ザ・グレート・展開予測ショー

ある青年の一日(第二話)


投稿者名:みはいろびっち
投稿日時:(04/ 3/24)


二杯目のカップめんを平らげ満足げな顔をしておなかをさすっている雪乃丞に横島が尋ねる。

「そういえば、おまえ今度は何しにきたんだ。確か外国に修行に行ってたんじゃなかったっけ?」

「あぁ、香港のほうでしばらく修行してたんだけどな。この間……ちょっと電話があってな。」

「?」

急に言葉に詰まり始めた雪乃丞を不思議そうに見つめる横島に対し、雪乃丞は微妙に視線をそらしつつ答える。

「弓のやつがよ……その、なんかさ。親が俺に会いたがってるとかどうとかで、一回こっちに顔を見せちゃあどうかとか言いやがるからよ。その……まぁそういうわけでさ。」

「ほぉ〜〜〜。」

しどろもどろになって答える雪乃丞に対し横島の目は徐々に細められていく。

「それはあれかな。雪乃丞君は、『かおりさんを、僕にください』とか、そ〜んなことをのたまいにいったりするわけかなぁ〜〜〜?」

「い、いや。しねぇって、まだ、急に、そんな……。」

あわてて腰の引ける雪乃丞に対し、横島はまるでチンピラであるかのような顔をして追い討ちをかける。

「てめぇ。オレの弓さんに手ぇ出してんじゃねぇぞ。ぁあ〜〜〜。」

「だ、誰がおまえの弓さんだよ。」

「うるせぇ。世界の女はみんなオレのもんじゃあ〜〜〜。」

あたかもそれが世界の真理であるかのように無茶苦茶なことを叫ぶ横島に対し、雪乃丞は恋人の姿を思い出し何とか反論を考えようとする。





コンコン





突然聞こえてきた扉をたたく音に対し、横島はピクリと一瞬体をこわばらせ、仕事の時でもほとんど垣間見せないような真剣な顔をして鋭い視線を部屋の四方へと走らせた。

そんな横島のただならぬ雰囲気に雪乃丞も体をこわばらせ、扉のほうへ視線をやり、声を落として横島に問いかける。

「なにもんだ?」

その問いかけに対し横島は片手で雪乃丞を制し、すばやく扉のほうへと歩み寄る。

そして彼はおもむろに扉を開いた。





「やぁ!おはよう。ひのめちゃん。今日は早いね。どうしたの?」

「おはようございます。……?」

「?」

何かに気づいたのか不思議そうな顔をしているひのめの視線の先に横島が目をやると、そこには魔装術を身にまといズッコケている雪乃丞がいたのだった。

「なにやってんだ、おまえ?」

「いや、いい。いいからほっといてくれ。」

なぜ雪乃丞がそうしているのかがまったくわからないのか、不思議そうな顔をして問いかける横島に対し、雪乃丞はただ力なく答えるしかなかった。





「それで、今日はどうしたの?」

「はい、実は…。」

雪乃丞のことはほうっておくことにしたのか当初の疑問を再び問いかける横島に対し、ひのめは二枚のチケットを差し出す。

「……東京デジャブーランド招待券?」

「はい!」

「どうしたの、これ?」

差し出された二枚のチケットの意図をつかめず再度問いかける横島に対し、ひのめが説明をする。

「お母さんとおねえちゃんがきょうはおしごとでいそがしいらしいんです。それでおねえちゃんが、せっかくのおやすみなんだからお兄ちゃんにそこにでもつれていってもらいなさいって。」

