ザ・グレート・展開予測ショー

とらぶら〜ず・くろっしんぐ(11)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(04/ 3/26)




 とらぶら〜ず・くろっしんぐ   ──その11──





「あの…?」

「ん? あぁ、わりいわりい」

 ずっと小脇に抱えっぱなしだった紫穂を降ろして、横島は頭を掻いて苦笑いを浮かべる。

「それで、その…」

「手っ取り早く言うわ。
 その辺に漂ってる幽霊に、意識を読むと暗示が掛かる仕掛けがしてあって、それでここまで踏み込んできたの」

 紫穂の疑問を読み取って、タマモが事実だけを端的に答えた。
 聞くなり顔を暗くした彼女の頭に、ぽんと掌が乗せられる。 振り返り見上げるその顔に、彼は微笑み話し掛けた。

「どっちにしたって来るしかなかったんだ。 気にすんなってぇの。
 俺らにしたって、起こって初めて気が付いたんだしな」

 手荒に撫でるその手が、それが真実だと紫穂に知らしめる。
 それと同時に、裏表の無い気遣いが読み取れて、彼女は泣き笑いで頷いた。

「で、どうする?」

 タマモが横島を見据えて尋ねた。

 小さな扉は、変わらず3人を待つ様に開け放たれている。
 先程、紫穂だけが進めたのも、なるほどと頷けた。 彼女の背丈と、ちょうど同じくらいの高さしかない。 これでは、頭一つどころでなく背の高い横島が、立ったまま潜れた筈が無いのだ。

 その小さな空間の向こう側は、広くなっているのが見て取れる。 延々と平たい床が拡がっているのだ。 先程の老体が何処に居るのかは、向こう側が明る過ぎてよく見えないが。

「行くっきゃねぇだろ?」

 仕方無さそうに、彼は答えた。

 相手が、向こうの言う通り、害意が無いとは言い切れない。 だがそれでも、彼等に出来そうな事と言えば、もう当ってみるだけなのだ。

 ぶるっと肩を震わせると、横島は背負っていた荷物を降ろした。
 見えている所には、これと言った危険は無さそうだ。 だが、だからと言って、いきなり踏み込む訳にもいかないだろう。 相手の目当てが紫穂に有る事も、既に判っている事なのだし。

 たから、横島はさらっと頼み事を口にした。

「んじゃ、後を頼むわ」

「私の方がいいんじゃないの?」

 彼の意図を読んで、タマモが尋ね返した。
 扉の丈の事も考えれば、屈み込まねば入れない彼よりも、少し頭を下げればいいだけの彼女の方が動きの阻害は少ない。

「つうてもなぁ…」

 横島とて、好き好んで先頭に立ちたい訳ではなかった。

 が、囮も兼ねる偵察行。 面子を見れば、紫穂は勿論の事、タマモにさせるのも憚れた。 自身のワイルドカード……文珠の力に自信があったのも確かだが。

 そんな互いへの思案に暮れる二人へ、掛けられたのは紫穂の声。

「私も行きます」

「えっ?」

 弾かれた様に、揃って横島達は彼女へと顔を向けた。
 気負ってると判る表情。 だが、容易に拒絶し難いモノも、同時に浮かべている。
 戒めの言葉を探しながら、だから二人は口篭った。

「ここに居てもしょうがないんですよね。
 だったらばらばらになるより、一緒がいいです」

「いや、けど…」

 困って言い淀む彼へ、タマモも言葉を添えた。

「そうね、ばらけるよりいいんじゃない? 頭数が揃ってる方が、何かあっても対処し易いし」

 気遣いは嬉しいが、紫穂と二人きりで残されても、自身だけでは出来る事が狭過ぎる。
 それなら、待ってるのが罠だったとしても一緒に居られる方が良い。 紫穂の事も、そして自分自身も安心出来るから。

 二人は揃って上目遣いで、強請る様に返事を待った。

「…しゃあねぇか」

 そう言って、再び荷物を持ち上げる。 但し、背負わずに、だが。

「どっちにしても、俺から入るからな。 紫穂ちゃんを真ン中に、タマモは後ろを頼む」

「判ったわ」
「はい」

 二人が頷くと、横島は荷物を盾の様に掲げ、腰を曲げて扉へと向かう。
 と、いきなりその姿が掻き消えた。

「何?!!」

 動揺しつつも周囲への警戒を一層強めたタマモだったが、すぐに聞こえてきた声にがっくりと肩を落とした。

「生まれる前から愛してましたっ!」

 低い扉のその向こう。 腰を屈めて覗き込むタマモと、立ったまま自然に見れる紫穂の、その双方の視界には、見目麗しい女性へと飛び付こうとする姿が写る。 まるで買物袋か何かの様に、片手で荷物を持ったままの横島が。

「何してんのよっ、アンタはっっ!!」
「ぅわっちゃぁあぁっ!?」

 すかさず放たれた狐火が、彼の尻をちょっぴり焦がす。
 一瞬 眉を顰めるが、すぐに表情を引き締めてタマモは叫んだ。

「何考えてるか、言ってみなさいよっ!」

 ほんのちょっと前までの、らしからぬ彼の様子が台無しだった。
 なんで安心出来たんだろうと、自身の判断が彼女の胸の内でぐらついていく。

「堪忍やぁ… 仕方なかったんや」

 それでも抱き付く事を止められないままの彼の耳元に、別の声が投げ掛けられた。

「そろそろ離れんか」

 横島がはっと気が付けば、抱き付いていた美人は、しわしわの老人に変わっていた。
 一瞬にして顔色が変えると、奇声を上げる。

「のぁおぁぁ?!!
 ぅおぇぇぇ…」

 跳ねる様に後退ると、横島は壁に向かって嗚咽を洩らした。 「サギやぁ…」と漏れ聞こえる声とその様は、ただ憐れだとしか評せない。

「何で思い付かないんだか…」

 タマモが溜め息混じりに愚痴をこぼす。
 扉を見る事が出来なかった事で、相手が幻覚を……それがどの様なタイプのものであれ……見せられる可能性は気付いてしかるべきだろう。

 同じ様に、紫穂の打って変わった軽蔑の眼差しが、彼の無様な姿を射貫いていた。

 彼の為人を知る者なら、まぁ横島だし、で済ませられてしまう状況。
 …なのだが、ほんの少し前までと余りに落差が激し過ぎた。 株が上がっていただけに、暴落の大きさも仕方有るまい。

 そんな一同の状況を忘れた様な雰囲気を気に留めず、しわがれた声がポツリと吐かれる。

「さて、おぬし…」

「……はい…?」

 真っ直ぐに視線を向けられて尚、自身へと向けられたと気付けずに、紫穂は気の抜けた声をあげる。

 対して、残る二人の反応は速かった。
 タマモも横島も、即座に彼女を庇う様に、間に割り込んだのだ。 先の雰囲気は、欠け片も残っていない。 共に、抜け目ない警戒を浮かべている。

 そんな動きも、また目に入らぬのか。 紫穂への言葉は、続けて投げ掛けられた。

「その力… おぬしを不幸にせなんだか?」

 紫穂の顔が……そして横島達の顔が、さっと曇った。





 【続く】



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……ぽすとすくりぷつ……

 すんません、短いです。 …半月近く間隔開けた癖に(^^;
 リアルが相変わらずでして(泣)

 前回コメ下さった方にくらい、コメを入れたいなぁとか思いもしたんだけど、まだ落ち着いて読んでられなくて(T_T
 これ自体、手帳に書き留めたのを、戻ってからクリンナップしただけだったりするので(苦笑)

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