ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(1‐4)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 3/20)

「うおぉぉお!」
バシィ!
長政の拳は,しかし成政の結界に阻まれた。
「なっ……何すんだよ!?」
成政は上擦った声で長政に抗議する。
「決まってんだろ?言ってたじゃねぇか。生きて此処を出たければ,殺し合いをして生き延びろってよ」
「ちょっ……!本気かよ!?」
「ああ……。こんな所で死ぬなんて,俺の予定には無いんでね」
ニヤリ,と長政が口を歪ませる。
それは,正に魔装――悪魔の如き酷薄な笑みだった。
「くっ……!」
「くくく」
拳を結界に当てたまま,長政が軽く笑う。
「つか,お前,さっきは其奴と戦うみたいな事言って……!」
成政が見当外れな反論をする。
「ああ,そうさ。だから,それに余計な茶々入れられちゃ堪んねーからな。後顧の憂いは,先に断っちまった方が良いだろ?」
「ちょ……」
成政も,事の深刻さが漸く分かってきた。
自分は戦わなくてはならない。
目の前の相手を殺さなければ,自分が殺される。
「……っ!」
それは,霊能力が有るとは言え,割と普通の家庭に育った成政にとって,初めて経験するシュチュエーションだった。
ましてや,その“相手”とは,妖魔ならぬ同じ人間様である。
恐慌状態に陥る成政だったが,その一方,心の何処かでは,はるだけでも護らねばと言う使命感も感じていた。
ビシビシビシ……!
「!」
耳障りな音で,成政は気付いた。結界に罅が入っている事に。
長政の拳から霊力を注ぎ込まれ続けた霊気の壁は,そのキャパシティを超え,最早役を為さなくなってきていた。
「ちいっ!」
これ以上,無理に結界を維持させても意味は無い。
そう判断した成政は,結界に霊力を送り込むのを止め,後ろに跳んだ。
パリーン!
支えを失った結界が呆気無く割れた瞬間,成政は次の結界を張っていた。
先程,驚きと共に張った様な簡易性のものではなく,ちゃんとした手順を(簡略にだが)踏んだ,それなりに強力なものである。
抑も,若手としては名だたる結界師たる成政だ。結界作りにおいては,誰にも負けないとの自負が有る。
誰にもと言うのは,勿論,誇張だが。
「へっ……!」
割れた結界に封じられていた霊力が四散していく向こうで,長政が不気味な笑みを浮かべているのが見えた。
「成政……」
結界を張っている成政のすぐ後ろから,はるの不安げな声が聞こえてきた。
「……心配すんな。お前の事は,俺が絶対に護ってやるから……!」
力強い声で成政が言った。
もしかしたら,自分達はこの地に骨を埋める事になるかも知れない。
いや,今の状況ではその公算が高いだろう。
それは,死ぬかも知れない極限状態において,成政が無意識の内に発した,遠回しな,精一杯の告白の言葉だった。
のかも知れない。
それは勿論,はるにも分かった様で,そんな場合でもないだろうに顔を紅く染め,心底嬉しそうに――或いは安心した様な笑顔で頷いた。
「うん……!」
ジャラッ!
そして,ブレスレットにぶら下がっているキーホルダーを手に取ると,それに霊力を込めた。
バシュウ!
一瞬にして,余りにも綺麗な霊波弓が顕れる。
「分かった。攻撃は僕に任せて!」
ズビシュッ!
それから放たれた霊波の矢は,無数に分裂し,長政を襲った。
「ちいっ!」
パン!
長政は,魔装術の防御を高くし,何とか矢を打ち落とした。
「ラブシーンかと思えば不意打ちかよ……!やってくれるじゃねえか」
長政が毒付く。それ程迄に,見事に意表を突いた攻撃だった。
今さっき,しおらしく護られて頬を染めていた奴が,そのままの流れで攻撃してくるなんて思いもよらない。
「えー,不意打ちも何もこれが僕等の戦闘スタイルだもん」
笑顔とも真顔とも取れる表情で飄々と語るはるに,先程の奇襲(と言って良いだろう)が確信犯なのか天然だったのか,長政は読み取れなかった。
「へっ……,成程,鉄壁の防御と正確な射撃か。確かに無敵かも知んねえな?」
長政がステップを踏む。
来る……!
成政は身構えた。
「優秀な前衛が居たならなあっ!」
ザァッ!
長政が横に跳ぶ。
「しまっ……!」
成政は己の不備を責めた。
幾ら強力な結界でも,無限の広さに張るのは不可能だし,術者から離れれば離れる程,その効力は弱まる。こんな平地戦で採るべき方法ではないのだ,本当は。
無論それは,はるの霊波弓にも言える事なのだが。飛び道具は,接近戦ではハンデにしかならない。明らかに接近戦――近接戦闘で使うべき武器ではない。特に,霊波砲なら兎も角,撃つのに大きなモーションを必要とする霊波弓では。
詰まり,二人は端っからハンデを背負わされていたのだ。
それは勿論,二人も感じていたが。序でに,長政の魔装術は接近戦において,最も効力を発揮する事も。
分かってはいたが,だからと言って如何しようもない。
「糞……!」
要するに,今,成政が張っている結界――この場合は霊波の壁――は,横方向縦方向に成政から離れれば離れる程に薄くなっているのだ。
薄くなっていると言う事は,簡単に破れると言う事だ。
「拙い……」
如何する?
このまま戦闘に持ち込まれれば,二対一でも必ず勝てると言う保証は無い。寧ろ,相手に呑まれてしまっているこの状態では,負ける目算の方が高いか。
ならば,如何する。
長政が力尽くで結界を破る前に,逃げ出すか?
何処かに立て籠もるなりなんなりすれば,一気に形勢逆転だ。
……いや。
駄目だ。あの男が居る。
成政は藤吉郎に視線を移した。
奴もただ者じゃない。奴にそんな隙を見せれば,恐らくやられてしまうだろう。
敵に背を向けるのは勿論の事,逃亡などと言う,後ろ向きな行為の最中なら尚更だ。
じゃあ,如何する?
如何す……
パリーン!
其処迄考えた時,成政は結界の破れる音を聞いた。



