ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(2‐1)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 3/21)

「おおおおおーーッ!」
土煙が立つ。
火縄銃が火を噴く。
槍を構えた屈強の兵士達が,水飛沫を上げ,河へと突進していく。
「わああああっ!」
弘治二年,美濃国守護職・斎藤義龍が,二人の弟を惨殺し,実父・道三を追討した。
長良川の戦いである。


清洲城。
「兄上が……!?」
この城の主・織田三郎信長の正室,濃姫は,驚愕に眼を振るわせた。
「は……」
侍女の女華が持ってきたその知らせは,濃姫にとって,正に驚天動地の出来事であった。
兄が,父を逐ったと言うのである。
「そ,それで,それで父上は如何なされたのですか!」
それでも気丈に,濃姫は情報を引き出す。
「……お逃れになり,義龍様と戦われる為の兵を集めて御座いますが,兵共は大半が義龍様の方に付きました故……」
「ああっ……!」
“美濃から来た姫”と言う意味で濃姫と呼ばれている彼女の本名は,斎藤帰蝶。斎藤道三の娘にして,義龍の異母妹である。
何と言う事か。
濃姫は,父の死を覚悟した。


「ちっ!お前と組む事になるたぁな!」
「仕方無いだろ?殿のご命令だ」
「分かってるよ!」
織田信長に仕える小身の兵士,日野秀吉と木下藤吉郎は,美濃の斎藤道三の元へと直走っていた。
無論,信長の使いである。
軽装とは言え重い甲冑に身を包み,慣れない馬を飛ばし,疲労も溜まってきている。
「でも,正気かよ,殿は」
秀吉が,苦々しげに言う。
「何がだよ?」
藤吉郎が,青い顔を引き締め,聞き返す。
「馬鹿。俺等を道三の所に行かせるって事ぁ,殿は道三に味方するって事だろ?」
「まあ……そうだな」
「義龍は末盛城の信行を唆してるってな,専らの噂だ。東に今川義元,西に斎藤義龍。更に信行に背かれちゃ,流石の殿も……」
「それでも」
「あ?」
「それでも,殿は道三様に付くよ。殿と道三様は“親友”だから」
「何だよ,そりゃ」
「殿は,そう言う方だ」
「……ちっ」
舌打ち。そんな態度を取ってはいるが,秀吉とて信長を信頼していない訳ではない。しかし,だからこそ,より良い道を進んで欲しいのだ。
そして,藤吉郎が敬愛する主を自分より良く分かっている事にむかついた。
秀吉も,信長に心酔しているのだ。
「なあ……秀吉?」
そんな秀吉を見て,藤吉郎が声を掛ける。
「んだよ?」
「一つ,提案が有るんだけど」
「提案?何だよ」
「……俺達で,一つのチームにならないか?」
「はあ?」
「お前は……,確かに俺に持ってないものを持ってる。だけど,それだけじゃ駄目だ」
「……」
「逆に俺は,お前にないものを持ってると思う。だから……」
「俺等が組めば,理想的なチームになる……ってか?」
「うん……」
「……」
「俺は……別にお前の事,嫌いじゃないし。元々,双子みたいなもんだってヒカゲも言ってたろ?」
「……」
「嫌か?」
「……考えとくよ」
「……。ああ……」
兎に角,今は一刻も早く道三の陣へ。


「無茶です!信長様っ!」
「五月蠅い!」
「義龍殿の軍は一万七千五百,道三殿は二千七百ですぞ!?我等が道三殿に付いたとて,到底勝ては……」
「五月蠅いと言っている!」
「……!」
筆頭家老・林 通勝の制止も虚しく響く。
「誰ぞ!湯漬けを持てッ!」
信長は,持ってこられた湯漬けを掻き込むと,甲冑を着け,子飼いの軍団と共に馬を飛ばした。
「蝮ッ!死ぬなーーッ!」
信長の叫びは,蹄と甲冑の音にも負けず,満天の星空に響いた。


斎藤道三の本陣。
秀吉と藤吉郎は,馬を飛ばして,開戦間際の陣に辿り着き,道三と謁見していた。
「……お前は……確か,婿殿の所の……」
「ど,道三様!信長様の使いで参りました!今,殿が……」
転げる様に馬から下りた二人は,道三の前に跪いた。
息子に対し明らかな負け戦の陣でも,“美濃の蝮”はその威厳を失っていなかった。
その顔には,浮かんでいて然るべき屈辱の色は見えない。
「丁度良い」
「え?」
「婿殿に伝えてくれ」
「は……」
「美濃一国は信長に譲る……!それが儂の遺言だ!」
ゴォッ!
その時,一筋の火矢が天幕を灼いた。
燃え盛る炎を背に,斎藤道三利政の最後の戦いが始まろうとしていた。


