ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(1‐3)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 3/19)

「で,お前等が此処に来たのは何時だ?」
成政とはるの言い争いがひとまず止んだので,本格的にこれからの事を話し始める事にした長政達。
「ええと……水曜……だったかな?」
「……て事ぁ,俺等の時間認識と一致してんな。なら,この空間の中は現世と時間の流れの速さが違うとかって事はなさそうだ」
「それって,竜宮城みたいに?」
「ああ」
先ずは,不安の一つが払われた。勿論,此処から脱出出来ないのであれば,何の意味も為さないものだが。
兎も角,払われた。ならば,次にすべきは推測だ。
「んで,如何やってこっから出るか,だが……」
「何か良い案でもあんのかよ?」
と成政。
「そうだな……。お前等が本物だとしたら,これが俺の夢って事はないわな」
「て言うか……だったらもっと身近な人を出しそうなもんですしね……」
政宗が横から話に入る。
「ああ」
「で,ですよ。あの自称・民俗学者とか言う胡散臭い民俗学者に渡された資料に拠ると,過去のとある統計において,神隠しに遭った者の内,“幻の村”から生還出来たのは僅か六分の一!」
「――何だよ,その『とある統計』ってよ。伝説が有るって事は還ってこれた奴がいるって事だろうけどよ。統計って何だよ,誰が取ったんだ」
「資料にそう書いてあったじゃないすか,長政さん。俺に言われても困りますよ。知る訳ないじゃないすか」
「政宗……,お前,案外細かいよな。今のは『俺に言われても』だけで良かったぞ。ノリの悪い奴だな」
「放っといて下さい」
「ふん。まあ,兎に角,何とかこっから出る方法が有るってのは確実って訳だな」
「そっすね。この神隠し伝説は諸々の事情から考えて,只の口減らしとかとは考えにくいですし」
「ま,皆無ではないだろうがな」
長政と政宗のやり取りを聞いていたはるは,感嘆の溜息を吐いた。
「はあ〜,凄いな〜……」
「え,何が?」
長政が聞き返す。
「推測で其処迄分かっちゃうなんて」
「いや……,誰でも分かるだろ?この資料も,そんなに特殊なものじゃないみたいだし……」
「でも,僕等は分かんなかった」
「そりゃ,お前等がアホなんだろ」
長政は,余り歯に衣を着せると言う事をしない。するとすれば,恋人の父である織田信秀や,異母兄である織田信長位か。
「まあ,何時もは資料の整理なんて他の人に任せて,僕等は雑用だからねー。今回みたく,二人きりで仕事なんてのも滅多にないし。ねえ,成政」
「ん?ああ,そうだな……」
成政が不機嫌そうに言った。
彼にしてみれば,わざわざ恥を曝さずとも良いものを……,と言った所か。
「はっ!事務所付きは楽で良いな。まあ,尤も死に繋がりかねない“楽”だけどな」
「て言うか……,事務所に所属してるにしたって,資料に目ぇ通さないのは拙いんじゃ……」
同じ歳でも,経験値の差によってはこう迄違う。政宗の頬を再び冷や汗が伝った。
まあ,この場のやり取りだけで人格を決めつけてしまうのも危険だが,第一印象と言うのはなかなか拭い去れないものだ。
「ま,そう言う訳でだ」
「ん?」
「お前等の見解は如何よ」
長政は,この余り当てにならない運命共同体に,内心頭を抱えながら問うた。
「いや,だから何も分からんねーっつったろ?」
成政が鬱陶しそうに答えた。
「一寸は考えろよ……。三人寄ればっつったのお前だぜ?」
「るっせ!」
ジメジメしてると人間苛ついてくるものだが,それだけではないだろう。
と知ってか知らずか,はるが追い打ちをかける。
「だらしないなぁ〜,一寸は落ち着きなよ。全く,頼りになんないね,成政は。長政さんや政宗君とは大違い」
「んだと,手前ぇ!お前だって人の事言えねーだろーが!」
確信犯だ……。
長政は思った。
イチャつくのは構わないが,見せつけるのは止めてもらえないだろうか。
しかも,こんな時に。
「ん〜,だからって成政がだらしなくても良いって事はないよね?」
「くっ……!」
成政も,内心では悔しく思っているのだろう。はるを護れない自分を。
しかし,勿論そんな事を指摘されて嬉しい訳がない。ましてや,護るべきはる本人に。
はるはそれを承知でからかって楽しんでいるだけなのだろうが,それはこの状況で短慮に過ぎるのではあるまいか。
焦りは思考を奪い,ミスを招く。
この状況でのミス。それは,“死”である可能性が限りなく高い。
「おい,一寸落ち着けよ……」
「この男女!」
「結界張るしか能の無い臆病者よりはマシだよーだ!」
「てめ……っ!」
長政の呼び掛けは,しかし喧噪の中へと掻き消されてしまった。
「……。ったく,お熱いこって……」
あの二人の主導権は,完璧にはるが握っている。
一人称が『僕』だったりして男勝りと言うよりボーイフィッシュな彼女だが,恋愛においては,なかなか如何して強からしい。
ふと自分を省みてみた時,一寸笑えない長政であったが。
まあ兎も角,生きるか死ぬかの……と言うか,生きて帰れるか分からないこの状況で,お互いさえ居れば元気になれる,何時ものペースを取り戻せると言うのは,素晴らしい事だろう。
勿論,ケース次第ではあるが。



