ザ・グレート・展開予測ショー

首謀者が消えた後で(その5)


投稿者名:ウェスペル
投稿日時:(04/ 3/26)




カタッ・・・・カタ・・カタ

薄暗い部屋で二十代半ばと思われる男が一人パソコンにむかっている。


「失礼します、所長。」 そこに別の男が入ってくる。

「・・檜山か。用なら手短に話してくれ。」 振り返りもせず所長と呼ばれた男は言う。

「デミアンとベルゼブルが殺られました。」 

檜山と呼ばれた男が事務的に―――だが何処か軽いとすら言える口調で答える。

「それで?」 男も明らかにどうでもいいと言わんばかりに返す。

「一応相手方に関する資料を持ってきましたのでここに置いておきます。
 では、私は例の実験がありますので・・・」

それだけ言ってパソコンの脇に資料を置くと檜山は部屋を後にした。



「大体誰が来たのか予想はつくな・・・」

檜山が出ていってしばらくしてから男は資料に手を伸ばす。


「美神美智恵・・・自分の弟子が捕まっているんだから当然か・・
 美神令子・・・おおかた母親に依頼されたんだろうな・・」

資料に目を通しながらそれぞれに対し思ったことを口に出す。
その口調からは何処か諦めたようなものが色濃く感じられる。

「・・・先の事故のせいで準備不足なのに・・
 この人たちと戦うのはいくらなんでもリスクが大きすぎ・・」

その資料をめくる手がある一点を見てとまる。


そこに書いてあったのは



横島忠夫について



「・・・やはり来たか横島忠夫。」

男の言葉に明らかに先ほどよりも感情がこもる。



「姉さんのためにもこいつだけは生きて帰せない・・・!!」

その固く握り締めらた拳は小刻みに震えていた。





『・・では、他は我々が好きにしても構いませんね?』

突然、彼しかいなかったはずの部屋に別の低い声が響く。



「・・ええ、別に構いません。 あなた方にも協力してもらいましたし。」

その声にさして驚きもせず男は答えた。







一同が森を進み始めてから数十分後


「それにしても、どこにも悪霊がいないって言うのはどういうこと?」

あたりの気配を探りながら令子が言う。

「オレが下調べに来たときは腐るほどいたんだがな・・・
 おおかた死霊使い相手じゃ勝負にならないと思って引き上げたんじゃねえか?」

雪之丞は少し考えてから、チラッとおキヌの方を見る。


「・・ところで雪之丞クン、どうしてこの件の情報を持っていたの?」

「ん、言ってなかったか? おとついオレの携帯に匿名で
 この研究所の周りで悪霊が大量発生したから除霊してほしい
  ていう依頼のメールが届いたんだ。
 前金でかなりの額が振り込まれていたし急ぎの仕事もなかったんで
 準備がてらこの研究所について調べてみた。
 で、面白・・いや厄介なことになりそうだったから横島を借りに来たつーわけだ。」

「あんたねぇ。 それじゃあ二重契約じゃないの。」

「なに言ってんだ? この依頼はあくまで『研究所の周りの悪霊の除霊』であって
 隊長の『研究所における違法性の有無の調査』と『西条の救助』とは別件だろ。」

「ま、別に私はどうでもいいんだけどさあ」


そんな事を美神と雪之丞が話していたときだった。



<ズンッ>

突然木上から騎士の鎧を身につけたものが降りてきて雪之丞に剣を振り下ろす。

「チッしゃらくせぇ!!」

瞬時に雪之丞は魔装を纏い剣を防ぎ、それの頭を殴りつける。

<バキィィッ>

兜が砕ける音とともにそれがあっけなく倒れる。


その兜の割れ目から腐った頭部を覗かせて

「! こいつ等ゾンビか!!」

「気をつけてくだされ! そこら中から腐臭が漂っているでござる!!」



シロがそう言った直後、堰を切ったようにあたりから大量のゾンビが現れた。




「ザコキャラ軍団のお出ましってワケね!」

振り下ろされた剣をエミが愛用のブーメランで受け止める。

<ガァァン!>

そのゾンビの群れを美神の神通鞭が打ち倒す。


だが、鎧が僅かに歪んだだけで内部に損傷はないのでまたすぐに襲いかかってくる。

「チッ・・ザコのクセに随分頑丈ねっ!!」

<ガガン!ガッガアァァン!ガガガガッ!!>

苛立ちを感じた美神の神通鞭が起き上がってきたそれを打ち据える。


「くっ・・・数が多すぎる! 研究所はすぐそこなのに・・!!」

美智恵は鎧の薄そうな部分を狙い撃つ。


おキヌの笛の音があたりに流れるがそれはゾンビ達に何等影響を与えない。

「美神さん! ・・この人たち死霊使いの笛がぜんぜん効きません!!」

予想外の事態におキヌは驚きを隠せない。

「そんな・・いえ、死霊使いの笛は相手の感情に働きかける道具。
 ・・おそらくこいつら完全に感情と言うものを消されて、
 ただプログラムに沿って動かされてるだけなんだわ。」

