ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇 鳴の章 六話 中―2


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(04/ 3/25)



「あたしは何度も人間たちと戦ってきたからね。まぁ・・・ここ最近は負けっぱなしだったけど・・・さ」

 あたしは不適に奴に向けて笑って見せた。
 奴はあたしのいったことが理解できないみたいに、眉をひそめている。動じに、あたしの頭の中も覗こうとしているんだろうけど・・・恐らくは無駄だろう。だって、あたし自信何いってんのか解らないんだから。ただ・・・悔しいけど、恐らくあたしは認めてるんだろう。
 今まであたしを負かしてきた人間たちの事を。

「そいつらは馬鹿だからさ、自分の身を挺して誰かを庇ったりすんだよ。目の前にいる数人を庇ってさ、そのせいでより大きな人数を救えるかもしんない、なんていうチャンスを逃したり・・・な」

 あたしの中で、中国での情景が蘇る。いや、それだけでもない。
 勝てないことを知りつつ、あたしに向かってくる人間がいた。
 仲間を見捨てられずに、戦へと飛び立つ子供がいた。
 戦いの中、自分に眠る可能性を見出した奴がいた。
 親を忘れられずに、ただ強さを求める奴もいた。

 そして、あたしは事あるごとにそいつらに負けてきた。悔しいけど、事実だ。

『お前の考えていることが・・・理解できねぇ・・・テメー・・・魔族にあるまじきことじゃねーかよ、それは。やっぱりテメーは人間どもに肩入れする神と同じじゃねーか!!』

 奴は理解できないものを見るように、あたしへとその視線を向けた。
 その視線を浴びながら、あたしも唇を挑発的に歪める。

「あたしは魔族さ、神なんかじゃない。ただ・・・事実を受け入れただけさ」
『事実・・・だと?』

 あたしの言葉に、チューブラー・ベルが唸った。その言葉の音には、明らかな狼狽が見える。
 あたしはやや満足感を覚えながら、さらに続ける。

「あぁ、事実を受け入れたんだ。断言してやるよ、お前は負ける。自分じゃ最強だとかなんだとか抜かしてるようだけど、そんなモンは最強じゃないね。
 ただ普段お目にかかれない力をいきなり入手したもんだから、暴走しちまってるだけさ」

 そう、ただ感覚だけが暴走しているだけ。昔のあたしと同じさ。別にそれが悪いだとか、後悔しているだとか言うわけじゃない。まぁ、こうやって対峙してればムカつくけどさ。それにこんな奴に助言するつもりもなければ、こういった魔族どもの未来に憂いているわけでもない。

 まぁ、この気持ちをあえて言えば・・・勝つつもりだ。

『勝つ・・・だと?何の力もねーテメーがかよ!!バカ言ってんじゃネェェェェ!!』

 奴は、あたしの考えていることが理解できないことに苛立ってきたのか、爆発でもしそうなほどに叫んだ。大気が一気に歪むような錯覚を覚える。あたしの肌が、霊圧に負けてぶるぶると小刻みに震えた。
 
『テメーのたわごとにお情けで聴いてやったがヨォォオ!!もうやめだ!!美智恵をぶっ殺してからお前も仲良くあの世行きだ!!変人同士仲良くしやがれッ!!!』

 奴は勢いよく、腕を振り上げた。まるでこれから何かを合図するみたいに。
 何かを・・・合図するみたいに?
 そして怒号にも似た、命令。

『美智恵、飛び降りろ。オメーは鳥だ。空だって飛べるさ』

 その声に導かれるようにして、美智恵は歩みを再開した。屋上の端へと・・・

「美智恵!止めろ!!死ぬぞ!!」

 あたしは叫び声を上げる。それこそ必死で。こいつがいなくなれば・・・なればなんだ?元の時代に返れなくなる?確かにそれはあるけど、元の時代に固執することは、そんなに重要なのか?
 あぁ、あたしにとっては重要だ。何言ってるんだ?
 また一歩・・・と、美智恵の歩みは進んでいく。いや、既にその足の半分は地上へと向いている。
 
 あたしの耳に、あの神族の声が響く。

 ―もしあなたが本気で彼女を助けたいとお思いならば―

 あぁ、助けたいさ。たかだか人間一人に、ひょとしたらあたしの生死すらかかっているかも知んないからね。それだけが理由かどうか・・・クソ、あたしの脳裏にまたあの少女の影がちらついた。なんだってんだ!!
 
 美智恵はついに、地上へと向かうべき最後の歩みを進める。
 同時に、あたしも最後の覚悟を終えた。

「チューブラー・ベル。見せてやるよ・・・あたしなりの『強さ』ってやつを」

 奴にそう言い捨てて、あたしは手摺から身を乗り出した。ちょうど、美智恵がビルから地上へ真逆様(まっさかさま)に落ちるのと、あたしがそこからジャンプするのは同時。

 そして・・・

 あたしたちは闇へと繋がる地上に向けて、死のダイブを開始した。


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