ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(1‐2)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 3/18)

「如何だ?何か見付かったか,秀家」
「う〜ん……,一寸難しいかも」
土曜日。
藤吉郎と秀家は,前言通り八丈山に霊獣狩りに行った。
「この山,一寸変だよ。にーちゃんも感じてるでしょ?」
猫又モードになって周囲の霊波を嗅ぎ回っていた秀家が,四つん這いで尻を高く上げた姿勢のまま,顔だけ藤吉郎の方に振り向いて訊く。
「んー?ああ,そうだな。霊波が妙に乱れてるよな」
「うん。……何か恐いよ」
「そうだなー。神隠し伝説も沢山有るらしいし,此処」
「神隠し?」
「ああ。この山に入った者の内,千人に一人は神隠しに遭うって言うからな」
「千人に一人ぃ!?何,その高確立!やばいんじゃないの?」
「だなー。霊能力が有るってのは,そう言うのに引っ掛かり易いって事だし」
「……ねー,もう止めて帰らない?この山ん中から野良妖怪一匹見つけだすなんて不可能だよ。ましてや,こんなおかしな山でさ」
「そうだわな……。不気味な所だよな,此処。見た目は普通の山って感じだけど,物凄い悪寒がするもんな」
「いや……こんな舗装もされてない山道とかって,今の世の中,普通じゃないけど……。そう言えば秀吉にーちゃんて戦国時代の人だっけ」
「正確には室町時代だけどな」
「如何でも良いよ。それ良かもう諦めて帰ろうよー」
「そう言う訳にもいかんだろ」
「あううー,でも恐いんだよー。猫又モードだから,霊波の乱れがダイレクトに六感に響いてきてさぁ〜」
「分かった分かった。んじゃ,少し休憩しようか。特にタイムリミットが有る訳でなし,調子悪いなら,休んだ方が良いよな」
「あれ……?にーちゃん,事務所でみんな急ぎの仕事だとか言ってなかったけ……」
「気の所為だ」



「……誰もいませんね」
「ああ……」
「如何すんすか?」
「そうだな……」
“幻の村”に迷い込んだ長政と政宗は,脱出方法を探るべく村の中を探索していた。
「にしても,広いですね。矢っ張,異空間に迷い込んじゃったんでしょうか」
「ああ……。けど,広い様で狭い気もすんな」
「え?」
「いや,端がねえだろ。良く見たら,行っても行っても同じ風景な気がしてこねえか?」
「あ……。成程,そうかも」
「斯ういうのは,場数踏んで勘を磨かなきゃ身に付かねーもんだよ」
「へー。でも,て事は此処は何かの結界の中……?」
「さあな。んな安っぽいもんか分かんねー」
「て言うと?」
「推測でしかないが,多分,この空間の入り口は常に開いてる訳でもなければ,特定の場所が決まってる訳でもないだろ?」
「え,如何してっすか?」
「だから!昨日俺等が寝る時には,空間の歪みなんざ存在してなかったろうが」
「あ,そうですね」
「だろ?大体,例の“幻の村”とか神隠しとかの伝説が流布し始めたのって何時の話だよ。そんなに長く効力が持つ結界ってのも現実的じゃねえしな」
「えー……じゃあ?」
「分かんねえよ。兎に角,厄介な事に巻き込まれたって事だけは確かだ」
「だ,だから止めようって……」
「るっせ。今はんな事言ってる場合じゃねーだろ?」
「又た,すぐそうやって……」
「五月蠅い。兎に角,何とかしなきゃ此処に骨を埋める事になるぜ?」
「そ,それは勘弁ですね……!」
「だろ?兎に角,村……つっても,人っ子一人居ないから村っつって良いのか分かんねーけど,兎に角,村の中を徹底的に捜索すんぞ」
「はいっ!」
「っと,でもなるだけ体力は消耗しない様にな。それと,戦う準備はしておけよ?」
「うす」
「よし……」
霧が体力を奪うな。うざってえ……,まあ,疲労を感じるって事は,これが幻覚か何かって可能性は薄いが……。
いや,そうでもない,か?しかし,これが夢なら好い加減気付いても良いだろうし……。
「……ちっ」
兎に角,あらゆる可能性を想定して動かなければ。
第一, 相手(が,いるとすればだが)の目的も分からない。
斯ういう頭脳労働は苦手なんだがな……。
ったく,高くつく仕事だぜ。
「誰だか知らねーが,随分と手の込んだ事してくれんじゃねーか……!」



