ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(4‐1)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 3/30)

「――でさー,兄貴」
「兄貴とか呼ぶんじゃねえ!」
「……秀吉」
「改めてそうまじまじと言われると,何か腹立つな」
「如何しろってんだよ……」
「っさいなー」
弘治三年,十一月一日。
尾張国,清洲城。
日が暮れる頃,その日の仕事に一段落が着いた木下秀吉――木下藤吉郎と日野秀吉がじゃれ合っていた。
「へっ,上手くやってるみてぇだな?」
「!」
「殿!」
不意に声を掛けられて振り向くと,本丸の縁側に,二人の主君の織田上総介信長が,寝間着姿で立っていた。
「あ,あのっ!大丈夫なのですか!?」
「あ?何がだよ」
「へ……?」
信長の体調を心配して声を掛けた藤吉郎だが,しかしそれは全く報われなかった。
「な,何がって……」
信長は,この十月末から重病と称し臥せっていた。京に早馬が飛び,明国帰りの新知識を持った医者が呼ばれてもいる。
信長が寝間着姿なのもその為で,藤吉郎は勿論,その心配をしたのだが。
「ご病気だったんじゃないのですか!?」
「ああ,ありゃ仮病だ」
「仮病……?何故に」
事も無げに仮病と言う信長に,藤吉郎は驚きの声を上げた。後に天下人となるこの男も,この頃は未だ百姓上がりの純朴な少年に過ぎなかった。
「馬鹿じゃねえのか,お前」
脇から,秀吉が口を挟んできた。此方の方は,多少ひねくれていると言うか,世知には長けている。少々物事を穿って見過ぎるのが欠点だが,藤吉郎が常に一緒に行動し,それを補っている。逆に藤吉郎の至らない所は,秀吉が補完する。二人にとってお互いは,もう一人の自分なのだ。自分を常に客観的に見れると言う事は,安穏とする事が許されないこの時代,強い武器となっている。顔が全く同じな為,彼等を見分けるのは本人達でないと不可能だ。
「え?如何言う事だよ」
「信行だよ」
秀吉が出したその名前は,信長の同母弟――先代・織田信秀と正室・土田御前の間に生まれた,末森城主の勘十郎信行の事である。秀吉は,例え主筋に当たる者でも,尊敬に値しない者には敬称を付けない。
「信行様?」
「詰まり,殿も遂に堪忍袋の緒が切れたのさ」
「え……それって詰まり……」
「信行を,謀殺されるのだろうな。ですよね?殿」
秀吉が,勝ち誇った様な顔で信長を振り返る。藤吉郎より,自分の方が信長の心中を読み取れたのが嬉しいらしい。
藤吉郎程無邪気ではないが,彼の中にも,惚れ込んだ主に認めてもらいたいと思う所はあるのだ。
「……ああ」
信長が,苦笑しながら頷いた。はっきり言ってかなり不快な発言の筈だが,此奴等にこうも無邪気に言われると,微笑ましい気分以外,何も出てこなくなってしまう。
「え,でも,信行様は殿の弟御ではないですか!?」
彼にとっては思いもよらぬ事だったのか,藤吉郎が飛び上がって尋ねる。槍働きが重視される侍と言う職業で,男でありながら貧弱な体躯を持つこの男にとっては,愛嬌も一つの武器である。
「向こうは,最早そうは思ってないだろうな」
「そんな……」
信行は,その天才的な発想からか幼い頃から“大虚け”と呼ばれてきた信長とは違い,(基本的に)折り目正しく,既に信長に見切りを付けた母親や,信長による織田家の将来を危惧する家老達,信長の新手法に仕事と手柄を奪われた家臣達の受けも良い。
だが,父の信秀は断固として信長を嫡子とする事を示した。端から見てそれは,丸で妻が信行を溺愛するのと釣り合いを取る様に,信秀は信長を贔屓している様にも見えた。事は実際それ程複雑でもないが,信秀が“虚け”と呼ばれた信長の,唯一であり絶対の理解者だった事は事実だ。
周囲の期待を受けながら,肝心の父や兄に認められないと言うのは,信行のコンプレクスとなり,やがてそれは兄への叛意へと変わった。
二年前,信長の正室・濃姫の父である斎藤道三が,この義龍に攻め滅ばされたのを見た信行は,義龍の示唆に従い,遂に打倒信長の兵を挙げた。同調したのは,織田家の筆頭家老・林 秀貞とその弟の美作守,それに信行付き家老の柴田勝家,津々木蔵人等だ。
彼等は先ず,林家の属する荒子城に反旗を掲げ,続いて米野城や大脇城をも占拠して,清洲と那古野を分断する作戦に出た。更に,信長の次兄・安房守を攻め殺し,信長の直轄領を横領するに至った。
これに対し,信長側も尾張の下四郡を東西に分ける於多井側の岸に砦を築いたが,家中の八割迄は信行に荷担していた。
そして,弘治元年八月二十四日。遂に両軍は激突した。稲生の戦いである。
結論から言って,この戦いは信長側の勝利となった。勝敗を決したのは,信長自身の断固たる行動と,信行方の統制不良だ。信行側には五千人程の兵がいたが,議論が纏まらず,戦闘に出たのは柴田勝家の千人と林 美作守の七百人だけだった。しかもこの内,勝家は既に先の比叡山での天回宗との戦いから信長に心酔しており,厭戦ムードが漂っていた。故に,統制が取れず各個撃破されてしまったのだ。
又た,主将の信行が前線に出なかった信行方は士気が振るわず,各武将が首取りに必死になった。対して信長方は,信長自身が最前線で槍を振るい,美作守を討ち取ったので,誰もがまっしぐらに突進せざるを得なかった。この差も要因だろう。
余勢を駆って信行を末森城に囲んだ信長だったが,母の助命嘆願を入れ,信行を許す事にした。
その信行が,又たぞろ反逆を企んでいるらしい。
「もう仕方無ぇよ。彼奴は“敵”だ」
「でも……」
納得出来なさそうな顔をしている藤吉郎に,秀吉が諭す。
「この乱世だ。生き残る為には,身内の膿を如何に早く除くかだぜ」
「……そう言う事だ」
寂しそうな笑顔で,信長が同意する。
「その為には,弟と言えど容赦はしてられねえよ」
「殿……」
空を見つめ,信長は滅多に見せない辛そうな表情で呟いた。
「……お前等は,仲良くしろよ?」
「はっ!」
「殿のご命令とあらば」
「ふ……」
微笑を残し,信長は部屋の奥へと戻っていった。
「……」



