ザ・グレート・展開予測ショー

春のおキヌ


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 3/19)



春の訪れ・・・・・期待と不安に満ちた季節・・。


「横島さん・・・遅いなあ。」
氷室キヌ、18歳。この春から東大生です。


最近、東京に引越してきた私。そして安いアパートだけど念願の一人暮らし。
まだこっちの生活には慣れていないけど・・・今幸せだからいいかっ。


横島さんとは今年の冬に出会った。なんか・・・懐かしい感じのする人。
受験日の前日に観光していた私の案内してくれた。偶然の積み重なりの出会いだったと思う。

私が電車を乗り間違わなければ・・・、横島さんが電車を寝過ごさなければ・・・・二人は出会う事は無かった。ひょっとしたら運命で二人は繋がれていたのかも・・・。


今日は私がこっちに来た事を知って(私が連絡を取ったんだけど)来てくれる事になったのだ。
はっきり言って・・・ドキドキしている。あの日以来電話以外で話して無いから・・・。


部屋の隅々を確認する。・・・・・・チリ一つ残したつもりは無い。

冷蔵庫を開けてみる。・・・・・・材料も買ってある。

自分の姿を鏡で見る。・・・・・・髪型変じゃ無いよね。


さっきからこれの繰り返し。何度も見てるのに気になってしょうがない。

(あー、もう遅い!!待ちきれない!!)

その時・・・、チャイムが部屋の中に鳴り響いた。


だだだだだだだだだっ!!!!
全速力で玄関に向って行く!


「はーい!!お待ちしてました!!」
そして精一杯の笑顔でドアを開けた!


「横島さん遅い・・・・・って・・・え?」
おキヌは戸惑いを見せる。・・・・目の前に居たのは見知らぬ女性であった。

「おキヌちゃん・・・・・本物なのね。」
その女性は亜麻色の髪を腰辺りまで伸ばしている。・・・・綺麗な人。


(誰だろう・・・?なんか見覚えあるような・・・・。)


困っていると、その女性の後ろから男の人が顔を出した。おキヌが待っていた人だ。

「横島さん!!」
「久しぶり・・・おキヌちゃん。」

おキヌの顔に喜びが溢れる・・・・と同時に頭の中に不安がよぎった。


(この女の人は・・・まさか横島さんの・・・)
・・・・ジロジロと見てしまう。明らかに敵対心丸出しだ。


目の前では横島さんとその女性がヒソヒソと話している。


「駄目ですよ変な事言ったら・・・。もうこっちの世界には関わって無いんだから。」
「わかってるわよ・・・。」

(何話してるんだろ・・・。)


おキヌは暗い気持ちに包まれる。さっきまでのドキドキなどもう何処かに行ってしまった。


(私の一方的な思いだったのかな・・・・・。)


「あっ、おキヌちゃん紹介するよ。この人は俺の知り合いで美神令子さんって言うんだ。」
「よろしくね、おキヌちゃん。」
その女性は胸元の大きく開いた服を着ていた。


(・・・・・・負けてる。私とは比べ物にならない・・・・・・。)
自分の胸を見ながらそんな事を思う。


何か同じ土俵にすら上がれないような気がする。この人に勝てそうな所が見当たらない。


「こんにちわ・・・美神さん。・・・・とりあえず上がって下さい。」
気持ちのこもって無い挨拶をする。そしてドアを開け二人を招き入れた。







「ちょっと待ってて下さい。ざぶとんもう一個出しますから。」
二人分しか用意して無かった。押し入れを開けて予備の奴を引っ張り出す。

「綺麗な部屋じゃない。さすがにおキヌちゃんは綺麗好きね。」
「美神さん・・・・!」
横島さんがまた何か話してる・・・・。・・・気になる。


「あっ、とりあえず東大合格おめでとう!!」
「そ、そうね!凄いわおキヌちゃん!」
取り繕うかのような二人。・・・・・息がぴったりって感じ。

(・・・・・・・・・。)


「ありがとうございます。・・・・お茶入れて来ますね。」
感情を押し殺して返事する。

「えっ、いやそんな気を使わなくても・・。」
「そうよ、お構いなくー。」
明らかに愛想笑いに見える。余計に腹が立った。

・・・結局、無言でキッチン(て言うほどの物でも無いけど)に歩いて行く。


(嫌な女だな私・・・・・。自分で勘違いして・・自分で盛り上がって・・嫉妬してる。)


下の棚からお茶を引っ張り出すときゅうすに入れる。
ポットからお湯がコポコポと流れ、きゅうすの中に注ぎ込まれていく。

(短い間だったけど、恋の夢を見ることが出来たから良いじゃない・・・。)

扉の向こうでは、二人が仲良く話し合っているのだろう。良く見ればお似合いのカップルに見えた。


(・・・・・・・・気分を入れ替えなくちゃ!頑張れ私!)


まるで人生に疲れたOLのような事を考えるおキヌ。
そして湯のみを三つおぼんに載せると顔を軽く叩いた。

ぱちっ!

(これで嫌な私とはお別れ!二人はお祝いに来てくれたんだもの!)