「ふにゃぁ〜ん……」
秀家(子猫モード)が,藤吉郎の膝の上で可愛く欠伸をした。
「くふぅ……」
藤吉郎に撫でられ,そのままうとうとと夢の世界へ落ちていく。
「ふう……」
秀家の柔らかい毛を撫でながら,藤吉郎は溜息をついた。
乱れた空気の所為か,考え事をするのもままならない。妙な霊波に霊感が反応してしまって,落ち着く事が出来ないのだ。
「一遍,出直すかなあ」
余りにもリサーチが足らなすぎた。勿論,依頼人側から渡された資料が少なかったと言う事なのだが,それにしても自分で調べると言う事も出来ただろう。
それを怠ったのは,単に怠慢でしかない。手を抜くと言う事は,この仕事においては即,死に繋がると言うのに。
「少し……疲れてるのかな……」
確かに,魂が“この世界”に来てから,藤吉郎は安らぐ事がなかった。
主である信長の様に,割り切る事が出来れば良いのだが,藤吉郎は其処迄ポジティブな人間ではなかった。
常に,内からの責めが自らを蝕んでいた。
「……」
軽く頭を振る。
何れにせよ,こんな所では落ち着けない。
矢張り,出直すべきだろう。
そう思い,藤吉郎が顔を上げると,視界に“何か”が飛び込んできた。
「?」
あれは……
「霊獣?」
本当だったのか。
しかし……
「あ,逃げる……!」
次の瞬間には,霊獣は藤吉郎の視界から居なくなっていた。
「お,おい,秀家!起きろっ」
「ふにゃぁ?」



