〜 『キツネと姉妹と約束と 第13話 後編』 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 3/29)
〜appendix.13 『悲しき玩具』
血が・・したたる・・。
横島の目の前で・・・ポタポタと・・朱色の染みがつくり出されていく。
「・・スズノ・・・?」
あの時、自分はたしかに死を覚悟した。スズノの攻撃はとても反応できるような代物ではなかった・・。
・・・。
・・・なのに・・・・・
目を開けた瞬間、広がったのは・・・鮮血に沈む少女の姿・・。
彼女は自らの手で・・自らの胸を突き刺している・・。
・・・。
「・・・ちが・・う・・。私・・こんなこと・・したく・・・・」
言って・・
スズノは横島の腕へと崩れ落ちてしまい・・・・
「・・・スズノ!!!」
「よこ・・・・しま・・・。」
弱々しげに口にしながら、彼女は少しだけ笑顔を浮かべて・・・・・
「前に・・同じようなことがあった時も・・こうやって自分を止めたんだ・・。
よかった・・今度は・・まだ誰も死んで・・ない。」
少しずつ・・少しずつ・・・スズノが、もとの姿へと戻っていく。
横島が我に返るころには・・少女は初めて出会った時と変わらない・・小さい姿で・・・
しかし、ぐったりと・・横島の胸に体を預けている。
・・・・。
「・・・すまない・・全部・・私のせいだ・・・・・・・」
「っ・・・なに・・・言ってんだよ・・・!んなわけあるかっ!!誰がそんなこと・・・」
「ねー・・さまに・・もう一度・・会いたか・・・・・・」
言いながら、スズノは目蓋を閉じて・・・・彼女の頬を・・・涙が伝っていく・・。
・・・・。
「・・っ・・こんなの・・・おかしいだろっ!!なんでスズノが一人だけ・・・ こんなの・・・!納得できるかよ・・っ!!」
横島は、つらそうに息を吐くスズノを抱きしめる。
これでは・・前と同じではないか・・・。
結局、自分は何一つ守れず・・・何もできないまま・・大切な人の命を・・・
・・・・。
――――この肉体も限界か・・・。なかなかに使えるマリオネットだったのだが・・致し方あるまい・・。
瞬間だった。
部屋を・・暗く重々しい声が鳴り響き・・・・
スズノにまとわりつくように・・灰の色をした霧状のなにかが浮かび上がる・・。
「・・・・・・!?」
――――いささか、暴走させるのが遅かったようだな。娘の自我が強くなりすぎた・・。まさか今回は一匹も殺すことができぬとは・・・
愛想がつきた・・、そう言わんばかりに『霧』はつまらなそうに吐き捨てて・・・
――――どうした?何を怒っている?生き延びたことを神に感謝するがいい・・。
「・・・・てめぇ・・・。」
見下すような声に、横島は拳を握り締める。
「・・てめぇが全部・・・。てめぇがスズノを操ってたのかよ・・・っ!」
――――・・操る?人聞きの悪い・・さっきお前も言っていただろう?
