ザ・グレート・展開予測ショー

nightmare


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 3/20)

俺はお前のことで後悔だけはしたくない。

そう思って生きてきた。

だけど・・・いつからだろう? 後悔しないように生きているのでは

なく、後悔した事を見ないように生きている事に気づいたのは。




お前が俺の夢に出るようになってからだろうな・・・



















nightmare written by SooMighty














あの壮絶な戦いの日々から3ヶ月が過ぎようとした。
シロとタマモが事務所の一員となり、よりいっそう騒がしい日々が
戻ってきた。



俺もみんなとバカやりながら楽しく過ごしている。






そう・・・楽しく過ごしているんだ。






なのに何故心の中の悲しみは消せないのだろう?

何故毎晩お前と出会わなければいけないのだろう?





例え自分らしく生きていくとはいえ、自分に嘘をつくのは
精神が磨り減る。
確かに今の生活は騒がしいながらも安らげる。
それでもこの悲しみを忘れることはできなかった。

むしろ安らぐ度にあいつの事を思い出してしまう。
この心の傷口はどんどん悪化する一方だ。








この痛みを忘れたり消すことができたら俺は楽になれるのだろうか?
もう悪夢にうなされることはないんだろうか?
そんな事を既に数え切れないほど頭に浮かべている。


実際に文殊を使って、あいつの事を・・・いやゴーストスイーパー
としての記憶を全部忘れようとした。
この街を離れてまた普通の高校生に戻り、普通の恋愛をして
普通の社会人になって、普通に生を終える。


昔はそんな生き方が嫌だったが、今ではそれも悪くないと思う
自分がいる。


でもいつも文殊を発動する寸前で止めてしまう。
それだけはどうしてもできないのだ。



その行為はあいつを侮辱する事になるから。
ましてやあいつの思い出に負けたくなかった。

俺は強い人間じゃあないけど、せめて強がるぐらいの事はしたい。
弱虫な俺の為に命を張ってくれたあいつの為にも。

周りの人に心配かけたくないなんていう綺麗事を吐くつもりなんかない。
俺自身の為にやっているだけだ。

・・・本当に自分の為になっているかはわからないけど、
そうでも思わないとやっていけない。
だからどんなに辛くても、情けない作り笑顔でも俺は笑って生きていく。



毎回そう思いながら、心の中では踏ん切りをつけたつもりでも
次の日には同じ事を考えてしまう。


そしてまた夜が明けてゆく。
そんな事をここ最近はずっと繰り返している。


「もう遅いから寝るとするか・・・」
そんなことを呟いて眠りについた。
















結局、今日もまたお決まりの夢を見た。


真っ白な何も無い空間に俺とあいつしかいない。
俺がいつも見る夢の場所は決まってそんな所だ。



心の中では何回も振り切ったはずなのに、やっぱりお前は
俺の夢の中に出てくるんだな。


そしてあいつは口を動かしている。
だけど声は聞こえないのだ。

何を俺に訴えかけているのだろうか?
あの永い別れの時にお前は・・・それとも俺は何かを
伝え忘れたのだろうか?


俺が喉が張り裂けるぐらいに大声を出してもあいつには届いてないようだ。
お互いにだた口をパクパク動かすだけ。




話すことすら許されず、何もわからないままで終わる。




償うことすらできないってのか・・・


辛いな・・・






何でもいいからお前と会話がしたい!

お前のぬくもり触れたい!
























・・・そんな想いも空しく、目が覚めてしまった。
この願いは1回も叶えられた事はなかった。




今の時間は午前6時・・・また目覚ましの時計よりも速く
目覚めてしまった。
むしろそれが当たり前になってきた。


正直相当俺は参っていた。
悲しみを乗り越えて、前向きに生きていけるほど強くは無い。
かといって過去を振り返って思い出に逃げることもできない。

俺にできることといえば、周りになけなしの強がりを投げる
ことぐらいだ。

一体どうすればいいのだろうか?

俺は何を夢見ればいい?
俺は何処を目指せばいい?



自分の進むべき場所もわからず、ただこのまま立ち尽くす
ことしかできないのだろうか?