「長政さん,この気配……」
「ああ。誰か居るな」
長政と政宗は,数十米先に,何者かの霊気を感じ取っていた。
「この空間を作りだした奴でしょうか?」
「さあな……。何にせよ,あっちも俺等に気付いたみてぇだな」
「え?」
「良く見ろよ。多分こっからそう遠くない所に居るだろうに,姿が見えねえ。てこたあ,奴等も隠れてるって事だ」
「霊波は……二つ」
「ああ。そして,こんな誰も居ない様な所で隠れる理由なんざ一つしかねえだろ」
「すね……」
息を潜めて,姿の見えぬ“相手”との距離を詰める。
相手も,此方に向かって来る。
「政宗」
「はい」
バシュウ!
長政が,魔装術を纏う。
政宗も,空気中の水分を抽出し掌に“水”を練成する。
「……」
「……」
「……」
「……」
息を飲む。
相手と此方。どちらからともなく,殺気が放たれる。
お互いの,勢力圏が重なり合う。
「――おおおっ!」
咆吼と共に,長政が地を蹴り,茅葺き屋根の民家(人が住んでいる気配は無いが)から飛び出す。
「……来ない!?」
てっきり相手も飛び出して攻撃してくると思っていた長政は,拍子抜けし,次に何らかの罠かと思ったが,
「構うか!」
それでも此処で蹈鞴を踏む方が危ない。
危険を承知で,“相手”――いや,殺気を放っている以上,“敵”と判断すべきだろう。殺気を放っているのは此方も同じだが。――の隠れている向かいの民家の影へと飛び込んでいった。
「把あっ!」
バシィ!
しかし,長政の繰り出した拳は何やら厚い壁に阻まれた。
「結界……!?」
しかも,かなり強力な奴だ。
「“イチイバル”よ!」
ビュビュビュッ!
「おおお!?」
結界の壁の後ろから,数本の霊波の矢が飛んできた。
「長政さん!」
バシュウ!
長政の後から追ってきた政宗が,咄嗟に作り出した水を操り,長政を貫かんとしていた霊波矢を,全て撃ち消した。
「洒落た真似してくれんじゃねーか!」
結界を破るだけの攻撃を放つべく拳に霊力を集中させた長政の眼に,“相手”の姿が飛び込んできた。
「ん!?お前ぇ……!」
「あ,あんたは……!?」
相手の方も,敵が長政であると気付いたらしい。
「お前ぇ,確かGS試験の四回戦で俺と戦った,結界師……!?」
「そう言うあんたは,あの時の魔装術使いか!?」
長政と同じ位と思われる高校生風の少年。
“相手”は,今年のGS資格取得試験の二次試験トーナメントで,決勝トーナメントの一回戦に当たる四回戦にて長政と戦って敗れた,佐々成政だった。
「お前ぇ,何でこんな所に……?」
「そりゃこっちの台詞だぜ。お前等もこの“幻の村”に迷い込んじまったのか?」
「え,じゃあ,矢っ張り此処が?」
「んだよ,知らなかったのか?」
「いや,俺等は野宿して起きたら何時の間にか此処に居てよ」
「へえ」
「まあ,此処を探してたのには変わりねえんだけどな」
「何だ,お前達もか」
「てーと,お前等も“幻の村”を探して?」
「ああ,そんな所だ。もう三日も此処に閉じ込められてるぜ」
「おいおい,そんなにかよ。出られねえのか?」
「出れたらさっさと出てるよ。まあ,幸いな事に飯は有るし……っても,この霧で湿気っちまってるけどよ」
「ふーん」
「夜露をしのぐ民家も有るし……。まあ,俺等此処で朽ち果てるのかなとか思ってたんだけど……」
「って,別に俺等が来た所で状況が好転する訳でもないぜ?」
「そうなんだよなー。ったく,役に立たない……」
「何でお前にんな事言われにゃならんのだ」
「ま,三人寄ればなんとやらってな。四人もいりゃ,何とかなるかも知れないだろ」
「まあ,人数多い方が都合良いってのは分かるがな」
「だろ?」
長政と成政が話し込んでいると,成政の後ろの民家から人影が出てきた。恐らく,霊波矢で長政を狙撃した術者であろう。
「如何したのさ,成政。結局,何だったの?」
それは,ショートカットの似合う,矢張り長政と同年代位の少女だった。やや幼めだが,ボーイフィッシュな顔立ちだ。
「おう。何か,俺等と同じポカした連中だったぜ」
「ふーん。残念,助けが来たかと思ったのに」
「まー,そう上手くはいかねーさ。人数が増えただけで良しとしようや」
「そだね」
睦まじそうに会話する二人に,長政は一寸苛ついた。
「随分な言い草だな……!」
「あれ。君って確か,GS試験で成政を負かした……」
「る,るせー。何時迄も昔の事をうだうだ言ってんじゃねーよ!」
長政の事を覚えていたらしい少女の言葉に,成政は面白いように過剰な反応を示した。何となく,この二人の関係が分かろうというものだ。
「大体,お前,自分は三回戦落ちだったじゃねーかよ!」
「あ,あははっ。それは言わないお約束で」
「何言ってんだ」
其処で,漸く長政も彼女の顔を以前にも見ている事に気付いた。
「あー,あんた。もしかして,試験の三回戦で豊臣ん所の嬢ちゃんに負けた……?」
「え……!はい,その通りです……」
「ははは」
「笑うなぁ!この馬鹿成政ッ」
「んだと!?男女!」
「何だってぇ!?」
「……おーい……」
微笑ましいなあ,などと思う余裕は,今の長政には無かった。
取り敢えず,この状況でじゃれ合える二人の強靱な精神力に,心から感服仕るのが精一杯だった。



