ザ・グレート・展開予測ショー

妙神山の休日 その4


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 3/21)









「だから悪かったって言ってるでしょ。」

今はみんなで夕食を食べているのだが、さっきから横島がまったく喋らずにふてくされている。
普段怒ってもすぐ許してくれる横島が、珍しくなかなか許してくれないのでタマモも少し焦っていた。
だからと言って低姿勢になりきれないのが、まあタマモらしいのだが。

「横島さんも許してあげれば良いじゃないですか。
私も混浴だって言うのを忘れてましたし。」

小竜姫がタマモの援護に入る。
小竜姫は夕食が始まった時、ジークと二人でシロとタマモに挨拶をすませた。
あれだけ会っていながら、ジークはまともな挨拶はまだしていなかった。
いや、どっちかって言うとさせなかったが正確ではあるが。

「まあ、もう良いですけど。
タマモ貸しだからな。」

小竜姫にも言われてさすがに大人気ないと思ったのか、
あとくされが無いように適当な理由をつけて許してやる。

「分かったわよ。」

「なら、もうこの話は終わりですね。
横島さん、ご飯のお代わりはどうですか?」

タマモはしぶしぶ承諾しているが、内心はほっとしているのが小竜姫には解った。
そしてタマモが話に入りやすいように、銭湯での話を終わらせてご飯のお代わりを進めてみる。

「あ、頂きます。
小竜姫さまの手料理、ほんと美味しいですよ。こんなの食べられるなんて俺って幸せですね。」

「そ、そうですか。」

横島が笑いながら料理を褒めてくるので、小竜姫は頬を染めててれてしまう。

「しかし、ほんとにうまいでござるな。
まあ拙者はもう少し肉料理がほしいと思うでござるが、これはこれで美味しいでござる。」

「でも、普段はあまり作らないでちゅ。
今日はヨコシマたちが来たからでちゅね。」

シロが褒めている最中にパピリオが余計な一言を付け足すと、小竜姫が真っ赤な顔で否定し始める。

「こ、こら、パピリオ。
あ、違うんですよ、普段は仕事が忙しくて作ってる時間がどうしても無くて・・・」

小竜姫は喋ってる最中に急に冷静になると、
何で自分は一所懸命言い訳をしているのか分からなくなってしまった。

なにやってるんだろ私は・・

「ならやっぱり、めったに作らない小竜姫さまに作ってもらった俺は幸せ者ですね。」

小竜姫の気持ちに気が付かない横島は、本当にうれしそうに笑う。

そんな顔を見るとうれしくなってしまう自分がいる事に、小竜姫は気が付いているのだが、
今はそれには気が付かない事にする。

今はまだ覚悟が出来てないから・・






食事が終わり小竜姫もお風呂に入る事にした。
体を洗う場所は、男と女に分かれてそれぞれ反対側にある。
さすがにそこは外からは見えないように柵になっているのだが、本気で覗こうと思ったら見えない事も無い。
小竜姫はいつも以上にしっかり体を洗うと、湯浴み着に着替えて湯船につかる。
心底ほっとするこの瞬間が大好きだった。

「は〜、極楽ですね。」

人に聞かれるとおばさんくさいと言われそうな発言をしてしまうが、
まあ周りには誰も居ないので大丈夫だろう。

そこでふと気がついて、小竜姫は風呂場の岩陰を覗いて見る。
かなり熱心に探すのだが、とうぜん誰も居ない、次に湯船の中を覗き込むが、あたりまえの様に何にも無い。
それでも諦めずに小竜姫は、男湯の脱衣所に誰か居ないか窺ってみるが、誰か居る気配は無かった。
もしかしたら、女湯の脱衣所かと思って入ってみるが、人っ子一人居なく静まり返っている。

