〜 『キツネと姉妹と約束と 第11話 前編 』 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 3/22)
『今日よりも楽しい明日がやってくる・・・。そう、信じて疑わなかった。
・・・結局、明日なんて来ることはなかったけれど。』
◇
「あの頃は・・そうね。タマモちゃんが手配されていた時よりも、もっと魔物に対する偏見は激しくて・・
身寄りのない魔族たちにとっては・・きっとつらい時期だったと思うわ。」
・・・。
目に焼きついて離れない光景がある。
鮮血に染まり倒れ伏す少女と、その傍らで泣き崩れるもう一人の少女。
・・・あの日から、すでに18年と2月の歳月が流れていた。
〜 『キツネと姉妹と約束と その11 前編 』 〜
〜appendix.10 『むかしむかし・・・』
「・・こんにちは。あなたも・・えと・・その逃げてきたんだよね?」
そう言って・・・
目の前の女の子がニッコリと笑いかけてくる。
初夏の・・誰も名前なんて知らない、そんな山の中。
そこに立っていたのは、私と少女。・・それに木陰に隠れるようにしてこちらを窺っている数十匹の魔物たちだった。
一見して人外の存在と分かる者もいれば、私のように人の姿をしている者もいる。
・・唯一の共通項は、みな、年端のいかない子供である、ということ。
「うむ。人間に追いたてられてここまで来た・・というよりここに追い込まれた。」
数日前につけられた銃痕から鈍い痛みが走る。
旅の・・・あての無い旅の途中。人里を歩いていた私に、突然向けられた銃口。
「?・・・!!あなた、ケガしてるの!?」
「ん。出血は止まっているのだが・・ちゃんとした手当てはまだ・・・」
「大変!ちょっと待ってて!今、手当てするから・・・」
私が言い終わるのを待たず、彼女は前に身を乗り出して・・・
外見的には私とそう大差ない年頃の・・まだ小さい女の子だった。
「・・私はスズノという。お前は?」
ためらいがちに私がたずね・・・・・
「・・・・・・・。」
それに少女はまた・・・だけど少しだけ寂しげに頬を緩めたのだった。
―――・・・。
「ここにいるのはね、みんな『じーめん』っていう人たちから逃げてきた子たちなの。」
青い光が私の傷を癒し・・
手当てに一段落がついたのか・・少女は少しこちらを見上げくる。
・・・私たちは2人で川岸に座っていた。
「スズノちゃん・・っていうんだよね?うらやましいな・・私には無いから・・名前。」
・・・。
「つけてもらう前に・・お父さんもお母さんも死んじゃった・・・。」
少女の顔が深く沈む。
・・よく見れば、近場の岩には小さな花が2輪だけ添えられていて・・・
・・・。
「・・人間さんたちは・・どうして私たちを狙うのかな・・・?」
「恐れている・・のだと思う。私たちと、私たちの持つ力を。」
・・・悲しく思う反面、仕方のないことだとも思う。
この世界において、自分たちはただの異端者に過ぎないのだから。
・・・。
これで終わりだとは・・・思えなかった。
魔物の子供たちが集落を作っていると知れれば・・近いうち、必ずここに人間たちが現れる。
「たたかうのって・・いやだよね。ケンカなんてしても・・お互いにケガするだけなのに・・・」
泣きそうな顔。
しかし、少女はすぐさま顔を上げて・・・・
「きっと・・大丈夫だよ。私、知ってるもん。
みんな・・私たちを襲った人たちだって・・、本当はみんないい人たちのはずだから。」
光の差し込む雑木林の・・その中で・・・
彼女は確かにそう言ったのだ。
◇
―――・・・。
「・・狩り?」
「Gメン内部ではそう呼ばれていたみたい。追いたてた魔族を一ヶ所に集めて・・一網打尽にする。」
スズノの気配が近づいている。
陽炎の街を歩きながら、美智恵は事務所の3人へと目を向けて・・・
「18年前、GSとして『狩り』を妨害する依頼を引き受けていた私は・・そこでたまたま神父と再会したの。
そして・・共に、狩りが行われているという山へ向かった。」
・・・・正直、もう手遅れだったけれど・・・・
美智恵の口が悲しくそう動いて・・・
その場所には、死が溢れていた。
「手遅れ」などという言葉では、まるで追いつかない。
手を伸ばしても・・・手を伸ばしても・・・次々と命がこぼれ落ちてしまうのだから・・・・。
「じゃあ、最後はどうなったの?・・魔物の子供は・・?」
目を伏せる美神に・・しかし、美智恵は首を振る。
「狩りは・・・失敗したわ。Gメン側が全滅したの。親友を殺された・・たった一匹の魔物の暴走によって。」
!!
場を支配する空気に戦慄が走る。
3人は驚愕の表情で美智恵と唐巣を見つめ返して・・・・
「・・・待ってよ。その魔物って・・まさか・・。」
「・・暴走は三日三晩続いたよ。要請を受けて討伐におもむいた魔界正規軍も・・消滅した。灰も残さず、完全にね。」
◇
「ク・・・クククッ・・・・」
暗い。
ここはなんて暗い世界なんだろう。
・・失望とともに沸いて出たのは・・・淡い哄笑。
その哄笑は・・・やがて・・・・・・
「ク・・・アハハッ・・・アハハハッ・・アハハハハハハハハハハハッ!」
無邪気に、鈴の鳴るような声で・・・銀の少女が笑い出した。
暴虐の炎を・・舞い狂うようにかしずかせながら・・・・
・・・・。
紅い風は・・死と破滅という名の鎧となり・・・この世に顕現した、新たな王へ、歓喜の歌を捧げている。
(霊力・熱量センサーともに・感知不能・・)
恐怖を感じぬはずの鉄の心が・・今、必死に悲鳴を上げている。マリアの精神内にプログラミングされた自己保存機能がささやくのだ。
―――・・ここにいては危険だ。破壊される・・・と。
状況の認識が追いつかないマリアには一瞥もくれず、彼女はそのまま、はるか上空へと浮かび上がり・・・
・・・・そして・・・叫ぶ。
「聞くがいい!!脆弱なる人間共・・・そして不浄なる魔界に住まう我が眷属たちよっ!!!
貴様らを死へと誘う悪魔が・・・・再びこの地に降り立ったぞ!!!」
底冷えがするような・・怒りと憎悪に満ちた声。
空気を切り裂きながら響くその声に・・・振り向かない者はいなかった。
「貴様らが、かつて我ら土着の魔物を狩り立てたように・・私が貴様らを狩り立ててくれる!!
逃げるなり、抵抗するなり好きにしろ・・せいぜい足掻いて・・・無様に踊り狂って・・私を楽しませるがいい!!」
・・・瞬間。
スズノの作り出した歪みが大きく・・・大きく蠢き出す。
否、それだけではない。
・・空間が揺れていた。
ゴポリという音を立て・・・目に映るすべてのものが変形していく・・・。
「・・・・・まずは、素敵な舞台へと招待しようか・・・。」
今までの
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