

ちょっと下手にでながらタマモが小竜姫に頼むと、
ニコニコと微笑んでいる小竜姫が大丈夫ですと返事をした。

「誰にも言いませんよ、心配しないでください。」

そして思う、ああ、この人も同じなんだなと。
胸の奥底でちょっとだけチクリとする痛みを感じた。

「ありがと」

ほっとした顔をしながらタマモが小竜姫にお礼を言う。

「それより、朝食の準備が出来ましたので、用意をして来て下さい。」

「ええ、分かったわ。」

そう言ってタマモが布団から立ち上がると、そこで初めてタマモの着ている服が分かる。
黒いキャミソールにやたらひらひらが付いている物で、頭には猫耳の飾りが付いた薄い手ぬぐい?
の様な物をつけている。
生地が薄いキャミソールはうっすらと透けて見えるので、
タマモが付けている下着が惜しげもなく見えてしまっている。
しかも後ろには尻尾もついているこりようだ。

はっきり言って小竜姫にはとても着られないデザインだった。
タマモは自分の姿に気が付いていないのか、顔を洗うために部屋から出て行こうとする。

「あ、あの、タマモさん。出来ればその〜・・・・その格好で横島さんとかの前に出てもらうと、
困ってしまうのですが・・・」

そこでやっと自分の姿に気が付いたタマモが、出て行こうと途中まで開けた襖を閉める。
しばらく襖を閉めたままの姿勢で固まっていたのだが、
ゆっくり小竜姫の方へ顔を向き返すと、涙を流しながら言い訳を始めた。

「ちがうの、これは私の趣味じゃないの信じて〜〜〜」

「あ、はい、パピリオですよね。
あの子ここに来てからやたら凝るようになってしまって、
私たちが着るの嫌がるから、来た人に無理やり着せてて困ってるんですよ。」

かなり必死のタマモに小竜姫は安心してくださいと言ってくる。

「分かってるなら、何とかしてよ〜〜!!」

タマモは思わず叫んでしまうのだが、小竜姫は笑いながらそうですねとしか言わずに部屋から出て行く。
部屋にはタマモ一人残されたのだが、
昨日パピリオから今日の分と用意された服も似たり寄ったりなのを見て、泣きたい気分になるのだった。

「く、来るんじゃなかった。」

心底後悔をするタマモだった。



小竜姫は最後に横島の泊まっている客間の前へときた。

コンコン

軽くノックをするが案の定反応が無い、どうするか一瞬迷ったが襖を開けて中に入る事にした。

「横島さ〜ん、入りますよ。」

やはり雨戸が閉まっているらしく部屋全体が薄暗かった。
まず、雨戸を開こうと窓へ近寄る。
部屋の窓が南を向いている事もあり、窓を開けると部屋は一気に明るくなる。

次に横島をおこそうと振り返ると、横島は部屋の中央で布団を蹴飛ばしながら寝ていた。
窓を開けた事で若干まぶしそうにはしているのだが、いまだに起きる気配は無い。

「横島さん、おきて下さい。」

小竜姫は横島の横に座ると軽く体を揺すってみる。
本当なら無理やりおこせば良いのだが、何故かそれはもったいない様な気がして小竜姫には出来なかった。

「よっこしまさ〜ん、おきないとほっぺた引っ張っちゃいますよ。」

横島のほっぺたをつかんで軽く引っ張ってみる。

硬い、男の人って意外と硬いんだ。

両方のほっぺたを縦横と伸ばしてみるが、硬くてたいして伸びなかった

「う〜〜〜」

さすがに横島も、つかまれたほっぺたの手をどかそうと無意識に動くのだが、
小竜姫は巧みにかわしてほっぺたをつかんだままでいる。
しばらく横島は手を動かしていたが、どかすのを諦めたのか動きを止めてしまう。
それでもおきる様子は無かった。

「あきれた、意地でも寝てるつもりですね。」

横島の態度にさすがにあきれてしまうのだが、横島の寝顔もこれはこれで滅多に見れないものなので、
そのまましばらく見ている事にする。
まあ、気絶している顔なら何度も見たことはあるのだが、それはカウントしない事にした。

「横島さんもこうやって黙って真面目にしていれば、回りの評価も変わってくるんですけどね。」

実際こうやってじっくり見ても顔は整っている方だと思う。
横島を三枚目キャラにしているのは普段の言動なのだが、
それを取ってしまったら横島じゃなくなるのでちょっと複雑だ。