藤吉郎達の居る位置から,どれだけ離れたか……。
幾ら進んでも目に入る風景は変わらない。
乱撃の音だけを連れて走っていく。
バシィ!ビシィ!
「くっ……!」
「把あっ!」
バシィ!
何合目かの打ち合いの後,秀家と政宗は組み合った姿勢のまま固まった。
お互いの力が均衡しあって,先に進めないでいるのだ。
「ぉぉぉぉお……!」
「あぁぁっ!」
バシィ!
結局,両者同じタイミングで後方へ跳び,間合いを取った。どちらも誘わなかったし,誘いに乗りもしなかった。
「はあ,はあ,はあ……」
「ぜえ,ぜえ,ぜえ……」
両人とも,肩で息をしている。
「……はあ」
「ふう……」
ドサッ……
そして,どちらからともなく,腰を下ろした。
「はあ〜,腕上げたな,秀家」
「な〜に言ってんの。政宗にーちゃん,“水”使わなかったくせに」
「ははは」
軽く笑った後,政宗は辺りを見回して言った。
「大分遠く迄来たみたいだな」
「だね……。これならもう大丈夫かな?」
「さあ,大丈夫かは分からないけど,どの道,やらん訳にはいくまいだろ」
「うん……」
「さてと……。んじゃ,善は急げだ」
そう言って,政宗は立ち上がった。
「て,政宗にーちゃん,何か分かるの?」
慌てて秀家も立ち上がる。
「斯ういうのは,霧の濃い所に何か有るって相場が決まってんだよ」
「霧の濃い所?そんなん,分かるの」
「あのなあ……,俺を誰だと思ってるんだよ?」
「誰って,政宗にーちゃんでしょ?」
「応よ。『水王』(ウォーター・キング)雫手政宗様だぜ!」
「……そう言えばそうだったね」
「水の臭いの来い所を探せば,其処がビンゴって訳だな」
どんな難解なパズルにも,解き方は有るのだ。そして,多くの場合,楽に早く解ける方法も。
「そーいや,“四聖獣”の人達って,義久じーちゃんと元親にーちゃんは死んじゃったし,氏康ねーちゃんは刑務所だから,シャバに居て,直ぐ会えるのって政宗にーちゃんしかいないんだよね」
秀家が,遠い目をして呟いた。
淋しげな表情で。
「そーだな……」
政宗も,ぶっきらぼうに目を伏せる。
「ま,んな事を今,言ってたって仕方ねーや。行くぜ,秀家」
「うん!」



