ある女教師の一日(前編)
投稿者名:みはいろびっち
投稿日時:(04/ 3/22)
注)これは私の前作『ある少年の一日』の続編というべき短編になっています。
そちらを読まなくても支障は無いように書いているつもりではありますが、先にそちらを読んでいただいたほうがスムーズにこの世界観を理解できるかと思います。
あしからずご了承ください。
そこには二人の女性がいた。
一人がややうつむきがちにして暗い声でもう一方へと語りかける。
「ねぇ。最近人生の選択についてよく考えるのよね…。」
「え、なんですか?いきなり。」
なにやら深刻そうな話題をいきなり話しかけられた女性は驚いたように聞き返した。
「人生の選択よ。なぜあの時こんな道を選んだんだろうって……さ。」
女性はそういって儚げに微笑んだ。
「ハ、ハハ…」
話しかけられた女性には引きつった笑顔で答えるしかすべはなかったようだ。
彼女たちはなぜこのような会話を交わしているのか、その答えは二人の周囲にこだまする甲高い声にあるようだ。
「せんせえ〜、たけしくんが私のおにんぎょうとったぁ。」
「先生、のびたくんとすねおくんまたけんかしてます。」
「先生。」
「せんせえぇ〜。」
「「ハ、ハハハ…。」」
そしてその場には二人の笑い声がむなしく響くのであった。
「ねぇ、おキヌちゃん。」
「はい?」
二人はせわしない作業の合間を縫うように会話を続ける。
「最近さ、根性焼きとか懐かしくなるのよね…。」
遠い目をして語る彼女の不穏当な発言は聞かなかったことにするべきであろうか…。
「根性焼き……それっておいしいんですか?」
おキヌのいっぺんの曇りもない瞳に彼女はただがっくりとうなだれるしかなかった。
一文字魔理21の春のことであった。
お昼過ぎ、そこはそれまでの喧騒がうそであったかのような静けさに包まれていた。
その静けさの中にはあたかも魂が抜けたかのようにして壁にもたれて座る二人の女性がいた。
「ねぇ、おキヌちゃん。」
「なんですか?」
「この時間帯って……幸せだよねぇ。」
その説得力に満ち溢れた言葉におキヌは心からの同意を示す。
「至福の一時って言うのを実感しますね。」
そこに現れたのは二人もよく知る一人の女性であった。
「あらあら〜〜。みんなはおひるね中ですか〜〜。」
「あ、理事長!」
「みんなちょうどさっき眠ってくれたところです。」
突然現れた当六道女学園理事長に魔理は返事をしてからあわてて立ち上がり、おキヌがあたりに眠る園児たちを見回しながら状況を説明した。
「みんな良い子たちばかりでしょう〜〜。」
「「そうですねぇ〜〜。」」
理事長に答えた二人の言葉は心からのものであった。
魔理もおキヌも基本的には子供好きであるようだ、世の中には可愛さあまって憎さ百倍などという言葉もあるようではあるが…。
それにしても語尾が伸びるという六道一族独特の口癖はどうやら周りにも伝染するらしい。
「魔理ちゃんもおキヌちゃんも子供の世話がとってもうまくて、おばさんうれしいわ〜〜。」
「「ありがとうございます。」」
普段なかなか会話をすることのない理事長のお褒めの言葉には二人とも感動したようだ。
「それでね〜〜。隣の組の先生が〜〜午後から用事ができちゃったから〜〜。これからあなたたちにそっちの組の子達をお願いしたいのよ〜〜。」
「え…。」
「い、いますぐ……ですか?」
硬直するおキヌと引きつったように尋ねる魔理に対し、理事長はまるで無邪気な子供たちのようなつぶらな瞳で答える。
「もちろんよ〜〜。大丈夫よ〜〜。みんなとってもいい子達だから〜〜。」
「「は、はぁ…。」」
理事長の何の救いにもならない言葉に対し、二人はうなずき、ただ心の中で涙を流すしかなかった。
えてして至福の一時というものは短いものである。
「みんなの先生がちょっと用事ができちゃったから、今日は私たちがみんなの先生をしますね。」
隣で子供たちに話しかけるおキヌの横で微笑みつつも、魔理は子供たちに対していまだおキヌのような自然な笑顔ができないことを少し残念に思っていた。
「あれ、おキヌおねえちゃん?」
一人の少女が驚いたような声を上げた。
「ひのめちゃん。こんにちは。」
「こんにちは。」
にっこりと微笑んで挨拶をしてきたおキヌに対し礼儀正しく挨拶を返した後でやはり疑問が首を持ち上げてきたらしく小首を傾げて尋ねる。
「どうしておキヌおねえちゃんが幼ちえんにいるんですか?」
その愛らしいしぐさにおキヌにしては珍しくいたずらっぽい顔をして答えた。
「それはね。私はちょっと前からここで先生のお勉強をしてるのよ。」
「そうなんですか?ぜんぜんしらなかったです。」
驚いたように目を丸くして答えるひのめにおキヌは微笑んで答える。
「ひのめちゃんを驚かせようと思ってみんなには内緒にしておいてもらったのよ。おどろいた?」
「はい!とってもおどろきました。でも幼ちえんでもおキヌおねえちゃんとあえるのはうれしいです。」
「ありがとう。私もうれしいわ。一緒にお勉強しましょうね。」
「はい!」
仲の良い姉妹のような微笑ましい会話に他の子達の世話をしていた魔理が加わる。
「えっと、美神さんの妹さんだよね。こんにちは。」
「はい、こんにちは。えっと…。」
ひのめは元気よく答えてから相手の名前がわからないことに少し戸惑っているようだ。
見かねた魔理が笑いながら言う。
「あたしは魔理だよ。ひのめちゃんとはもう少し小さなころに会ったことがあるんだよ。」
「そうなんですか?…覚えてないです。ごめんなさい。」
相手のことを思い出せなかったためか、沈んだような声で答えたひのめに対し、魔理はあわててフォローをする。
「いいよいいよ。まだひのめちゃんがだいぶ小さなころだったからね。それにこれでちゃんと覚えてくれたでしょ?」
「はい!よろしくおねがいします。まりさん。」
「こちらこそ。ひのめちゃん。」
花がほころんだかのような笑顔で答えるひのめに対し、魔理も自然な笑顔で答えるのだった。
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