「如何よ?」
「いや……一寸無理」
秀家は再び尻を上げて地面の臭いを嗅いでいた。
「そっかあ……」
「うん……。相手はテレポートも使えるんだし,抑もこの乱れた空気の中だとねえ」
「無理か」
「つか,僕は犬科妖怪じゃ無いから……。霊波とかを嗅ぎ取って追跡するにも限界ってもんが有るよ」
「う〜ん……」
先程藤吉郎が見たのは,西洋の霊獣“ユニコーン”だった。
「ユニコーンとて元は馬だから,農作物を荒らすのも説明がつく。元々害獣だって話だし。角にあらゆる呪いや病を治す効果が有るとかで乱獲されて,今じゃ俗界には滅多に姿を現さないってんで,『ヴァチカン条約』で捕獲は禁止されてるんだけど……」
「けど?」
「ま,何とかなるだろ。信用には変えられめえ」
「良いの!?」
「ま,捕獲せんでも他に色々とやりようは有ろうよ」
「え〜……」
と言う訳で,二人して探しているのだが……
「見付かんないねえ」
「だな……」
「ねえ,にーちゃん。此処は矢っ張りオーソドックスな手でいこうよ」
「オーソドックスな手?」
「知らない?ユニコーンは美しく清らかな乙女に弱い!って」
「御免。西洋の神話とかは一寸……」
「……そっか,昔の人だもんね,にーちゃん。ま,兎も角。ユニコーンにはそう言う乙女の膝に頭を預けて眠ってしまう習性が有って,その時,全くの無防備になるんだよ。その隙をついて捕まえるの」
「つったって,此処には俺とお前の二人しか……」
「だ・か・らぁ〜!又たにーちゃんが文珠で女になれば良いじゃん?」
「……いや,俺,美しくもないし清らかではもっとないから」
「それを言っちゃあ……」



「改めて自己紹介しとくか。俺は人呼んで浅井長政。今は取り敢えずフリーのGSをしてる。んで,こっちが助手の……」
「雫手政宗」
成政達と合流した長政と政宗は,取り敢えず落ち着いてこれからの事を話し合おうと言う事で,近くの民家に入ったのだった。
「俺は林GS事務所に所属してる,佐々成政だ」
「同じく,村井はるだよ」
「林GS?……聞いた事ねーな」
「まあ,割と小さい所だかんな」
「ふーん」
まあ,取り敢えず悪い奴等ではないらしい。
「んで,これから如何する?」
「っと待った。それ良か先に火ぃ付けよーぜ。不快指数云%のこの雰囲気じゃ,まともな案も浮かばねえだろ」
「火が熾せるならそうしてるけどよ。この湿気てる中で如何やって……」
「それなら俺に任せて」
「え?」
政宗が,囲炉裏に近づいて手を翳した。
「……?」
「何を……」
「まー,見てなって」
シュイィィィ……
「……」
政宗が,空気中の水分を操り拡散させていく。
バシュウゥゥゥ……
「……っと」
「やったか?」
「はい。これで大分マシになった筈っすよ」
「よし。幸いマッチもライターも荷物ん中で濡れてなかったから,これで火が付けられるな」
「ええ」
長政と政宗のそのやり取りを,成政とはるは呆けた様に見ていた。
「えええ,一寸待ってよ!今のって如何言う事!?」
先に我に返ったのは,はるだった。彼女は,こう見えて順応力が高い。
「ああ,俺の能力っすよ」
火を付けている長政に変わって,政宗が答えた。
「君の……?」
「ええ。俺は,空気中の水分をある程度ですけどサイコキネスト出来るんです」
「えっ!そう言えば“雫手”って……。じゃあ,君ってまさか?」
「……まあ,そうっすね。一応,雫手家の嫡子でした」
「でした?」
「一寸色々有って……,今は家を出て長政さん所にお世話になってるんす」
「え……あ,もしかして悪い事聞いちゃった?」
「んー,いや,気にしなくて良いっすよ?俺はもう別に気にしてないし。寧ろ,こうした方が色々と丸く収まるんで,結果オーライかなと」
「?」
「いやいや,こっちの話です」
「ふーん……?矢っ張り,良い所に生まれると大変なんだねー」
「まあ……ね」
「……」
其処で,今迄話に入れなかった成政が,面白く無さそうな顔をして割り込んできた。
「んな事より!これから如何すんのかだろぉ?何のんびり話し込んでんだよ」
「な,何さ,成政。何をそんなに苛ついてんの?」
「んなっ……べっ,別に苛ついてなんかねーよ!」
「えー?じゃあ,何をそんなに怒ってんのさ」
「いや,それは……あー,あれだ。お前達がこの状況でのほほんとしてっからだな……」
「別にのほほんとしてた訳じゃ……。でも,それこそこの状況で焦っても仕方無くない?」
「うっ,うっせーな……!」
「はあぁ〜?又た訳の分からん事を……。今の話の流れから,如何して『五月蠅い』が出てくるのさ」
「うっ!いや,だから……」
全くもって微笑ましい光景である。
「ぷっ」
「な,何がおかしい!」
「別にぃ〜?」
顔を真っ赤にして支離滅裂な事を口走る成政に,長政は思わず吹き出してしまった。
彼の気持ちも,分かり過ぎる程分かるからだ。
それは勿論はるも自覚していて,自覚したからにはからかいたくなるのが人情。いや,乙女心と言うもの。
「でも,あれだよね。成政なんてライター所かチャッカマンも持ってきてなかったのに。矢っ張りライセンス貰ってすぐにフリーで仕事出来る様なプロの人は違うね。誰かさんとは!」
「あ!?誰かって誰の事だよ?」
「え〜,誰の事だと思う?」
「てんめぇえぇ……!」
「何さ。何をそんなに怒ってるのかなぁ〜?」
「……っ!」
てか,何故にチャッカマン?と如何でも良い所に首を捻る長政の後ろで,政宗は大人って大変なんだなあと頻りに首を振っていた。
て言うか,思いっ切しお子ちゃまのやり取りなのだが,温室育ちで初恋も未だの政宗にとっては,こんなんでも未知の領域だった。