それから二日後,一代の梟雄・斎藤道三は,首を斬られ,鼻を削ぎ落とされると言う無惨な最期を遂げた。享年,六十三歳。その首は,抱えると転んでしまう程に重かったと言う。
父の首を見て「身より出せる罪也」と言い放った斎藤義龍が病に斃れた後,その子・龍興が織田信長の前に敗れ,斎藤家が滅亡するのは,それより十年後の事である。




そしてこれは,そんな世界から少しずれた時空のお話。











時は,金曜日に戻る。



藤吉郎が,新幹線に乗って八丈村を目指しているその頃。
「臭ーい!何,これぇ」
「潮の臭いだろ?」
「え?」
「海が近いからな」
織田除霊事務所の所属ゴーストスイーパーである,豊臣秀長とその妻・ユミは,上司である異父兄・秀吉の命を受け,千葉県の海岸に来ていた。
「おーっ!これが“海”かぁーっ」
目の前に広がる水平線には,大きな陽が,紅く光りながら沈もうとしている。
「何だよ,大袈裟だな,ユミ」
「だって,私,“海”なんて見るの初めてだもん」
「え,そうなのか?」
「何を言ってんのよ!私はナルニア生まれのナルニア育ちよ?ジャングルだったら飽きる程見てるけど,“海”なんて初めてよ」
「ふ〜ん」
ユミは,秀長が親の仕事の都合で数週間前迄暮らしていた,南方の小国『ナルニア』の先住部族の娘である。
秀長達は其処で,地価が安いと言う理由で彼等の村に住居を構えていたが,彼等には“男女問わず,十五歳になったら所帯を持たなければならない”と言う『掟』が有った。
それは,赴任中でしかない豊臣家にも容赦なく適用され,秀長は十五歳になった時,ユミを娶る事となったのである。
妻の事は決して嫌いではないが,十代前半迄日本で育った秀長には,彼女の感覚は付いていけない所もあった。
「て言うか……こっちじゃ未だ結婚許される歳でもないんだよなあ,俺……」
「何か言った?」
「いや,別に……」
「何よ。私が女房じゃ不満?」
「いや,別にそう言う訳じゃ……」
「じゃ,如何言う訳なのよ。折角,お義兄様が気を遣って,斯うやってデートをセッティングしてくれたのに,そんな面白く無さそうな顔してさ」
「いや……デートじゃなくて,仕事だろ」
「何言ってんのよ!折角“海”に来たってのに」
「あのな……。て,でも,頑張らなきゃな」
「そうよ。手早く終わらせて,残り時間たっぷり遊びましょう」
「うん。兄者が俺を信頼して仕事を任せてくれたんだから,その期待に何としても応えなきゃ!」
「……あのさあ」
「何?」
「いや……確かにお義兄様は素敵な方だと思うけど,矢っ張り秀長,ブラコンだと思うわ」
「そう?」
「そうよ。向こうで事有る毎にお義兄様の事を話してたのは,離れてて淋しいからだと思ってたけど,秀長,一寸懐き過ぎよ」
「良いじゃん」
「良いけど……。一寸焼き餅妬いちゃう訳よ」
「別に,ユミは兄者と仲悪い訳じゃないだろ?」
「そうね……。自分で言うのもなんだけど,寧ろ仲は良好かと」
「なら良いだろ?」
「え?うん,そう……かな?」
「ほら,んな事より,さっさとホテル行こうぜ。仕事が有るんだから」
「う,うん」
兎に角,先ずは仕事である。二人は,海岸にそびえ立つ大きな白いホテルへと向かった。



