ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇 鳴の章 六話 上


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(04/ 3/25)



「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 あたしは肩から荒い息を吐き出した。吐き出す息は白く、喉からマッタリと流れる息の味は、やや血の味にも似ている。
 けどそんなことはどうでもいい。

 はっきり言って、あたしはこの件をナメてたのかも知れない。
 優秀なGSである唐巣に任せておけば何とかなるんじゃないかな?ッてね。
 でもそれは最悪な形で、裏切られる。


 ここは大体6,7階といったところかな。向かいのビルには飛び降り防止の柵がしかれてあり、そしてその中には一組の男女が納まっていた。
 男のほうは、ここからじゃ暗くて遠いんだけど、すぐにわかる。

 唐巣だ。うつぶせに倒れていて、しかもその頭部から流れる何かが、水溜りみたいのをを作っている。
 
 ・・・頭部から流れる・・・何か?
 
 暗くてここからじゃよくは見えないんだけど・・・頭部から何が流れてるって?

「唐巣!!」

 あたしは叫んだ。
 クソ、どういうことだ!?まさか唐巣ほどの腕をもってしても、チューブラー・ベルを倒せなかった、ってことか?しかも唐巣は頭から血を流して・・・
 あたしの脳裏に、『死』という明確な、それでいて否定したくても出来ない単語が滑り込んできた。

「だめだ!!死ぬな唐巣!!生き残るって言っただろ!?」

 とっさにあたしは手すりに身を乗り出して、そう叫んだ。
 焦燥だけが、あたしの胸の中で渦を巻き上げた。
 
 そして、その唐巣からほんのちょっと離れた場所に今まで無言で立っていた人物が、不意に行動を開始する。
 その手には光り輝く刃を構え、刃には真黒に見える何かを滴らせていた。
 あたしはその人物を見て、信じられないようにとっさに首を振る。
 まずありえないことだと思う。あいつがそんなことをするなんて・・・いや、こうなるってわかっていたのかもしれない。でも信じたくはなかったのかも・・・
 あたしはポツリと一つの名前を呟いた。

「・・・美智恵・・・」

 そこには、まるで何かに魅入られたかのような瞳を帯びた美智恵が、白刃を構えて立っていた。





 流れ往く蛇 鳴の章 六話





 あたしを見詰める美智恵の瞳は、まるで何か見魅入られているみたい。そしてその足取りは、ふらふらとおぼつかないように、ゆっくりとあたしの方へと向かってきている。

 ・・・ゆっくりと・・・あたしの方に向かってくるって!?

 そう、ゆっくりとこっちに向かってくるんだよ。『隣のビル』であるこっちにね。
 飛び降り防止の金網を、その持っている神通棍で叩き折って。当然、金網の先に道なんかがあるわけもない、あたしのいるビルと美智恵のいるビルの間の数メートル分、真黒なクレバスのような空洞が広がっている。そこに落ちれば、当然命など助かるはずもない。
 あたしはわけもわからなくなって、とりあえず叫ぶ。

「美智恵、お前死ぬ気か?」

 ウン、まぁ死ぬ気なんだろう。美智恵の足は一向に止まることもなく、叩きつけられてひしゃげた柵に、美智恵はとうとうその細い腕をかける。
 
「まぁ、なんだ・・・世の中辛いこととかあってもさ、わざわざ死ななくても誰かに話を聞いてもらうとかすればさ、少しは気が楽になるかもしんないだろ?って何であたしがそんな事言ってるんだ?
 まぁいいや、とにかく自殺なんて早まったことはすんな・・・な?」

 なんか違うなぁ・・・と自分でも思いつつ、とりあえず美智恵に声をかけておく。
 だけど、その足は一向に止まることもない。それ以前にあたしの声が聞こえているのかどうかすら疑問だ。
 そして、こんな美智恵の状態にはそれなりとは言え、見覚えがある。

「公彦の・・・精神支配か?・・・これは・・・」
『そうだよ、やっと気付いたか?』

 あたしの呟きを肯定するように、嘲笑を含めた声があたしのすぐ頭上から流れた。
 あたしはその声の主をとっさに見上げようとしたが、『ガシャァン!』という激しい異音、その直後に階段の手すりは凄まじい速度でひしゃげていき、あたしは上を見上げるのはあきらめて、歪めてゆく階段から振り落とされないように体勢を立て直した。
 まるで凄まじい力が叩きつけられたみたいに階段はひしゃげていって、まるで手すりとも段とも言わずに前衛的にまで捻れていった。あたしはすぐに捻れていない身近な手すりを支点として、体を懸垂のように引っ張り上げ、触っていく内にさらに凄まじい勢いで捻れていく手すりから身を離すついでに、より高みへと跳躍。やっと捻れていない所までたどり着いたときには、さっきまであたしのいた場所はすごい有様になっていた。前衛的って言うか・・・なんていうか・・・
 
『よく力のなくなった状態であそこまで動けるなぁ・・・オメースゲーよ、根本的に俺らとは違うんだろうな』

 あたしを褒める・・・にはずいぶんと違うニュアンスで、奴は口を歪めた。
 今あたしがいるのは、ビルの屋上付近。後数段ってところで屋上へとたどり着く。そのほんの数段、奴はそこに陣取ってふんぞり返るみたいに腰を下ろしていた。