この娘は正気を失っていない・・18年前も・・そして今も、破壊を行ったのはあくまでスズノの意志によるもの。
私がやったことなど・・ククッ・・そうだな・・せいぜい記憶を捻じ曲げ・・憎しみや怒りを増幅させたぐら・・・
「!それを操るって言うんだろうがっ!!!!」
横島の腕から雷光がほとばしる。
文殊で創り出された雷の球は・・・スズノを包み込む霧を夢散させ・・・
――――冗談の通じぬ男だ・・。私の実体は未だスズノの中にある。傷をつけることは適わんよ。
何事もなかったかのように笑う声。
――――馬鹿めが・・。マリオネットを操って何が悪い?余計な感情を取り払い・・必要な感情を肥大させ・・殺人人形に仕立て上げる。
この娘の心は脆く・・そして御しやすい。理想の操り人形だ・・ホラ・・こんな風に・・・
同時に・・閃光が走る。
そして・・・・
「あ・・・・う・・っくっ・・!」
呼吸をするだけだったスズノが・・突然苦しげに胸を押さえだし・・・
彼女の全身から・・・高熱の炎が湧き上がる。
・・・・。
「・・・・スズノに・・・何をした・・・・。」
魂が抜けたようにつぶやく横島へ霧はさらなる言葉を投げかけた・・。
――――・・さて?スズノを揺さぶる種などいくらでもあるからな。
今のコイツは『死ね』と命じるだけで簡単に首を縦にふる・・よほど貴様らを傷つけたことが堪えたらしい・・。
「・・・・・・っ・・」
――――クハハハハハハッ!!!見ろ!!このまま静かに死なせてなどやるものか!!言っておくが・・スズノの力が暴発すれば・・こんな街など簡単に消し飛ぶぞ!!
もちろん、スズノの命もともにな!!
気配が遠のく。
高みの見物を決め込むように・・そのまま霧が上空へと舞い上がり・・・
――――茶番だな。この娘は何も知らずに消えていく・・
唯一、誰も死なせずにすむと思っていた『死の選択』によって・・逆に多くの命を殺めるとは・・・
・・・。
横島は・・目の前の光景に、ただただ言葉を失っていた。
スズノの意識は途絶えたまま・・だが、その周囲には、巨大な火柱が練り上げられていく。
白光する炎。目を疑うような超高熱が・・一帯に無慈悲な破壊をもたらしている。
くやしいが『霧』の言うとおりだ・・。こんなものが開放されれば・・自分も、仲間たちも・・そしてスズノも一巻の終わり。
・・・・。
・・・・・・・。
「・・つっても・・なんとかするしかないよな・・。」
横島は・・その絶望的な光景を前にして・・・しかし、かすかに微笑んで・・・
「・・約束・・したもんな。絶対守るって・・オレが必ず助けてやるって・・な?スズノ・・」
・・・崩壊の秒読みが・・・始まった。
◇
(・・・スズノ・・・)
霞がかかったような意識。自分は今・・・何をしているのだろう?
たしかに・・あの時たしかに自分は・・この手で妹を抱きしめて・・・・
そして・・・・
『こんなところで倒れていていいの・・?タマモ。』
不意に・・誰かに尋ねられる。
『スズノは・・待ってるよ?君の事を・・。横島くんだけでは多分、無理だ・・彼女を救えるのは君しかいない。』
深淵の底から響く声。・・何度か耳にしたことのある・・・。
(・・・・。・・・・・・!!)
タマモの脳裏に・・一人の少年の姿が映し出された。
蒼髪の少年。恐ろしいほどに整った顔立ちと・・そして、緑色にして混沌の瞳。
「・・・・どうして・・あんたがここに!!」
跳ねるようにタマモが起き上がった。
視界の先に在ったのは・・スズノと再会した場所とは少し離れた・・無人の祭壇。
横島たちはどこに行ったのだろう?
水晶で構成されていたはずの美しい床は・・見る影もなく実体を失い始めている。
(・・・スズノが・・・私を待ってる・・・?)