部屋に戻ると机の上にお茶を出す。
そして最高の笑顔で二人に微笑んだ。

「どうぞ!このお茶美味しいんですよ、飲んで下さい!」

精一杯の空元気・・・・・・・・。





「・・・・へえー、お二人は仕事仲間なんですね。」

お茶を飲みながらの会話が弾む。
おキヌは会話を途切れさせないように必死に話題を振り、受け答えをしていた。

「美神さんて綺麗ですよね!私憧れちゃいます。」

出来れば何も考えたくない。お姉ちゃんとの日常会話で掴んだテクを最大限に生かす。

「私も大学で勉強して人の役に立つ仕事がしたいんです。」

失恋の悲しみを振り切るかのように・・・・・・。





そして・・・・・二時間程過ぎた頃。

「あっ、いけない。もうこんな時間じゃない。」

気が付けば日が傾き始めている。正直何を話していたのか覚えていない。
ただただ疲れたな・・・と言う感じがあった。

「私はそろそろ帰るわ。明日の仕事で用意する事があるのよ。」

・・・・・・・・・・えっ!!!!

「あっ、そうですか。俺は行く必要あります?」
「あんたなんか来てもどうせわかんないでしょうが。」
「・・・・それもそーですね。じゃあ俺はもう少し残ります」

(えっ、えっ、えっ!!?)

事態が急変する。まさかここにきて自分の望んだ展開になるなんて・・・・・。

「せっかくですからご飯も食べていかれたら・・・・。」

(あっ、しまった!つい・・・私の馬鹿!)

「んー、ちょっと無理なのよ。ゴメンねおキヌちゃん。」

(!!!!!!)



美神さんが部屋を出て行く。・・・その時横島さんに何かを耳打ちしていった。

「あんた・・・手出すんじゃないわよ!」
「わかってますよ!」





・・・・・部屋に残された二人。

(・・・どーしよう。いざ二人きりになると・・・何話せばいいんだろ・・。)

出会った頃のように振舞えばいい。そんな事はわかってるけど・・・。
・・・美神さんの顔がちらついて・・・。

(あの人には勝てない気がする・・・・。外見だけじゃない・・何か第六感的なものだけど・・。)

私のカンは外れた事は無い。友達からも結構頼りにされていた。


「・・・あっ、そうだご飯作りますね。」
今の間に耐えられず、私は自分から声を出した。

「あっ、ゴメン。なんか悪いなあ。」
どこか白々しい会話。


キッチンに再び向う。
横島さんの為にご飯を作るのは・・・・初めて・・・かな?あれっ?

頭の中に妙な記憶が混じった。

(・・・・なんだろ・・・、まあいいか。)




トントントントントン・・・・・・。

包丁の音が響き渡る。古き良き日本家庭の残り火。

好きな人の為に作る食事。・・・・少し複雑だけど。

「いいなあー。こーゆーの俺、憧れてたんだよー。」
横島さんの声が聞こえる。まるで夫婦みたいだ。


(でも・・・美神さんにいつも作ってもらってるんじゃないですか?)
なんて・・・・私自虐的だなあ、さっきから。


「・・・・・美神さんは作ってくれないんですか?」
結局言っちゃった。

「えっ、・・あの人とはそうゆう関係じゃないからなあ・・2、3度なら喰った事あるけど。」





・・・・・・・今何て言いました?
私は耳に入って来た言葉を再度確認する。

「あの人とはそうゆう関係じゃない」

(・・・・・・・・!!!!)


「横島さんて美神さんと付き合ってるんじゃないんですか!?」

私が包丁の手を止め、大声を張り上げる!!

突然の質問に虚を突かれたかのように横島はきょとんとした顔になった。

「・・・・俺と美神さんが・・・?何言ってんのおキヌちゃん。」


(!!!!!!!!!!!!)


おもわずどんな顔をしていいかわからなくなる。とにかく喜びらしきものが込み上げて来た。


「そうなんですか!へえー、私てっきり疑っちゃいました!」
包丁の動きがさっきより軽やかになった。リズミカルな音が部屋に響く。


「んー、昔よりは二人で一緒に居ることは多くなったけど・・・多分ありえないよ。」

「ふーん、お似合いの二人でしたけどねえー。」
言葉の端に余裕が見える。正に上機嫌と言う奴だ。





急に楽しくなった調理時間。美味しいものが出来ない筈が無い。
おキヌはテキパキと仕事をこなしてゆく。



ぐつぐつぐつぐつぐつぐつ・・・・・。



そして・・・・・目の前にはカレーと言われる食べ物が出来上がっている。
おたまで少し味見をしてみる。


ふーっ ふーっ。


(・・・・・・んっ!上出来!でも・・・・「最後に私の愛を一握り」・・・・・・なんちゃって。)
・・・・・見てられない。



「出来ましたよー。たくさん食べてくださいね!!」



・・・・・その後の食事は楽しいものとなった。会話も弾む。
足枷がとれた今のおキヌに敵などいない。


「横島さん、ここにカレー付いてますよ。」
「えっ、何処?」



「ここです。」


ちゅっ。


「・・・・・お、おキヌちゃん!!何を・・!!!」
「ほっぺに付いてたんです。」

にこっ!!

「・・・・・・・・・・。」



甘い空間。春の暖かさがこの部屋の中を包み込んでいた。


ひゅんっ・・・・・・外から桜の花が風と共に流れ込んでくる。


彼女の春はまだ始まったばかりだ。


おしまい。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa