ザ・グレート・展開予測ショー

それは、残酷すぎる我侭


投稿者名:humble
投稿日時:(04/ 3/18)

注、恐らくこの話は使い古されたネタだと思われます。ので、つまらなかったらすみません。(平にご容赦を)





・・・沈み行く太陽と青い空が混ざり合う中、男が一人立っていた。



「良い夕焼けだなぁ」



 感慨深げに呟く男の背後から切羽詰った声が聞こえる。



「アンタ今の自分の状況がわかってんの!? 直ぐに病院に戻りなさい!」



 振り返らずとも声の主が分かっているのだろう、顔を夕日に向けたまま男は語り掛ける。



「心配かけてスンマセン、でも、死ぬ場所くらい自分で決めたかったんですよ」



 横島の言葉に美神は顔色を変え、慌てて反論する。



「ふざけんじゃないわよ! アンタの生殺与奪の権利は私が握ってんだから、私の許可なく勝手に諦めるなんて認めない!!」



「自分の体ですからね、分かるんですよ、俺は直に死にます」



 ソレは突然の事だった。



 仕事の最中、横島が原因不明の高熱で倒れ、意識不明の侭三日が経ったとき、心霊治療を施す病院で検査を行なった。



 結果は、『霊基構造の崩壊による死病』であり、治療の可能性は皆無。



 純魔族の霊基構造を体内に保有していた横島は、常に爆弾を背負っているも同然だったのだ。



 今回、横島が倒れたことでその導火線に火がついたのだ、そして、ソレはあまりにも短かった。



 横島の余命が一週間と聞いた時、驚愕と絶望が関係者を襲った。



 おキヌは泣き続け、シロは一縷の希望を胸に天狗の元へ駆け、タマモは横島の側を離れ様としなくなった。



 美神は己の財力の限りを使って治療手段を探したが、霊基構造について人間が知り得る事など大した違いはなく徒労に終る。



 小竜姫やヒャクメ、ワルキューレは自分の霊基構造でなんとかできないかを考えたが、現在の横島にとって他者の霊基構造は毒にしかならないことも分かっていた。



 打つ手もなく、ただ無駄にすぎる時間を、拷問のような時の流れを実感しながら、関係者は足掻き続けた。



 しかし、当事者である横島自身は普段通りの軽い態度を変えず、逆に昔に戻ったかのように明るく振舞っていた。



 夜毎、その体を襲う発作の苦しみを表に現す事無く。



 大切なヒトと会えなくなる哀しみを出す事もせず。



 ただ、残された時間を大事に使う事を心に決めて、一週間を笑って過ごした。



 運命の日、病室から横島の姿が消えた。



 横島の霊気が不安定な所為で、ヒャクメの心眼でも場所の特定が出来ず、全員で捜し続けていたのだ。



 美神が横島を見つけた時、彼は鉄塔の上に立って夕日を眺めていた。



 その姿は彼に似合っていて、似合いすぎて、夕日が消えれば共に消えてしまいそうな、儚さを持っていた。



「認めない! 認めないわ!! アンタが死ぬなんて認めない!」



 駄々をこねる子供の様に叫ぶ美神に苦笑しながら、初めて横島が振りかえる。



「参ったなぁ、美神さんは本当に俺にだけは無茶言ってくれんだから・・」



「私がどんなに無茶いっても付き合ってくれたじゃない! 今度も」



「無理ですよ」



 冷徹に、冷酷に、現実を突き付ける横島の言葉に美神はその場に膝をつく。



「また、また私を置いていくの? 今度は何年待てば良いの? 千年? ニ千年? 会えるんでしょ? 待ってれば会えるんでしょ?」



 弱々しく、希望に縋ろうとする美神の意識は、本人の自覚せぬままに前世の悲劇を追想していたのかもしれない。



 しかし、その疑問の答えは彼女を更なる絶望に突き落とす。



