ザ・グレート・展開予測ショー

続々々々・GS信長 極楽天下布武!!(1‐1)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 3/17)

永禄三年五月十九日,尾張国・桶狭間の北東部,田楽狭間。
先程迄降っていた雨も止み,夜の肌寒い空気には,剣戟の音が響いていた。
「織田家家臣,服部小平太!参る!」
服部小平太が,槍を突き出す。
「下郎めが!」
ギイィィン!
だが,その槍は標的――駿府守護・今川義元の身体に届く事はなく,弾かれてしまった。
「はあっ!」
小平太は,めげる事無く再び槍を繰り出した。
「ぬうっ!」
乱戦の中,敵将である義元を狙うのは小平太一人ではない。さしもの義元も,遂に不覚を取ってしまった。
「ぐはっ……!」
「よし!」
「舐めるでないわぁっ!」
ズバッ!
「があっ!」
一番槍の栄誉に一瞬気を緩めた小平太の膝に,義元の剣が閃いた。
「おおおっ!」
一人でも多く道連れにせんと,鬼神の如く刀を振るう義元。しかし,彼の命運も遂に尽き果てる時が来た。
「今川義元公!その御首,貰い受け候!」
「お覚悟!」
「己ぇ!貴様等如きに麿の首は渡さぬわ!」
ドシャッ!
義元を組み敷いたのは,毛利新介だった。
「よし……!」
「ぐぅっ!」
ブチィッ!
「ぐああっ!?」
ザン!
義元に人差し指を食い千切られながらも,新介はその首を挙げた。
「今川義元が首,討ち取ったりーーーッ!!」
泥濘を転がり,泥塗れの首級を上げ,新介が叫ぶ。
東海の雄・今川義元の,余りにも唐突過ぎる最後だった。享年,四十二歳。


「殿ッ!」
「何だ,猿!」
「今川義元公,お討ち死にとの事で御座います!」
「義元が――!?」
「はっ」
「……なら,これ以上は無用な戦だ。敵軍に降伏を呼び掛けるよう,全軍に伝えてこいッ!」
「御意!」
“猿”が走っていった。その後ろ姿を眺めながら,“殿”は呟いた。
「……勝ったのか……」
織田信長,この時二十七歳。
怒濤の大事業“天下布武”の,これが,最初の契機だった。




そしてこれは,そんな世界から少しずれた時空のお話。











とある都立高校に,今日も高らかに終業のベルが鳴り響いた。
生徒達は,我先にと帰り支度を始める。
彼も,そんな一人。
「ふあ〜,終わったぁ〜」
「珍しいですノー。豊臣サンが授業中に欠伸なんて」
「昨日は夜遅く迄仕事だったから」
「大変ですノー」
豊臣秀吉。織田除霊事務所第二オフィス所長。
技術面では師の織田信長にも勝るとも言われる,超一流のゴーストスイーパー(除霊屋)である。
隣りのリーゼントは,同級生にして同業者のマエダー利家だ。
「でも,流石は豊臣さんですね。随分繁盛なさってる様じゃありませんか」
「豊臣君,経済感覚も有るのね」
「十兵衛様,南」
吸血鬼を父親に持つ,ミツヒデ=ド=コレトー。
正真正銘学校に住む妖怪の,南。
両人共,秀吉――此処では藤吉郎とする――の同級生である(何で藤吉郎かは,前章以前を参照の事)。
「いやー,俺の考えるのはせせこましい事ばかりだから。殿が,それをもっとスケールでかくして実行してくれるからすよ」
「又た又たぁ!謙遜しちゃって」
「いや,そんな……」
「名コンビと言う奴ですね」
「えー,いや,そんな。俺なんかが殿とコンビだなんて」
「豊臣サン」
「何すか?犬千代様」
「お迎えが来てますケン」
「お迎え?あ,ねねちゃん」
利家に促され藤吉郎が振り向くと,教室の扉の所に,後輩にして仕事上の部下,そしてGS(ゴーストスイーパー)としての弟子にも当たる浅野ねねが,帰宅準備をして立っていた。
「相変わらず,お熱いわねえ」
南が,多分に嫉妬を含んだ声で冷やかす。
「ちゃうよ。今日もこの後すぐに仕事があんの!」
「売れっ子サンは大変ですノー」
「はは……。んじゃ,まあ,そう言う事で。皆さん,又た明日」
「はい。さようなら,豊臣さん」
「さいならですケン,豊臣サン」
「さよなら,豊臣君」
「さようなら!……じゃ,行こうか,ねねちゃん」
「はいっ!」