「此処は……」
藤吉郎と秀家は,見知らぬ村にいた。
茅葺き屋根の家々が立ち並び,周囲には薄く霧が立ちこめている。
そして何より,人の気配が全く無い。
だと言うのに,荒れ果てた形跡も無い。
其処は,全く不可思議,いや,不自然な空間だった。
「此処が,あの空間の歪みから通じてた所?」
「だろうな……。つーか,何だよ,此処」
「あ,さっきのユニコーンだ!」
眼前には,先程のユニコーンの姿が在った。
ユニコーンは,二人が自分に気付くと,それを待っていたかの様に馬首を翻し,ゆっくりと歩き始めた。
「何だ……,又た……付いて来いってのか……?」
「みたい……だね……」
「……」
「……」
数秒顔を見合わせた二人は,又たゆっくりとユニコーンの後を追い始めた。



その頃。
此処は,神と名の付く者達の棲まう場所。
――神界。
その,丁度俗界で言えば八丈山が在る位置で,一人の男が瞑想をしていた。
男は,整ってはいるが特に特徴の無い顔立ちをした,一見,何処にでも居る様な人間だった。
否,人間ではない。
彼に特徴があるとすれば一つ。

“神様”である,と言う事。

正確には,彼が今している事も瞑想ではない。
彼は今,精神を集中させる事によって,俗界と“通じて”いるのだ。


コツ……
「!」
大理石の床に響く足音を聞き,男は振り返った。
男の背後には,腰から大きな刀を下げた,螺髪の男が立っていた。
「こ,これはこれは……」
それを見て,男は跪いた。
「首尾は如何ですか,十一面」
螺髪の男は,柔和な笑顔を見せ,何とも言えない優しい声で男に話し掛けた。
「は……。計画通りに」
「そうですか。それは何より」
「……畏れ入ります」
頭を下げる男に,螺髪の男は慈愛に満ちた表情で笑いかけた。
「しかし,阿弥陀如来様が直々にお出でになるとは」
「ふふ。暇潰し,ですよ」
「そうですか」
男の名は十一面観音。
この螺髪の男――阿弥陀如来の直属の眷族たる,“六観音”の一柱である。
「では,私も見せてもらいますか」
「如何ぞ」
「……」
十一面観音の勧めるままに,阿弥陀如来は意識を俗界へと向かわせた。
お目当ては豊臣秀吉。
          ――いや,木下藤吉郎。
無力で愚かな,人間の一人に過ぎない男。
しかし,今の彼には重大な意味を持つ者。
「くす……」
阿弥陀如来が,薄く笑った。