令子はおキヌ同様驚きつつも、誰に言うつもりもなく自らの推理を口にする。


だから、しまった・・!と思って慌てて口を手でふさいだときにはもう遅すぎた。



「え・・・・?」

おキヌはその言葉の意味する事を一瞬理解できな・・いや、むしろ認めようとしなかった。

「・・・そんな・・・この人たちだって生きてたんですよ・・・

 それを感情を消して道具にするなんて・・・

 そんなの・・

 
 そんなの酷すぎます!!」

だがそれはほんの一瞬、すぐに持ち前のその豊かな感受性と優しさから
「彼ら」への憐れみと「彼ら」をこんなにしてしまった者達への怒りが涙となって溢れ出る。


「おキヌちゃん・・・」

迂闊だった・・・私ですら胸糞悪くなるような話、
おキヌちゃんが平気なわけない事なんてわかりきってるのに・・・





「泣くのは後にしてほしいワケ!!」

その手で顔を覆って涙を流しているおキヌにエミの檄が飛ぶ。

「エ・・エミさん・・・・」

突然のエミの檄におキヌはそのままの体勢でキョトンとしている。

「今オタクが泣いたとしてもこいつ等がこうなっちゃった事は変わらないワケ!!
 とりあえず、今私達にできる事はこんなことするやつらをぶっ潰して
 これ以上こいつ等みたいな犠牲者が出ないようにする事だけ!!
 そのためにまずこいつ等を突破しなきゃならないから
 オタクにメソメソされてると足手まといなワケ!!」

「ちょっ・・エミいくらなんでももうちょっと言い方って物が――」

エミに文句を言おうとした美神をおキヌが制止する。

「・・エミさんの言うとおりです・・・いくら私が泣いても意味ないですよね・・
 迷惑かけてすいませんでした美神さん。ありがとう、エミさん・・
 そうですよね、大切なのはこれ以上犠牲者を出さないこと
 そのためにも私だけメソメソ泣いてたら駄目ですよね!」

おキヌは涙を拭う、その顔は先程までのか弱い少女のものではなくGSのそれだった。


「フッ・・・最初からそう言ってれば良いワケ。」

そう言うエミの顔は先程の厳しさは何処かにただおキヌが立ち直った事への安堵がみてとれた。



「つーワケで、タイガー!! わかってるわね!?」

「合点です!!」

「おしっ!! 冥子、しばらくオタクの式神で私を守って!!
虎よ虎よぬばたまの夜の森に燦爛と燃えて・・」

冥子の返事も待たずにエミが呪文を唱え始める。

当然、無防備になったエミにゾンビの群れが襲いかかる。



『ガァァァァ!!』

 それらの一部が、アジラの宝玉から放たれた光に照らされ鎧ごと石と化す。


「友達のエミちゃんに〜〜〜手は出させないわ〜〜〜〜〜!!」

いつものおっとりとした口調、だが
強い意志が見て取れる彼女の影から残りの式神が現れエミの周りをガードする。


「・・・虎よ!! 虎よ!!」

<ピルルルルルルル> そうこうしている内に呪文の詠唱が終り、笛の音が辺りに響く。

同時に、タイガーの姿が虎のそれへと変化する。


「幻影投射最大出力!!」


 叫ぶと同時にタイガーの額のV字型の縞が輝く。



直後、ゾンビ達がGS達へ向けていた刃を他のゾンビへと向け、同士討ちを始める。


「「「なっ・・・!?」」」 予想外の事にその場にいた他の者が唖然とする。


「早く突っ切るわよ!! タイガーの能力は長くは持たないワケ!!」

「いったい何をしたの!?」 驚きを残したままとっさに令子が尋ねる。

「いいから早くするワケ!!」 既に走り始めながらエミが再度叫んだ。





「穢れを拒めわが結界よ!!」 唐巣が研究所の唯一の入り口に結界を張る。

「ふぅ。これでとりあえずは安心ね。」

「ところでタイガー。あんたまさかゾンビ精神感応を使ったの?」 令子が尋ねる。

「ワッシも修行して精神構造が単純なものには人間同様に
精神感応を使えるようになったんですケン!
これでもう皆に「影が薄い」だとか「出番がない」だとか言わせないんジャー!!」