その夜。
「さてと……」
某リゾートホテルの一室。
大きなダブルベッドに腰掛けた秀長が,手に持った資料の束を捲る。
「依頼人は,このホテルの支配人。依頼は,此処の所,この辺りに出没する妖怪か何かの退治……と」
内容を復唱して確認する。
「目撃証言は,はっきりしたものが無くて当てにならないけど……,怪我人が出たって言うんだから,本当に居るんだろうな」
敬愛する兄から,初めて全責任を任された仕事だ。何としても成功させなければ。
秀長は,燃えていた。
「けど,逆に死人が出てないなら大した妖魔じゃないって事か……。こりゃ,楽に済みそうかも」
と言って,油断は出来ないが。この職業,仕事中の油断はそのまま死に繋がる。
「……ふう」
溜息をつき,天井に目を向ける。
「大丈夫だ……。落ち着いてやれば……」
急いては事をし損じる。
常に冷静でいる事が,依頼を完遂する唯一最良の手段だ。
「ふーっ……」
大きく息を吐き,後ろに倒れ込む。柔らかいベッドの,清潔なシーツが心地良い。
兎に角,仕事は明日だ。今日はゆっくり休んで,明日に備えよう。
と,そんな事を思っていると,バスルームのドアが開く音がした。
「ん〜っ,矢っ張りこの“しゃわー”やら“ゆにっとばす”やらって,使いにくいわぁ」
暫くして,妻のユミが洗面所から出てきた。
……全裸で。
「……おーい,ユミ」
「何?」
「服,着ろよ……」
「何で?ナルニアじゃ,風呂上がりはみんなこうじゃない」
「此処は日本だよ……」
「別に良いじゃないの。この部屋には秀長しかいないんだし」
「そう言う問題かよ……。良いか?親しき仲にも礼儀ありっつってな……」
「そ・れ・にぃ〜」
「え?」
「どうせ直ぐに脱ぐんだから,関係無いでしょ?」
「ちょっ……」
「ねえ?」
そう言って,ユミは全裸のまま,秀長に覆い被さってきた。
「いやっ……一寸,待てって!」
「何を?」
「明日は仕事なんだぞ?しかもミスしてもフォローしてくれる人も居ないんだ。だから,今日はゆっくり休んで体力や霊力を蓄えてだな……」
「そ〜ぉ?そんな事言ってる割に,秀長の“此処”はもう,臨戦態勢みたいだけど?」
「う……いや,これはその……」
「ふふ……」
ユミが艶めかしく微笑った。
薄く濡れた浅黒い肌が,妖艶に光る。
「あ……っ」

夜は,未だ未だこれからだ。



翌朝。
「えええ!一寸待って,本番はカットなの!?」
「そりゃそうだろ……」
「何でぇー!?納得いかないわぁーっ!」
「其処迄いったら投稿出来ないからだろ?」
「そんなぁ〜……」
「泣く事ないだろ……」
でも,そんなユミが一寸可愛いとか思ってしまっている秀長は,もう,戦わずして負けてしまっているのかも知れない。
……。
閑話休題。
さて,兎に角も翌朝である。
「と,言う訳で。朝食も採ったし,早速仕事に行こう」
「そうね。で,体力は大丈夫?」
「だ,大丈夫だよ……」
「ふふふっ」
「この女は……」
上司であり兄であり師匠でもある藤吉郎は,昨晩,雨姫蛇秀家と相部屋で,民宿素泊まりよりしょぼい様な超ど田舎の宿屋に泊まっていたと言うに,結構なご身分である。
まあ,勿論,自分の所にキツイのが来る様,藤吉郎が図った結果なのだが。
斯ういう所の気配りは,流石と言った所か。
「霊力は満タンよね!」
「未だ言うか」
「あははっ」



「ねー,秀長。何でこんな所で“儀式”すんの?」
「恥ずかしいから」
「何が」
「色々だよ!」
と言う訳で,二人はホテル側からプライベートプールを借りて,“儀式”を行う事にした。これは,ナルニアに古くから伝わる呪術で,これから行うのは妖魔を探知する為のものだ。
プールの床には怪しげな魔法陣が描かれ,その周囲には様々な呪具や,神々への供物が置かれていた。
二人の格好は,GS資格試験の時に見せた半裸――“呪術師”の衣装である。顔には,色鮮やかなペイントがなされている。
「あー,そうか。愛する妻の美肌を他の男に見せたくないって言うのね!」
「……まあ,それもある」
「でも,分かんないなー。あの,“海”の近くじゃ,男も女も白昼堂々布切れ一枚で表歩いてたじゃない」
「あれは水着だろ!?海岸だからなんだよ,あれは」
「え〜……?」
「いや,何故とか聞かれても答えに窮するけど……」
「???」
ユミは納得していない様だが,何故水着は恥ずかしくないのかなんて,秀長にも分からない。答えようの無い質問だ。
「それに,こんなでかい魔法陣,広げる場所なんて無いだろ?」
「うーん,まあ,それは確かにね。日本は何処も其処もせせこましくて」
「文句有るなら,ナルニアに帰れよ……」
「何よ,私が邪魔?」
「誰もそんな事言って……って,あー!仕事中なんだってば。そんな事言ってる場合じゃないっての」
「そうね。仲良く夫婦喧嘩してる場合じゃないわね」
「折角兄者が俺に任せてくれたんだから,絶対に失敗する訳にはいかないんだ。気合い入れていくぞー!」
「……。いや,良いけどさ」
「よし,んじゃ,さっさとやろうか」
「うん」
そう返事をすると同時に,ユミは生け贄の兎の首を笑顔で掻き切った。
辺りに鮮血が飛び交う。
「うぇ……」
未だ,少し慣れない。
“儀式”の後始末が楽だ。
これが,秀長がプールをこの場に選んだ最大の理由の一つだった(最大が二つも三つもあってはいけないとか言わない)。
「ほら,始めましょ?」
「あ,ああ……」
そして,何より。