パリーン!
結界の割れる音を聞いて,成政は叫んだ。
「走れ!はるッ!」
同時に,自らも走り出す。
こうなれば方法は一つ。
目の前の男を薙ぎ倒し,そのままの勢いで遠く迄走り抜ける!
「おおぉぉお!」
倒す事自体が目的じゃない。一撃だけでも当てられれば……。
成政は,霊力を込めた拳で藤吉郎を狙った。
「ぉあっ!」
ビッ!
成政の拳が,藤吉郎に放たれた。
「――!?」
が,次の瞬間,成政の身体は宙を舞っていた。
ドスン!
「ぐぅっ!」
一瞬遅れて,成政は地面に叩き付けられた。
「成政,大丈夫!?」
はるが,倒れた成政を抱えて後方に跳び,藤吉郎や,戻ってきた長政から間合いを取った。
「くっそ……!」
「受け流されて空転させられた……,柔術?」
「いや,モンゴル相撲」
「何,それ!?」
藤吉郎の今の動きは,モンゴル相撲だったらしい。
成政やはるの知る所ではないが,“此処に来る前”の,『もんごる』での数年の遊牧生活の中で手慰みに覚えたものだった。モンゴル男児たる者,馬にも乗れず相撲も取れずでは如何しようもない。別に藤吉郎はモンゴル男児ではないが,郷に入れば郷に従うのは当然だし,貧弱な自分にコンプレクスを持ってもいたので,自然,習い覚える事となったのだった。
「けっ,漸く動いたかよ?」
戻ってきた長政が,藤吉郎に向かって問い掛けた。
「……此処で二人が逃げたら,俺が漁夫の利を得られなくなっちゃうからね」
「はん……」
剣呑な会話が普通に聞こえるのは,殺し合いの最中だからだろうか。
「お前も協力してくれたら如何だ?」
「別に俺は長政と戦いたい訳じゃないもん。斯ういう時は,彼等を殺し終わって疲れてる長政を楽に討つってのが定石でしょ?長政がバ……いや,頭が余り回らなくて良かったぁ」
「お前,それ,言ってる事,変わらねえよ」
「そう?」
て言うか,ばらしちゃ意味無いだろ。と,突っ込みを入れる余裕も成政とはるには無かった。
「じゃあ,その馬鹿な俺が此処で採るべき行動は唯一つだな?」
そう言って,長政は再び二人の方を見た。
「さっさと此奴等を殺して,なるだけ力を消耗しない状態でお前と戦えるよう,図るべきだ!」
「なっ……!」
バシン!
次の瞬間には,長政の拳は成政の結界にめり込んでいた。
「糞……とっさに結界張ったけど,これじゃあ……っ!」
「へ……!」
死中に活を求め,動いた。
しかし,成政とはるに取って,状況は何ら好転していない。
寧ろ,確実に悪くなったのだった。