「ふーーーっ……」
「ど,如何したんすか,女華さん」
その夜,藤吉郎は偶々,濃姫に付いて美濃からやって来た侍女の女華と夕食が一緒になった。
「随分とお疲れっすね」
「ええ……,もうね」
「何があったんすか」
「いや……,今日,小折村から生駒の方様と奇妙丸様が城に連れてこられたでしょ」
「ええ」
信長は,病に臥せっていると言う情報を裏付ける為,小折村から,側室の生駒吉乃と彼女が生んだ自分の嫡男・奇妙丸とを,清洲城へと呼びつけたのだ。
「それで,姫様のご機嫌が酷く芳しくなくてね……」
「そっ,それは大変すね……」
本気で疲れ切った表情を浮かべる女華に,藤吉郎は心底から同情の視線を送った。
おっとりして優しげな吉乃とは対照的に,帰蝶濃姫は,信長とも渡り合える女傑だ。自分には一向に授からない子宝を抱いた夫の愛妾が一つ屋根の下に居るとなれば,平静ではいられないだろう。
「本当,勘弁して欲しいわあ……」
「……頑張って下さい」
溜息をつく女華に,藤吉郎は,そんな気休めの言葉を掛ける事しか出来なかった。



翌十一月二日,末森城の信行にも急使が飛び,清洲城へ呼びつけられた。
信行とてこんな芝居を丸々信じた訳ではないが,断れば叛意が明らかになり,岩倉の織田信堅や美濃の斎藤義龍との共同作戦が出来る前に撃破されると恐れた。それに,何処かにひょっとしたらと言う心理も有ったろうし,最悪,母親にでも縋れば出家位で助かるのではと思っていたのかも知れない。
だが,信長の行動は早かった。“敵”と見なした者は,弟と言えど容赦せず,迅速に潰す。
信行を寝所に呼びつけた信長は,自ら握った懐剣で,信行を突き刺した。
「兄……上……,何故……涙を……?」
「分からんのか……!?この……馬鹿野郎!!」
「……ぁっ」
織田勘十郎信行は,兄の腕の中で息絶えた。