「ボエェェェエ〜」
ドカ!バキ!
ドオオオオ……
「ウンタラカンタラウンタラカンタラ……」
「キエェエェエッ!」

この“儀式”は,恥ずかしい。



そして,二人は海岸近くの松林へと移動した。
「さっきの“儀式”に拠れば,このあたりに強い妖気反応が有った筈なんだけど……」
「何処かしらね」
世の中には,妖怪や悪霊の隠れている位置を示す,『見鬼くん』と言う便利な商品が有るのだが,長くナルニアで修行していた二人には,そう言うハイテクアイテムは一寸信用出来なかった。
代々霊能者の家系のGS等に良くある,“デジタルは信用出来ない。アナログが一番”と言う奴である。
実際問題,霊能とは,現代科学では定義の難しい,精神世界の力である。最後に頼れるのは自分の勘だ。
「でも,何で着替えるのよ。どうせこの後,“精霊”使うんでしょ?」
「あんな格好で表を歩けるかッ!」
「精霊が呼び掛けてくれないよ?」
「そう言う問題じゃない……」
秀長は,ナルニアに伝わる魔法使いの一種,“精霊使い”だ。
ナルニアの民が信仰する,自然の中に棲む数々の精霊達と心を交わし,それ等の力を借りる事に因って様々な“奇跡”を起こす。
因みに,ユニフォームがペイントに羽根飾りと腰巻き(女は胸も)だけなのは,勿論ナルニアが熱帯と言う事もあるが,ユミ曰く,『男の精霊はせくすぃーな女が好きで,女の精霊は逞しい男が好きだから』だそうだ。
と,そんな話をしていた時。
二人の眼は,松の木々を渡る,鳥と言うには明らかに大きい影を捉えた。
「いたッ!」
ヒュオッ……!
秀長の右手に,風が舞った。
「風在る処に神在り!神在る処に力在り!」
ゴオォォッ!
そして,忽ち風は旋風となる。
「風の精霊よ,暫し我に力を貸さん。我が祈りに応じ,我が敵を滅ぼさん!」
ドォン!
巨大な風の渦が,秀長の右腕から“影”に向かって放たれた。
が……
「外した!?」
秀長は,使える精霊のバリエーションにおいては,ナルニアでも他に類を見ない術者である。他の国から来たと言うのが,逆に良かったのかも知れない。
しかしその分,破壊力には劣るのだが,技のコントロールには自信が有った。相手が少し位速くても,この距離では外さないと思っていた。
だから,外したと分かった時,其処に隙が出来てしまった。
「だから言ったのよ,霊衣を着ろって!」
「裸に腰巻きで表,歩けるかっての!て,それより,今の奴,如何した!?」
「あ,そう言えば……!」
「!」
振り向いた秀長は,妻の後ろに“影”を見た。
「ユミ,後ろッ!」
「え?」
秀長が叫んだ時には,既に遅し。
ガブゥ!
「きゃ……!?」
ユミは,頸動脈を“影”に噛み付かれてしまった。
「ユミぃーーーーっ!?」
「あ,あれ?何ともない……」
「何ともないの!?」
妖怪に噛まれたのに何ともないらしい。
拍子抜けした秀長は,思わずズっ転けてしまった。
「うん,大丈夫みたい」
「なーんだ,驚いて損した」
「でも,心配してくれて,嬉しかったよ」
「何を大袈裟な」
「って,私を無視して,イチャ付くなあっ!」
ユミを襲った影が,突っ込みを入れてきた。
「おっと,そうだった。俺等,あんたを退治する様に依頼されたんだった」
「ほう……?ゴーストスイーパーと言う奴か。しかし,お前如きにこの,最も古く最も強力な吸血鬼(の一鬼),ミツツナ=ド=ブラドーが倒せるかな?」
「吸血鬼?それが何で日本に……」
「ま,まあ,色々有ってな。それより,知っているな?吸血鬼に噛まれた者が如何なるか……」
「……!吸血鬼になる……!?」
秀長の顔が青ざめた。
「え……?何これ……,身体が勝手に……!?」
ユミの身体が痙攣している。
「ふふふ。吸血鬼に噛まれた者は,自らも吸血鬼となり,ボス――詰まり私の僕となる。君の運動神経は,今や私の手の内さ」
「な……っ!?ちょっ,秀長ぁ!」
「ユミっ……!」
ユミが,秀長に向かってファイティングポーズを取った。否,取らされた。
バサァ!
ミツツナが,誇らしげにマントを広げる。
「ははははは!恋人の手で殺されるが良い,ゴーストスイーパー!」

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