「さあ。その力の程を見せてもらいましょうか,木下藤吉郎。予知……いえ,時間移動能力者よ……」



ザッ……
地面を蹴って,ユニコーンが跳び去った。
「あ,行っちゃう……」
秀家が,上を向いて泣きそうな声を上げる。
「いや――,大丈夫みたいだよ,秀家」
「え?」
「此処に,連れてきたかったみたいだ」
藤吉郎に促され,秀家が視線を前に戻すと,四人の男女が民家(?)の一つから出てくるのが見えた。
「政宗にーちゃん!?」
その内の一人は,嘗ての『魔流連』の“同士”の一人,伊達政宗だった。
「秀家じゃんか。如何した,お前達も迷い込んだのか?」
先方も此方に気付いたらしく,気さくに話し掛けてきた。
「いや,その……えっと,迷い込んだと言うか導かれたと言うか……」
「?」
「そ,そう言うにーちゃん達こそ,何でこんな所に居るの?」
秀家の質問は尤もである。
この四人も,あのユニコーンに導かれたのだろうか。
「いや,俺等は何つーか……」
「寝てる間にこの空間に移動してたんだ」
政宗の後ろにいた男が政宗の台詞を引き取った。
確か,藤吉郎の友人の浅井何とかと言う人物だ。政宗は今,彼の助手をしていると小耳に挟んだ事がある。
「……長政達も仕事?」
「あ,にーちゃん」
今迄後ろで黙っていた藤吉郎が,話に入ってきた。
「応。この“幻の村”の探索っつー依頼でよ。後ろの二人も,別口で同じ依頼を受けてたらしい。お前もか?」
「いんや?俺達は害獣退治」
「はあ?何だ,そりゃ」
「だから,さっきのユニコーンが麓の村の畑を荒らしてたらしいから,それを止めに来たの」
「……。ま,良いや。そんで,ユニコーンを追ってたらうっかりこん中に入っちまったと。そう言う訳だな?」
「いや,別にうっかりとかそう言うんじゃないんだけど……。まあ,一寸疲れててリサーチを怠ったのは認めるけど」
「?」
長政が首を捻った時,天空から,低く響く声が降りてきた。

――六人となった様じゃな――

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「で,結局何で此処にいんだよ」
「だからさー……」

――無視するでないッ!――

降り注ぐ声が,一際大きく響いた。
「空耳じゃなかったのか……」
「で,あんた,誰?」
藤吉郎は,主無き“声”に問うた。

――儂はじゅう……じゃない!儂は,この山の地神じゃ……――

「……」
「……」
「……」
「……」
嘘だ。
絶対,嘘だ。だって今,どもったもん。

――う,嘘ではない!儂はこの八丈山の守護神なんじゃ!――

狼狽える“声”。
本当に神様であったとしても,大した奴じゃなさそうだ。
威厳が無いイコール恐ろしくないでは勿論ないが。
しかし,この反応が小者っぽい。
「はいはい,そう言う事にしといてあげますよ」
「あんたが何者だろうと,俺等にゃ関係ねーかんな」

――……っ!――

人間如きに耐え難い賛辞の数々を浴びせられ,“声”は少し動揺した。
矢張り,小者臭い。
「まー,良いよ。あんたが,ユニコーンを使って俺と秀家を此処に呼んだ奴でしょ?一体,何の用?」
藤吉郎が,臆する事無く訊ねる。
「あ,序でにさー。あんたの飼ってるそのユニコーンが麓の村の畑を荒らして,みんな困ってるらしいんだよねー。止めさせてくんない?」
そして,抜け目無く要求を織り交ぜる。
敵が,神でも人間でも藤吉郎には関係無い。彼には,仏像の眉間に矢を打ち込んだ,あの豊国大明神と同じ血が流れているのだ。
藤吉郎にとって,“神”は唯一人。
殿こそ,神だ。
殿が亡いなら,俺が神だ。
            と迄は,未だ彼には言えなかったが。

――お前達,此処から出たいか……の?――

何で,切る?
て言うか,どもってる。
絶対どもってる。
「出たいも何も,あんたが俺等を此処に連れてきたんじゃないの?」
相変わらず,答えるのは藤吉郎だけである。
仮にも神を名乗り,こんな手の込んだ事をする奴と渡り合えるのは,この六人の中では藤吉郎だけだ。
しかし,こればかりは藤吉郎では如何しようもない。
「ああ,出たいね」
「長政?」
藤吉郎が,頭の上に疑問符を浮かべる。
「だからよ。俺等は意図してじゃなく,此処に迷い込んじまったんだよ」
長政が,藤吉郎の方に目をやって諭す。
「ふ〜ん……?」
藤吉郎と秀家は,未だ良く状況が分かっていないらしい。まあ,無理もないが。
それに,それは残りの四人……浅井長政,雫手政宗,佐々成政,村井はるも同様なのだが。
取り敢えず藤吉郎に推測出来るのは,長政達は例の神隠しに遭ったのではないかと言う事位だ。

――では,出してやろう。但し,この六人の中で一人だけだ!……じゃ!――

今,思いっ切し言い直した!
うっわ,だっさー!
て言うか,どもる位なら地で喋れば良いじゃん?
……冷や汗混じりの寸評である。
「つか……何で?」
何が“と言うか”なのか。まあ,それは兎も角,これは当然の疑問だろう。

