ザ・グレート・展開予測ショー

「秘密」 日常の終わり


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 3/29)


・・・・生まれて16回目の誕生日。その日全てが動き始めた・・・・。

「お母さん今日私早く帰るから!」
「たくっ・・あんたは時間通りに帰って来た事なんて無いでしょうが!!」

いつも通りの光景。変わることの無い永遠の日常。

今日もそれが繰り返される筈だったのに・・・・。











「忘れ物よーーー!!!!」











(あれ・・・・なんで天井が見えてるの?)

無機質な白い平面が目の前に広がっている。私は学校に向ってた・・・・よね。
確か家の門を出て・・・・・・・・つっ・・。


頭がひどく痛む。・・・・そこからの記憶がどうもはっきりしない。



(何でだろ・・・・・・・ああもう、髪の毛邪魔!!前が見えないじゃない!!)



・・・・邪魔な髪の毛を掻き上げる。私の視界を赤色の髪が・・・・・・・・赤色?

ひょいと髪の毛を指でつまむ。

(・・・・そんな・・・・・・赤い!?私の髪は黒なのに・・。)



お父さんと一緒の黒髪。それに肩までで切りそろえられた髪。それが私だった。
でも・・・・今見えているのは違う。これはまるで・・・・・・・・



「令子!!!!!起きたのか!!」



部屋にお父さんが駆け込んで来た。・・・開け放たれたドアから薬の匂いが漂ってくる。
入ってくるなり、お父さんは肩を掴んで私を抱きしめた。


「良かった・・・・!!お前までも・・・・・・・何かあったら・・・俺は・・・。」
「い、痛いよお父さん!!何があったの!?」


私が声を出すとお父さんの動きが止まる。目が停止したままで私の顔を覗き込んでいる。


「・・・・・なんだその喋り方。令子やっぱりお前ショックで・・。」
「お父さん、何言ってるの!?私だよ、私!蛍だよ!!」
「何言ってるんだ令子・・・その姿のどこが蛍なんだ!?頼むから変な事言わないでくれ・・・・あの娘は・・・蛍は・・・・・・もういないんだ。」


(お父さん何言ってるの!?私はここにいるのに・・・!!)

状況が把握出来ない。私はここにいる。間違いない。ほらそこにある鏡にだって私が・・・・・!!





「・・・・・・・・・・・・・・・お母さん・・・・・・・・。」





そこにいたのは間違いなく私の母。・・・・横島令子だった。
赤い髪を腰元まで伸ばし、もう40半ばだと言うのに少しも美貌は衰えていない。
私の憧れの・・・そして尊敬する二人の内の一人・・・。


「お父さん・・・私・・・・・・・お母さんになっちゃった・・・・。」
「・・・・もういい加減にしてくれ!!頼むから元に戻ってくれ!!」
「違うわよ!!私なの!!蛍なのよ!!」



真剣な顔でお父さんを見つめる。(・・・・信じてよヨコシマ!!!)
その時・・・・一瞬私の中から何かが飛び出した気がした。



「!!!・・・・ルシ・・・オ・・ラ・・・。」
「えっ!?今なんて言ったの?」



聞き覚えの無い言葉・・・・。でも・・・・なんか懐かしい響き。


「い・・・いや・・何でも無い。・・・・・・・・・・・・・・・本当に・・・蛍なのか?」
「そうだって言ってるでしょ!いい加減信じてよ!!」


まだどこか疑いの眼差しを残している。どうしたらいいかな・・・。


「・・・・あっ、そうだお父さん。えっと「上から5段目、陽に向って中心の真下」・・だっけ。」

「!!そ・・、それは!?・・・・・・蛍にしか教えて無い・・・・・てことは・・やっぱり・・。」





「言ったでしょ!私なの。横島忠夫と横島令子の娘。横島蛍!!」















・・・・・その後私は色々と説明を受けた。
私が登校途中に事故に遭った事。その場には忘れ物を届けに来た母がいた事。


そして・・・・、私はその事故で・・・・・死んだ事。


正直どう言っていいのわからない。・・・何故私はお母さんの中で生きているのか。
そしてお母さんの意識はどこに行ってしまったのか。


(お母さんは事故に巻き込まれた訳じゃない。現場を目撃しただけの筈なのに。)