「へぇ。そうなんだ……。!?。」

ひのめの説明にいったんはうなずいてから、横島はハッと何かを思い出したのかしまったという表情をする。

「?」

「あ〜〜。え〜〜っと、その…。」

そんな横島の表情をみて不思議そうな顔をするひのめを前にして、横島はなにやら言いよどんでいるようだ。

その表情から幼いながらも何かを察したのか、ひのめが少し悲しそうな顔をして話す。

「きょうはいそがしい……ですか?」

「……うん。……ごめん。実はだいぶ前からの約束があるんだ。」

ひのめの悲しそうな表情にいたたまれなくなった横島が何かを話そうとする前にひのめがポツポツと話し出す。

「やくそくは・・・だいじです。ちゃんと守らないといけません。」

その言葉にますますいたたまれなくなった横島は何か手はないかと必死に頭をめぐらせる。

そのときハッと何かを思いついたのか、雪乃丞のほうへと視線を向ける。

すでに完全に忘れ去られていたのをいいことに勝手に三つ目のカップめんを食べていた雪乃丞は横島の真剣な表情を見てなにやらあわてたようだ。

「へ?い、いや。おまえ秘蔵の『どん太(30%増量中)』には手をつけてないぞ!『青いイタチ』の一個くらいいいじゃねぇかよ。」

なにやらわけのわからないことを叫んでいる雪乃丞はいったん無視し、横島はひのめに向き直る。

「ごめん、ひのめちゃん。ちょっとまっててね。」

ひのめにそういってから横島は状況を理解できず混乱している雪乃丞を部屋の片隅へと引っ張っていくのだった。





「頼む!雪乃丞。ひのめちゃんをデジャブーランドに連れて行ってやってくれないか?」

小声で雪乃丞に状況を説明してから、横島は彼に向かって頭を下げて頼み込んだ。

「そ、そうはいってもよぉ。」

さすがの彼も子守には自信がないのか、渋る雪乃丞に横島は手を合わせてさらに頼み込む。

「こんなことを頼める(ひまな)やつはおまえしかいないんだ!」

「しょうがねぇなあ。わかったよ。引き受けてやるよ。」

親友の頼みとあっては彼には断りきれなかったのか、雪乃丞は引き受けることにしたようだ。

途中で横島がボソッと漏らした一言はどうやら彼には聞こえなかったらしい。

「それにしても、そんな大事な用があるんだったら何で美神の旦那にちゃんといっとかなかったんだ?」

雪乃丞の当然といえば当然の疑問に横島もそのことに思い当たったのか少し眉間にしわを寄せて考える。

「……オレはちゃんといった……はずだぞ。たしか。でないとあの人が休みくれるわけないし。……でもまぁ、忘れてたんだろうなぁ。あの人のことだから。」

すでにあきらめの境地に達したかのように話す親友の姿に同情しつつも、『かわらねぇなあ、こいつも。』などと考える雪乃丞であった。





「で?」

「?」

「そんなに大事な用事ってのはいったい何なんだ?」

「あぁ。」

ついでのように尋ねる雪乃丞の疑問を横島も理解したらしい。

答えようとする横島の機先を制し、釘を刺すかのように雪乃丞がつぶやく。

「まさかデートとか言うんじゃねぇだろうなぁ。」

「アホか、おまえ人を何だと思ってやがる。……ちょっと妙神山まで行って来ないといけないんだよ。」

さも心外であるかのように答える横島に対し、雪乃丞はジト目で睨みながらつぶやく。

「小竜姫にちょっかいを出しにいく、とかじゃねぇだろうな?」

「おまえ……ほんとに人を何だと思ってんだ?」

雪乃丞の疑問に対し、横島は疲れきったかのようにつぶやくのだった。

どうやらこの誤解を解くのは非常に困難なことであるらしい。






『人間、日頃の行いが肝心』ということであろうか。






「なんだ、あのチビに会いに行くのかよ。そうならそうと早くいやぁいいじゃねぇかよ。」

謎がすべて解けたかのような晴れやかな顔をして話す雪乃丞に対し、今度は横島がジト目で突っ込む。

「人が説明する前になんだかんだ言い出したのはどこのどいつだよ。」

「ま、まぁそれはいいとしてだ。この埋め合わせに今度オレの修行に付き合えよ。」

微妙に目をそらしながらさわやかな顔で話をそらす雪乃丞に対し、横島はいったん苦笑を浮かべてから答える。

「あぁ、いいぜ。弓さんが一緒ならいつだって付き合ってやるさ。」

「おい!」

声を荒げる雪乃丞の追及をさらりとかわし、横島はひのめのほうへと向かうのだった。





「えっと、そういうわけでさ。こいつが連れてってくれるっていうんじゃ……ダメかな?」

「……いいえ。」

ひのめは何とか事情を説明してからそう問いかける横島に答えた後、隣に立つ雪乃丞のほうに向き直ってからお辞儀をする。

「よろしくおねがいします。……ゆきのじょうさん……ですよね?」

「あ、あぁ。うん。こちらこそ、よろしく。」

どうやら顔に見覚えはあるようだが名前のほうは自信がないのか、少し上目がちにたずねたひのめに対し、雪乃丞はなにやら顔を赤らめつつ答えるのだった。

しばしの間ぼ〜っとしていた雪乃丞は、どこからともなく浴びせられる視線にはっとして辺りを見回す。

その視線の元にはジト目で見つめる横島がおり、その視線に我に返った雪乃丞は唐突になにやら叫びながら壁に頭をぶつけ始めるのだった。

「ち、ちがう!!違うんだよ、ママ〜〜〜。俺は間違ってもロリコンなんかじゃないんだ〜〜〜。信じてくれよ〜〜〜。」

血の涙を流しつつ叫び続ける雪乃丞を見ながら、自分は間違った選択をしてしまったのではないか、という不安に襲われる横島であった。


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