――古くからの掟だからじゃ……。じゃが,まあ,そうじゃな。お主等はそれぞれ二人一組の様じゃな。では今回は特別に,二人セットで出してやろう――

「?何,如何言う事」
政宗が疑問を口にした。
他の五人も,“声”の言っている事が良く分からない。
“彼”がこの空間を作りだしている,若しくは維持しているのは確かだろうが。

――お前達で殺し合うのじゃ。迷い込んだ六人で殺し合い,最後迄残った一人が里へ帰れる。それが古くからのこの“幻の村”の掟じゃ――

「……えー,詰まり,生還率六分の一ってのは,そう言う事?」
政宗が首を捻る。
「んで,俺等に殺し合いをしろってか」
後を引き取ったのは長政。
藤吉郎や秀家は言うに及ばず,成政とはるも大して動揺はしていない様だった。まあ,頭が付いて行ってないだけかも知れないが。

――うむ。じゃが特別に,今回は残った二人にしてやろう――

「ケチ臭い事言わずに,みんな逃がしてくれれば良いのに」
藤吉郎が,ボソッと,しかし聞こえる様に呟いた。

――そう言う訳にはいかん。決まりだからな――

「て言うか,俺等はあんたに連れてこられたんでしょうが」

――う……――

「それ以前に,掟とか言って,抑もこの空間の存在意義は何よ?」

――……――

「……黙っちゃった」
「だせー……」
ひそひそ話も,声が大きくなる。
抑も神族は,人間に比べて力が大きい分,それに頼る故に知力に劣っている。人間達が数千年もの間,妖魔や荒らぶる神々から身を守ってこれたのは,偏に,人間に“知恵”が有ったからである。
それが,藤吉郎の弁舌に勝てる訳がない。
と言うか,此奴では他の誰にも勝てないだろう。粗を押し付ける程の威厳は,残念ながら彼には未だ備わっていなかった。
「で?あんたは結局,何をしたいの。山の神でないのは分かったけど……」

――……――

「……」

――……じゃ,頑張れ!――

「えええ!?」
逃げた……。
「――ち〜っ!結局,殺し合いして生き残らなきゃ,外には出られないって事か」
長政が頭を掻いた。
「……如何すんの?」
藤吉郎が訊ねる。
「そうだな……」
長政は,そう言って政宗に視線を飛ばした。
「……」
政宗が頷く。
「秀家」
「うん!」
同じく藤吉郎が秀家の名を呼び,秀家がそれに応えた。
「――!」
ビシィ!
その次の瞬間には,秀家の拳を政宗が受け止めていた。
「……!」
「受けられちゃったか。やるね,流石」
「あのな……俺に勝てるとでも思ってるのか?秀家」
「さあ……如何だろッ!?」
秀家が猫又へと変化していき……
バシュッ!
変化が終わるのと同時に,二人の姿がその場から消えた。
「へっ……!気ぃ利かせてくれたくれたらしいなあ,彼奴等」
長政が,不適な笑顔を見せる。
「如何だろ。恩人の死に様が,見たくなかったのかもよ?彼」
それに,藤吉郎は皮肉を以て返す。
「ふん……!」
「……」
バシュウ!
数瞬の睨み合いの後,長政は魔装術を装着した。
「ま,そろそろお前との決着をつけなきゃなんねえと思ってた所だ」
地面の感触を確かめる。
「好都合だぜッ!」
そして長政は,藤吉郎に向かい,地面を蹴った。



神界。
「……十一面」
「は,はい……」
「貴方と言う神は……」
阿弥陀如来が,呆れた顔を十一面観音に向ける。
「も,申し訳ありません!」
「……ま,良いでしょう。結果として,“彼”を戦いに向かわせる事が出来た様ですから」
「は,畏れ入ります。しかし……」
「何です?」
「これに,何の意味が有るのです?ユニコーンの畑荒らしの依頼が“彼”の元に行くようにし向けたり,彼の前にそれなりに力のある若い二組のGSを“幻の村”に捕らえたり……,我等が人間界で動くのにはかなり制約があります。それをこうして迄やらねばならぬ事とは,一体なんなのです?」
「“彼”の……力が見たいのですよ」
「力……?」
「そう。“彼”の,木下藤吉郎君の,本当の力を。相手の力量如何に関わらず,殺すか殺されるかの状況で示される,本気の姿をね」
「何故……,其処迄あの少年に……?」
「ふふ……」
「……!?」
十一面観音は,何時もの様に微笑した自分の主に,何か薄気味悪いものを感じ,身震いした。

「貴方は,未だ知らなくて良い事ですよ」

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