ザ・グレート・展開予測ショー

Gongitsune


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 3/28)




 横島は階段上から広間を見渡して、壁に身体を寄せた。
 両手に抱えているのは妖怪滅殺用の高性能ライフル――西条の形見だった。


  「・・・・もう、君しかいない・・・君にしか、倒せないんだ・・・・・」

 深手を負った西条は折り重なる死体と血の海の中、彼に銃を託して息を引き取った。


 ―――みんな、死んでしまった。・・・美神さんも、おキヌちゃんも、シロも、美智恵隊長も、ひのめちゃんも
・・・そして西条も・・・あいつに殺された。それ以外にも、決して少なくない数の人間達が・・・・・
 あいつは追って来た人間に危害を加えながら移動を続けている。外から、「危険ですのでなるべく建物の
外から出ないで下さい」と呼び掛けるパトカーのアナウンスが遠く聞こえて来た。

 あいつはここに・・・最早、主のいない美神除霊事務所に向かっているんだ。


  「――人工幽霊壱号。」

  『はい、横島さん。』

  「ドアの外に妖気の気配はあるか?」

  『いえ、まだ何も感知されていません。・・・ですが、よろしいのですか?』

  「・・・何が、だ?」

  『話もなく攻撃せずとも・・・横島さんの説得になら応じる可能性が・・・何せ、相手は・・・』

  「もう・・・いい。あいつは人間を殺し過ぎた。・・・これがあいつの答えなんだ。
  人間もあいつを、あいつも人間を受け入れる事はもう無理だ。・・・それに、あいつは・・・」

 横島は玄関入口のドアへとライフルの銃口を向けた。

  「あいつは美神さん達も・・・みんなも殺したんだぞ・・・!」


 何が目的でここへ向かっているのかは分からない。だが自分の能力で完全に仕留めるならここしかないだろう。
――せめて苦しまない様に滅してやりたい。
 人工幽霊は沈黙している。横島の口から呟く様な慟哭が洩れた。


  「・・・一体どうして、こんな事になっちまったんだよ?・・・・・タマモ・・・ッ!」








     ――――――――  Gongitsune  ――――――――








 ―――何が、発端だったのだろう?

 オカルトGメンが日本政府の圧力に屈し、九尾の狐の封印除霊に同意した事が?
 それ以前から世論が”人間以外のもの達”を危険視し排除を求める方向へ高まって行った所が?
 そのきっかけとなった大手マスコミによる妖怪追放キャンペーンが始まった時が?
 Gメンがタマモやシロを捜査に起用した事を知った防衛庁や警察とICPOとの間で対立が生まれた頃が?

 ―――そもそも、俺達がタマモを匿い、共に過ごすようになった事から、なのか?


 タイガー・ピート・エミさん・唐巣神父は雪之丞のつてで既に国外へ脱出していた。
 カオスとマリアはその前にどこかへ高飛びしていた。
 小鳩ちゃん一家と元・貧乏神、学校妖怪の愛子達はつい最近、行方が分からなくなった。
 ――とても心配だった――。

 俺が散り散りになった仲間達の消息を調べている間、美智恵隊長と美神事務所のメンバーは―タマモも共に―
事態を切り抜ける為の話し合いを行いに日本GS協会の会議室へと向かった。
 ――そこで惨劇が起きた。交渉が決裂し、即座に身柄を拘束されそうになったタマモが、居合わせた人間達を
一人残らず殺して逃走した・・・西条はその知らせを出張先で聞いたと言う。

 次にタマモが現れたのは、警察庁内の公安オカルト対策本部・・・上層部の数名が互いの首を絞め合い、
あるいは拳銃で撃ち合って死んでいた。
 そして防衛庁・・・陸自の幕僚数人がやはり同じ様にして死んでいた。
 続けて国会議事堂――帰宅途中の総理・・・元・官房長官の前にタマモが立ち、彼の身体は狐火で焼き尽くされた。

 オカルトGメン日本支部では美智恵隊長と対立していた政府寄りの幹部二人が最上階の窓から並んで飛び降りた。
 それだけでは終わらず――タマモはそこで西条率いるGメン捜査員達に包囲され・・・激戦が行われた・・・。
 俺が到着した時にはあいつの姿はなく、死体と、致命傷を負った西条が残されていた。

  「ダメージはかなり与えたが・・・止めを・・刺せなかった・・・やはり、この弾丸を急所に命中させる以外に・・・!」




  『・・・来ました。』

 人工幽霊の抑揚ない声で横島は我に返る。西条のライフル―今となってはタマモを殺せる人間唯一の武器。
 急ごしらえの狐用除霊弾に文珠「追」、「炸」、「浸」を添えて装填する。
 もし外れても・・躱されても、放たれた弾丸は命中するまで目標への追跡を続け、体内で炸裂し、弾丸の
狐除霊用に特化された霊波をタマモの全身に浸透させるだろう。


   ―――――ガシャッッ!!






  ―あぶらあげ!! そうか・・・!! 妖狐の大好物だわっ!

  ―欲しけりゃやるぞ!? 俺たち友だちだ!! なっ!?

   『ウ、ウ、ウ・・・・・・ ウー!!』     がぶっ!!

  ―食べた!! わはははは、しょせんは動物!!