 奴―公彦の体を乗っ取り、美智恵に長い間寄生して、しかもこのあたしになめた事言ってくれた奴。
 チューブラー・ベルだ。

 あたしは奴の言葉を無視して、口を開いた。

「オマエが唐巣にあんなことしたのか?」

 奴は馬鹿にするみたいにあたしを眺めて、獲物を引き裂くような残虐性のある視線で返してくる。

『ア?テメー・・・人間と一緒にいすぎて頭おかしくなったんじゃねーか?何で人間なんかの心配なんか真っ先にしてんだ?』
「オマエよりはましさ」

 あたしは唇を噛みながら、そう唸る。
 クソ、確かにその通りなんだけど・・・とは言え、目の前にいるチューブラー・ベルの奴よりかは、よっぽど唐巣のほうがマシな奴だ。それに唐巣がいなけりゃあたしの身を隠すトコだって無くなってしまうわけだし・・・
 ウン、あたしは一つ頷くと、今度は美智恵に目を向けた。

「どうやって公彦から感応力を奪ったのかは知らないけど・・・今までずいぶんとナメたマネしてくれたんだ。どうなるかわかってるんだろうね・・・」

 あたしは腰に添えてある神通棍に、軽く触れる。霊力がほとんど空に近い状態だから、いくら力を込めても光り輝く白刃なんてでるわけはない・・・けど・・・・こう言ってはなんだけど、一つだけ・・・一つだけ霊力を使う方法だって、ないわけでもない。ないわけではないんだけど・・・

 あたしの脳裏に、あの能面男の顔が流れた。

 ―もしあなたが本気で彼女を助けたいとお思いならば―

 ・・・本気で?このあたしが人間なんかを本気で助けたいなんて考えてるなんて、奴らはそう思ってるのか?場合によっては人間なんか簡単に見捨ててやるし、わざわざ唐巣や美智恵だって危険を冒してまで助けてやらなくてもいいんだぞ?それにあいつらだってプロだ、自分たちで何とかするだろうし、それに死ぬ覚悟だってあるだろ・・・
 
 美智恵の手に握られる白刃―神通棍には黒に近い色をした血が、残酷なまでに付着している―恐らくほうっておけば、唐巣は死ぬだろう。いや、ひょっとして今も生きているかどうかだってわからない。現に今現在、唐巣はピクリとも動かない。でも、実は見かけだけ酷い出血量に見えても、実はあんまり出血していないかも・・・ただ気絶しているだけかもしれない。

 どっちだ・・・急いで何とかすれば、助かるかもしれないし、でも既に死んでるかもしれない。

『どっちだと思う?既に死んでるかも知れねーぜ?まぁ、俺にとっちゃどうでもいいことだけどなァァ』

 奴はケケケ、とげひた笑いを浮かべながら、腕を振り上げた。

『それよりもお前に面白いもん見せてやるって・・・言ってたよな?』

 あたしは嫌な予感がして、奴の振り上げた腕の先に人物を見詰めた。その腕の先には、そう、美智恵が立っていた。
 奴は言ってたよ・・・な。美智恵を殺してやる様を、あたしに見せてくれるって。

『よく憶えてんじゃねーか、ならご褒美も奮発しねーとな』
 
 ご褒美?何の褒美だっていうんだ!あたしはその答えを考えるよりも早く、体を横へと流す。一瞬、奴の体が掻き消えるような錯覚、あたしは素早く腰から神通棍(殴打専用)と、さらに数枚の札を掴み取る
 しかし、あたしの目の前で突如、掴み取った数枚の札は燃え上がり、さらにあたし自信見えない圧力に弾き飛ばされる。チューブラー・ベルの奴が、あたしを霊気でもって吹き飛ばした。ただそれだけ、ただそれだけなのに、今のあたしじゃ手も足も出ない。
 あたしの体は面白いくらいコロコロと転がっていって、ビルの端っこまで吹っ飛んで言った。ここからなら、ジャンプすればひょっとして美智恵のいるビルにまで届くかもしれない。まぁ、そんなことは奴がさせてくれないだろうけど・・・
 
『あせんなっつーの・・・まだテメーにご褒美やってないんだからよ』
「ご褒美?何をくれるんだよ・・・今すぐ公彦の体から出て行って、そんでオマエがこのビルから落っこちてくれるっていうなら、まぁ喜んでやるよ」

 あたしはムカムカする気分を押し殺して、そう吐き捨てる。

『オメーに見せてやるっつたよな・・・』

 ニタ・・・と、やつのほほが吊りあがる気配が、あたしに伝わる。こいつは明らかに楽しんでいやがる
。このあたしを精神的に追い詰めていくことを。

『美智恵が死ぬ様をよぉぉぉ』

 クッソ!!あたしは心の中で悪態を激しく付いた。そして、あたしが焦れば、怒れば、後悔すればするほど、ますます奴の口は釣りあがっていく。まるでこのあたしの心の中でも読み取っているみたいに・・・?
 読み取っている・・・だって?そういえばこいつは美智恵に暗示をかましたとかって、言ってたよな。
 この力は・・・そう、公彦の力だ。暗示を使える以上は、こんな力を持っていてもおかしくはなかったはず。

『よくわかってんじゃねーか、ケケケ、唐巣もこの力の前には手も足も出なかったしよォォォ、スゲーぜ?この力はよォ。まさに最強って奴だろ』

 奴の表情はまさに悦楽そのもの。普段持ったことのない、触れたことすらない力に溺れていやがる。それは刹那の力、練磨して身につけたものじゃないから、自分にも、同属にも、ひょっとしたら周りの仲間たちにも危害を加えかねない。

 ・・・そうだ、それは幼かったころのあたしにも似ている。
 
『・・・オマエ・・・神族・・・か!!??』

 そのあたしの記憶を読み取ったんだろう、チューブラー・ベルは動転した声を上げた。
 そう、あたしは小さかったころ、確かに神だったんだ。あたしの脳裏に、幼いころのあたしの姿がよぎっていった。

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