数十分後,織田除霊事務所・第二オフィス。
「つー訳で……明後日の日曜日迄に終わらせなきゃいけない依頼が四件」
高校生ながら所長を務める藤吉郎が,オフィスのメンバー全員を集めて,資料を片手に告げる。
「で,どれも結構遠いので,四つに班分けしていきたいと思います」
「どんな風に?」
「えー,俺と秀家。小竹とユミちゃん,ねねちゃんと竹千代様,んで,後は景勝と輝元。以上!」
「異議有り!」
「何?」
「如何言う基準で決めたんですか,それ」
「阿弥陀籤」
「嘘ぉ」
「嘘だよ。各自の能力の相性とか依頼の内容とかを考えて,これがベストだと思ったんだけど」
「だから,その基準を教えて」
「却下。支所長権限でこれで決定です」
「……ちっ」
今,舌打ちしたのは,一人ではない。
「日吉にーちゃん,女誑しにしても質悪いな……。矢っ張,太閤はんの弟はんやで」
ねねの守護神である,東照大権現徳川家康公が一人ごちる。
「そう言う竹千代様こそ,生前はお盛んだったそうで」
「う……。いや,まあな?て,それとこれとは話がちゃうやろが」
「そうですか?」
藤吉郎とて,言われてばかりではない。元々,目上の人に対し意見を言うのに,躊躇いを覚える性格ではない。
「と言う訳で,各自支度が出来次第依頼の場所に行く様に!解散っ」



東京駅,新幹線乗り場。
「わーい!にーちゃんと一緒ー!」
「こら,秀家。遊びに行くんじゃないんだぞ?お前ももう,プロのスイーパーなんだから,もっと,自覚持ってやんなきゃ。そんなんじゃ,卒業させてあげられないぞ?」
「良いよ,別に。僕,当分にーちゃん所に居るもん!」
「こら」
「あはは」
仲の良い兄弟の様なこの二人。
兄の様に見えるのは,藤吉郎豊臣秀吉。
そして,歳の離れた弟の様に見える方―――小学生か中学生かと言う感じの少年は,織田除霊事務所の所属GSの一人・雨姫蛇秀家である。
父にGS,母に猫又のハーフを持ち,並みの霊能者より,霊力量も技術面も数段優れている。あどけない表情で藤吉郎の腕にぶら下がるその様子からは想像も出来ないが。
「でも,何で僕を連れてきたの?」
「んー,依頼は何か山にいる霊獣を捕まえてくれとか言うのだったからさ。お前,猫又のクォーターだから,山は得意だろ?」
「まーねー。でも,それは此処に僕を持ってきた理由にはなっても,にーちゃんが僕と一緒に居る理由にはなんないよね」
「……何だかんだ言ってお前も未だ子供だからな。何か有ったら,責任取るのは支所長の俺だし」
「う・そ。それだけじゃないでしょ」
「……」
「まあ,女性陣の誰かと休み中二人っきりとかになったら色々ややこしくなるもんね。まあ,手堅い人事だよね」
「あのなあ……」
「あはは。もてるね,にーちゃん」
「そうだな……。“此奴”は,余っ程のお人好しだったらしい」
「ねねねーちゃんはそうかもだけど……,景勝ねーちゃんや輝元にー……ねーちゃんは違うでしょ?」
「そうだけど……」
「……辛いの?」
「まあな……。血縁者でさえ,見ているのは俺じゃないんだからな」
「そんなもんでしょ。にーちゃんに限らずさ」
「……とは思うんだけどな。事情が余りにも特殊なだけに……。大体,俺に身体乗っ取られたお陰で,“俺”は事実上死んじまった訳だろ?」
「そうなの?」
「理屈は如何あれ,結果としてそれと同じだろ」
「かなあ」
「ああ。けど,俺は他人の人生の上に胡座掻いて生きてける程,肝の太い人間じゃなんでな」
「だから,頑張ってるんだ,今」
「そんな所だ」
「ふーん」
「……っと。悪ぃ。こんなん,お前に愚痴る事じゃなかったな」
「良いよ。僕は,そんなにーちゃんが好きなんだもん」
「……サンキュ」
プワァン!
「お,列車が来たな」