   『な・・・ナメるんじゃないよっ!!』






 足が折れてたお前に添え木したのは、安心させようと手に噛み付かれても堪えてくれた(10秒ぐらいしか
もたなかったけど)のも、おキヌちゃんだったよな?
 お前の除霊を一旦引き受けはしたけど、見ぬフリして、引き取ってくれた美神さん・・・。
 お前を迫害する人間ばかりじゃない、共存しようとしている人間もいるんだって事を言葉や・・・言葉以外
でも伝えようとしてた隊長。
 最初の内こそ仲悪かったけど、いざって時はいつも助け合い、お前が寝込んだ時は身体を張って薬を手に
入れて来たシロ・・・・・。

 どうしてお前はこの仲間たちまで殺したんだ?
 みんなを犠牲にしてでも自分一人、助かりたかったのか?
 ・・・いや、それ以前に、「みんなが助けてくれる」と信頼する事が出来なかったのか?
 人間、あるいは別種族だから・・・本当の味方だとは、友達になれるとは・・・思えなかったのか?

 お前にとっては 『身勝手に悪いことして、気まぐれで味方ぶってる』人間のままでしかなかったのか?

 俺にとっては大切な人達だった・・・もう戻っては来ない。



 ――俺はお前を許す訳には行かない。俺の仲間達を殺したお前を。
 ・・・そして、自ら人間の敵である事を選び取ったお前を。



 横島はスコープを覗き込み、ドアの手前の空間に照準を合わせた。
 目の端で、広間の一角に積まれた花束が映った。近所の人達が、友人達が・・・多くはおキヌとシロの
人徳によるものらしいが・・・この警戒時の中、目立たぬ様に供えて行ったものだった。

 お前もあの時こっそり置いて行ってくれたよな、カゼ薬を。あれ、よく効いたんだぜ?

 ドアの向こうの気配は今や横島にも十分伝わっていた。
 一週間ぶりでしかないのにとても懐かしく感じられる狐の気配。



 トリガーに指が掛かった。










   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・










 ・・・私は美神除霊事務所の玄関口に立っていた。
 主のいない館のドア―――みんな死んでしまった。
 美神も、美智恵隊長も、おキヌちゃんも、ひのめちゃんも、バカ犬も・・・殺された。

 ・・・・・・会議室に潜んでいた霊波迷彩装備の公安の秘密部隊に。

 襲撃は瞬時に行なわれた・・・私一人が生き延び、奴らを返り討ちに出来たのは単なる偶然でしかない。


 ――仇は討った。全員、殺してやった。
・・・・「妖怪を全て人間の敵と見なして排除し、日本の新しい秩序を構築する」国策を進める為に、
私を狙うばかりか最大の邪魔者となるだろう彼女達までも始末しようと考えた連中は、全員。


 タマモの片手には花束と人数分の風船が握られていた。彼女なりに仲間の命を敵の命で贖い、
今ようやくはなむけに訪れる事が出来たのだった。
 オカルトGメンとの戦いで致命傷に近いダメージを受け、満身創痍のボロボロな姿。
 かつての上司でもあった西条はライフルでの狙撃に失敗し、ジャスティスを手に無言で斬りかかって
来た―――弁明する事も、手加減する事も出来なかった。

 頭上で六個の風船が揺れる。「友達」のしるしに――人間と妖怪、を超えて――私に風船をくれた人。
・・・多分、もう二度と会えない。人を殺した妖怪である私と関わりを持てば、彼にも彼の家族にも累が及ぶ。


 誰もいないはずのドアの向こうにタマモは人の気配を感じた。それが誰なのかは、すぐに分かった。
 一週間ぶりでしかないのに懐かしい、アイツの気配。

 そして・・・・アイツらしくない程、冷徹で圧倒的な殺気・・・西条の時と同じなんだろう。



 だけど・・・・・・・。



 タマモは目を閉じた。
 浮かぶのは、罠に掛かった自分を吸印するのにとてもためらっていた少年の顔。



   『俺たち、友だちだ!! なっ!?』



 ――バカで、スケベで、お調子者で、悪どくて、だらしなくて、しぶとくて・・・・・優しいアイツ。
 だから私にはもう・・・全ての人間を嫌いだと言い切り、失望する事なんか出来やしない。

 私が殺したあの人間達は確かに敵だった。だからその事について後悔はしてない。だけど、
そうではない人達もいると私は知ってしまっている。
 今はいない、あの人達がその事を私に教えてくれた。そして・・・誰よりも・・・何よりも・・・
一番最初に、アンタが教えてくれたんじゃない。大丈夫、誤解は解ける・・・分かり合えるよ・・・
信じる事が出来る。人間と狐でも。きっと・・・いや、絶対に。

 ――――そうだよね、横島?

 一人ぼっちで乗り切るには状況は厳しく、圧し掛かって来た悲しみや寂しさは重すぎた。
 これからの自分には彼が・・・また彼には自分が必要なはずだと、彼女は思った。



 素直に助けを求めよう・・・私の仲間に。
 そして、これからの事を考えよう・・・私の友達と、一緒に。



 タマモは深く息を吸い込み、残る片手で取っ手を握った。

 ――――ドアを開け、友達の待ついつもの場所へと―――――――――









































   広間に響いた銃声。





   色とりどりの風船が天井へと舞い上がり、
   花束が床に跳ね、撒き散らされた。










   ―――― END ――――

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