「もー,絶対に見付からないよ〜」
「そっかあ……」
「抑もユニコーンが日本に居るとかおかしいじゃん。もう,にーちゃんの見間違いだったって事にして,帰らない?」
「んだな。じゃあ,一遍出直すか」
「……こんな碌に電気も通じてない様な所に長く居るのは嫌だけどね」
「贅沢言うな」
「だって今時白黒テレビだよ?有り得なくない!?」
「こんの家猫が……」
まあ,そう言う訳で。
長時間の探索にも関わらず,ユニコーンを見付けられなかった藤吉郎と秀家は,もう,一度山を下りる事にした。
が……
「……にーちゃん,にーちゃん」
「ん?」
「あ,あれ……」
震える指で秀家が指し示したその先には,先刻藤吉郎が目にしたユニコーンが,その優美な姿を示して此方を見つめていた。
「ほ,ホントにいたんだ……」
「!お,おい……」
数瞬二人と見つめ合った後,ユニコーンは身を翻して後退し始めた。
しかし
それは,先刻の様な逃走ではなく……
「誘ってる……?」
そうとしか思えない様な,ゆっくりとした歩みだった。
「如何するの,にーちゃん」
「……追おう」
「マジ?」
「マジ」
意を決した二人は,ユニコーンの後を追って山道を進んでいった。
そして,ある一点に来た時,不意にユニコーンの姿が掻き消えた。
「消えた!?」
「テレポート……?」
が,二人はその地点に足を運んでみて,推測が間違っていたと判断出来た。
「これは……」
そこには,“空間の歪み”が出来ていた。
「空間の歪み……。これが,神隠しの正体って訳か……」
「に,にーちゃん……?」
「ああ。あのユニコーンは,俺等にこん中に入れって言いたいんだな」
「ど,如何すんの……?」
藤吉郎は少し考えたが,やがて緊張した面持ちで言った。
「――入ろう」
「ええ!?」
「何が狙いが知らないが,それ相応の理由が有るんだろ。俺等を此処に導くのにはさ」
「で,でも……」
「それに。殿が言ってた。『変化を,危険を恐れて冒険出来ない奴は,やがて流れに押し潰される』って」
「ええ……?」
「兎に角。俺は今,如何しても業績をあげなきゃならないんだ。その為には……多少の危険も厭わないし,どんな手も使う」
「にーちゃん……」
何時になく引き締まった藤吉郎の横顔を見て,秀家は呟いた。
「分かった……。僕も行くよ」
「……恐かったら,此処に残ってても良いんだぞ?」
「やだ」
「え?」
「一人にしないで,にーちゃん……」
そう言って藤吉郎を見上げる,秀家の淋しそうな眼を見て,藤吉郎も覚悟を決めた。
秀家のこの捨て猫の様な眼は,初めて会ったあの時と同じ……
「分かった。んじゃ,行くか……!」
「うん!」

そして,二人の姿は其処から掻き消えたのだった。

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