軋む体を奮い立たせて・・タマモは奥に見える扉へと走り出した。
何のことかは分からない・・。だけど・・
もう、自分はあの頃とは・・スズノを一人残してきたあの頃とは違う・・。
「お願い、スズノ・・・無事でいて・・・。」
祈るようにつぶやきながら。タマモは扉を開け放ったのだ。
〜続きます〜
『あとがき』
皆様、いつも読んでくださってありがとうございます。かぜあめです〜
いやはや、やってしまいました・・。余裕の16kb越え(爆)読んでくれる方はいるのでしょうか?(汗
さてさて、敵の外道レベルにも一際磨きがかかる13話ですが・・(爆
もうこれだけ潔く非道だと、逆に固定ファンができそうな予感がします(笑)
そして・・蒼髪の少年が再登場!!そろそろ、名前を明かした方が・・
もともと自分がこの手のキャラが好きなのと、女性読者のウケを狙った渚カ○ル系の美少年だったのですが・・
しかし『キツネシリーズ』の読者に女性の方がほとんどいないということが判明!!(笑)
なんてことだ・・(爆
裏設定なのですが・・スズノの体は力を4割以上開放すると、自動的に十代後半モードに変化します。
『姉妹』が終わったあとも『体は大人、心は子供』という強力な武器を活かして(無意識に)横島を誘惑する場面が出てくるかも(笑
それでは、また次回お会いしましょう。
今までの
コメント:
- お初です。
いつもこっそり読んでいたのですが
ついにコメントを書きたくなりました。(馬鹿)
スズノが、スズノが死んでしまう〜
横島〜っどうにかしろ!!(どうにかなると思いますが)
ということで、これからも楽しみにしています。
長々と失礼しました。 (飛翠)
- ハサウェイです。
かぜあめさんの作品はいつもひねりが入って
次の結果が楽しみになってきます。
次もよろしくお願いします。(^v^)b (ハサウェイ)
- 横島君がカッコよろしいv
>体は大人、心は子供』という強力な武器を活かして(無意識に)横島を誘惑する場面が出てくるかも(笑
是非お願いします、其れ! (紅蓮)
- 『霧』の言い分が良く分からない・・・。何がしたいのだ,貴方は。
そして,蒼髪の少年。ん・・・びみょー・・・。どうだろう,これからの活躍に期待ですね。
とか言って,今回も面白かったですよ。次回に期待です。 (竹)
- はじめまして、最近ここに来はじめた者です
かぜあめ様や他の方々の作品もそうですが、
読んでいてひきつけられる話で楽しく読ませていただいてます。
これからも頑張ってください (TRY)
- 絶望的な光景を前にしてもかすかに微笑む横島・・・格好良すぎまっせ!!
タマモとスズノの再会はそろそろかな?どのような形で再会するのか楽しみです。次回も期待して待っております。 (殿下)
- 面白かったですよ。
横島かっこよすぎ(笑
次も期待してまってます。 (青い猫又)
- いやーホント読み応えの有る話ですね!!つーか今回は横島がカナリ目立ってましたね♪やっぱ横島は西条に劣らずカッコよかったです!!絶望的な状況を前にして微笑む所なんか、『最高!!』って感じでした!!それと久しぶりに登場してましたね蒼髪の少年が☆つーか彼は赤い髪の少女の仲間なんでしょうか?この辺の関係が、ホント気になります!!これからも楽しみにしています!! (GTY)
- 最初から読ませていただきました。
さまざまな謎や副線があって非常に先が気になる作品ですね!
『姉妹』シリーズの後の横島を誘惑ネタも期待しています(爆) (ポトフ)
- 「少年」の正体がかなり気になります。
いえ、私の温めているネタと被っちゃいないかと。ヒヤヒヤものです。
それはさておき、スズノは操られていたんですね。『霧』は違うと言ってますが。
事態は更に深刻になってきました。タマモ、急いでっ!! (林原悠)
- どうも〜ヒロです〜
え・・・スズノはコ○ンクンになっちゃうんですか!?と何と無く想像中。
で、今回のてき『霧』サンの登場。今までのシリーズと違って実体がないから、ボコボコにできない!?どうするんだ!?と、ちょっと焦ってまっす。
で、ちょっと疑問に思ったんですが・・・18年前に一旦暴走起こしたんですよ・・・ね?そしたらスズノに内在する力がなくなっちゃって、再チャージが完了するまでに凄まじい年月がかかるんじゃないかな〜と(汗)ほら、本文中でも凄い年月かけてチャージしてるじゃないですか。いえ、違ったら申し訳ないです。
であであ〜これからも頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
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