あれっと思って考え込んでいると、外から脱衣所の扉を叩く音が聞こえた。

コンコン

「はい。」

「ジークフリードです。
横島さんなら、パピリオや事務所の仲間に捕まってパピリオの部屋におりますよ。」

ジークは扉を開けないで話しかけてくると、小竜姫の胸に突き刺さる事を平然と言ってくる。

「・・・・・・なぜ私が横島さんを探していると思ったんですか?」

額に風呂場の暑さとは違う理由の汗を流しながら、小竜姫は聞き返す。

「いえ、とくに理由など無いのですが、これから横島さんたちにお茶を持って行こうと思いまして、
その前に小竜姫さまにお伝えに来ただけです。
間違っていたら謝りますよ。」

「それには及びません。横島さんたちにお茶を持って行ってあげてください。」

「はい、では失礼します。」

ジークが居なくなったのを確認すると、小竜姫は湯船に戻ってため息をつく。

「・・なんだ・・つまらない。」



一歩その頃パピリオの部屋では、一人の男が泣いていた。

「うぉ〜せっかく小竜姫さまがお風呂入ってるんじゃ〜〜
行かせてくれ〜、絶対俺を待ち焦がれているんだ〜」

「そんなわけ無いでしょ。
私たちの時にはまったく反応しないくせに、この差はなによ!」

拘束着を着せられた横島が、部屋の中央でミノムシ状態で転がっていた。
タマモがその横島を踏みつけて動きを封じているのだが、諦めようとしないで必死にもがいている。
ちなみに二人はいまだに、パピリオが作った服を着ている。
着ている間は悪戯をされないので、こっちのほうがまだましと思っているのだろう。

「そういえば前に一緒に入りましたが、意外と着やせするタイプで、胸かなり大きかったでちゅよ。」

ベッドに座ったパピリオが横島を挑発する言葉を言ってくる。

「肌もとっても白かったでござるな。拙者は日焼けがひどいのでちょっと羨ましかったでござるよ。」

パピリオの横でしみじみとシロが言うと、拘束着からいつの間にか抜け出した横島が、
ドアに向かってダッシュを始めた。

「タマモすまん、俺は旅にでる、けっして探さないでくれ。」

三人は焦るが、横島のほうが早くあっという間にドアの前まで行ってしまう。
だがドアのノブに手が届くと言う所で、ドアのほうから横島へと向かってきた。

ドカッ!

顔面からドアにぶつかった横島は、そのまま重力に負けて下にずり落ちた。
中途半端に開いたドアから、ジークが顔を出す。

「あ、すみません、先ほどからノックしても反応が無いので、
勝手に入ってしまったんですがまずかったですか?」

「ジ、ジーク・・き、きさま・・」

バタン

横島撃沈

横島以外はジークが来た事に喜んだのは言うまでも無い。

そうして一日目の夜が過ぎていった。












夢を見る。

ずっと昔の夢。

まだ小さかった頃の夢。

覚えているのは暖かい手。

とっても澄んでいた綺麗な声。

抱き締められた時にした良い匂い。

そして大好きだった貴方のやさしさ。

会いたくても、もうどこにも居ない人。

誰からも忘れ去られ、今は名前すら存在しないあの人。

想いだけがずっと胸の中でくすぶり続ける、聞けなかった問いと共に。

「姉さま・・」

ガバッ

掛け布団を勢いよく跳ね上げて起き上がると、そっと手を顔にあててみる。
そこでやっと自分は泣いているのだと気がついた。
急いで涙を拭くと、先ほどの夢を思い出してみる。
最近急に見るようになった夢だ。
今まで見たことなんて無かったのに、なぜ今頃になって見るようになったのだろう。
古い記憶・・・それは忘れなければいけない事のはずなのに、自分はずっと覚えている。

「はあ、駄目ですね。こんな事では。」

気分を入れ替えるために、台所に飲み物を飲みに行く事にした。
寝間着の上に軽く羽織って外に出る。
部屋を出るときに時間を確認したが、だいぶ遅い時間なのでもう誰も起きてないだろう。

少し歩くと台所に着く、だがドアの隙間から光が漏れているのを見て、
不思議に思いちょっとだけ警戒をする。

誰か居るのだろうか?

