〜 『キツネと姉妹と約束と 第13話 前編』 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 3/29)
〜 『キツネと姉妹と約束と その13』 〜
appendix.12 『ダンシング・ブラッディ』
消し炭になった。
少女が腕を振り上げるたびに・・全てが・・あらゆるものが灼熱の炎に飲み込まれていく・・。
「へぇ・・かわすんだ・・。あなた凄いわね、人間としては異例と言ってもいいくらい・・。」
その炎の渦の中を・・横島は信じられないほどの勢いで立ち回っている。
彼の掌には・・・光り輝く3つの文殊。超加速を実行している今の横島は、速さに関してなら、神魔族にも全く引けを取らない。
並みの人間なら、目で追うことすら適わない・・そんな速さ。
・・・・が。
「・・・でも、おかしいな・・。さっきから防戦一方・・それじゃあ勝てるものも勝てないと思うけど?」
その動きすらも問題にならないと言わんばかりに・・スズノは安々と横島の間合いに侵入する。
「・・!!」
「・・・・・弾けろ。」
言葉は呪文になった。
彼女の命じた通り、部屋を囲む数百本の柱が一斉に弾け飛ぶ。水晶の欠片が刃となって・・辺り一帯に凶器の雨が降り注ぎ・・・
「ふふっ。これもかわせる?」
冷笑を浮かべるスズノ。少女を映す視界が赤く・・暗く・・染まってゆく。
「・・・・・・・。」
切り刻まれる痛みより・・強大な力に対する恐怖より・・横島の心を捉えて離さなかったものは・・悲しみっだった。
彼女はスズノだ。・・それは間違いない。
だが、自分の知っているスズノは・・こんなことをして喜ぶ少女ではなかったはずだ。
・・・・・。
「・・・どうして、そんな顔をするの?」
「・・え?」
ようやく『雨』が静まったころ、床は透明な瓦礫で埋め尽くされていた。
少女の口から紡ぎ出される言葉。氷の眼光がわずかに揺らぐ。
・・・一瞬、意味が分からなかったが・・どうやら自分は・・いつの間にか、感情を顔に出していたらしい。
「相手が本気で殺そうとしてきてるのよ?あなたも全力でそれに応えればいい。
第一、逆立ちしても勝てないことが分かってるんだから、逃げたって構わないでしょうに・・。」
スズノの表情は・・全くと言っていいほど読み取れない。
・・・。
「・・そんなに私と闘いたくない?・・『横島』」
刹那、目の前で少女の体がかき消える。幻術か・・・それとも消えたと錯覚させるほどに速く動いたのか・・。
いずれにしろ気付いた時には背後に回りこまれていた。
―――!?
「・・遅い。」
絶望的なスピードで繰り出される掌底。しかし・・・そんなことよりも・・・・
(オレの名前を・・?・・スズノ・・お前・・・)
そこで思考は中断される。
受身をとるヒマすらあたえず、スズノの掌は的確に横島の顎を打ちつけ・・・・・
「ぐっ・・・あ・・」
・・・・・。
意識が・・・遠のく・・・・。
・・・・。
――――・・。
・・。
動かなくなった4人の姿を前にして、スズノはつまらなそうに嘆息した。
「・・最後の一匹は・・まぁ、マシだったか・・。ウォーミングアップくらいにはなったかしら?」
喜色に富んだ声。・・いや、富んでいるように見える声。
何故か、彼女の顔は青ざめていて・・・
表情も、横島と相対した時よりもさらに徹底て感情を押し殺した・・鉄面を思わせるそれに変じている。
「・・この街を消したら・・次はどうしようかな。
ここ近辺で一番強い力を持った神魔族は、斉天大聖だろうけど・・神族は殺しても殺さなくてもどちらでもいいし・・。」
つぶやく銀の少女の声には・・どこか違和感が感じられた。
独り言というよりは・・明確に、誰かに向けられることを目的とした口調。
あらかじめ用意した台詞を読み上げるように・・まるで・・観客を求めて一人舞台を演じるように・・・・
スズノは言葉を語り続けて・・・
・・・。
その時。
「・・・スズ・・ノ・・」
息を切らし、体を壁で支えながら、横島がよろよろと立ち上がる。
虫の息と・・そう言っても差し支えないほどに・・彼の体は限界を迎えていたが・・・
「・・力加減を・・・・間違えたかしら?」
青年の姿を一瞥すると、忌々しげに少女がつぶやいた。
「だけど、大人しくしていた方がよかったかもね。次は手加減できないかも――――――」
「・・違うだろ。スズノ。」
突如として、台詞が遮られる。
―――!?