「……人生,五十年……下天の内を比ぶれば……夢,幻の如く也……一度生を得て……滅せぬ者有るべきか……」
信長は,信行の亡骸を抱き,暫し涙に暮れた。




そしてこれは,そんな世界から少しずれた時空のお話。











時は,三度金曜に戻る。



「夜は霊のゴールデンタイム……」
「……」
「とは言え……,人様に迷惑掛けて良い訳にはならないわよね……!」
そう言うと,植椙景勝は霊波鎌を振るった。
「ギャアァアァー!」
断末魔の悲鳴を上げ,悪霊達が次々と消滅している。
「此処は貴方達の居場所じゃないのよ!早々に立ち去りなさい,悪霊共ッ!」
バシュウゥゥ……
嘗て命だったものが,端から刈り取られていく。
「霊波の鎌で容赦無く霊達を刈り取る……,正に死神……だな」
傍らの女が呟いた。
一見して男性に見えるこの女は,猛吏輝元。京都の由緒有る陰陽道の大家・猛吏家の当主で,景勝も所属する『織田除霊事務所』のメンバーの一人である。
「“死神人形”(デス・マリオネット)とは,言い得て妙だな」
「っさいなぁー」
ザン!
大振りの一降りで,悪霊の最後の一体を冥土へ送った景勝が振り向きざまに抗議する。
「その名前で呼ばないでよ」
「はは……。いや,悪い」
「ふん……!」
植椙景勝。“死神人形”と異名を取る彼女は,オカルトの名門・植椙家の当主である。
先頃死んだ,先代の輝虎が気紛れで迎えた二人の養子の内の一人で,義姉との後継者争いに勝ち,惣領の座を手に入れた。
そして輝虎の死後,植椙家を継いだのだが,専ら織田除霊事務所の第二オフィスに出入りしている。理由はと言えば,其処の支所長の豊臣秀吉に懸想していると言う何とも可愛らしい理由なのだが,これ迄の人生は平均的日本人からしてみればかなりハードなものだった為,一度恋に落ちたりとかすると,喰い付いてでも離さない様な気概が見える。その上,輝元を初め,ライバルも大勢居たりして,笑えない。
「まあ,良いわ。取り敢えずこれで,任務完了ね」
「ああ」
バブル景気の建築ラッシュで,霊的要素を考えない,所謂“家相の悪い家”が出鱈目に建てられた。このビルもその内の一つで,二人は支所長の豊臣秀吉の要請により,泊まり掛けで此処の除霊に来たのだった。
「さて。後は明日の朝,依頼人さんに報告して終わりね」
「そうだな」



翌日,依頼人から報酬を受け取った輝元と景勝は,新幹線で帰路に着いた。
「今回は,楽な仕事だったな」
「……」
「まあ,報酬もそれなりだったしな」
「……」
「景勝?」
「……」
「何か言ってくれよ……」
「……ああ」
「はあ。相変わらずだな」
「……」
戦闘行為の最中は酷く饒舌となる景勝だが,普段の彼女は有り得ない程に無口且つ無表情無感動だ。
それは,幼い頃から義姉と跡目を争っていたと言う成長過程の成せる技で,彼女の異名の“人形”の部分は此処から来ている。無論,“死神”は彼女の使う霊波鎌からだ。
「しかしな,景勝」
新幹線に揺られながら,輝元が隣りに座る景勝に諭す。
「……」
「それ,少しは治す様に努力した方が良いぞ」
「……」
「おい!」
「……ああ。分かってはいるのだがな……」
「ふう……。と言うか,事務所に入る前は如何やって仕事取ってたんだよ?」
「……」
二人が今の『織田除霊事務所』に入ったのは,先頃京都で起こった,“魔流連の乱”と呼ばれる大規模な戦乱が切っ掛けだった。
その事件で,二人は『魔流連』の幹部として仲間達と共に京都市中を占拠したのだが,その時,I.C.P.O.の“超常犯罪科”,俗に言う“オカルトGメン”に雇われて京都に乗り込んできたゴーストスイーパーの一人(厳密に言えばそうではないが)が,件の豊臣秀吉――木下藤吉郎なのだった。
兎も角,この歴史の表舞台からは抹消された事件において藤吉郎と戦い,敗北を喫した景勝と輝元は,それぞれ思う所が有り藤吉郎に好意を抱いた。そして,故に取り敢えず手っ取り早く,彼の部下として働く道を選んだのだった。単純と言えば単純な思考だが,何気に藤吉郎は競争率が高いので,兎に角も近くに居られる環境を作ると言うのは,大事な一手だったりする。
二人とも,狙った獲物は逃さないタイプだったりするし。
まあ,そんな訳で。二人は今,織田除霊事務所のメンバーとして働いていた。