「……此処だ」
政宗は,相変わらず何処へ行っても変わらぬ風景の,とある一角を指した。
「此処……?」
言われて秀家が目を凝らすと,成程,其処だけ非常に濃い霧が掛かっていて,良く見なければ,一見して其処にも周りと同じ茅葺き屋根の家が建っている事などは分からなかった。
「ホントだ。それに,言われてみれば此処だけ結界の質が違う様な感じが……」
秀家は今,猫又モード――獣人となっている。結界とは,元々は邪なるモノ――即ち妖怪や邪霊の類から身を守る為のものなので,猫又となっている秀家には,本能で結界への恐怖が感じられた。彼はそれを利用して,一歩進めて結界の解析に活用したのであった。
勿論,本能的な恐怖は消えないが,同時に彼の中には猫又よりも人間の血の方が濃く流れている。その微妙なバランスと,そして勿論,本人の努力によって,秀家は獣人の鋭敏な感覚をより効果的に使う事に成功したのである。
「っしゃ,んじゃ,先ずはこの鬱陶しい霧を晴らすのから始めようか」
そう言って,政宗が集中する。
ィィィィィ……
霊力が空気と反発しあって弾ける音だけが,不意に静寂に包まれたこの空間に小さく響いていた。
「――っはあ!」
バシュウゥゥ……!
政宗が気合いを発した次の瞬間には,目の前の余りにも濃過ぎる霧は,蒸発する様な音と共に,嘘の様に薄くなっていた。
「うっわ……,凄……」
秀家が感嘆の声を上げる。それには,多分に恐怖の感情も混じっていた。人間の身で,これ程迄の“力”を示す政宗に。
しかし,単純に霊力が高ければ,強い“力”を操れると言う訳ではない。勿論政宗は,悪魔との契約で図らずも手に入れる事となったこの“力”。『雫手』を超えたこの力を使いこなす為に,相応の努力をしてきた。
“練習で出来ぬものが本番で出来る訳がない”。
霊力とか霊能力とかは,基本的に精神の力である。自らの命に危険が迫った時,生きたいと言う強い気持ちで上がる事もあるから,この格言は必ずしも当て嵌まらないが,だからと言って訓練を怠るべきではない。
「……でかいな」
政宗が呟いた。
その言葉通り,今迄一際濃い霧に包まれていたその建物は,周りの他の建物に比べ,一回りも二回りも大きかった。
「へっ,いかにも何か有りそうな感じだな?行くぜ,秀家!」
「うん!」
バサッ
二人は,玄関を潜って正面からその建物の中に入った。
「ビンゴーーーーーっ!」
ドンピシャリ。
其処には,何やら怪しげな道具や方陣が置いてあった。
それが,この亜空間(と考えて,もう間違いないだろう)の心臓部をなす呪術装置であると言う事は,余りそう言う方向の知識に明るくない二人にも推測出来た。
「にしても古いね……。何百年前のだろう」
それを見て,秀家がしみじみと言った。
「さあな。でも,何百年も前からこの(か如何か知らないが)山には神隠し伝説が有ったって言うからな」
「そっか……」
頷いて,秀家は何気無く振り返った。
そして,“それ”を見付けた。
「……ねえねえ,政宗にーちゃん」
「何だよ?」
「これ……何かな?」
「これ?」
秀家の視線を追い,政宗も“それ”を見付けた。
「……何だろうな?」
「結界の操作に使うのかな。空間の歪みを山の何処に作るとか?」
「さあな。んなもん,今,俺達が考えた所で如何しようもねえよ。それより,早く向こうと連絡取れよ」
「あっ,そうか」
秀家は,慌てて何かを取り出した。
もしもの為にと藤吉郎が預けておいた文珠である。
「よっし,これで……」
そう言って,秀家は文珠に念を込めた。
刻まれた文字は,

『通』




「!」
長政と成政・はるの戦いを眺めていた藤吉郎は,不意に霊力の軋みを感じた。
所謂“虫の知らせ”にも似ている感覚だが,恐らくは違うだろう。
「……」
無言で,掌の中に文珠を作る。
それには,既に文字が刻まれていた。『受』の文字が。
「……」
頭を掻くふりをして,それを口に入れ,飲み込む。
頭の中に,秀家の声が響いた。

――にーちゃん!?見付けたよ,早く来て!――

そして,“其処”迄の地図が頭の中に鮮やかに描かれた。
「……!」
藤吉郎は,身を翻して其処に向かって走り出した。
「あっ!あんにゃろ,逃げる気か!?そうはいくか!」
長政も後を追って走り出す。
……と,足を止めて成政達の方を振り返った。
「何やってんだよ!お前等も来いッ!」
「はあ?」
呆れた顔で成政は返した。
彼にしてみれば,殺し合いでも何でも勝手にしてくれよと言う気分だったろう。
「良いから来いッ!」
「!」
が,長政の余りの剣幕に,成政もはるも思わず従ってしまった。
今の一喝には,有無を言わさない迫力が有った。恐怖でと言うより,兎に角従った方が良い,従うべきだと思わせる何かが有った。