とにかく・・・・・・・・まだ分からない事だらけ。もっと良く調べないといけない。

だって・・・このままじゃ・・・お母さんが・・・・死んだ事になるから。



大好きだった。わがままで意地っ張りだけど本当は優しい。
私はいつもお母さんと一緒だった。お父さんも勿論好きだけど・・・普段仕事であんまりいなかったから・・・・。自然とお母さんに懐いていたのだ。

お母さんはお父さんと結婚した後、仕事から引退した。
本当はまだまだやりたかったらしいけど・・・・、私が生まれたのがきっかけになったって。
お父さんも危ない仕事をこのまま続けさせたく無かったって言ってたし。



(・・・・一刻も早く・・・・お母さんにこの身体を返してあげなきゃ。)

(私はもう・・・・・いない筈なんだから・・・・・。)

・・・・・・私は私のお葬式を見ながらそんな事を考えていた。














「令子起きたか・・・・じゃなくて蛍。」
「もう・・いい加減慣れてよ・・・。」

お父さんが私の部屋に入って来た。


・・・・・あの事故から一ヶ月が経っている。その間ずっとお父さんは名前を間違えっぱなしだ。
仕方無いのかも知れないけど・・・。


(お父さんだって、多分混乱してるんだろう。だって・・ある意味二人が一つになった訳だし。)


「そうは言っても・・・・、やっぱり外見が令子だからなあ・・・つい。」
「ううん、いいよ。・・・・・・ごめんね。」

お父さんが困ってる姿は可愛らしい。こんな事前は考えた事無かったけど・・・・。

(お母さんの記憶が混じってるのかなあ・・・・。変なの。)


そうなんだよね。なんか・・・最近お父さんに・・・お父さん以外の感情を感じる。
いけない事だと分かってるのに・・・・。

「とりあえず・・・いい加減起きろよ。もう昼だぞ。」
「はーい。お父さん。」





二人で居間へ降りていく。

・・・・私の目の前にはお父さんの背中がある。なんか蹴飛ばしたくなるなあ。


(・・・・・駄目駄目!!何考えてんだ私・・・。)


別に嫌いだからな訳じゃ無く、それは昔から続くお母さんの愛情表現だ。
小さい頃から何度となく見てきた。・・・・・ちょっと歪んでるけど。

(そんな事したら駄目に決まってる!だって・・ヨコシマが怪我しちゃうじゃ・・・・・・ん?)



(・・・・・・ヨコシマ?なんでこんな呼び方したんだろ私。変なの。)



「じゃあ、飯でも喰うか。一応用意しといたからさ。」

お父さんの声でふと我に返る。机の上には朝・・・昼ご飯がほかほかと湯気を立てていた。


「ふふっ、お父さんの料理って久しぶりに食べるなあ。」
「こう見えても昔は自炊しとったからな。大抵の事はなんでも出来るよ。」


ここしばらくずっと外食三昧だった。色々対応に追われてそれどころでは無かったのだ。
・・絨毯の上に腰を降ろす。そういえばお父さん一人暮らししてたんだっけ。


「それじゃ・・・いただきます。」
「いただきまーす。さあ喰うぞ!」


パシッ!!