つかんでいた手を放しそのまま頬に手を添えてみる。
横島の寝顔をじっと見ていたら、だんだんと胸の鼓動が早くなるのを感じる。

どうしよう、どきどきしてきちゃった。

いまだに横島はおきる気配を見せない。
少しだけ、ほんの少しだけならと思いながら、だんだんと顔を横島に近づけていく。

「う〜〜ん」

後15センチと言う所で横島の目が開きだした。
すぐ後ろに顔を戻せばよかったのだが、驚きすぎた小竜姫はその場で固まってしまった。
結果、横島と小竜姫は15センチと言う距離で見つめ合う形になる。

さすがにこれには横島も驚いたのか、ちょっとの間眼を泳がせると小竜姫を見つめて質問をする。

「えっと、夜這いですか?」

バキッ

反射的に小竜姫は横島の顔にパンチを繰り出した。

「ぐぇ〜」

「ち、ちがいます!! 
横島さんをおこしに来たのですが、なかなかおきないから死んでるのかと思って確かめてただけです。」

なかなか苦しい言い訳だが横島は信じたようで、顔をさすりながら当たり前かなどと呟いている。

「しかし、いくらなんでも死んでるかは無いでしょ、息してれば生きてますって小竜姫さま。」

「全部横島さんが悪いんです!
さっさとおきてくれないし、おきなくて良い所でおきるし・・・」

言葉の最後がぼそぼそと小声になってしまう。

「え、なんですって小竜姫さま、最後が聞こえ無かったですよ。」

「なんでもありません!!」

横島にはなんで小竜姫が怒っているのか分からないのだが、触らぬ神に何とやらでおとなしくする事にした。
布団から起き上がった横島は、服を着替え始めた。
着替えるといっても寝間着を持ってきていない横島は、
トランクスにTシャツ一枚と自分のアパートの時と同じ姿だ。

だがこれに反応する者が一人いた。

「よ、横島さん、私が居るのに着替えださないでください。」

小竜姫は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
だがこれには横島も驚く。

「へっ?
前に修行に来た時だって番台に座る小竜姫さまの前で着替えましたよ?」

「あれは修行のためですが今は違います。
私だって男の人の着替え見て何も感じないわけじゃありません!」

いまいち横島にはよく分からなかったが、駄目と言うので大人しく布団に戻って謝る。

「すみません、小竜姫さまが出てから着替えます。」

「お願いします。朝食の準備は整ってますので着替えたら来て下さいね。」

なんとか小竜姫は落ち着きを取り戻して朝食の誘いをかける。

「あ、おなかぺこぺこだから楽しみだな。また小竜姫さまが作ったんですか?」

「え、ええ、私が作ったので楽しみにしてください。」

ちょっと顔を赤くした小竜姫が、横島と目を合わせないようにしながら答える。

「おっしゃ〜、俺ってついてるぜ、連続して小竜姫さまの手料理が食べられるなんて。」

「そんなに喜んでもらえると悪い気はしませんね。
だいぶ遅くなってしまったので急いでくださいね。」

それだけ言って部屋から出ようとするのだが、ふと思い出して襖を開けてる手が途中で止まる。

「今日・・私は残りの書類を片付けるために書斎に居るので、時間が出来たら来て下さいね。
昨日の続きをちょっと話しましょう。」

襖を開けようとした状態のまま、横島の方には振り向かないで喋る。
横島は少し考えるように黙っていたが、それなりに真面目な声で答えを返した。

「ええ、必ず行きますね。小竜姫さまからの愛の告白楽しみにしてます!」

・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・

シーン
二人とも喋らない、軽くぼけたつもりの横島は、小竜姫からの反応が無い事に少し焦りだす。

やばい、怒らせたか。

どうしようかと悩み始めると小竜姫がゆっくりと喋り始めた。

「そうですね・・それも良いかも知れませんね。」

「えっ!?」

あまりの驚きに口は開くが言葉は出てこない横島だったが、小竜姫の次の一言で布団に倒れそうになる。

「冗談です。」

それだけ言うと小竜姫は部屋から出て行く。
台所に戻ろうと足を進めると、後ろから横島の叫び声が聞こえる。

「もてあそばれた〜!! 俺の少年の心がもてあそばれた〜!」

部屋を転がる音も聞こえるので、小竜姫は今の横島の光景を簡単に思い浮かべられる。
くすくすと笑いながら廊下を歩くと、つい心の中の声を口に出してしまった。

「まったく、だれが少年の心ですか。」



続く

あとがき

え〜最初に謝りますがこんなに遅れてすみません。
1週間以上空いちゃいましたね。みなさんの投稿ペース速いからえらい後ろに
その4が・・・

ちょっといろいろと忙しくなってしまって見る事も出来ない1週間でした。
楽しみにまってくれていた方が居たら謝ります。(まあどのぐらいかは謎ですが(笑

さてその5となりました。話自体は全然進んでいないのですが、まあ朝の風景ということで(笑

次で最終話になると思うのでお付き合いお願いします。

ではでは

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