教えてくれよ・・・ルシオラ
俺はどうすればいいんだ?


世間知らずだった昔の俺は・・・今よりバカだったけど
それでもこんなに弱くはなかった。
少なくとも自分で自分の心を壊すような事はしなかった。

後悔だけはしない生き方をしたかった。
たとえ何が起きても。



でも不意にそんなに器用に生きていける人間はいるのか?
と思うことがある。
そんな生き方をしているのは・・・ルシオラしか知らない。

あいつは何も手にすることができなくて、それでも最後は笑って、そして
涙も見せずに「ありがとう」と別れを告げた。

そんなあいつが世界中で誰よりも強い奴に見えた。





「やっぱりお前にもう1度逢いたいよ。」
そうこれが俺の何よりの願いだ。
弱虫の俺が強くなれる唯一の想いだ。




あいつには伝えきれない言葉が多くありすぎた。
だからあんな夢を見るのだ。


1度だけでもいいから話がしたかった。




本当に出逢えて、また別れの時が来たらきっと俺は後悔するだろう。
でも、出逢えないで1人で苦しんでいても後悔するだろう。





そう、結局はどっちにしろ後悔してしまうのだ。
だったら逢って話をする方を選ぶ。
この想いが前向きか後ろ向きかなんてことはどうでもいい。


今はお前に逢って、俺の生きる道を教えて欲しい。
それだけだ。



でもどうやったらちゃんとした形で逢える?
悪夢としてのあいつじゃなくて、ルシオラとしてのあいつに逢わなければ
意味がない。














悪夢といえば・・・そういえばナイトメアとかいう夢を媒体にしている悪魔
と戦ったな。
あんな感じで、自分の意志で夢に飛び込むことができたらいいのではないだろうか?
そうすれば、おそらくはちゃんと会話もできるはずだ。


文殊は「悪夢」でいいだろう。
それで間違いなくあの夢に行けるはずだ。

今日は丁度仕事もオフだ。
すぐに実行する事にした。








しかし自分で自分の夢に飛び込むのも変な感触だ。
だがあいつに逢うためだったらそんな事は気にしてはいられない。








文殊の「悪」と「夢」を自分に発動させた。

急激な眠気に襲われ、すぐに眠りについた。


























・・・目を覚ますと深い海の底にいるような感じだった。
息ができない!? と一瞬焦ったが、その心配は不用みたいだ。




自分の夢の中、悪夢と思っていた場所は思っていたよりも
居心地は悪くなかった。特別良いというわけでもないけど。

何も無く異様に寒いって事ぐらいが特徴か。



「もっとゲチャゲチャのグチョグチョなのを想像していたんだがな。」


本当の人間の悪夢なんてのは案外こんなもんなのかもな・・・
しかし本当に寒いな。
速くあいつを探しに行くか。






海を泳ぐ感覚で進んでいく。

・・・美神さんの夢の形とは大分違うな。
もしかしたら夢ってのは精神状態が色濃く形を成すものなのかもしれない。

そんな馬鹿げた考えが浮かんだ。
自分の今の心境と、この場所が余りに酷似していたから。




どこに行けばあいつに逢えるのかはなんとなくわかっていた。
俺がよく見る夢では少なくとも海の中にはあいつは居なかった。
つまり上の方を目指していけば陸に上がることができる。




何よりもわかりやすく上のほうは光が差しているのだ。
そこをとりあえず目指しておけば間違いはなさそうだ。




目指した場所は割りと遠くなかった。
そこは陸というにはあまりにも無機質だった。

異様に殺風景で曇った空と岩しかなかった。
海の中と同じく凍えそうな寒さは相変わらずだが。

こんな暗い世界にも夕焼けはあるのだろうか?
ふとそんな疑問が頭を掠めた。
気にはなるが、今はとりあえずあいつに逢うのが最優先だ。







間違いない・・・




この近くにルシオラは居る。
根拠は無いがなぜかそんな確信を持っていた。



道は一本道の様だな。
脇道は崖になっていて進めそうも無い。


寒さに震えながら、それでも前に進んでいくと扉があった。
今までの道にはどこにも扉は無かったのに・・・

そう言えば美神さんの夢にはたくさんの扉があったな。
確か過去の出来事を記憶している部屋につながるんだっけ?