「痛って、何すんだれい・・・・・・蛍。」
「・・・あっ、ごめん!!なんかつい・・・身体が動いちゃった。」


・・・・お父さんは複雑な顔をしている。毎朝見られた恒例の儀式を自然に行なった。
急に身体が反応してしまったのだ。・・・・・まずい。




・・・・・沈黙がこの場を支配している。お父さんはどう反応して良いのか迷ってるみたい。




「・・さ、さあ食べようよ!早く食べないと冷めちゃうよ!」

私は無理やり言葉を繋いだ。それと同時に止まっていた時が少しずつ動き出す。

「そ、そうだな。よし、喰うぞ。」



・・・・食卓の向こうにあるテレビが、昨日の野球の出来事を喋っている。
沈黙の手助けには十分な材料だ。


「おっ、ジャイアンズ負けたか。今日の西条は機嫌悪いな。」

お父さんが呟く。
・・そう言えば西条のおじさんはジャイアンズファンだっけ・・・・・・あ。



(・・・大事な事聞いて無かった。)



「・・・・・ねえ、お父さん?・・・・その・・周りの人には・・・どう言っておいたの。」

「・・・周りの人・・・。とりあえず今は何にも言ってない。騒ぎになるのはちょっと困るんだ。」
「えっ、何で?美智恵さんとか良いアイデアを出してくれそうだけど。」


美智恵さんは、私のおばあちゃんの一人である。
もういい年なのに全然老けてないので、おばあちゃんなんて呼びにくいのだ。


「隊長には、一番言えない。ちょっと・・・・事情があるんだ。」


お父さんは相変わらず「隊長」なんて言ってる。部下だったのは随分前の事なのに。
でも事情って・・・・なんだろう。



・・・・それ以上会話は続かなかった。何故なら意図的にその話題を避けているように見えたからだ。
結局その後も何事も無く、食事は進行して行った。











「私たちやっと一緒に暮らせるのよ!!」


ガバッ!!!


暗い。目の前が真っ暗だ。・・・・・・・まだ夜か。


(また変な夢見た・・・・・・。なんだろ・・・懐かしいような・・でもなんか嫌な感じ。)


最近、寝ると妙な夢を見る。
私の目の前には若い頃のお父さん。今とあんまり変わって無い気もするけど・・・・。

馬鹿な事を繰り返しては殴られてる。・・・・・と言うか私がやってるんだ。
とにかくお父さんが他の女性に近づくと胸がムカムカした。


(素直じゃないなあ・・・・。)


自分なのだがそんな事を思う。それをわかってやっているのだ。
お父さんも実はその反応を楽しんでいたに違いない。


楽しい夢のような時間。いつまでも続く遊園地のような場所。
そのままどこまでも変わらないような気がしてた。


でも・・・・・・・・ある日それが音を立てて崩れる。


・・・・・・黒髪の・・・・・もう一人の私が・・・・、それを奪っていった。


永遠に続く筈だった日常を・・・・一変させてしまった。





暗転。





・・・・・・そこで夢は終わる。いつもそうだ。起きた後には懐かしさと嫌悪感が残ってる。


(・・・・・・・お父さん何してるかな。)


なんとなくお父さんの顔が見たくなった。


自分の部屋を出て、お父さんの部屋へと向う。
・・・・なんだか自分の身体じゃ無いみたい。自然に足が動く。


そして・・・・頭の中からに声が聞こえる。



(好きよ・・・・・・・ヨコシマ。)



(・・・・何、コレ!?)



(私のモノなの・・。)



(嫌・・・・!!違う!!これは私じゃない!!!)



(やっと一緒に暮らせるの・・・本当の意味で・・・。)



(あなたは誰なの!?)



(私は・・・・・ルシオ・・・・・)
(蛍!!!!!!!!!!!!!!)



「きゃっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



私はその場に座り込む。頭が痛い・・・。痛いよ・・・。


私は・・、私は誰だっけ?・・・・蛍?それともお母さん?・・・私は・・・・・・ルシオ・・・



ふっ・・・・・・



そこで意識は途切れた。












・・・・・目が覚めた時は布団の中にいた。

全て夢だったのかも知れない。そう思って・・・外を見るとまだ暗かった。


(顔でも洗ってこよう・・・。)


とにかく気分を変えたかった。電気を付けて立ち上がろうとする。



「・・・・・・・・・・・・!?」



(そんな・・・・!?)


・・・窓に映る私の姿。それは見覚えの無い私。そして・・・・・・記憶の中のもう一人の私。


私は再び暗い闇へと引きずり込まれていった・・・・・。

続く。

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