兵庫県,八丈山。
森の中を蠢く,二つの人影が在った。
「と……話しに拠るとこの辺の筈だが……。おーい!何かそれらしいもん有ったかぁー?」
「いえ……特に何も」
「そっか……。もうちょい奥,行ってみっか」
「はい,長政さん」
「よっしゃ,行くぞ」
この男,――未だ“少年”と形容しても良い年齢なのだが,高校にも行かず……と言うか行けず,裏の世界で生きていく事を余儀なくされていた彼を,“少年”と呼ぶのは失礼だろう。……兎に角,この男,名を,浅井長政と言う。
先日のGS資格試験にて,漸く念願のGS協会公認の正式なスイーパーライセンスを手に入れ,陽の当たる場所を歩ける様になった所だ。意気揚々と,フリ−のGSとして,精力的に仕事をこなしている。一寸キツイが可愛い彼女も出来,彼の人生も漸く軌道に乗ってきたと言う感じである。
そして,もう一つの人影は,隻眼の少年だ。此方は,中学生位だろうか。
雫手政宗。
“水の魔術師”(ウォーターマジシャン)と恐れられる,霊能の名門・雫手家の嫡男だったが,とある事件から相続権を失ってしまい,今は,矢張り今年手に入れたばかりのスイーパーライセンスを片手に,長政の助手として食い繋いでいる。
と言う訳で今現在,少し仕事をこなしたらその金で旅行と修行,しかも彼女が金持ちでデートにも金が掛かると言う浪費家の長政に対し,実はマメな性格の政宗は世話女房の様なポジションとなってしまっていた。
長政としてはそえが鬱陶しくもあるのだが,自分しか頼る者がいないと言うこの孤独な少年を放り出す事も出来ず,何だかんだ言って役に立つので,二人の試験合格以来,側に置いていた。
政宗は,嘗て名門・雫手家で天才と呼ばれた少年である。単純な霊力量だけなら長政よりもずっと高い。それを助手として使えるなんて,戦力は多い程安全なこの業界において,正に願ったり叶ったりだ。元より,断る理由など無い。
「しっかし,胡散臭い依頼すよね」
「馬鹿言え。胡散臭くないオカルト事件なんか有るかよ」
「そんなもんすか」
「オカルトってな,胡散臭いもんだ」
そう,彼等が目指しているのは,この八丈山にあると言われる“幻の村”だ。
この付近に幾つも伝説が残っているが,実の所,その正体は良く分からない。何やら異空間,若しくは高位結界の様なものなのではと言われてはいるが。
と言う訳で,自称・民俗学者を名乗る何処ぞの大学の教授殿とやらから,その“幻の村”の探索を依頼された我等が浅井長政は,政宗を連れて八丈山へと登っていったのだった。
「でも,長政さーん。もう,見付かりませんでしたで良くありません?一応探しても見付からなかったんなら,許してもらえるでしょー」
「馬っ鹿野郎,探偵じゃあるまいし,見付かりませんでしたじゃ金んなんねーんだよ。それに,俺等の後に別のスイーパーに依頼が持ってかれて,其奴が見つけちまったら如何すんだよ。信用商売だぜ?俺等は」
「うーん。でも,見付けたら見付けたで何か恐い事になりそうじゃありません?この辺りに伝わる伝承とかっての資料で読んだでしょう?その“幻の村”とかって,如何考えても只の神隠し伝説じゃありませんよ」
「けっ!」
「それに,あの依頼人!絶対堅気じゃないですって!」
「危険を恐れてGSが務まるかよ。仕事の醍醐味はスリルとバトルだぜ!」
「又た又たぁ。小谷さんが泣きますよー?」
「るせー。さっさと先進むぞ」
「へいへい」



「ねえ,にーちゃん。未だぁ?」
「もう少しの筈……」
「そう言って,もう日が暮れたよ〜?」
「列車から降りた時点で既に日は暮れてたろうが」
「そうだっけ?」
「何を言ってるんだ」
「しっかし,ホントこれでもかっちゅー位,田舎だねえ」
「こら。そう言う事言うなよ」
「事実じゃん?」
「いや,そうかも知れんが……っと,着いたぞ」
「やっとかぁ〜」
と言う訳で,藤吉郎と秀家は今回の目的地・兵庫県『八丈村』に無事,到着した。時に午後九時。