だとしたらなおさらこの部屋にあいつはいる。
あの悪夢はルシオラしか記憶しているものがないからな。












いよいよあいつに逢える。
そう思うと期待と不安で心臓の音が急に耳に響いてきた。

ここまできて引き返すわけもいかない。
思い切ってノブに手をかけて扉を開けた。















思っていたとおり・・・
扉の先には悪夢と同じ何も無い真っ白な空間が広がっていた。
またさっきまでの寒さが嘘のように消えていた。







そして、当然の様にあいつはそこに居た。





「ルシオラ・・・やっと逢えたな。」

「ヨコシマ・・・」





今度は思惑通りに声も聞こえた。





言いたいことは山ほどあったが、何よりまずルシオラを抱きしめたかった。
ルシオラのぬくもりに触れたかった。



あいつの小さな肩を抱き寄せた。

「ヨコシマ・・・お前。」

「ルシオラ今は何も言わないでくれ。」

「・・・わかったわ。」





しばらく俺とルシオラは抱き合っていた。













どれくらいの時間そうしていただろうか。
やがて俺はルシオラを離した。



「ごめんな。ルシオラ。
 後悔するとわかっていながらお前に逢いに来ちゃったよ。
 情けない奴と思うかもしれないけど、自分の目指すべき
 道がわかんなくなっちまったんだ。」

「そっか・・・そうなんだ。」
ルシオラは笑いながら聞いていた。

「あの戦いの事で後悔だけはしないと決めてたのに、お前が俺の夢に出てきてからは
 ちっぽけな強がりだってことに気づいちゃったよ。
 後悔している事を見ないようにしていただけなんだな。」

「・・・私はそれでもいいと思うわ。誰だってそうよ。
 人は過ちを繰り返して生きていく罪深い生き物
 なんだから。それを認めるのも勇気がいることだし。
 私だって同じよ。」

「でもお前はあの時笑って涙も見せないで去っていたじゃないか。
 死んだお前がそんなに強いのに、生きている俺はこんなんだよ。
 それが本当に情けなくて、自分が許せなくなるんだ。」

「・・・私が本当に心から笑って別れを言えたと思う?
 涙は溢れそうだったし、未練はたくさんあったし、多くの事を後悔したりもしたわ。
 アシュ様が私と世界をどっちか選べって言ってたわよね?
 あの時こそ世界を選べって言ったけど本当は私を選んで欲しいと
 思っていた・・・世界を選んだらもうお前とは一緒に共に歩くことは
 できないってわかってたから。」

「・・・」
ルシオラもそうだったのか・・・
そうだよな。一番悔しいのは死んでしまったルシオラだよな。
どっちも大切なものを手放したの変わらないんだな。
死んだ方も、残された方も。

俺が考え事をしている最中もルシオラは話していた。

「何が正しいのかなんてわからない。
 それがわかってたら誰も過ちを犯したりなんかしない。
 でも、過ちを犯して後悔したり悪夢に苛まれるからこそ人は強くなれたり
 大切なものを作れたりするんだと思う。」

「はは・・・やっぱお前はいい女だよ。」
本当にそう思う。

「いやーね。照れるじゃない。」
顔を赤くしてそう言った。


「確かに私達は決して幸せとは言えないし、悲恋って形で
 終わっちゃったけど、でもやっぱり私はこの時代に生まれて
 よかったって思ってるわ。
 だって、ヨコシマと出逢えたんだから。」

「俺はどうなんだろうな・・・お前と出逢えたのは本当に嬉しい
 けど、それでもその事を後悔しちゃう事もあるんだよ。
 弱いから。お前が居ない世界には悲しい思い出が多すぎるから。」

「それでもいいわ。
 弱くても情けなくてもいいから、ただがんばって生きて。
 それだけでいいから。どうしても辛い時は泣いて眠ることよ。」

「涙はあれ以来流してないんだ。なんか泣けなくなってな。
 泣いちゃうと思い出に負けたことなりそうで。」

「お前らしいわね。精一杯強がって前を向こうと頑張って生きる。
 本当は弱虫だけど、それでも頑張って生きる。本当にお前らしいわね・・・
 でもどうしても寂しい時には泣いてもいいのよ。泣くと気持ちいいわよ。」