一瞬、怯えたような目つきになるが、スズノはすぐさま唇を吊り上げて・・・
「・・・何を言ってるの?」
しかしわずかに・・・彼女の声は震えていた。
「お前は・・自分をごまかしてる。本当は覚えてるはずだ、オレや、他の事務所のみんなのことだって。」
言いながら、横島は少しだけ微笑んで・・・
「・・・訳のわからないことを言わないで・・」
「まだ、馴染んでないみたいだな、そのしゃべり方。」
「・・・・・・!」
・・・・。
・・少女が驚いたように口を押さえる。
「大体・・タイガーに言ったアレ・・・『キスしてあげようか?』ってやつ。
言った時、お前少し顔が赤かったぞ?慣れないことすんのはよせって。」
「・・・・・・っ!!」
からかうような横島の口調。
炎を放つスズノに構わず、横島はそのまま距離をつめる。
(・・・・・また・・かわした・・?・・どうして・・)
・・・・・・。
「最初は・・お前が正気を失ってるんじゃないかと思ってた。」
・・・。
「だけど・・本当は違ったんだな。正気なんて端から失ってない・・。加減を間違えたっていうのも嘘だ・・わざと力を弱めてくれたんだろ?」
「・・・ちがうっ!!!私は・・お前など知らない!!!」
少女の口調が変わる・・。
乱雑な・・聞き覚えのある口調。それを確認すると、確信を強めたように、青年は歩みを早める。
「さっきオレの名前を呼んだよな?それに除霊委員のやつらが初対面だってちゃんと識別してた・・。」
・・・・。
「オレたちのことを知らないっていうならそれは・・・スズノ、お前が勝手に『自分が変わった』って思い込んでるだけだ。
必死にもう一人の自分を演じてる・・。見てて可哀想になるくらいに・・。」
「・・・・・!・・・・・・・」
瞬間。
・・スズノの瞳がこれ以上ないほど見開かれ・・・・
そして・・居場所を失ったかのように・・・視線を下へと向けてしまう。
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・本当に?
・・・・本当に・・私はこの男のことを知らないのだろうか・・・?
・・・・。
・・・・ちがう・・・・。
・・・・私・・・・・
私は・・・・知ってる?
・・・・・・。
「・・どうしてだ?スズノ・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・なんで、オレとお前が闘わなきゃいけないんだよ?」
スズノは顔をうつむけたまま・・・・
「・・スズノ!!!」
・・・。
――――・・。
「・・・・・・まれ・・・。」
「!?」
「・・・黙れええええええっ!!!!!」
再び前を向き、横島を見つめたのは・・・・年こそ成長しているが、彼が見知った少女の顔。
しかし・・その表情は大きく憎悪に歪み・・・・、
・・私がこの男を知ろうが知るまいが・・・そんなことは関係ない。
もう一人の自分を演じている?・・それが何だというのだ・・。
・・・憎かった。・・・あの少女を殺した人間が・・・
自分でも押さえきれないほどに・・・
憎くて・・・憎くて・・・体が千切れそうになる。
―――聞く耳を持つな、スズノ。早く殺してしまえ・・。
心の中で何者かが囁く。
「お前が誰であろうと・・もう・・私は止まらない・・!!止まって・・たまるものか!!!私は・・私は・・!!!」
理性の歯止めが効かなくなったのか・・部屋には、スズノの絶大な妖力が嵐となって巻き起こる。
瞬間、横島の視界を影が走った。
「・・・死ねっ!!!!横島!!!!」
「―――・・!!!」
一面に・・鮮血が舞う――――・・・。
・・・知られたくなかった・・。お前には・・・こんな私の姿なんて・・・
◇
携帯の着信音。完全に途方に暮れていた4人と1匹は、一斉に美神のポケットへと視線を向けて・・・
「な・・なによ。こんな時に一体誰が・・っていうより電波届くの?ここ・・」
「せっかくかけてくれたんだから、取ってあげてはどうかね?援軍を頼めるかもしれないよ?」
至極もっともな唐巣の言い分に軽くうなづくと、美神は受話器を耳に当て・・・
・・・・・と。
『おお!!!つながりおった!!!美神令子!!わしじゃあ!!ヨーロッパの魔・・・・』
ピッ!!
