ある青年の一日(第三話)
投稿者名:みはいろびっち
投稿日時:(04/ 3/24)
雪乃丞とひのめ、二人は妙神山での約束の時間が迫っていることに気づきあわてて準備を始めた横島に見送られ、彼のアパートを後にした……ところまではよかったのだが、雪乃丞は早速大きな問題に直面するのだった。
元来子供が苦手な彼である。
加えて、いささか扱いにくい恋人を持つ彼にとって女性とはもっとも苦手な生き物であった。
子供に加えて女性でもあるひのめとの間に会話を成立させるなど、彼にとっては悪霊や妖怪とワルツを踊るよりも困難なことである、とさえいえるのかもしれない。
さらに、どうやらこのひのめ嬢、現在はいささか落ち込み気味でもあるらしい。
雪乃丞が話しかけると元気に返事を返してくれるのだが、いったん会話が途切れると少しうつむき、さびしそうな表情を浮かべているのだ。
彼はただただ途方にくれるのだった。
打開策を模索し続けている彼の頭には、かつて彼の敬愛する母親から聞いたある言葉が浮かんできたのだった。
『旅は道連れ、世は情け』
この言葉の先に一筋の光明を見出した彼は意を決して隣を歩く少女に話しかける。
「なぁ、嬢ちゃん。」
「はい。」
うつむきがちだった顔を上げ、彼のほうを向いて答えるひのめに対し、雪乃丞は器用に子供をあやす横島の姿を思い浮かべつつ問いかける。
「せっかく遊びに行くんだからよ。人は多いほうが楽しいとおもわねぇか?」
「……はい。」
ひのめは雪乃丞の質問の意図を把握できなかったのか、少しの間考えてから答えた。
「よし。そこでだ。」
「?」
「嬢ちゃんは弓かおりって女を知ってるか?」
「えっと……。」
ひのめは雪乃丞の飛躍する会話に戸惑いながらも、聞き覚えのある名前から必死に当てはまる人物を探そうとするのだが、どうやらなかなか出てこないらしい。
見かねた雪乃丞が口を挟む。
「おキヌの友達になるんだけど……しらねぇかな?」
「あ、いえ。しってます。おキヌおねえちゃんとまりさんのお友だち……ですよね。」
「まり?あぁそうそう。そいつだ。」
雪乃丞はうれしそうに答えるひのめの言葉から三人娘の片割れを思い出し、うなずく。
「で、その弓がだ。どうせ今日も暇にしてるはずなんだ。そこでこいつを呼び出してやろうとそう考えてるわけだが、協力してもらえねぇかな?」
「はい!わかりました。」
どうやらひのめの方も相手のことを打ち解けがたく感じていたようだ。
そんな相手から頼みごとを持ちかけられて、打ち解けるきっかけを感じ取ったのかうれしそうに答えるひのめの様子に雪乃丞は満足げにうなずく。
「よ〜し、いい返事だ。なぁに協力って言ってもそう大したことをしてもらう訳じゃねぇ。とりあえずはこれから俺が電話をかけてる間、静かにしといてくれりゃあそれでいい。できるか?」
「はい!」
ひのめの協力を取り付けた雪乃丞はコートから携帯を取り出し、かけ慣れた相手へと電話をかけ始めるのだった。
そこは大きな屋敷の一室であった。
純和風のその部屋を彩る大小さまざまな人形は、机の前にけだるげに座り少女漫画を読みふけっているその女性の趣味であろうか。
時折獅子脅しの音が聞こえる以外は漫画のページをめくるかすかな音のみが響いていたその部屋に、いささか場違いともいうべき携帯の着信メロディが響きわたった。
「もしもし。」
『弓か?…俺だ。』
あわててとった携帯の向こう側からは彼女が最も聞きたいと願っていた男の声が聞こえてくるのだった。
「こんな朝からかけてくるなんて、珍しいじゃない。雪乃丞。雨でも降るんじゃないかしら?」
部屋では満面の笑みを浮かべながらもつっけんどんな口調で話しかける彼女は、どうやらあまり素直な性格ではないようだ。
『弓…。頼みがある…。』
「え、何?どうしたの?」
いつに無く真剣な男の言葉に彼女はあわてて電話に耳を傾ける。
『おまえにしか頼めねぇんだ。…ちょっとでてきてくれねぇか?』
「わかったわ。それで、どこへ行けばいいの?」
必死に問い返す彼女に、電話の向こうの彼はその場所を口にするのだった。
『東京デジャブーランドだ。』
居間から聞こえてくる声は彼女の父親のものだろうか。
「お〜い、かおりぃ。どこへいくんだ?」
だがその問いへの答えは決して帰ってくることは無かった。
今までの
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