「……」
「如何した?」
新幹線が小田原を出て直ぐ,輝元は景勝の変化に気付いた。
“魔流連”では副リーダーを務めた輝元だ。リーダーは,はっきり言って全く頼りにならない男だったから,事実上,彼女がリーダーだった。
灰汁の強い“魔流連”の幹部メンバーを纏めるのは,並大抵の統率力では叶わなかった。その杵柄か,景勝の無表情に浮かんだ僅かな感情の変化をも,輝元は読み取る事が出来たのだ。
「……メールが……,来た……」
そう言って,景勝は自分の携帯電話を輝元に渡した。
「メール?」
呟いて,輝元は携帯のディスプレイを覗き込む。
あの景勝が(本の少しだが)表情を変えるとは,一体どんな内容のメールだったのだろうか。
「!これは……」
一読して,輝元にも景勝の動揺の訳が分かった。
「……差出人は,……私の義姉だ……」
景勝が言った。
成程,差出人の欄には『植椙景虎』の名前が見える。これは,景勝が追い落とした義姉の名前だ。
「そうか。しかし,この内容は……」
輝元は,そう言って景勝の表情を窺った。
今は,彼女に表面上何の変化も見られない。しかし,心の内では平静ではいられないだろう。
「……」
「景勝……」
「……さて,な」
そう,景勝は呟いた。
「……」
メールの内容は声明だった。
その趣旨は,以下の通り。
「……先代・輝虎の落とし種が見付かった。故に,現当主・景勝は植椙家の家督を速やかに返還すべし……か」
「……」
「本当なのか?今更そんな者が出てきたとて,眉唾物だが……」
「……」
「まあ,このご時世,DNA鑑定でもすれば一発で分かるがな」
「……」
「景勝……」
要するに,景勝の勝利で幕を閉じたと思われたお家騒動が,別の形でぶり返したのだ。
無論,景勝には,例え養父の実子と言えど,自らの手を血で染めて迄,必死になって手にした植椙の惣領の座を,今更他人に譲る気持ちはない。
「……だが……」
「ん?」
それ迄沈黙していた景勝が,輝元に向かい,不意に言葉を向けた。
「……事は……,そう簡単な話ではない……」
「と言うと?」
「……」
景勝は,又た其処で一拍置いた。
本当に,異常な無口だ。幾ら無愛想な者でも,会話中にこれ程頻繁に間を置く者はいないだろう。
「……その落とし種とやらを擁立するのは……,恐らく義姉様だけではあるまい……」
「成程な」
輝元自身も,高名な陰陽道の名家の当主である。名門と名の付く家の,ドロドロとした争いは,身に染みて分かっている。
「……先代に恨みを持つ者達……,私の相続や人事に不満を持つ輩……,勢力を争う他家……」
「絶対多数の意見は,幻を現実のものとする……と言う訳か」
「……そう言う事だ」
景勝の家督相続に,不満を持つ者も多い。これを利用し,植椙を二つに割り,弱体化を図ろうとする者も居る。
「……敵は……,既に植椙屋敷を占拠した様だ……」
景勝の口数が,少しづつ増えていく。戦闘へ向けて,彼女の心が徐々に昂って来ている証しだ。
因みに,植椙屋敷とは植椙家の本領であり,此処を制する者が植椙の惣領である。
「如何……するのだ?」
帰って来るであろう答えに,ある程度目星をつけながら,輝元は探る様な目で景勝に問い掛ける。
「……私は,政治家ではない……」
「……」
果たして,帰ってきたのは全く予想通りの答えだった。
「……奪われたものは……,力尽くで奪い還すだけだ……!」