特に後半のほうで声を大にしてタイガーが答える。


「へ、へぇ・・・イロイロ頑張ってるんだ・・・。」

令子は彼の努力に感心しながらも、その異様な気迫にかなり引かざるをえなかった・・。


「・・さてと、それじゃ此処を調べてみるとするか・・。」

「あんまり広くないとは言っても手分けして調べんと
どうしようもないと思うがどうすんだ、隊長?」

「確かにそうね・・でも万が一魔族が潜んでいた時のためなるべく単独行動は避けて。
私と・・・あと結界の見張りのため唐巣神父は
此処で待ってるから何か判ったらすぐ知らせて。」






資料室にて――




「横島クン、おキヌちゃん。そっちは何かあった?」

既に変色を始めている資料を掻き分けながら令子が呼びかける。


「こっちの本棚には特に変わった物はないみたいッスけど。」 


「こっちにも特に・・」


「そう・・もしかしたら「本棚の裏に隠し部屋へのスイッチ」が、
とかベタな事やってるかもしれないから一応調べてみて。」


「へーい」


「シロ、タマモ。そっちはどう?」


「うーん・・一週間以内に此処に何人かの人が来た事は分かるんでござるが
その匂いが途中で消えてしまっていて・・それ以上の事は拙者には分からんでござる・・。」


「・・・この研究所についてからずっとだけど、なんか不吉な感じがするわ。
この研究所・・と言うよりもこの土地そのものから湧き出てきてるって感じだわ。」


「・・・ここに人がいたってことは何かはあるはずね・・・。
もう少し詳しく・・・」


「おおっ!!?」 突然、横島が大声を上げる。


「「「「どうしたの(んですか)(んでござるか)!? 横島クン(さん)(先生)!!」」」」

その場にいた四人は慌てて横島に駆け寄る。

見ると横島は回りの本に比べ大きめで薄い一冊の本を開いている。


「!?・・・その本を見せて!!」 問答無用で令子がそれをひったくる。


「あ!?・・ダメです美神さん!!その本は・・」 

横島が言い切るより早くその本が開かれる。


そして、令子、おキヌ、シロ、タマモの目に飛び込んできた言葉とは・・





『淫乱女子高生濡れちゃう放課後』





<ピシィィッ> 時が止まる・・そんな中で横島の顔色のみがどんどん蒼ざめていく。


「あわわわ・・・い、いやこれはこんな所で思わぬ宝物を見つけてしまった
健全な青少年の純粋な喜び・・いや、驚きであって・・」

横島が必死に弁解するが、焼け石に水・・つーか火に油を注いでる。


<プッチーン> 科学的にも霊的にも説明できない、が、誰にでも聞こえる何かの切れる音。


直後・・

「己は時と場をわきまえんのかぁぁぁぁ!!」「燃え尽きろバカ横島ぁぁぁ!!」


あぁ・・な、なんでフェイクしてあったエロ本を見つけちゃっただけでこんな事に・・!?
そうか、これがおまえらの戦い方か研究所!! 覚えてろよぉぉぉぉ!!



そんな無茶苦茶な逆恨みを最後に火に油を注いだ男はムゴい事になりました。



「・・ったく、人が心配してやってんのにこの馬鹿は・・・
こんな馬鹿ほっといてもう一回ここを調べ直しましょう。」



ちょうど令子がそう言った直後だった。




<ガコン> 「「「「へ・・・?」」」」突然、床が穴になって



四人は何が起きたのか理解する間もなくムゴいモノ一つと共に下へと落ちていった。







第三実験室にて―――



ここで雪之丞、タイガー、ピートの三人がイロイロ調べていたら。



「あぎゃぁあぁっぁぁぁあ!!」 いきなり横島の断末魔の叫び(オイ)が聞こえた。


「横島さんの悲鳴!? まさか魔族が・・!!」 ピートに緊張が走る。


「いや・・この後に続く炸裂音からして多分美神が横島をしばいているな・・。」


その雪之丞の言葉を聞いたピートが思いっきりずっこける。


「ん? この肉の焦げる匂い・・タマモも一緒になってしばいてるな・・」

そんなピートを無視して雪之丞が続ける。


「・・・・・」 ピートが言葉を失う。


「・・・一体何をしたんジャ、横島サン・・・。」 タイガーは冷や汗を流しつぶやく。


「・・・オレが知るか。」 それを雪之丞は一蹴した。



「えーと、それはいいとして何か見つかりましたか?」 

ぜんぜんよくないがピートが無理矢理話題を変える。


「いや、何もねぇ。 後調べてないのはこのガラクタの山ぐらいだな・・。」


雪之丞がガラクタの山に目をやる。




それと同時に<ガコン> 床が穴になって、



「「「うわぁぁぁぁぁ!!」」」 彼らはガラクタと共に下へと落ちていった。



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