「・・・俺の今の魂は人間でなく、魔族でなく、そのどちらでもある中途半端な存在なんです、だから、転生できずに魂ごと消滅する事になるでしょう」



「・・・ウソ、でしょ?・・・」



 苦笑を深める事で美神の呟きを聞き流し、唐突に話を変える。



「御守り持ってますか?」



 『御守り』横島が関係者に配っていた文珠である。



 形見分けのように渡されるソレを拒否する事も出来ずに、関係者は常にソレを携帯するようになる。



 万が一の奇跡に縋ろうと、文珠へと祈りをささげる皆は横島の企みを知らなかった。



 突然の質問に答えられなかった美神の胸元から仄かな光が溢れ出す。



「ありがとうございます、これで皆に哀しい想いをさせずにすむ」



 ソレを見てにっこりと微笑む横島に不吉なものを感じ、慌てて光の源を取り出した美神が見た物は、『忘』の文字が刻まれた文珠だった。



「??・・・!!」



 横島の狙いを知り、顔色を蒼白に変えながら、文珠の文字を変えようと必死に意思を込める美神を嘲笑うかのように、文珠はその光を更に激しくしていく。



「ロウソクの最後の灯火ってやつなんですかね? 結構無茶な事が出来るんですよ、たとえば・・・世界から『俺』の、横島忠夫の記憶を消す、とかね」



 世界から人間一人の記憶を消す・・・コスモ・プロセッサ並みの常識はずれの事を淡々と話す横島。



 ソレを実行すれば、横島大樹と百合子の間に子供は居らず、美神の助手はおキヌとシロタマのみとなる。



 文珠だけなら矛盾だらけの記憶になるだろうが、世界の防衛機構とでも呼ぶものが必死で穴埋めしてくれるだろう事も、現在の横島には分かっていた。



 見納めと覚悟する様に、美神を見つめる横島に、彼女は首を振りながら拒絶する。



「イヤ・・イヤァ・・・イヤァァァ!!」



 御守りが最大限の光を放ち、同時に多くの場所で光の柱が立ち上がる。



 他の関係者も持っていた御守りから立ち上がる光が全て消えた時、彼等は自分達が何をしていたのかを忘れるだろう。



 目の前の女性が自分に対し、知らない人間を警戒している姿を見て成功に安堵しつつも、微かに走る胸の痛みを無視しながら、最後の言葉をかける。



「・・・サヨウナラ・・・」



 自分が何故ココに居るのか、目の前の男は誰なのか、状況を把握しようとする彼女に声をかけながら、彼は自分がもつ現在の世界で最後の文珠に『滅』の文字を刻み、ソレを握る拳をゆっくりと胸元に持ってくる。



 走馬灯の如く頭に甦る思い出に微笑みを濃くしながら、自分の中で眠る最愛の女性に想いを送る。



 ・・・・ゴメンナ、おまえを産んでやれそうにねぇや・・・・



 ・・・そのかわりといっちゃなんだけどさ、永遠に二人で居よう・・・



 ・・・誰も来ない場所で、俺達以外誰も居ない場所で・・・













 目の前で一人の男が消えた。



 訳が分からない、状況などなにも知らない、ただ、ママが死んだ時以上の哀しみが突然湧き上がってきた。



「アァァ・・・アァ・・アアァァァ」



 泣いた、理由などなく、純粋に、単純に、涙を流し、嗚咽を隠さず、誰かの目を気にする事無く・・・ただ、泣いた。



 同時に多くの場所で、今は既に世界からその存在が消えた『彼』を知っていた多くの人間が、神族が、魔族が、理由なき悲しみと絶望感から涙を流した。



 だが、理由なきが故に、その哀しみは時間が癒し、次第に忘れさせていくだろう。



 自分の事で大切な皆を哀しませたくない。



 世界を救い、無限の可能性をもつ男の、ソレが最後の望みであり、残酷すぎるワガママだった。

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