足音を立てないようにそっと近づくと、中から話し声が聞こえた。

「横島さんもどうですか?
自分で手に入れたものなんですが、なかなかいけますよ。」

「よせよ、一応まだ未成年だぞ、酒はいらんよ。」

横島さんたちだ。
安心するとドアを開けて声を掛けようと、ノブを握った。

「それより、小竜姫さまがなんだって?」

え? 私?

開けようとしていた手がぴたりと止まってしまった。
そこで一瞬悩む、なんで私はドアを開けないのだろう。
中に入って二人に声を掛けるのは当然なのに、それなのに今はピクリとも動けない。

「ええ、まあちょっとご相談があるのですが、その前にちょっと無駄話しませんか?」

ドアの隙間から中の様子が見えるのだが、ジークが椅子に座って横島を反対側に座るように促している。

「無駄話ってなんだよ。」

横島もジークに言われる通りに座ると、ジークが用意したと思われるティーカップに口をつける。
小竜姫は一歩も動けないままそれを見ていた。

「横島さん、神族と魔族どっちが数的に多いと思いますか?」

「数?」

ジークの質問に、横島は意味が一瞬分からずに聞き返した。

「ええ、人口って意味です、神族と魔族の。」

「そうだな〜、想像はつかないけど神族かな。」

横島がちょっと考える様子を見せた後に答えた。

ちがう・・

「いや、圧倒的に魔族のほうが数は多いのですよ。」

「そうなのか?
圧倒的ってのは意外だな。」

さすがの横島もちょっと驚いているようだ。
そう、全体的な数で言ったら魔族のほうがだんぜん多いのだ。

「ええ、神族は魔族に比べたら半分以下なんですよ。」

「半分以下かよ。」

「そこで次の質問です。では神族と魔族の武闘派と呼ばれる、
戦闘をもっとも得意とする種族の数は、どっちが多いと思いますか?」

横島はまた考え出した、だがいくらなんでも外れないだろうと思って答える。

「それだけ数が違えば魔族のほうが多いんじゃないか。」

ちがう・・

「いえ、それも違うのです。神族の方が魔族より多いのですよ。」

さすがにこれも外すとは思っていなかった横島は、今度は逆にジークに質問をする。

「え、だって魔族のほうが圧倒的に数多いんだろ?」

「ええ、多いですよ、ですがその大半は戦闘向きではないんです。
それとは逆に、神族はほぼ全種族が戦闘を得意とする者たちです。
ヒャクメさんみたない人の方が、数はずっと少ないんですよ。」

たしかにヒャクメのような種族は、圧倒的に数は少ない。
その中でもヒャクメは恵まれているほうだ、神族の中には戦闘が出来ないと言うだけで、
相手を馬鹿にする者も居る。

「まあ、ここからが本題なんですが、そんな神族の中でも斉天大聖老師と弟子の小竜姫さまは、
名の通ったお方なんです。私が魔族の軍に居た事から知っているぐらいに。」

「へ〜そんなに有名だったのか、美人としてか?」

まったく、横島さんは相変わらず自分のペースを崩そうとはしない。
ちょっと呆れてしまう、だがそれが横島さんの強さでもあるのだろう。

ジークもとくに気にした様子は無い。

「いえ、その強さと融通の利かない頑固頭さでです。」

「頑固頭ってお前・・・」

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
なんですって!

「横島さん、魔族の本質が闘争と殺戮にあるように、神族の本質は法と秩序にあるんです。
自らにさまざまな禁を作って、それをどこまでも頑なに守っていたのが、小竜姫さまなんですよ。」

「ああ、なるほど、それで頑固頭ね。」

確かにそうだったかもしれないが、融通の利かない頑固頭と呼ばれていたとは、さすがにショックである。
まあ、思い出せば思い出すたびに、忘れたい思い出が少しはあるが・・・

「だから、最初妙神山に留学として来た時には、どれだけ居心地が悪いのかと思い悩みましたよ。」

「まあ、そうだろうな。」

馬鹿な不良が進学校に入ってしまった時の心境だろうかと、横島は想像してみる。
居心地は死ぬほど悪そうだ。

「ですが私が最初にあった時、聞いていた話と全然違うので驚きました。
私がミスをしてしまった時に、まあばれなきゃ良いんですよって言って助けてくれたんです。
心臓が止まるかと思いましたよ。」

その前に自分が妙神山破壊したミス隠してしまったから、多少は寛大になってしまったが・・・
そこまで驚かなくても良いと思う・・そんなに噂は酷かったのかしら。

「へ〜小竜姫さまがそんな事を・・」

横島も思うところがあるのだろう、ちょっと苦笑いになっている。

「まあ、横島さんたちに会って、小竜姫さまが変わった理由はすぐ分かりましたけどね。」

「俺たちに会って?」

「ええ、小竜姫さまを変えたのはきっとこの人たちだって思いました。
そして小竜姫さまは今もどんどん変わっておられます。
神族としてはどうか知りませんが、きっといい方へ変わっていると信じています。」

変わる、そう自分は変わっているのかもしれない。
昔は悩む事なんて無かった。
絶対なる規則の中、それにそって動いていれば良いだけだったから。
上の者から言われた事を、ただ守って実行するだけでよかったから。
自分でなにをしたいとか、なにがほしいなんて考えてはいけなかった。
考えた事も無かった。

だから、今私が思っている、悩んでいる事は変わってしまったせいかもしれない。
それが今は苦しい・・

「ですが、横島さん忘れないでください。」

横島は何も言わすにジークを見つめる。

「どんなに変わっても、小竜姫さまは神族なんです・・法と秩序に縛られている存在です。
それがきっと小竜姫さまを苦しめる。
だから、その時には小竜姫さまを助けてあげてください。
魔族の自分には出来ない事を、人間の横島さんならきっとできるから、
それが神をも恐れる事の無い、人間が起こせる奇跡の一つです。」

「ジーク・・・・・・・お前・・」

一瞬横島は考えるそぶりを見せるが、すぐジークの目を見る。
たまにしか見せない本気の顔をした横島だ。

小竜姫も一瞬ドキッとしてしまう顔だった。

「お前・・・喋りすぎだ。」

「え?」

真面目に話してた分、ジークは椅子から落ちそうになるがなんとか耐えた。
小竜姫もドアから中へとダイブしてしまいそうになるのを耐える。

「いいかジーク、俺が小竜姫さまを助けるのなんてあたりまえなんだ。
いつかあの体を好き勝手にいじくり回すために、日ごろの努力は惜しまんのだ。
だから、お前は心配するな。小竜姫さまが苦しむと言うなら、俺が力いっぱい助けていい格好を見せるんだ。
俺に惚れるぐらいにな。だからお前は俺より目立つな。」

ジークは突然笑い出すと、グラスに溜めていたウイスキーを一気に飲み干した。
そして真面目な顔を横島へと向ける。

「相変わらず、横島さんらしいですね。
小竜姫さまだけじゃなく姉上も変えたその力、きっと僕も変わっていくのでしょうね。」

「難しい話は嫌いだよ。俺は布団に戻って小竜姫さまの夢でも見るぞ。」

横島が出口に向かって歩き出した。
つまり小竜姫の方へと・・

!?

小竜姫は焦る、見つかるわけにはいかない。
足音を立てないようにしかし全速で、今までの修行の成果をすべて出して逃げ出した。

部屋に戻って自分の布団に落ち着くと、先ほどの事を考える。

自分は他の人にも心配をかけているみたいだ。
ちょっと前から自分が変になってしまったのは気がついていた。
昔は悩んだり考え込んだりする事なんて無かったのに・・・

明日、横島さんと話してみようと思う。
すべてを打ち明けるわけにはいかないけど、話せばきっと今よりも楽になれると思うから。

だからすべては明日へ・・



続く


あとがき
今回もうちょっと書いてから載せようと思ったのですが、
丁度きりがいいので、その4として載せます。

今回は小竜姫さま視点ですが、みなさんが思うような小竜姫が書けたかは
まあちょっと不安です。

面白いと思って下されば幸いです。

ではまた次であいましょ

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