秀家と政宗の見付けた結界の心臓部に,藤吉郎達四人も,無事到着した。
「で,これなんだけど……」
秀家がその呪術装置を指し示す。
「おう,如何にかなりそうか,結界師さん」
「ん……。まあ,何とかなるかな。古くなって,もう本来の用途を為さなくなってるみたいだし」
長政に促され,成政がそれを操作し始めた。
「にしても,あの戦闘がお芝居だったなんてね〜……」
はるが,しみじみと言う。
「でも,こんなの,何時の間に示し合わせたの?」
『こんなの』とは,即ち藤吉郎と長政がその場で派手に戦って“敵”の気を引いている隙に,秀家と政宗が脱出方法を探すと言う手順だ。
「あ?んなん,アイコンタクトだよ」
長政が,事もなく言い切る。
「アイコンタクトぉ!?」
「て言うか……,あの状況だったら,普通そうするだろ」
「そ,そうだよねっ!やれと言われたからって殺し合いとか,普通有り得ないよねっ!」
言いつつ,自分達の不甲斐なさに呆れると共に,一人前への道が未だ遙かに遠い事を実感せざるを得ないはるだった。
「ふん。本当に方法が無いとなったら,そうしたかも知れんがな?」
「ええ〜……?」
「で?如何よ,結界師さんよ。早くしねーと,あの変な神様に感づかれちまわあ」
「ああ……,待て,もう少しだ。斯ういう巨大なのは扱いが難しいんだよ。ましてやこれは,結界と言うより亜空間……っと,出来たぁ!」
「っしゃ,でかした!」
ヴン……!
六人の目の前に,空間の歪みが発生した。
“外”へ出る為の出口である。
「よっし,脱出だ!」
皆,先を争ってその中に入っていく。
「?如何したの,秀吉にーちゃん。早くしないと,閉まっちゃうよ……?」
他の四人が出ていったのを見て,自分も行こうとしていた秀家は,藤吉郎が,先程自分が見付けた“それ”に目を奪われ,固まっているのを見咎めた。
「え?あ,ああ……今,行く」
「如何したの。“それ”が如何かした?」
「い,いや,何でもないよ……。んじゃ,行くか」
「うん」

斯うして,六人は無事“幻の村”から脱出する事が出来たのだった。



神界。
「……十一面」
「もっ,申し訳御座いません!」
「全く……何とか出来なかったのですか?」
「いえ,それがその。あの結界の中は,亜空間とは言えかなり強固に護られていまして……,神界に居ながらにして出来る事と言えば,声を飛ばす事位で……」
「……とは言え彼等を捕らえた時は,貴方は結界の中で空間の歪みを作る位置等を操作していたのでしょう?そのまま其処に居れば良かったではないですか」
「も,申し訳御座いません。まさか,逃げられるとは……」
「要するに油断したのですね……」
「は,はい……。でっ,ですが!」
「何ですか?」
「知っての通り,人間共の結界技術は我々神族のそれを遙かに上回っております。あの強力な結界は,到底私の手に負えるものではなかったのです!しかも悪い事に,あのメンバーの中には結界師がいて……」
「言い訳になりません」
「はい……」
ふう,と溜息をついて,阿弥陀如来は立ち上がった。
「やれやれ,まんまとやられましたね。流石はあの豊国大明神の弟御と言うべきか……」
この場合,寧ろ,部下のミスと言った方が正しい。
「……私はあの男は嫌いです」
その馬鹿な部下が,吐き捨てた。
「あの様な薄汚い男が我々と同じ仏神とは……」
「これ,よしなさい。その様な事,口すべきではありません」
阿弥陀如来は,穏やかな微笑で部下を諫めた。
「は……」
「しかし,“あれ”を見られましたか……。予定外ですが……,寧ろ好都合かも知れませんね……」
阿弥陀如来は,相変わらずの微笑のままで,口元だけ酷薄に歪ませた。



八丈村,村長の家(宿屋)。
「結局,報告は何てすれば良いんだ?」
「大昔に誰かが作って打ち捨てられてた亜空間結界を,何処ぞの低級神かなんかが弄ってましたー,で良いんじゃないですか?」
無事,山を下りる事に成功した藤吉郎達は,ひとまず此処に宿を取った。
「そーだな,それ以上の事は分からないし」
「結局,神隠しの意味も分からずじまいでしたね。でも,あの“声”の主があの結界を作ったか維持してる本人とは考え辛いから,あの結界は打ち捨てられてたと考えると,もう,如何でも良い事なんでしょうね」
「だな……」
長政と政宗は,依頼人への報告書作りに精を出している。
「俺等もそれで良いかな」
「良いんじゃない?」
と,成政とはる。
写させて〜,って宿題じゃないんだから。
「!」
そんな中,ぼーっと窓の外を眺めている藤吉郎を見て,秀家が寄っていった。
「如何したの,にーちゃん。ぼけーっとしちゃってさ」
「うん……」
「生返事」
「うん……」
「もぉーっ」


「……」
藤吉郎は,先程“幻の村”で見たモノを思い出す。結界の心臓部を為す呪術装置の在った建物の中に,それと一緒に置いてあったモノ……。
いや,『置いてあった』と言うには,少々大きすぎる代物か。
間違いない,あれは……



“時渡りの銅鐸”だ……!

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