・・即刻、電話が切られたりする。
「ちょ・・ちょっと令子!?いくらなんでも・・・」
「いや・・その・・だってねぇ・・」
「・・・あ。またかかってきましたよ?」
――――・・。
『まったく・・小僧と連絡が取れんからお前にかけたというのに何じゃ!!人の肩書きを聞くなりゴキブリのように嫌悪しおってからに!!』
「・・悪かったから拗ねないでよ・・。でも驚いたわね。まさか横島君がそんなことをあんたに調べさせてたなんて・・」
スズノの身に一体何が起こっているのか?何故、800年もの間を生きることが可能だったのか・・?
一週間前、横島がカオスたちにたずねたことが一応の決着を見たらしい。
電話ごしにブチブチと文句をたれるカオスに苦笑しながら、美神は興味深げにそう切り出して・・
『まぁ、時間もないようじゃし・・分かったことは伝えておくぞ?
スズノの外見が全く変化しない理由はな・・簡単に言ってしまえば、彼女の意識が成長を拒んでいるからじゃよ。』
「??」
『言い換えるなら・・成長するために必要な魔力の流れを、自らの意思で完全に遮断している・・といったところか・・。』
・・・。
5人は顔を見合わせた。
不死となる術についての理論体系はいくつもあるが・・今、カオスが口にした方法はその中でも最も単純なもの。
カビの生えた古書に描かれるような・・・夢物語だ。
魔力を遮断するために、内在する魔力を膨大に消費しなければならないという論理的矛盾・・
さらには、術者の負担・・精度の緻密さから、不可能と断じられ・・数百年も前に放棄された・・そんな理論。
「ま・・待ってよ・・そんな馬鹿な話あるわけ・・・」
『無いのではなく・・それしか考えられんのじゃよ。認めるしかないじゃろう?』
「・・そんなこと言われたって・・」
こめかみを押さえる美神を無視するように・・さらに説明は続いていく。
『驚くのは無理はないか・・。並の魔物ならまず実行不可能なことじゃからな。・・それができるスズノはおそらく天才じゃ。
まさに妖狐になるべくして生まれてきたような存在。姉ともう一度会いたい、という一念のみによって・・不老となる新たな道を見出した・・。』
『・・しかも・・・・』
・・しかも、これは・・おそらく、スズノ自身も予測していなかったこと。
本来、成長に使われるはずの魔力は・・時と共に消費分を上回り・・次々に体内へと蓄積されていく・・・。
800年という気の遠くなる歳月の中、じょじょに溜め込まれた莫大な力。
それはスズノを・・高位魔族を遥かに凌駕する怪物へと変貌させた。
「スズノ自身も認識していなかった力が・・18年前の事件をきっかけにして、一気に開放された・・そういうことでござるか?」
シロの言葉にうなづくと、美智恵は前へと進み出る。
「・・令子・・少し代わってくれる?」
「?いいけど・・・どうかしたの?」
ちょっとね、とそう言って・・・・
いぶかしむ美神から、美智恵は電話を受け取った。
「お電話代わりました。令子の母です・・こうして直接話すのは初めてですね、カオスさん」
『おお・・・そういえばそうじゃったな。それで何じゃ?他に何か聞きたいことでもあるのか?』
カオスの声に、一呼吸だけ言葉を止めると、彼女は唇を噛みしめて・・・
「・・先ほどのお話に、間違いがないなら・・スズノは・・あの子は・・自らの意志で殺戮を行ったことに・・なってしまいます・・。」
『・・・・・。』
「いくら親友を殺されたからといって・・スズノがあんなことをするとは・・私には考えられません。
あの子は優しい子なんです。・・炎の中でたった一人で泣いていた・・暴走が止まったのだって・・あの子が自分で・・!」
しぼり出される声に・・涙が交じる。
電話ごしのやりとりが・・・しばし途絶えて・・・
そして・・・・
『・・ならば、一つ別の可能性がある・・・。』
「・・・?」
『美智恵とやら・・考え方を変えてみてはどうじゃ?』
慎重に・・カオスがそう、口にする。
「・・考え・・方?」
『殺すはずがない・・ではなく、殺すように仕向けられた。暴走へと・・スズノの意識が誘導された・・。』
わずかに見えた光明は・・・それ自体、最悪の可能性を示していた。
・・・・。
『スズノの心は・・何者かに蝕まれているのかもしれん。」
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