「いやいやいや,遠い所を遙々良くいらして下さった。私が,この『八丈村』の村長です」
村に着いた二人を出迎えたのは,村で唯一の宿屋を営んでいると言う,村長さんの赤ら顔だった。
「織田除霊事務所の豊臣です」
「雨姫蛇です」
二人も,頭を下げてスイーパーライセンスを提示する。
儲かる仕事だけにパチもんのGSも横行している。只単に免許を持ってないだけならまだしも,霊能力の欠片も無いくせにGSを名乗る輩もいる。
故に,信用を得るには免許を出すのが一番なのだ。まあ,こんなもの幾らでも偽造出来ると言われてしまえばそれ迄だが。
「いやいやいや,お二方とも,今夜はゆっくりしていって下され」
「はあ……」
代わりに明日は目一杯働けとでも言うのか。
寒村の村長とあって,一癖も二癖も有る小悪党と言った趣か。
「えっと……それで,依頼の件ですが……」
「はあ。この村は,見ての通りド田舎中のド田舎でして,村民の多くは農業を営んで自給自足をしておるのです」
「はあ」
「しかし,此処の所,夜な夜な世にも恐ろしい怪物が現れて,農作物を荒らし回っているのです」
藤吉郎は,その話を話半分に聞いていた。
村長の話には,幾らかの誇張が有るだろう。幽霊の正体見たり枯れ尾花,とは良く言ったものだ。流石に野生の狸や熊の類と言う事はないだろうが,恐らく山に住む野良下級妖怪と言うのが関の山だろう。
「一昨日の晩から何故か姿を見せんようになったんじゃが,又た何時現れるかも知れん。お願いですじゃ,東京の“ごうすとすいいぱあ”様,如何か,あの怪物めを退治して下され」
「はあ……。で,具体的にどの様に?」
「え,それは,“ごおすとすいいぱあ”様が……」
「いえ,どの様な奴かを知らねば,対策の立てようも……」
「だから,この世のものとも思えん様な……」
「村長さん,その目で見ました?」
「……」
「……分かりました。んじゃ,明日,山に入って探してみます」
「八丈山に?」
「ええ。多分,山に住む妖怪か何かでしょう。見付けて,畑を荒らさない様に説得してみますよ」
「お願いします」
「はい。……もし,今夜,其奴が出たら知らせて下さい」



「ち……日が暮れたか」
「とっくですけど」
「るせぇ」
その八丈山の山中。
「これ以上は危ねえな。今日はもう休むか」
「はい」
長政の言い付けに従い,政宗は拾ってきた小枝に火を付け,携帯燃料で湯を沸かした。
その湯に固形食料を溶かし,少ないがこれで夕食にする。
「……ふう」
「ご馳走様」
腹が膨れたら,これ以上の活動は体力の浪費でしかない。さっさと寝るに限る。
シェラフは使わない。いざと言う時,身動きがとれないからだ。
水に濡れると体力を消耗する。気休め程度だが雨除けのタープを張って,その下で毛布を掛けて寝る。まあ,政宗は“水”を操れるから,少し位の湿気なら排除する事も可能なのだが。
「んじゃ,お休みな」
「はい」
二人は,眠りについた。



「はー,良いお湯だったな,秀家」
「うん。依頼料は宿泊代込みとか言って,民宿素泊まり三千円て感じなのは腹立ったけど,お風呂だけは良かったね」
「お前な……」
「秀吉にーちゃんは気ぃ使いすぎ!」
「んな事ないだろ」
八丈村,村長の家(=宿屋)。
客は,藤吉郎と秀家の他にはいなかった。
「んじゃ,もう寝るか,秀家。今夜は出て来ないみたいだし」
そう言いながら,布団を敷く藤吉郎。
「うん」
秀家は,そう言って押入から枕を引っ張り出した。
「そう言えば,秀吉にーちゃんと枕並べて寝るのって,初めて会ったあの日以来だね?」
「ん?ああ,そう言えばな」
「うふふ。二人っきりってのは初めてだよね!」
「おいおい。だから如何したんだよ」
「ううん,別に。只,にーちゃんを独り占め出来るのが嬉しいなって」
「はは,そりゃ光栄だな」
「ねえ,にーちゃん」
「ん?」
「もし,僕が女だったら如何する?」
「は?」
「ねえ」
「……冗談だろ?」
「さあ,如何だろうね?」
「おいおい……」
「で,質問の答えは?はぐらかそうったってそうはいかないよー」
「えー?別に,如何もしないよ」
「何それ。つまんないなー」
「ほーら,馬鹿言ってないでさっさと寝るぞ。明日は,山登りだぞ」
「はいはい」



翌朝。
「ん……」
「おう,起きたか,政宗」
「長政さん……?もう,朝ですかぁ」
「らしいな」
「らしいなって……。……!?」
目を擦りながら体を起こした政宗は,自分の目に飛び込んできた風景に,目を見開いた。
「あ……れ……?」
其処は,茅葺き屋根の家々が立ち並ぶ,文化遺産と言った感じの集落だった。
周囲には,霧が立ちこめている。
「あの……っ,俺達,確か山ん中で野宿してた筈じゃ……」
「ああ」
「此処……何処です?」
「さあな」
「さあなって……」
縋る様に長政に投げ掛けた質問は,無情にも切って捨てられた。
「俺が起きた時には既に此処に居た」
「ええ……?如何言う事です?」
「さあな。しかし,例の麓の村に伝わる神隠し伝説じゃ,特別山のある地点に行くと神隠しに遭うとか言うのは無かった様だし……」
「って事は?」
「ふん……。寝てる間に時限の裂け目に飲み込まれちまったんだろうな」
「て……如何すんですか,これから……」
「さあな」
「ええ〜……?」
「まあ,一つ分かってるのは……」
「分かってるのは?」
「此処が,“幻の村”だって事だけだな」

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