植椙屋敷。
「ふふ……」
植椙景虎は,携帯のディスプレイを眺め,笑みを漏らした。
栗色の髪を肩より少しした迄伸ばした,未だ少し幼さの残る感じの美女である。
「さて,如何する?景勝……」
形勢逆転だ。
全てを失い,惨めな敗残者と化した自分が,再び表舞台に立つ時が来たのだ。
「ふふ……,うふふふふ……」
静かな奥座敷に,景虎の陰惨な含み笑いが低く響いた。


その頃,別室では,嘗て,先代・植椙輝虎の客人として家内に力を振るうも,景勝の当主就任と共に勢いの衰えた,村上義清が客間に人を迎えていた。
「ようこそおいで下さいました」
義清は,今回の落とし種(?)擁立に,再起を賭けたのだった。
「景勝は愚鈍な方でしてな,惣領の座を乗っ取られたと聞けば,直ぐにでも奪還しに来る筈……。防衛には,やり過ぎると言う事はありませんでな」
一応,景勝は義清の主筋に当たるのだが,自尊心の強いこの男は,自分を認めようともしない者に,謙ったりはしない。抑もが,植椙とは赤の他人だ。
「こんな心強い援軍を送ってくれて,頼もしい限りですよ」
しかし,自分の味方には徹底的に追従する。気は弱いが自意識だけは過分に有るこの男の,唯一知る処世術だった。
「本当に有り難う御座います……,六道さん」
「いいえ〜〜〜〜,お母様の命令ですから〜〜〜〜」
のほほんとした笑顔で答えるのは,日本のオカルト業界でも一二を争う名門・六道家の跡取り娘,吉乃。植椙の弱体化を願う家の意向で,景虎方の援軍として,傘下の鬼道加江と共にこの植椙屋敷にやって来た。
「では,頼みましたよ」
「はい〜〜〜〜」
可愛らしい笑顔で,吉乃が脳天気に答える後ろで,すっかり吉乃のお守り係が板に付いた加江が溜息をついた。

義清は気付いていない。六道が此方に味方すると言う事は,景虎が勝った方が,植椙は弱まると認識されていると言う事に……。



翌日。
植椙屋敷の最寄り駅。
「お〜い……」
「ねーちゃん達〜……」
駅の柱に寄り掛かっていた景勝と輝虎は,自分達を呼ぶ声に顔を上げた。
「来たか」
「……」
二人が見ると,自分達の同僚の雨姫蛇秀家少年を引き連れた豊臣秀吉――木下藤吉郎が,此方へ歩いてきていた。
因みに書いておくと,秀家も元『魔流連』の幹部メンバーの一人である。猫又のクォーターで,偶々一昨日から藤吉郎と組んで泊まり掛けの仕事をこなしていた。
「なあに?こんな所で急な用って」
二人の前に来るなり,藤吉郎が問うた。
「……」
「え?」
その藤吉郎に,景勝は無言で携帯電話を渡した。その画面には,昨日のメールが映し出されている。
「これは……!」
藤吉郎も,横から覗き込んだ秀家も息を呑んだ。
「……それで」
「……」
「それで,俺に如何しろと?」
藤吉郎は,次の質問をした。此処等辺の脳内整理の速さは,流石と言うべきか。
「……約束通り……,責任取って……」
何時も通りの口調で,景勝は答えた。
「責任……?」
「一緒に,戦って……」
「……!」
藤吉郎は,再び息を呑んだ。
輝元を見ても,目を瞑ったまま,相変わらず腕を組んで柱に寄り掛かっている。
「……」
もう一度景勝の顔を見つめ,藤吉郎は答えた。
「部下の窮地を救えない様じゃ,人を使う資格なんて無いよね……!」
即ち,YESだ。
「……すまない」
「何を言ってるの。お互い様だよ」
謝る景勝に,藤吉郎が笑いかける。
「……」
朱に染まった景勝の顔が,僅かに笑みが浮かんだと言うのは,気の所為だろうか。
これも,藤吉郎の人使いの技なのか。
何れにしても,他人の為に命を懸けられるのは,ゴーストスーパーと言う職種には,必要な覚悟である。

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