その言葉を聞いた瞬間、俺は目頭が熱くなった。

「はは、そうだよな。泣くと気分が晴れる。そんな事すら
 忘れてたよ。バカみたいだな俺って・・・」

「そんなバカで不器用だからこそ私は惚れたのよ。」

「・・・ありがとうルシオラ。まだまだ心の傷口は滲んでいるけど、
 それでも俺は・・・俺らしく生きていくよ。
 また後悔してしまうかもしれないけど。」

「それでこそヨコシマよ。大丈夫よ。
 辛くても悲しくてもそれでもヨコシマなら大丈夫。
 私が保証するわ。」

「そうか、それなら俺でもがんばれそうだよ。・・・んっ?
 なんか目の前が揺れてる?」

周りの景色が歪み始めた。

「どうやら文殊の時間が切れそうみたいね。
 寂しいけど・・・今度こそ本当のお別れね、ヨコシマ。」

「そうみたいだな・・・」

「ヨコシマ、がんばってね。」

「ああ頑張るけど、やっぱりこの別れの時がくると
 わかってても後悔しちまうな。」

「・・・私も同じ気持ちだから。でも私は私らしく
 笑ってお別れをいいたいのよ。」

「そうだな。それでこそ俺の惚れたルシオラだよ。」

「ふふ、ありがとうヨコシマ。また逢えて、話ができて
 とても嬉しかったわ。」

「それは俺のセリフだよ。」

景色がさっきより速く揺れ始めた。
もう残り時間も少ない。


























どうしても言っておきたいことがあった。
あの時、言えなかった言葉を。







「ルシオラ・・・前の別れの時には言えなかったけど
 どうしても言いたかった事があるんだ。」

「何?ヨコシマ。」

「ありがとう。そいで・・・また逢おうな!」

「・・・フフ、何かと思ったら結構ありきたりな言葉なのね。」

「いいだろ別に。俺の頭じゃあこれが精一杯だよ。」

「でも、また逢えるといいわね。今度はお前がパパになっている時
 に逢いたいわね。」

「そうだな。・・・じゃあな。」
凄い悲しかったが、せめてこの時ぐらいは強いあいつのように
笑って別れを言いたい。

だから無理にでも笑顔をあいつに向けた。

そしてあいつも笑っていた。

「ヨコシマ、私もあの時はお礼を言ってなかったわね・・・ありがとう。」


その言葉を最後に悪夢は光に溢れた。


























目が覚めると、そこは俺の部屋だった。

これでもうあの悪夢を見ることはないだろう。
そう思うとなぜか胸が痛んだ。




やっぱり後悔してしまったな・・・
悪夢の終わり、それはもう本当にしばらくはルシオラに会えない
って事だから。


ひとつの傷口が消えた。
でも弱い俺は傷口がなくなってしまうと
また新たな傷口を作ってしまうのだ。

そう結局傷が無いと・・・縋るものが無いと俺は生きていけない
ようなバカなんだ。
時々は傷口の痛みを知らないふりをして見えない様にして
しまうこともあるけど。




そんな俺でも・・・










「ルシオラ、まだお前と作った悲しみは消せそうもないよ。
 それでも本当にお前と出逢えてよかった。
 これだけは確かな自信と強さをもっていえる。」






そんな俺でも、ようやく目指すべき場所が、わかってきた気がする。






「お前がいない世界はやっぱり悲しくて、これからも後悔の連続なのかも
 しれない。それでも俺は憧れたお前のように、強がりでも
 笑って生きていくよ。」


「それで、この悪夢の事を、娘として生まれてきたお前に
 笑って話せる様にがんばって生きていくよ。」




 

生きていく過ちを呟きながら、それでも大地を踏みしめて歩いていきたい。
傷口を忘れないようにしながら。

















そしていつかは眩しい光が差す場所へ・・・





END




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